2017/06/18

ジェローム・ララン「Hikari」

フランスのサクソフォン奏者、おなじみジェローム・ララン Jérôme Laran氏のCD。タイトルの「Hikari」とは、アルバムに収録された佐藤聰明氏の作品で、ジャケットやプログラム構成など、その響きから連想されるようなコンセプトで組み立てられているように思える。

「Hikari(Klarthe Records)」
Jérôme Laran, sax
Michaël Ertzscheid, pf
1. Sômei Satoh - Hikari
2. Barry Cockcroft - Melbourne Sonata
3. Arvo Pärt -Spiegel im Spiegel
4. Graham Fitkin - Gate
5. Ross Edwards - Raft Song at Sunrise
6. Bajlinder Singh Sekhon II - Gradient
7. Olivier Messiaens - Louange à l'éternité de Jésus

透明感のある演奏。それは、音色や音楽作りだけではなく、プログラミングによるところも大きいと思う。ポスト・ミニマルとも形容できる作品が目立つが、ともすればサクソフォンで演奏する時、演奏技術的に無理のある形になってしまうこれらの作品を、鮮やかに演奏しているのはさすがである。冒頭から聴き進めるに従い、"サクソフォンを聴いている"という意識が、徐々に薄れていって、アルヴォ・ペルトやメシアンあたりでは、周囲環境からメロディと和音だけが聴こえてくるような…不思議な感覚を得ることができる。

ガツンと響く聴きモノは、フィトキン、セコーン。フィトキンは最近、日本国内でも人気が出てきたのは嬉しい限り。フィトキンならではの厚みのある和音に、ジェローム氏が吹くサクソフォンの闊達なフレージングが絡む様子が爽快そのものだ。セコーンは、絶妙なバランスで特殊奏法が交えられた作品であるが、それを(ものともせずに)作品の構成感やリズムの面白さを伝えることに徹しているジェローム氏の演奏、さすがである。

アルバム中の白眉として、コッククロフトを挙げておこう。この超高難易度のスコアをスラスラと見事に演奏している様子など、なかなか聴けるものではない。"普通に聴こえる"ために必要な演奏技術は、いかばかりだろうか。そういえばジェローム氏、2015年のコングレスではコッククロフト氏とともにデュオのステージを踏んでおり「E2udes」という作品を演奏していた。仲がいいのだろうなあ。

ジェローム氏名義で制作されたアルバムは、これまで3枚。メイヤー財団の助成を受けて制作された「Paysages Lointains」、Cafuaから出版された「Impressions d'Automne」、そして今回の「Hikari」である。それぞれのCDが独特の魅力を放つが、非常に尖った「Paysages Lointains」、スタンダードな内容を揃えた「Impressions d'Automne」の、いずれにも属さない第3の方向性をアルバムにて提示してきたようだ。多忙を極めるジェローム氏だが、ますます今後の活動に注目していきたい。

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