2014/10/25

10/26演奏会の演奏曲紹介(ハデヴィッヒII)

作曲の木山光氏は、東京音楽大学、ブリュッセル王立音楽院を経て、アントワープ王立音楽院のディプロムを修了し、現在はヨーロッパで活躍する作曲家。作風としては、楽器の限界レベルでの極端な大音量、走句、同音連打、ノイズ、特殊奏法などが多用されている。私自身は、その中でも緻密な音の選び方がされているところに、木山氏のアイデンティティがあると考えている。最近発表された「?????」という作品は、トーンクラスター的ノイズ風の部分と、調整のある部分の混在を、面白く聴いた。

「ハデヴィッヒII」は、2012年、第1回洗足現代音楽作曲コンクール・サクソフォン作品部門に応募するために作曲された。同コンクールでは、聴衆賞を獲得している。

タイトルのハデヴィッヒ(ハデウェイヒ)とは、13世紀の女流詩人であり、神秘主義者である。ブリュノ・デュモン監督が、2009年にそのハデヴィッヒを題材に作り出した映画を観た作曲者が「その映画のBGMが気に入らなかったので作ってみた」という経緯があるとのこと。映画のストーリーとコンセプトは下記のようなものである。

修道院で生活するセリーヌは、13世紀フランドル地方のキリスト教神秘主義的詩人ハデウェイヒに傾倒し、激しく感化され、その盲目的な信仰心ゆえに修道院を追われる。パリの大邸宅に戻るが、裕福な家庭で、やり場のない気持ちをもてあました彼女は、イスラーム系のふたりの男性ヤシーヌとナシールと出会う。やがてセリーヌは神への情熱的で倒錯的な愛に駆られ、恩寵と狂気のはざまで、危険な道へと導かれてゆく。

監督の出身地方であるフランドルに実在した13世紀のキリスト教神秘主義的詩人ハデウェイヒの化身の如き少女、セリーヌ(ジュリー・ソコロフスキ)の盲目的な信仰心故のキリストへの一途な愛と、イスラム系青年との出会いを通じて、テロリズムの世界へと足を踏み入れて行く脆弱さ、宗教の現代性と普遍的な“愛”と“暴力”が同居してしまう人間存在のリアリティを、シンプルながら力強く、美しい映像で描いた。



最初この作品を取り上げようと思ったきっかけは、12/21のコンサートのコンセプト「聖と俗」の"俗"に沿った作品を探していたことがきっかけだった。メタルかファンクか、というような激しさに感銘を受け、第一部"俗"の最終曲としてこの作品を取り上げることになったのだが、まさかこのような(キリスト教的な要素を含む)経緯で作られているとは知らなかった、というか、むしろよりそのコンセプトに沿った作品であるという僥倖を感じた。すなわち、修道院を追われ、普通の世界へと足を踏み入れることは、聖と俗の境界を描き出しているということにほかならず、チラシにしたテッツィアーノ「聖なる愛と俗なる愛」)の聖と俗が混ざり合うその狭間に位置する作品だと言えるのだ。第一部"俗"の最後に演奏する曲として、これ以上良い作品はないだろう。

演奏技術的に最初全く追いつかず、個人ごとに鍛錬してようやく作品が最低限求めるところまでたどり着いた。たとえばタンギング…ある個所ではマシンガンのように四分音符=120で16分音符のタンギングが続く作品なのだが、実は2か月前まで、四分音符=112の速度で16分音符のタンギングができなかったところ、個人練習を繰り返していたらできるようになったのだった。必要はナントカの母とは良く言ったものだ。

【Tsukuba Saxophone Quartet Concert Vol. 5.5 at Ernie's Studio】
出演:Tsukuba Saxophone Quartet
日時:2014年10月26日 14:00開演
会場:アーニーズスタジオ
料金:入場無料
プログラム:
C.コリア/旭井翔一 - アルマンド・ルンバ(S.Sax & B.Sax版初演)
JacobTV - Grab It!
W.グレゴリー - 干渉
加藤昌則 - オリエンタル
伊藤康英 - 木星のファンタジー
R.ピーターソン - トリオより第3楽章
木山光 - ハデヴィッヒII

(チラシ・クリックして拡大)

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