ロシアの音楽界に初めてサクソフォンが登場したのは、1870年代と言われています。ヨーロッパの他国と同じく、サクソフォンはまず初めに軍楽隊へと導入されました。ペテルブルグ海軍の資料には、1873年1月に行われたマーチングドリル演奏で、初めてサクソフォンが使用された記録が残っています。しかし、不幸なことにサクソフォンは早々に軍楽隊の編成から除かれてしまいます。それは、当時大きな影響力を持っていたニコライ・リムスキー=コルサコフ(1844 – 1908)の考えによるところが大きいと言われています。リムスキー=コルサコフは、ペテルブルグ海軍の編成について、次のようなコメントをしています。
この楽器は、ロシア中の軍楽隊から取り除かれることだろう。サクソフォンは、ロシアの気候条件の下で使うには非常に不都合な点が多い。低温・高湿度の屋外でサクソフォンを演奏すると、ハーモニーの形成や音色の形成に困難をきたすからだ。
しかし、さらに数年を経たのち、サクソフォンはその音量・音色・機動性等が再評価され、1890年代にはロシアの軍楽隊養成学校にサクソフォン・クラスが開設されました。このクラスは1922年まで続き、バッハやモーツァルトなどのアレンジ作品のほか、サンジュレ「四重奏曲」なども教育用の資料として使用されていたとされています。 ロシア革命以前、サクソフォンは貴族たちにも注目されていました。アレクサンドルII世の統治時代(1855 - 1881)からアレクサンドルIII世の統治時代(1881 - 1894)にかけて、王室は音楽文化の発展のために、王室付楽団の設立、民間楽団への資金援助、コンサートホールの創設等を積極的に行いました。その時代に設立された宮廷管楽合奏団(王室の式典や舞踏会で演奏していた)には複数本のサクソフォンが含まれていました。この合奏団で演奏していたサクソフォン奏者のほとんどは、軍楽隊養成学校のサクソフォン・クラスを卒業したプレイヤーだったと言われています。また、王室のみならず、裕福な貴族が個人的にお抱え楽団を設立し、その中へサクソフォンを導入するといったことも行われました。
2011/09/02
帝政ロシア時代のサクソフォン
帝政ロシア時代のサクソフォンについて、Stancy Maugansの論文を訳して、短くまとめてみた。
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