2008/01/20

グラズノフ「協奏曲」オリジナル版とLeduc版との違い

シガード(シーグルト)・ラッシャーが、「四重奏曲」を聴いて感激し、委嘱して生まれたというアレクサンドル・グラズノフの「協奏曲」。言わずもがな、現在においてもアルトサクソフォーンのための最も重要なレパートリーの一つとして数えられている。ラッシャー自身がグラズノフの「協奏曲」について語った資料「Alexandre Glazounov: Concerto」から、出版時における楽譜の変更について述べられている部分を抜粋して、譜例と共に記してみたい。

練習番号[23]~[24]付近において、現在演奏されるのは、Alphonse Leducから出版されている次のような楽譜である。ま、おなじみの譜面ですね(クリックして拡大)。


ところが、グラズノフの自筆譜を見ると、次のようになっているのである(クリック拡大)。


ん?良く分からない?では、それぞれの楽譜を比較用に浄書してみたので、ご覧頂こう(クリック拡大)。


上段がオリジナル版、下段がAlphonse Leducから出版されている版を、それぞれ浄書したもの。赤い四角の内部に注目していただきたい。ラッシャー自身が以下のように述べているとおり、出版段階で八分休符が挿入され、違う楽譜になってしまったのである。ちなみに、以下の文面では最後のオクターヴ上げについても書かれていますね。

But it is evident that before the first printing this and that were changed in the solo part. In the three measures before rehearsal number 24 in the manuscript are no eighth-rests, but octaves, just as in the previous measures. Nor is there an ad lib for 8va sign at the end of the manuscript.

せっかくなので、オリジナルで演奏しているラッシャーの演奏と、Leduc版のバージョンで演奏しているミュールの演奏を、抜粋して聴きくらべて頂こう(→聴き比べ用ページ)。まさに、それぞれの楽譜の通り(ミュールのほうは、ピアノと共に少々ズッこけてますな)。

なんでこんなことが起こったのだろうか。もしかしたら、グラズノフと連名になっているA.Petiotの仕業かもしれないな。グラズノフは、作曲段階ではA.Petiotとの共同作業はなかったとのことだが、出版社側が、演奏効果を上げるために勝手に改訂を行った、ということなのだろうか。確かに、Leduc版のほうがスピード感もあるし、面白いと言えば面白い。だが、(当たり前だが)オリジナル版で吹いたほうが、作曲家の意図に沿っている、ということにはなるだろうな。

…うーん、自筆譜全体を見てみたくなったぞ。どこかでファクシミリを入手できないだろうか。

0 件のコメント:

コメントを投稿