もう昨年のことになってしまったが、12/24のサクソフォーンフェスティバル2006で、自分が聴いた部分のレポート(?)を書いておこう。今年は2日間に亘る開催とのことで、本当は全部通して聴きたいくらいだったのだが…あいにく自分の予定と重なり、2日目の午後から15:30くらいから聴いた。しつこく一つ一つ書き連ねます。
・アンサンブルコンクール最高位受賞団体披露演奏
アンサンブル・リヴィエール - ドビュッシー「弦楽四重奏曲ト短調」より第一楽章
到着して一番最初に聴いたプログラム。去年は確か小ホールでの披露演奏だったはずだが、今年は大ホールでの披露演奏だった。女性四人のグループ、音大出の方々だろうか?肝心の演奏は音場が遠くてちょいとパワー不足な感じだったが、自然体の演奏。発音や音色にグランプリの貫禄を見た気がする。
・第9回ジュニアサクソフォーンコンクール最高位受賞者披露演奏
福間修人 - グラズノフ「サクソフォーン協奏曲」
この披露演奏も、去年までは小ホール開催だったはず。高校3年生とのことだが、若さに似つかぬ美しい音色と、堂々としたステージには、演奏後に大きな拍手が送られた。さすがに高速なパッセージになると苦しかったかな、まあそれは今後に期待だろう。このコンクールから若手の名手が多く輩出されているとのこと、そのうち福間さんの名前をメディアで見るようになるかもしれない。
・サクソフォーン協会A会員によるコンサート
パンフレットにはプログラムの詳細が載らないけれど、毎年名演が多い「A会員コンサート」。今年も様々なスタイルの演奏が楽しめた。あわよくば、楽曲の解説などつけてくれると良いと思うのだが。
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クローバー・サクソフォン・クヮルテット - デザンクロ「四重奏曲」
まさに次世代の四重奏団!極小のppから無理のないffまでのダイナミクス、ビロードのような美しい音色、良く練られたアンサンブルなど、先日聴いたハバネラを思わせるようなサウンドだった。入賞暦も華々しい日本の若手が終結しただけあって、本当に素晴らしい演奏だった。聴きなれたデザンクロだったが、弱音でのニュアンスのコントロールを堪能できるのはライヴならでは。林田氏のソプラノのコントロールには、正直恐れ入りました…。未来の日本を背負う四重奏団として、期待特大。5月のリサイタルも待ち遠しい。
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ジェローム・ララン&原博巳 - ロバ「アルス」、鈴木純明「アンチエンヌ」
7月の「サクソフォーン旋風」以来、再度聴く機会を心待ちにしていたデュオ。これが世界レベルの二重奏ですよと言わんばかりの、絶大なインパクトをもつ演奏。時に一体化し、時に互いに火花を散らす、絶妙なコミュニケーションが、音を通して伝わってきた。そういえば、ソプラノ・サックスのデュオをまとめて聴く機会って珍しいですね。
クリスチャン・ロバ「アルス」は、プロレベルでもっと演奏機会が増えても良い曲だと思っていたが、この2人の演奏で生で堪能できたのは僥倖だった。しつこく繰り返される4度と5度のハモリに、徐々にトリップさせられていく。鈴木純明氏の「アンチエンヌ」は7月にも聴いた。ちょっとこなれてきたためか、曲の持つ新たな側面が、見えそうで、まだ見えないような…。頻繁に聴く曲でもないので、また感想を改めたいところ。デュオでCD作ってくれませんかね(笑)。
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高畑次郎 - モロスコ「ブルー・カプリス」
パルテノン多摩の大ホールにサックス一本というのは、さすがに音量やインパクトの面で希薄な印象を与えかねないとも思うのだが、見事な演奏だった。ジャズの無伴奏カデンツァを思わせるこの曲、アメリカでは既にスタンダードなレパートリーに位置づけられており、レコーディングも多い。サックスの高畑氏は大阪市音楽団の奏者としても有名。そういえば、オーティス・マーフィ氏との親交があるとのことだが、同じ門下と言うわけではないのに音色の面で共通点を感じたのは偶然だろうか。
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有村純親(sax)、松浦真沙(pf) - ヒンデミット「ソナタ」
あのニコラ・プロスト氏がプロデュースする、サクシアーナ国際コンクールで、昨年見事優勝を果たした有村氏。こういった新進気鋭の奏者の演奏を聴くことができるのも、フェスティバルの魅力の一つだと思う。演奏曲目はてっきり「アルトホルン・ソナタ」だと思っていたのだが、「ヴィオラ・ソナタ」だった。平野公崇氏の「クラシカ」での印象も強い本曲であるが、平野氏の演奏とは対極にあるような、全音域に渡るニュートラルな音色が印象的。テクニックも大変安定している。ほかの編曲物も聴いてみたい…バッハとか、けっこう似合いそうな気がする。
