2009/01/05

パリ五重奏団ライヴのディクテーション(その2)

前回の記事の続き。

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アナウンサー:再び505スタジオです。7時からのクラシックコンサートスペシャルは、パリ・サクソフォン五重奏団の皆さんに来ていただいて、演奏とお話を、この505スタジオから、生放送で皆さんにお聴きいただいています。
このパリ・サクソフォン五重奏団の皆さんは、今来日中のギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団のメンバーということになるんですけれども、船山さん、このギャルドという名称は、どんなところから由来しているんでしょうか。

船山:ギャルドというのは、英語で言います「Guard」のことでして、衛兵とか警備隊とか近衛隊とか憲兵隊といった意味なんですね。

アナウンサー:つまり(何かを)護るということなんですね。

船山:そうですね、兵隊さんなわけです。私たちはGarde Republicaine de Parisと言いますと、すぐにこの吹奏楽団を思い浮かべてしまいますけれども、実は共和国パリ衛兵隊ということなんです。ですから、皆さん厳めしい国家公務員であられるわけでして、舞台の上でも、指揮者をはじめ皆さん美しい制服を纏って、舞台に立ってらっしゃるわけなんですね。そしてまた、非常に、他のオーケストラなどに比べて、厳しい制約と規律の中で、音楽活動をしていらっしゃるときいております。

アナウンサー:いまギャルドの名前は衛兵隊である、つまり兵隊さんであると伺いましたけれども、そうしますと歴史的にみても、かなり長い歴史を持った楽団なのではないでしょうか。

船山:そうですね。兵隊という意味では紀元前からあったと言われていますけれども、私たちが一番お馴染なのは、アレクサンドル・デュマの「三銃士」に出てきます、三銃士の三人とダルタニアンが属しているのも、このギャルド親衛隊だったわけです。それからルイ13世、ルイ14世の時代、あるいは大革命を越えましてナポレオンの時代、その他19世紀の様々な変遷があった時代を通じまして、この衛兵隊はずっと続いてまいりました。
しかし音楽の方でこれがいつからできたかと言いますと、これもまただいぶ古いわけで、フランス大革命の、1789年に革命が始まった直後に、サレットという国民衛兵の大尉が、この軍楽隊を作ったといわれています。これが45人ほどで始めたといわれていますけれども、今から140年ほど前、1848年、二月革命のころですけれども、12人の金管楽器のファンファーレ隊というものをもって、ギャルドの発足とするのが一般的なようです。

アナウンサー:それにしても、大変古い時代からギャルドというのは続いてくるというわけなんですが、今のような形になってくるまでには、何回か編成を変えるといいますか、遍歴を経ていると見てよろしいんでしょうね。

船山:そうですね、その二月革命の直後に、1851年と言われていますけれども、すでに金管に木管を加えて、すでに50人くらいのパリ・ギャルド・バンドというものが興ったわけなんですね。現在は、75名ほどの編成ですから、あんまり大きな変遷を経たというわけではなく、脈々と続いてきたと言えるのではないかと思います。

アナウンサー:さあ、この後はクラシックの作品を演奏していただくことになっているんですが、バッハの作品で「バディネリ」「アリア」「ラルゴ」、ヴィヴァルディの「協奏曲ハ長調」、この4曲ですね。細野さん、こういった、今日聴いていただくのはほとんどが編曲されたものになるわけなんですけれども、「バディネリ」というのは元の曲がありますね。

細野:そうですね、バッハの「組曲第二番ロ短調」でしょうか、元はフルートとストリングスの曲なんですけれども、その他にも「アリア」はG線上のアリアと呼ばれるものでして、「管弦楽組曲第三番」からですね。ヴィヴァルディのものも、元はちょっとはっきりしないんですが、二本のヴァイオリンとオーケストラのためのものかと思いますが、そのような編曲物です。

アナウンサー:このように、編曲していかないと五重奏の作品はなかなか集まってこない、ずいぶん苦労されているように思えるんですけれども…。

細野:そうですね。先ほども彼らに伺ってみたんですけれども、この形が普通の形なんだそうで。つまり、ジャズを一部、それから一部分クラシック、そしてオリジナル曲となるようなんですが、先ほども申しあげましたとおり、(サクソフォンという楽器は)1845年にできたわけですから、こうした古い曲が作られた時代にはサクソフォンは存在しないわけですね。ですから、こうした豊かなバロック時代のものに関しては、編曲をして、サクソフォンのためにレパートリーを拡げなければいけないという苦労がありますね。

アナウンサー:さあ、それではパリ・サクソフォン五重奏団の演奏をお聴きいただきましょう。「バディネリ」「アリア」「ラルゴ」「協奏曲ハ長調」です。

♪J.S.バッハ「バディネリ」「アリア」「ラルゴ」
♪A.ヴィヴァルディ「協奏曲ハ長調」

アナウンサー:「バディネリ」「アリア」「ラルゴ」そして、ヴィヴァルディでした。さて細野さん、先ほどもお話を伺いましたけれども、ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団の皆さんと、しばらくご一緒に生活をなさったことがあると伺いましたけれども…。ギャルドという吹奏楽団というのは、どういった日常的な活動をしてらっしゃるんですか?

細野:先ほども船山さんからお話がありましたとおり、オーケストラは、フランスには国立のものが、パリ管と、国立ラジオ放送管、オペラ座管などのうちの、、一つなわけです。その中でも、軍隊ですから、いろいろな制約があると。国家公務員ということですから、他の楽団に属している方々よりも、活動は、たとえば、学校の先生になるにしても常勤の席は与えられないとか、オーケストラの中で二つを兼任することもできない、というようなことはあります。

アナウンサー:兵隊さんである、軍隊であるということから、生活そのものについてもやはり厳しさがあると思うんですが、そういったところはどうなんですか?

