2011/09/14

Jonathan Wintringham "Walimai"

ジョナサン・ウィントリンハム Jonathan Wintringham氏から、デビューアルバム「Walimai(Wquilibrium EQ98)」を送っていただいた。まずはこの場を借りて改めて御礼申し上げたい。

ウィントリンハム氏は、アメリカと日本で学んだサクソフォン奏者。アリゾナ州立大学でティモシー・マカリスター氏に師事し、学士号を得た後に、来日して雲井雅人氏や須川展也氏他に学んだ。日本への留学期間が終わった後も、坂東邦宣氏らと親交が深く、たびたび来日している。

すでにスタンダードとなったサクソフォン・レパートリー、そして新作(世界初録音を含む)をバランスよく配置して一枚のアルバムとしてまとめ上げている。この選曲感覚は、アメリカと日本の双方で学んだウィントリンハム氏ならではのものであろう。長生淳の「天国の月」作品はおそらく須川展也氏から、ヒンデミットの「ヴィオラ・ソナタ」はおそらく平野公崇氏から、それぞれ影響を受けたものだろう。

Jun Nagao - La lune en paradis
Michael Djupstrom - Walimai
Evan Chambers - Deep Flowers
Graham Lynch - Spanish Café
Evan Chambers - Greensilver (guest: Timothy McAllister)
Paul Hindemith - Sonata

チェンバースの「グリーン・シルバー」にはティモシー・マカリスター氏が、またアルバムタイトルにもなっている「ワリマイ」の演奏には、作曲者自身がピアノで参加している。

長生淳から再生してみたが、とにかく上手い。楽器のコントロールという点で言えば、満足いくレベルを完全に超越してしまっている。現代のサクソフォンCDの流れだ。そして、セルマーのサクソフォンでこのようなふくよかな音色が出るのか、という驚き。最初聴いたとき、YAMAHAのサクソフォンかと思ったほど。これはどのような曲でも一貫しており、ここでも楽器のコントロール能力の高さを思い知らされる。

プログラムの最初を飾る華やかな「天国の月」は、極限までの安定度と、適度なドライブ感。これはもう誰が聴いても文句のつけようがない演奏だ。例えばこのクラスの演奏が今年の管打楽器コンクールの二次予選で演奏されていたとしたら…やはり上へと進んでしまうのだろう。続く「ワリマイ」は、不思議な重心感覚を持つ作品で、ふわりふわりとサクソフォンのフレーズ、ピアノのフレーズが宙を舞ったあと、後半にかけて怒涛の畳み掛けが出現する。

無伴奏曲の「ディープ・フラワー」だが、「Come Down Heavy!」のチェンバース氏作曲ではないか。さすがに無伴奏曲となると、さらに音色のパレット・ダイナミクス幅を増やしてほしいが、これはCDというメディアの限界なのだろう。「スパニッシュ・カフェ」はちょっとピアソラ風なセンスあふれるゆったりとした作品。続く「グリーン・シルバー」では、師匠であるマカリスター氏と丁々発止の、まるで火花が飛び散るような演奏を展開している。実はこのトラックが一番の聴きモノだったりして。

ヒンデミットも強烈な巧さ。ここまでサクソフォンで吹けてしまえば、もはやヴィオラのためだけの作品ではない、とも言えるだろう。ただ、個人的には、「ヴィオラ・ソナタ」はやはり平野公崇氏のような、ある意味音が散っているような演奏が好きだ。平野公崇氏の演奏は、決して手に入れられないものを、ひたすらに足掻いて手に入れているような、そんなギリギリのテンションで演奏されている印象を受ける。対して、ウィントリンハム氏の演奏は、一足飛びでマリオのスーパージャンプのように1upキノコを手に入れてしまいました…のような(例えが変だ)。憧れは憧れのままにしておきたかった、というものに惹かれることもあるのだ。

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