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大城正司(sax)、成田徹(sax)、沼田良子(pf) - ラヴェル「スペイン狂詩曲」より
Trio-SHIZUKUという1994年に結成されたピアノトリオだそうで、2004年にはオペラシティでリサイタルもやっていたそうな。知らなかった。サックスの大城氏と成田氏は、なんとソプラノ、アルト、テナーを持ち替え…つまりステージ上にはサックスが6本!壮観なり。金井宏光氏による編曲、さらに演奏も素晴らしかったが、さすがに計6本の必然性は感じられなかったなあ(^^;チューニングも大変そうだった。
・フェスティバルコンサート~サクソフォンと室内アンサンブルによる作品
オーケストラは、板倉康明指揮東京シンフォニエッタ。シェーンベルク「室内交響曲」の編成を基点とする室内楽団だそうで、基本的に弦、管ともども1パート1人。室内オーケストラを従えた催しとは…近年まれに見る豪華なもので、思わず聴き入ってしまった。解説は、昨年と同様、上田卓氏。
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宗貞啓二(sax) - アンドレ・カプレ「伝説」
1903年に生まれたカプレの本作品を、様式を踏まえたうえでこれだけ重厚なイメージで聴かせられる人って、なかなかいない気がする。どこまでつづくんだおい、というほどの息の長いフレーズ、そして決してオーケストラに屈しない確固たる響きなど、宗貞氏の面目躍如という感じ。昨年聴いたデュオ宗貞を思い出した。オーケストラの方は、意外と地味な響きがしていたが、これは曲のせいだろう。
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西本淳(sax) - マリウス・コンスタン「演奏会の音楽」
オーケストラによる演奏は、日本初演だそうで。確かにピアノとの二重奏では、コンサートピースとして取り上げられるのも納得できる気がするが、オーケストラとの演奏はピアノのそれと比べると…。響きが色彩感豊かになる分、ちょっととっつきづらいと言うか(笑)。個人的には、ピアノとのデュオのほうが好きかな。
サクソフォーンだけでなく、オーケストラ共々かなりの技巧を要しているように見えたが、そこはさすが東京シンフォニエッタ。サックスの西本氏は、ノナカ・サクソフォン・コンクールでの優勝履歴があり、音を聴いてみたかった奏者の一人。オーケストラの人数が増えたぶん、音は埋もれがちになるけれど、いやー、上手かった。
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林田祐和(sax) - フランコ・ドナトーニ「HOT」
ピアノ、パーカッション、コントラバス、トランペット、トロンボーン、クラリネット、サックス(ソプラニーノ&テナー)という、「あんたそれジャズバンドでしょ」という編成。どんな響きがするかとワクワクしていたが、出てくる音は疾走感あふれるフリージャズのよう。ものすごくカッコイイ!この曲、ダニエル・ケンジー氏によるCDもあるそうで、ぜひ聴いてみたいが…(入手困難)。
終始音楽の主導権を握っていたサクソフォーンの林田氏も見事だったが、特に超高速なコード・プログレッションを鮮やかに駆け抜けてみせたコントラバス奏者に、特に拍手を送りたい。もちろん、各所で的確な相槌を打つピアノと、難度の高いマレット系パーカッションを繰ったパーカッショニスト、そして、サックスとのバトルで火花を散らした管楽器プレイヤー達にも。
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平野公崇(sax) - ディアナ・ロタル「シャクティ」
インド哲学的に言えば、「シャクティ」とは宇宙のエネルギー、潜在的能力、のようなイメージで使われる単語なんだそうだ。ソプラニーノ&アルト&バリトン持ち替え。マウスピースを外した冒頭のFLAUTO奏法でのフレーズが奏でられた瞬間に、空気が変わった。続いてソプラニーノによる圧巻のスケルツァンド。さらにバリトンの重厚なフレーズに、最後はアルトサックスでのオーケストラも交えた爆発的なフィナーレが続く。23歳の女の子が書いた曲だとは、とうてい思えない!平野氏の演奏は今までに何度か聴く機会があったが、やはり覇気、存在感という点では、圧倒的に他の奏者の追随を許さないと思う。
2005年12月にダニエル・ケンジー氏が初来日したのは、この曲を東京シンフォニエッタと初演するためだったはず。その時は聴くことができなくて歯がゆい思いをしたが、ついに聴く機会が巡ってきて大変に嬉しかった。誰かレコーディングしませんか?
