2007年は、シーグルト・ラッシャー Sigurd Rascherの生誕百周年だ。マルセル・ミュールと同時代に活躍し、クラシカル・サクソフォーン界の演奏・教育の両面に絶大な影響力を及ぼした、ドイツ生まれのサクソフォニスト。グラズノフ、イベール等の協奏曲は、彼がいなければ生まれ得なかったし、サクソフォーンの音域開拓においても大変な成果を遺したということは、比較的良く知られている(著書「Top Tones of the Saxophone」はフラジオ音域の練習法を記したベストセラー)。
残念ながらミュールとほぼ同時期(2001年)に鬼籍に入ってしまったのだが、ラッシャーの教えを受けた奏者たちは、今なお世界中で活躍しているという。ジョン=エドワルド・ケリー John-Edward Kellyや、ラッシャー四重奏団なんて、ちょっとクラシックサックスにはまった方ならば、名前だけでも耳にしたことがあるのではないだろうか。
なぜ突然ラッシャーのことを思い出したかというと、こんなイベント情報を発見したからだ(→Rascher Centennial Celebrationの告知)。ニューヨーク州立大学フレドニア校で、11月に行われるラッシャー生誕百周年イベント。ラッシャーに教えを受けた奏者が一同に会し、氏の功績を振り返る意味をこめて、ディスカッションをおこなったり、氏ゆかりの作品を演奏を披露したりするというもの。特に初日の夜に予定されたコンチェルト・コンサートは大変豪華なもので、こんな感じ(サイトよりコピペ)。
The Western New York Chamber Orchestra, Steven Jarvi - Conductor
・Edmund von Borck - Concerto, Op 6 (1932), Wildy Zumwalt
・Alexandre Glazunov - Concerto in Eb (1934), Lawrence Gwozdz
・Lars-Erik Larsson - Concerto, Op 14 (1934), Harry White
・Jacques Ibert - Concertino da Camera (1935), Patrick Meighan
・Frank Martin - Ballade (1938), John-Edward Kelly
うーん、聴いてみたいぞ。ちなみに、2日目の午前中には、ラッシャー四重奏団の演奏も予定されているとか(これでグラスをやってくれたら、言うことなしなのだが…ブツブツ)。さすがに行くことはできないが、こういった催しは大変興味深い。ラッシャーにゆかりの奏者たちが、いかに自分たちの流派を、そして師匠の存在を大切にしてきたか、ということが垣間見えるようだ。
ラッシャー派の演奏は、伝統的なフレンチスタイル、イギリス、アメリカ、いずれのスタイルともかけ離れたもの。現在では淘汰されるような傾向にあることは否めないが、ラッシャー本人の数々の功績については、もっと多くの人が知っていても良いことだと思う。
参考:
雲井雅人氏による記事「ラッシャーとミュール」
Thunder氏による記事「もうひとつラーション…そしてラッシャーのこと」
オマケ画像:
この写真、見たことある方は結構いるんじゃないかしらん。写っているのは、ラッシャーと2本のサックスだが、よく見ると…(写真はクリックで拡大できます)。
…片方は、アドルフ・サックス自身の製作によるヴィンテージ楽器。もう片方は、サックスメーカーのブッシャーが特別に製作した、倍音デモンストレーション用ホールなし楽器、だそうで。
ラッシャーの件は、以前雲井先生が
返信削除ご自身のサイトにも書かれていた記憶が
あります。
確かに功績は大きいのに、同時期の
ミュールに比べたら、、ですよね。
アメリカの演奏会、私も聴きたいです!
雲井さんの記事、私も拝見しました(「小言ばっかり」のエントリーでしたでしょうか)。
返信削除ラッシャー派の演奏は確かに見事なものなのですが、私自身「好き嫌い」で言うと、う~んと唸ってしまう感じなのです。
かと言って、それでラッシャー氏自身の功績が否定される、なんてことはないのですが…