細野:ああ、そういったものは全くありません。ということは、他の吹奏楽団と違うところはですね、たとえば最近ではパリ警視庁のように、入団試験を受けて入ってくるわけなんですけれども、元はお巡りさんが楽器を取り上げて演奏するというわけなんですけれども、ギャルドの場合には、昔から、パリのコンセルヴァトワールを一位で出た人たちが、非常に難しい入団試験を受けて入ってくるわけですから、まずはミュジシャンであると。芸術家であるということが前面に出てくるわけです。そういう面からは、軍人としての制約はほとんど受けておりません。

アナウンサー:そうなんですか。(親衛隊の他の人たちと)同じように軍事演習に出かけられるのかなと思ったわけなんですけれども(笑)。

細野:そういったことはないと思いますね(笑)。おそらくですね、ピストルを使うとか、弾を撃つといった経験は、それ以前に兵役がありますから、その時にやるくらいで、入団した後はそうした経験はまずないと思います。

アナウンサー:ほおー。今お話の中に、ギャルドになるための採用という話がありましたが、皆さんプロであるというお話もありましたね。どういう形で採用されていくんですか?

細野:そうですね。もちろん公募されるわけなんですけれども、パリのコンセルヴァトワールでは一つのクラスに大体12人の生徒がいるわけです。例えばサクソフォンにしましても、クラリネットにしましても、ヴァイオリンにしましても…。まあ、そのいくつかあるところもあるわけなんですが、たとえばピアノのクラスは3つあるとか4つあるとかですね。それぞれに12人の生徒がいるわけなんですが、そういった人たちの中から卒業生が出て、何人かたまっているわけですね。で、ギャルドのメンバーも、そう年中変わるわけではありませんから、空席ができた時に、一時にその人たちが押し寄せると。そういう感じなんですね。

アナウンサー:じゃあやっぱり、狭き門であると…。

細野:ええ。それはもう国立のオーケストラの一つとして、非常に安定した収入があるわけですし、その他に私立、市立のオーケストラ、あちらではソシエテと言っていますけれども、ラムルーとかコロンヌとかパドゥルーとか、そういったオーケストラには同時に所属できますし、それからまたエキストラで仕事もできると。ですから、一つのベースとして重要な位置があるわけですね。

アナウンサー:そうしますと、先ほどの話で、いま全部で75人であるということですが、その75人の皆さん全員が、いわゆる粒より、というか粒ぞろいの集団であると…。

細野:そうです。やはりフランス文化に非常に関係があると思うんですけれども、本来ギャルドというのは軍楽隊であるわけですね。その軍楽隊に、オーケストラの響きを持ち込んだと、これがフランス的な、文化に関する感覚だと思いますね。
この今回来たのはLa musiqueという吹奏楽関係のミュジシャンであるわけなんですが、その他に40人くらいだと思いますが、弦楽の部分があるわけですね。それから、ギャルドと言いますと、音楽家集団というものがあって、その時々に応じて、ある時はブラスに変身するし、またある時はシンフォニックオーケストラになるし、そしてもっと小さな弦楽四重奏とか、今回来ておりますサクソフォン五重奏といったようなフォーメーションにもなりうるといった、そういうことになります。

アナウンサー:それぞれがソリストとしても十分演奏活動ができるようなプレイヤーであるということですね。

細野:ええ、このギャルドから出た人の中では、サクソフォンに関係する人ですと、マルセル・ミュールですとか、15年間在籍したということですけれども、非常に有名なデュポンという指揮者がいたわけです。そして現在のブートリーさんの前に、ブランさんという方がいたわけです。この方は非常にフルートの上手な方だったんですが、その前がデュポンさんだと。この人がギャルドの名声を非常に高めたわけなんですね。アメリカなどに演奏に行きましてね。その時代にミュールさんがおられましたし、その他、コンセルヴァトワールの教授になった方、あるいはパリ管のソリストになった方、オペラ座管に行った方、挙げたらキリがありません。

アナウンサー:なるほどー…。まあ、軍に属している、軍隊ということで、ある種の制約があるとちらっとおっしゃいましたけれども、その規約とか制約と言いましょうか、たとえばそのアンサンブルを組んで演奏するということに関しては、規律がうるさいということはないんですか?

細野:特にないのではないでしょうか。いろいろな形で演奏活動をやっていると思いますけれども、私が一緒にやっていました頃は、木管五重奏団はレコードをたくさん出しておりましたし、弦楽四重奏も先ほどお話したとおりで、この五重奏団についても、同じことが言えるのではないかと思います。要するに演奏の面では、これといった制約はないと思います。

アナウンサー:その他、どういったことがあるんですか?たとえば演奏活動以外では…。

細野:そうですね、たとえば交通違反をしたときにギャルドの身分証を見せると免れると、そういったことはありますけれども(笑)、他には特に規律といったものはありません。軍人としての観点からの規律といったものは、全く考えられませんね。

アナウンサー:そういった中で演奏活動、こうした小さなアンサンブルに分かれてやってくるというわけなんですが、これは技術を磨くということにも繋がってくるんでしょうし…。

細野:ええ、やはりオーケストラというのは小さなアンサンブルの集まりですから、部分がしっかりしていないといけないです。日本にもたびたび来てますバレンボイムさんなどですね、パリ管の中でもそういったものを率先して作って、より良いオーケストラを作っていこうと。思想的には相通じるものがあるのではないでしょうか。

続く…

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