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小串俊寿(sax) - ダリウス・ミヨー「世界の創造」
小串氏の音を生で聴いたのは初めて。噂に違わぬどこまでも美しい音色!冒頭のユニゾンを聞いた瞬間に、バーンスタイン盤のエコーが聴こえた、ような気もする。オーケストラのパートは、さすがに難易度が高いだけあって、ところどころにキズも見られたが、そんな中ゆるぎない美音を聴かせ続けた小串氏。トリを飾るにふさわしい、充実した演奏だった。
・フェスティバルオーケストラ2006
伊藤康英「地球はおどる」、ベラ・バルトーク「管弦楽のための協奏曲」より第5楽章
今年はなんと、コントラバス・サクソフォーン入り!でかい!ベルの中に、赤ちゃんくらいならば入っちゃいそう。そういえば、一昨年はサリュソフォーンが入っていたっけ…。どこから持ってくるんだろう。
毎年新作が披露される伊藤康英先生の作品は、ホルスト「木星」のメロディを中核のテーマとして、世界中の舞踏音楽のフォーマットに当てはめていく、なんとも楽しい作品。ブルガリア民謡のリズム、アリラン、安里野ユンタなどが、目まぐるしく出現しては解体してゆく…阿波踊りのリズムが出現したときには、思わず笑ってしまった。
バルトークの演奏は、さすがフェスティバル・オーケストラ。圧倒的!オーケストラのような多彩な色彩感は望むべくもないが、サクソフォーンによる演奏は、新たな魅力を紡ぎ出しているようにも思えた。全体をそつなくまとめ、上手にドライヴさせる池上氏の指揮も見事。
・サックス大合奏2006
伊藤康英「ファンファーレ21」、エドワード・エルガー「威風堂々」、ベートーヴェン「歓喜の歌」
池上氏によるカッコイイ!挨拶に続いて、グランド・フィナーレの大合奏。ホール全体をサックスの響きが覆いつくす様は、今まで経験したことのないような豪勢な響きだ。楽器もって来れば良かった(泣)。
フェスティバル自体は、2003年から連続して聴きに来ているが、実は今まで大合奏まで残って聴いていたことはなかった。なんせ夜遅く、ずーっと長時間に及ぶコンサートを聴き続け、疲れて大合奏の前に退出してしまうことばかりだったのだ。しかし、聴いて良かった!まさに2006年の締めくくりにふさわしい!
…こんな感じで、何も考えず書き綴ってみました(笑)。この充実したコンサートを実現するに当たり尽力した、演奏者、運営者の皆さんに、感謝を表したい。さて、来年も土日の二日間開催だそうで、今から楽しみ。ぜひ今度は、全プログラム制覇を目標に。
いいな~ 僕も行きたかったです。
返信削除クローバー聴いてみたかった…
コメントどーも!shim@さんてっきり来てるかと思った…
返信削除クローバー・クヮルテットは、ぜひ5月のリサイタルでご一緒しましょう。