2013/02/07

吉田優氏リサイタルへ提供した曲目解説文

先月開かれた吉田優さんのリサイタルに提供した曲目解説文を公開。いくつかはこれまで書いた曲目解説から流用・修正した。エコシステムが構築できつつある。

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シャルル・ケクラン「"15の練習曲集作品188"より第2番」
 シャルル・ケクラン(1867 - 1950)は19世紀から20世紀にかけて活躍したフランスの作曲家です。その作風は幅広く、83歳で亡くなるまでに実に226もの作品を残しました。伝統的なクラシック音楽に軸足を置く一方、当時まだ新参者だったサクソフォン(1846年に発明)に対しても12に及ぶ作品を提供していることから、ケクランの懐の深さが伺えます。
 "15の練習曲集"は、アルトサクソフォンとピアノのための練習曲。"練習曲"という名を冠していますが、全編に渡り音楽的に充実した作品です。各楽章には「速いパッセージのための」「リズムのための」など、何の練習に主眼を置いた楽章であるかが明示されています。全曲中最も美しい旋律を持つ第2番は「歌心と魅力的な響きのための」楽章であり、優しく牧歌的な旋律が奏でられます。

ロドニー・ロジャース「レッスンズ・オブ・ザ・スカイ」
 アメリカの作曲家ロドニー・ロジャース(1953 - )は、アリゾナ州立大学の教授を務めながら作曲活動に邁進し、多くの作品を発表しています。
 ソプラノサクソフォンとピアノのための「レッスンズ・オブ・ザ・スカイ」は1985年に作曲されました。晴れわたる空を見上げながら、日常を忘れて物思いにふけった経験がある方もいるのではないでしょうか。作曲者は「空」を生命・開放・無限といった捉えどころのない要素について考えるキッカケを与えてくれる存在だとしており、その考えがタイトルに引用されています。透き通る青空のような爽やかな印象を残したまま、曲が過ぎ去っていきます。

野田燎「舞」
 フランスへの留学をきっかけに、1970年代から12年間にわたってヨーロッパ各地においてサクソフォン奏者/作曲家として活躍した野田燎(1948 - )。帰国後は、楽器の生演奏と患者の運動を融合した"音楽運動療法"へと興味を示し、活動の軸足を音楽から医学者へと徐々にシフトして、2004年にクラシック・サクソフォン奏者として初めて医学博士号を得たという異色の人物です。
 無伴奏アルトサクソフォンのために書かれた「舞」は1975年の所産。特殊奏法も交えながら、サクソフォンはまるで尺八のような役割を演じます。"和"の旋律を西洋楽器(=サクソフォン)で奏でるという取り合わせが、意外なほどに高い効果を上げることに驚く方もいることでしょう。

アンドレ・ウェニアン「ラプソディ」
 4年に1度開かれるイベントといえば誰しもが「オリンピック」を思い浮かべますが、サクソフォン界にとっても4年に1度、重要な催しが開かれます。ベルギー南部の田舎町・ディナン市で開かれるアドルフ・サックス国際コンクールは、世界中のサクソフォン奏者が優勝杯を切望する世界最高峰のコンクールであり、サクソフォン界のオリンピックとも例えられています。
 2010年に開かれた第5回大会で、その最終選考の覇者を決めるために作曲されたのが、このアンドレ・ウェニアン(1942 - )の「ラプソディ」です。2つの楽章から成り、技術的要素・芸術的要素の両面がバランスよく配合された名品です。第2楽章冒頭、バラードのような美しい旋律が、超絶技巧を交えながら徐々に盛り上がりゆく箇所に注目してみてください。

井上陽水「少年時代」
 「夏が過ぎ/風あざみ/誰のあこがれにさまよう…」1990年に映画「少年時代」の主題歌として作曲された井上陽水(1948 - )の名曲を知らない方はいないでしょう。リリース当初はそれほど注目されませんでしたが、ソニーのハンディカムのCMに起用されたことで爆発的ヒットを記録し、以降老若男女問わず幅広い層の音楽ファンに親しまれています。
 最も多感であった小中学生としての"少年時代"をこの地で過ごし、自身の音楽のルーツはここ宮城の地にあると語る吉田が、当時に思いを馳せながらこの美しい旋律を歌い上げます。

エンニオ・モリコーネ/真島俊夫「モリコーネ・パラダイス」
 エンニオ・モリコーネ(1928 - )はイタリアに生まれた20世紀を代表する映画音楽の巨匠の一人。モリコーネが関わった映画の挿入歌から、作曲家/アレンジャーの真島俊夫が5曲を選び再構成したのが、この「モリコーネ・パラダイス」です。
 さわやかな印象を残す「ベリンダ・メイ」(L'ALIBIより)が冒頭を華々しく飾り、さらに美しいメロディを持つ「トトとアルフレード」「成長」「メインテーマ」「愛のテーマ」(ニュー・シネマ・パラダイスより)が続けて演奏されます。

ロベルト・モリネッリ「ニューヨークからの4つの絵」
 イタリアの作曲家、ロベルト・モリネッリ(1963 -)が2001年に発表した「ニューヨークからの4つの絵」は、作曲されるやいなや瞬く間にサクソフォン界で人気を獲得しました。20分・4楽章形式・3本のサックスを使用する、エンターテイメント性にあふれた大曲です。
 第1楽章「夜明け」は、ニューヨークの街並みを照らす朝日を思わせるソプラノサックスの暖かい音楽。第2楽章「タンゴ・クラブ」は情熱的なリズムと鋭いエッジが効いたフレーズがアルトサックスによって演奏されます。第3楽章「センチメンタル・イヴニング」は、夕日に沈むマンハッタン島をバックにテナーサックスが歌うバラード。第4楽章「ブロードウェイ・ナイト」で演奏者は再びアルトサックスを手にし、"アメリカン・ドリーム"という言葉をそのまま音楽にしたような、華やかに疾走する音楽を奏でます。
 

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