2008/04/28

佐藤淳一 博士サクソフォン・リサイタル「ルチアーノ・ベリオの肖像」

というわけで、行って参りました。東京は上野公園の奥、東京藝術大学内第1ホール。年始に「藝大ブラスの醍醐味~蘇るサウンド」で伺って以来だった。「第1ホール」って何なんだと思いながら適当に構内をうろうろしながら会場を探していたのだが(もの凄い不審者に見えたかも)、その名も「ホール棟」なる建物の中にあるホールのうちのひとつ、であったようだ。

【佐藤淳一 博士サクソフォン・リサイタル】
出演:佐藤淳一(sax.)、安良岡章夫(cond.)他
日時:2008年4月28日(月曜日)18:30開演
場所:東京藝術大学第1ホール
プログラム:
L.Berio - Sequenza VIIb
Sequenza VIIbの楽曲構造解説1(全体構造、H音の変容)
L.Berio / C.Delangle - Around
Sequenza VIIbの楽曲構造解説2(拡大と縮小:リズム、重音、ダイナミクス、セリー)
L.Berio - Chemins IVb

昨年11月、アクタスのアンナホールで開かれた公開マスタークラスにおいても、佐藤さんは「Sequenza VIIb」を演奏されていたが、今日のはさらに細部まで磨きがかったように聴こえた。さすがに演奏・分析を繰り返してきたレパートリーなのだろう、技術的にはほぼ完成されたレベル、そして何より、楽曲に対する深い理解から生み出される圧倒的なまでの説得力。凄い。

ドゥラングル教授が「Sequenza VIIb」に対して注釈を行った「アラウンド Around」は、昨年秋に静岡で初演された作品。あの時はあまり冷静に聴くことができず、肝心の内容を忘れていたのだが、今日再び聴くことができて良かった。はじめはソプラノサックスの影として現れたサックス達が、徐々に自我を獲得して、独奏の周り(Around)を徘徊しはじめる…といった印象を受ける。解説によると、かなり即興の部分も含んでいる、とのことだったが、どこからどこまでが即興で…というのはイマイチわからなかった。

演奏は、田村哲、加藤里志(ssax)、伊藤あさぎ(tsax)、細川紘希(bsax)。ソプラノサックスが左右に、テナーサックスが後方に、バリトンサックスが前方に位置しての、音響的効果をも狙った状態での演奏だった(特にこの点に関してAOIでの演奏より明らかに面白い効果が出ていた)。

本日が日本初演となる「Chemins IV」。指揮は急病の夏田昌和氏に代わって安良岡章夫氏が務め、3-3-3-2の弦楽パートは学生が担当した。こちらは、「Around」とはまた違ったコンセプトで書かれており、独奏パートの「狙い」を明確に提示することを念頭に置いたものであることが分かる。だから、弦楽パートは独奏サクソフォンを離れていくことは決してない。また、和声的な重なりを重視するところが多く見受けられるのは、独奏楽器が試みるポリフォニックな響きを弦楽合奏として表現することが目的なのであろうが、クラスターのみならず妙に美しい和音が多かったのが印象的だった。CDと違って、舞台上を見ることができると、各パートの扱い方なんかもわかって面白いですな。

楽曲分析は、佐藤淳一さんの修士論文「ルチアーノ・ベリオからサクソフォンへの注釈」の内容から要所をピックアップし、レクチャー風に分かりやすく構成しなおしたという趣。前方に置かれたスクリーンにPowerpoint、じゃなかったKeynoteの画面を映しながらの進行。この曲の特色である「拡大と縮小」に関してはリズム、重音、ダイナミクス、セリーの4つについて紹介されていた。レクチャー中にとった手元のメモと論文を対照すると、以下のようなことが解説されていたということになる。

・リズムに関する拡大縮小:ベリオの奥さんであったスーザン・オヤマの起源である日本の、拍子木のリズムを模したものだと言われているとか。

・重音に関する拡大縮小:楽曲では五度音程を持つ重音が13回使用されているが、14回目に出現するときそれは減五度(短六度)の重音へと縮小(拡大)され、そのまま倚音Cを抽出→Hへ回帰(最後の音)になる。

・ダイナミクスに関する拡大縮小:楽曲中に出現する開放Hは、次の6つの指遣いによって表現される。[I:], [II:1,2,3,4,5,6,C,C#], [III:1,2,3,C1,Ta,Tc], [IV:1,2,3,5,6,C2,Bb,Ta,C], [V:1,2,3,4,C1,C2], [VI:1,2,3,Cs]。このうち、それぞれのダイナミクスの最大値はI:sffz, II:ff, III:f, IV:mf, V:p, VI:pである。

・音列の拡大縮小:楽曲の進行に伴い、Hから始まって徐々に音列に新たな音が追加されていく構成をとるが(最終的には12音)、出現音を順番に並べて7番目の音を中心と捉えると、左右に対称となる音の音程間隔が長2度、長3度、完全4度、完全5度と拡大していく。

演奏会の内容自体はなかなかハードだったが、聴きにきていたみなさんは興味深く聴いていたようで、終わってみればなかなか充実した演奏会だったなあと思った。さすがに一般のお客さんは少なかったのではないかという印象だったが(プロや学生が集結。あまりにもアウェイすぎて、終演後はそそくさと退散^^;)、こういう演奏会が一般向けに行われるのもまた、面白い試みではないだろうか。佐藤さん曰く博士リサイタルはまた行うそうで、次回も期待したい。

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