2013/03/04

第32回サクソフォーン・フェスティバル(その1)

僭越ながらフェスの感想を。

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♪A会員によるプレミアムコンサート:久慈明広
J.C.ウォーレイ - ソナタ
ケネス・チェもレコーディングしているウォーレイの「ソナタ」。あまり日本では演奏される曲ではなく、ライヴで聴く機会が巡ってくるとは思わなかった。自衛隊音楽隊のサクソフォン奏者である久慈氏の演奏は、大局的な部分からスナップショット的な部分まで隅々まで良くコントロールされており、まるでCDでも聴いているかのようだった。もし機会があれば、クレストンとか聴いてみたいかも。

♪A会員によるプレミアムコンサート:白井奈緒美
酒井健治 - イニシャルS1、イニシャルS2
白井奈緒美さんの演奏による「イニシャルS1」「イニシャルS2」。「イニシャルS1(=イニシャルS)」は、以前みなとみらいで大石さんの演奏を聴いたことがあったのだが、その時との演奏スタイルの違いを楽しんだ。もちろん、技術的・音楽的に完成されていることは、言うまでもない。「イニシャルS2」は、ソプラノ(声楽)とサクソフォンで演奏される。大変な難曲だが、2人の息のあったすばらしい演奏に舌を巻いた。「舵手の書」と違って、執拗にサクソフォンと声楽を近傍で絡めていこうとするような、作曲家の強烈な意志を感じる。

♪A会員によるプレミアムコンサート:デュオ宗貞
D.ショスタコーヴィチ - トリオ第一番
ショスタコーヴィチのトリオではやはり宗貞先生のテナーの演奏に感銘を受けた。このテナーの音色が醸す不思議な空気感は、宗貞先生以外の演奏では聴いたことがない。最近の流行である羽のような軽さとも違い、純国産とでも形容できるようなものとも違う、その中間から上方に向かっているような…上手く表現できないが。ピアニストのダイナミックな表現は、2本のサクソフォンと実に良くマッチしていたと思う。

♪A会員によるプレミアムコンサート:ダグラス・オコナー
J.S.バッハ - 無伴奏パルティータ第2番よりシャコンヌ
C.ロバ - ワークソング
来日して次の日に無伴奏2曲とは、、、いずれも暗譜での演奏。バッハは、おそらくオリジナルのアレンジなのだろうが、重音部分はほぼすべて単音楽器にアダプテーションされたようなもの。循環呼吸や相当高音部のフラジオレットも使いながら、14分に及ぶ大曲を吹ききった。さすがに高音の連結部など若干無理がある部分もあったが、次の十八番「ワークソング」では本領発揮…どころか、とんでもない演奏だった!超々高速で音をばらまきながら、非常に鮮烈な印象を聴衆に与えていた。ミーハ・ロギーナ氏や、ヴァンサン・ダヴィッド氏が来日したときのような、強い電撃を日本のサクソフォン界に与えた(聴けなかった方はぜひ今週火曜日にアクタスへ!)。

♪カルテット名曲館:はやぶさ四重奏団
R.プラネル - バーレスク
P.ヴェローヌ - 半音階的ワルツ
R.クレリス - 序奏とスケルツォ
P.ランティエ - アンダンテとスケルツェット
平部やよい - Dice
滝上先生が、若手のサクソフォン奏者3人と組んだカルテット。昨年ルーテル市ヶ谷にて結成記念のリサイタルを開いたが、そのときは伺うことができずに悔しい思いをしたものだった。テナーの岩渕みずき氏は現在ドイツ留学中であるが、春休みのタイミングで帰国しているため、はやぶさ四重奏団の、フェスでの演奏が実現したとのこと。
「バーレスク」を聴いて、音色の方向性のおもしろさを知ることとなった。ポリフォニックな部分や強奏部分では、それぞれの奏者の個性が良くわかり(楽器の違いによるところもあるだろう。ソプラノはシルバー管体かな?、アルトはクランポンの赤ベル、ほか)、逆に弱奏部分ではよく揃った音の重なりとなる。曲が進むにつれ、その方向性が何なのか、ということが少しずつわかってくるような気がした。
ヴェローヌやランティエでは、まるでミュールの四重奏団のようなヴィブラートも使いこなし、なんだかタイムスリップしたような不思議なサウンドを体感した。平部やよい「Dice」は、シリアスな響きの相当な高難易度の作品であるものの、名曲だと思った。演奏は、ブラヴォー、だった。もし楽譜が入手できるものなら、自分たちでもぜひ演奏してみたい。

♪ディスカヴァリーコンサート:太田徹(チェロ)
V.ダンディ - コラール・ヴァリエ
例えば最初のさりげないいくつかの音、そのアタックやフレージングなど、弦楽器としての優位性を様々に感じたのだった。ピアノは羽石道代氏。まさに熱演であった。サクソフォン吹きとして聴くのは非常に面白いものだが、チェロ奏者として取り上げることの面白みはあるのかな?ということが気になった。演奏者に伺ってみたいな。

♪ディスカヴァリーコンサート:須藤三千代(ヴィオラ)
F.デクリュック - ソナタ
アルトサクソフォンと比べて音域が(下に)広いためか、サクソフォン譜と音形が変わっていたのが面白かった。決め所での響きや空気感などは弦楽器独特の凄みがある。急速部分では、音程のバラつきが散見され、曲を楽しむ、というところまでいかなかったのは残念。弦楽器で演奏すると難しいのかなあ。

♪ディスカヴァリーコンサート:古山真里江(コールアングレ)
C.ドビュッシー - ラプソディ
曲が持つ東方趣味が、より強調された印象(唐草文様のフレーズなど実にしっくりくるのだ)。古山さんの演奏も素晴らしく、充実した聴後感を得ることができた。サクソフォンで、例えば今日聴いたような素朴な感じと、サクソフォンの巡航速度であるキラキラした感じを自在に行き来することができたとすれば…というか、サクソフォンはそういうことが可能な楽器だと思うのだが…さらにこの曲の魅力が表出するかもしれない。

♪プロムナードコンサート:芸大メンズカルテット=松下洋、丸場慶人、田中拓也、塩塚純
妙に濃い。2曲だけ聴くことができたが、コルトレーンの「ジャイアント・ステップス」のアドリブのコピー・ユニゾンから始まるジャズっぽいメドレーが面白かった。タイトル失念。スーパー・インプロヴィゼイション祭、であった(笑)。

♪第15回Jr.サクソフォン・コンクール最高位入賞者披露演奏:住谷美帆
H.トマジ - 協奏曲
高校2年生でトマジ全曲とは…プログラムだけ見ても恐れ入るが、演奏も堂々たるもの。何も恐れずに大きなホールを大音量で鳴らしていこうとする意思か、それとも勢いか…が感じられる。テクニカルな面や奏法、音色でもかなり完成されているばかりか、魅せ方も上手い。急速部分で若干音の粒が見えなくなることがあったが、全体の印象からすればあまり気にならなかった。引き続き研鑽を積まれることと思うが、今の良い部分を残しながら僅かな弱点を1つずつ潰して行きさえすれば、さらに凄い奏者になるかもしれないな、と思った。

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