2022/05/01

ミュール氏のアメリカツアー評@TIME紙

以前も少し取り上げたが、マルセル・ミュール氏がシャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団とともにアメリカツアーに参加したときの、TIME紙の評の翻訳(個人用メモで、間違いを含む可能性あり)。

https://content.time.com/time/subscriber/article/0,33009,868264,00.html

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1958年2月10日の記事

ベルギーの楽器発明家アドルフ・サックスは、1846年、円錐形の真鍮管にリードを取り付け、特許を取得し、軍楽隊に新しい楽器を提供した。やがて彼のサクソフォンは大西洋を渡り、ジャズの主役となった。しかし、サクソフォンには常に厳格なクラシック・プレイヤーたちがいる。先週、その中でも最も優秀で影響力のある一人、フランスのマルセル・ミュールがボストン交響楽団とアメリカ・デビューを果たし、本格的なアルトサクソフォンがいかに優れた音を出せるかを説得力を持って証明した。

ミュール氏がアメリカ・デビューに選んだ曲は、フランスの現代作曲家、ジャック・イベールの「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」とアンリ・トマジの「バラード」であった。澄んだヴィブラートで歌うことも、細かく刻むスタッカートも、息苦しさを感じさせない力強くしっかりとしたふくらみも、どれも素晴らしく、開放的で均整のとれたサウンドに聴き入った。ミュールのキビキビした指の動きによって、サクソフォンの音色は時に弦楽器のような光沢を帯び、フルートの澄んだ抑揚、ファゴットの暖かい質感をも併せ持っているように思えた。ポップス系サクソフォン奏者のワウワウ、ウォブル、擦れた音、賑やかな音はなくなった。

ジャズマンたちは、クラシック・サクソフォン奏者を軽蔑するが、ミュールのことは認めている。デイヴ・ブルーベック・カルテットのアルトサクソフォンの名手ポール・デスモンドは、「彼には純度の高いクオリティがある。彼はサクソフォンを良い音にした、これは他の正統派サックス奏者にはできないことだ」と語る。1923年、元教師のミュールは、フランスで最も優れた軍楽隊であるギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団に所属していた。彼は、リヒャルト・シュトラウスの「家庭交響曲」やビゼーの「アルルの女」など、当時存在した、サクソフォンが含まれている数少ないオーケストラ作品の演奏も研究した。ジャズと短い付き合いをした後、ミュールは本格的なサクソフォン・バンド、すなわち、サクソフォン四重奏団を結成した。

その後、イベール、オネゲル、ダリウス・ミヨーなど数人の作曲家がサクソフォンのために作曲したが、56歳のサクソフォン奏者ミュールは、いまだに、まるで音楽のない国の人間のような気がしている。ロックンロールの演奏家が、サックスにチューインガムを入れて、その音色を鈍らせるといった悪習を耳にすると、胸が痛む。パリ音楽院でサクソフォンの教授をしていても、学生のほとんどはジャズや軍楽隊の道に進んでしまうのだと、とミュールは悲しげに言った。「私には、ひとつの使命があります。人々に、本物のサクソフォンとはどういうものなのかを知ってほしいのです。今こそ、本来の姿を失ったサクソフォンの中に、かつてこの楽器が持っていた高潔さが見出されるべきなのです。」

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