2010/09/14

Syrinx SQ "Waves"

今季のパリ国立高等音楽院の第一課程に、もう一人日本人で井上ハルカさんという方が合格したそうだ。ESA音楽院を経てリヨン音楽院に留学し、ジャン=ドニ・ミシャ氏に師事したという経歴を持つ。日本人の第一課程への合格は、白石奈緒美さん以来となる。めでたい!

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先日紹介したSyrinx Saxophone QuartetのCDをレビューする。おそらく、この団体唯一のCDであり、Syrinx SQの発足10周年を記念して制作されたものだ。現在では流通している在庫はそれほど多くないはずだが、リンク先のAmazonや、Amazon.comではまだ入手可能なようだ。とは言え、発売は1994年。入手可能なうちにゲットされることをおすすめする。プログラムは以下のとおり。フローラン・シュミットの「サクソフォン四重奏曲」以外は、作曲家の名前すら聞いたことのない作品ばかりだ。

「Waves(Erasmus WVH164)」
Caroline Ansink - Waves
Florent Schmitt - Quatuor, op.102
Tera de Marez Oyens - Recurring thoughts of a haunted traveller
Calliope Tsoupaki - Music for Saxophones
Geert van Keulen - Kwartet
Elena Firsova - Night

まず最初に断りを入れておこう。もしこれから先、私が「シュミットの四重奏曲で、一番素晴らしいと思う録音はどの団体の演奏ですか?」と訊かれたとしたら、間違いなくこのSyrinx Saxophone Quartetの録音を推す。ここに収録されているシュミットの録音は、数ある名録音の中でも白眉…サクソフォン・コンセンタスや、アクソン四重奏団といった団体の演奏よりも、さらに未来の演奏だと感じる。しかも、1994年という時代にあって!

知的でスタイリッシュ、テクニックも申し分なく、各所に適度な自己主張を感じさせながら、全曲を14分ちょっと(爆速!)で駆け抜けてみせている。第一楽章のフーガが激烈に絡み合ったあとに、最後はその大きな波が引いて祈りを捧げるように終わっていくが、その和音の伸ばしの実に美しいこと!録音で、こんなに美しく聴かせることができるのか。第2楽章は、信じられないほどに統制の取れたシンコペーションのアクセントが印象に残る。第3楽章は、ヴィブラートを丁寧にコントロールしながら、楽章の中に知的な構造を浮かび上がらせているし、第4楽章に至っては世界最高速の3分39秒。さすがに細かいところを摘みとっていけば、微妙に音が潰れたりしている部分もあるが、この興奮には取って換えることはできまい。

…と、シュミットばかり書いてしまったが、他の同時代の作品群も素晴らしく完成度が高い。まるでエルッキ=スヴェン・トゥールの「哀歌」を思い起こさせるような「Waves」は、前半と後半は凪、そして中間部は嵐を表しているかのよう。中間部でのガツガツしたテンションを録音で聴くことができるとは、うれしい誤算である。「Recurring thoughts of a haunted traveller」は、声楽のソプラノとサクソフォン四重奏のための曲だが、これはぜひライナーノーツの解説を読んでいただきたい。不思議な楽章のタイトルに、不思議な歌詞、不思議な響き。実演で聴いても面白そうだ。

「Music for Saxophones」「Kwartet」は、どちらも現代風の四重奏曲だが、特に「Music for Saxophones」に耳が引かれた。響きは確かに現代風なのだが、まるで雅楽のような音運びだ。前半には各プレイヤーが大見得を切る部分もあり、その無伴奏部分の充実度にも驚いた。最後の「Nights」は、再びソプラノとサクソフォン四重奏のための作品。

なんだか、ひとつのCDに懸ける気合いの大きさが伝わってくるようだ。21世紀になって発売されているCDの数はぐっと増えたけれど、その分ひとつひとつの音楽的充実度は変わってきているのかなあ、なんてことまで思ってしまったのであった。

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