2014/12/18

12/21 TSQ演奏会の曲目について(ハデヴィッヒ2)

作曲の木山光氏は、東京音楽大学、ブリュッセル王立音楽院を経て、アントワープ王立音楽院のディプロムを修了し、現在はヨーロッパで活躍する作曲家。作風としては、楽器の限界レベルでの極端な大音量、走句、同音連打、ノイズ、特殊奏法などが多用されている。私自身は、その中でも緻密な音の選び方がされているところに、木山氏のアイデンティティがあると考えている。最近発表された「?????」という作品は、トーンクラスター的ノイズ風の部分と、調整のある部分の混在が面白く聴かれる。

「ハデヴィッヒII」は、2012年、第1回洗足現代音楽作曲コンクール・サクソフォン作品部門に応募するために作曲された。同コンクールでは、聴衆賞を獲得している。

パワーに圧倒される作品なのだが、楽譜を眺めると、非常に細部まで綿密に書かれたスコアであることが印象深い。だがしかし作曲者が求める響きは楽譜の注釈にもあるとおり「This piece need noisy tone. And this piece is not so colled comtemporary musc, this is noise Jazz - Rock music.」「Composer wants to produce as fast as possible & as loud as possible like Free Jazz - Rock improvisation」とされており、精密な現代音楽の表現とはかけ離れたものである。そのギャップが実に面白い。かの中川俊郎氏は「音楽の枠組みの向こう側、ゾッとする「彼岸」を覗こうとする探求心を見る(第6回JFC作曲賞本選に選出された「ハデヴィッヒ1」の評より)」と表現した。オプションでPAの使用によって120dbへのアンプリファイが推奨されている。

タイトルのハデヴィッヒ(ハデウェイヒ)とは、13世紀の女流詩人であり、神秘主義者である。ブリュノ・デュモン監督が、2009年にそのハデヴィッヒを題材に作り出した映画を観た作曲者が「その映画のBGMが気に入らなかったので作ってみた」とのこと。映画のストーリーとコンセプトは下記のようなものである。

修道院で生活するセリーヌは、13世紀フランドル地方のキリスト教神秘主義的詩人ハデウェイヒに傾倒し、激しく感化され、その盲目的な信仰心ゆえに修道院を追われる。パリの大邸宅に戻るが、裕福な家庭で、やり場のない気持ちをもてあました彼女は、イスラーム系のふたりの男性ヤシーヌとナシールと出会う。やがてセリーヌは神への情熱的で倒錯的な愛に駆られ、恩寵と狂気のはざまで、危険な道へと導かれてゆく。

監督の出身地方であるフランドルに実在した13世紀のキリスト教神秘主義的詩人ハデウェイヒの化身の如き少女、セリーヌ(ジュリー・ソコロフスキ)の盲目的な信仰心故のキリストへの一途な愛と、イスラム系青年との出会いを通じて、テロリズムの世界へと足を踏み入れて行く脆弱さ、宗教の現代性と普遍的な“愛”と“暴力”が同居してしまう人間存在のリアリティを、シンプルながら力強く、美しい映像で描いた。

公式予告編


木山氏が言うBGMとは、この場面のことかな?


最初この作品を取り上げようと思ったきっかけは、コンサートのコンセプト「聖と俗」の"俗"に沿った作品を探していたことがきっかけだった。メタルかファンクか、というような激しさに感銘を受け、第一部"俗"の最終曲としてこの作品を取り上げることになったのだが、まさかこのような(キリスト教的な要素を含む)経緯で作られているとは知らなかった、というか、むしろよりそのコンセプトに沿った作品であるというあたりが面白い。修道院を追われ、普通の世界へと足を踏み入れることは、聖と俗の境界を描き出しているということにほかならず、チラシにしたテッツィアーノ「聖なる愛と俗なる愛」)の聖と俗が混ざり合うその狭間に位置する作品だと言えるのだ。第一部"俗"の最後に演奏する曲として、これ以上良い作品はないだろう。

最初のころは、演奏技術的に全く追いつかず、個人ごとに練習してようやく作品が求めるところまでたどり着いた。目的のために手段を鍛錬する、という時にこそ、演奏技術は上がっていくのだと思う。

【Tsukuba Saxophone Quartet – Saxophone Concert Vol.6】
日時:2014年12月21日(日)18:00開演
会場:ルーテル市ヶ谷センター・音楽ホール
入場料:1,000円
プログラム:
C.コリア/旭井翔一 – アルマンド・ルンバ(サクソフォン四重奏版委嘱初演)
J.L.d.ティロ – トルメンタ・タンゴ
木山光 – ハデヴィッヒII
J.S.バッハ/伊藤康英 – シャコンヌ
D.マスランカ – レシテーション・ブック
チケット問い合わせ:info@tsukubasq.com
詳細:http://www.tsukubasq.com

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