2013/03/18

伊藤あさぎ サクソフォンリサイタル(東京公演)

素晴らしいリサイタル。フランス近現代音楽を巡るプチ旅行、といった雰囲気を楽しんだ。

※大阪公演に行こうかどうか迷っている方!行かなければ損ですよ!

【伊藤あさぎ サクソフォンリサイタル(東京公演)】
出演:伊藤あさぎ(sax)、佐野隆哉(pf)、有馬純寿(electro)
日時:2013年3月17日 14:00開演
会場:東京オペラシティ・リサイタルホール
プログラム:
M.ラヴェル/D.ワルター - ソナチネ
C.サン=サーンス - 序奏とロンド・カプリチオーソ
P.ルルー - SPP
坂田直樹 - Missing Link
F.シュミット - 伝説
F.デクリュック - ソナタ
C.ドビュッシー - 亜麻色の髪の乙女(アンコール)

ラヴェルの最初の数フレーズを聴いた瞬間に、これまで聴いてきたサクソフォン・アレンジ版「ソナチネ」の演奏に対する諸々のイメージがゼロクリアされた。これまでに聴いたこの曲の演奏に対するイメージ…まるで借り物のような…を覆して、素晴らしい音楽を奏でていた。こんな感覚はいままで味わったことがない。驚異的なまでのコントロール、そしてラヴェルの作品にピタリとはまるキラキラした音色。ダグラスが伊藤あさぎさんの演奏を評した「So grace!!」という言葉を思い出した。衣装も素敵すぎる!

サン=サーンスは、もしかしたらサクソフォン版は日本初演だったかもしれない。13区からCNSMDPに入ったサクソフォン奏者、Nicolas Arsenijevic氏お得意のレパートリー。まさか日本で、しかもあさぎさんの演奏で聴けるとは思ってもいなかった。若干アルティシモ音域に難しさが散見されたものの、循環呼吸を駆使した怒涛の音のバラ撒き方や各所での歌い方など、さすがである。

前半最後はSPP。サクソフォンとピアノの緻密なアンサンブルが要求され、さらに特殊奏法も満載、ということで容易には登攀しがたいレパートリーのひとつ。あさぎさんも相当なキレっぷりをみせ(ちょっと恐怖すら感じたほど)、さらにフルオープンにした佐野氏のピアノも遠慮無く、豪華絢爛ともいえる化学反応が発生していた。実は2人ともフランス人だったりして。本日のプログラム中、"エスプリ"を最も感じたのは不思議とこの作品の演奏だったような。

後半は新作のサクソフォン+エレクトロニクス作品から。愛知県立芸大で寺井尚行氏に師事し、エコール・ノルマルを経て現在パリ国立高等音楽院在籍中の作曲家、坂田直樹氏によるもの。非常に洗練された響きの電子音(もしかしたら一部ミュージック・コンクーレトもあったかな?)は、最近のフランスのトレンドを表しており、まるで日本人が書いた作品には思えない。全体を通してなかなか面白い作品に仕上がっており、さらに鬼気迫る演奏も相まって、とても素晴らしい時間を過ごすことができた。

古典的なシュミット、デクリュックのような作品では、隙なく仕上げるのはもちろんのこと、さらに"grace"な表現や表情の変化なども付随し、いずれも長大な作品であるが、聴いていたらあっという間だった。お手本、という域を軽々と飛び越えて、その先にある演奏者の個性という極地に近づこうとする気迫があった。すでにぶれない芯を持っているが、さらに1年後、2年後に、どのような演奏を聴かせてくれるのかがますます楽しみだ。

アンコール曲は、「亜麻色の髪の乙女」。シンプルそのもの、プリミティブな美しさ。

新世代のサクソフォン奏者のひとり、という印象を受ける。さり気ない一音、さり気ないワンフレーズの吹き方に、少し上の世代とは明らかな違い…誤解を恐れず言えば、断絶のようなものすら感じる。今後どのような方向に進んでいくのだろうか。そろそろ耳が追いつかなくなりそうだ。

演奏会の後はビックカメラと新宿西口の場末で服部先生との会合(楽しかった)。その後、二次会の後半だけ合流させてもらった。最後まで残っていたみなさんでパシャリ。あさぎさんのさいごの〆の言葉は、なぜか「あざーっす!」でした(謎)。

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