2013/02/20

第20回東京芸術大学サクソフォーン専攻生による演奏会

毎年のことながら、この演奏会を聴くと、いよいよ年度末が近づいてきたのだなという実感を得る。

【第20回東京芸術大学サクソフォーン専攻生による演奏会】
出演:東京芸術大学サクソフォーン科(田中拓也、丸場慶人、三浦夢子、土岐光秀、中井伶、山崎憂佳、川島亜子、竹田歌穂、中嶋紗也、中島諒、上野耕平、竹内理恵、藤本唯、田島沙彩、都築惇、宮越悠貴、松下洋、塩塚純)、須川展也(指揮)、大城正司(ソロ)
日時:2013年2月19日(火曜)19:00開演
会場:東京文化会館・小ホール
プログラム:
D.マスランカ - マウンテン・ロードより第1,2,6楽章
F.プーランク - トリオ
H.ヴィラ=ロボス - ファンタジア(独奏:田中拓也)
D.ミヨー - スカラムーシュ(独奏:大城正司)
C.モンテヴェルディ - 聖母マリアの夕べの祈りより
中橋愛生 - 静寂の森・饒舌な雨(委嘱作品・世界初演)
A.ドヴォルザーク - スラブ舞曲集より
P.M.デュボワ - りす(アンコール)

若いカルテットを聴くのは楽しい。もちろん荒削りな部分もあるけれど、予定調和なところに落ち着かない新鮮な解釈を発見できる可能性があるからだ。一音目、美しい冒頭の和音が響き渡ってすぐ、刷り込みとなっている雲井雅人サックス四重奏団の演奏との違いを感じた。フランスのカルテットが「マウンテン・ロード」を吹いたらこうなるのかな、というイメージ。やや事故もあったが、テクニカルな面は高いレベルでクリアされている。第六楽章の急速部分は、史上最高速だったかも(まあ速けりゃ良いってもんでもないが)。

プーランクは、先週末に蓼沼氏×野口氏×大嶋氏という組み合わせで聴いたばかりだったが、本日聴いて、改めて、その作品としての完成度の高さ、サクソフォンへのマッチングに驚く。特にソプラノ⇔テナー、2本の間での即興的ともいえるアンサンブルの妙を楽しんだ。弘中氏のピアノは、アンサンブルとしての完成度をさらに押し上げていた。ピアンはサクソフォンに対して意外にも抑制された響きだったのだが、意図的だったのだろうか。

田中拓也氏をソリストに迎えての「ファンタジア」は、なんと藝大サックス科男性陣のみ、という布陣。アレンジは、ソリストの田中氏自身によるものだった。第一楽章は、想像していたよりも骨太な印象を受けたが、第二楽章の微妙な音色変化、そして特に第三楽章での音のバラ撒きは、本領発揮といったところだろう。ソロリサイタルを聴いてみたいなー、と、ふと思ったのだった。そうちえば、吹いている最中とそうでない時のギャップが大きくて、なんだか可笑しかったなあ。

第一部最後は、大城正司氏、独奏での「スカラムーシュ」。今回20回を迎えたこの演奏会だが、実は大城氏が藝大の学生の時に立ち上げたものだそうで。今回ソリストとして迎えられたのは、その理由もあったとのことだ。こんどは、バックがすべて藝大サックス科女性陣。大城氏の演奏に内包される、どこかフランス的ともいえる華やかさやリラックスしたテンポ感は、どういった過程で獲得されたものなのだろうか。…大城さんて、実はフランス人だったりして(笑)終始すばらしい演奏で、最後には喝采を浴びていた。

休憩を挟んで、モンテヴェルディ。ここのサックス科の演奏会には、いつもひとつやふたつ、実験的な内容が含まれているものだ。さすがにブーレーズの「二重の影の対話」ほどのものは極端でめったに体験できないけれど、常に先端を走り続ける「藝大」という看板を背負った学生の宿命のようなものがあるのかなあ(なんだか誤解を招きそうな書き方だが)。とにかく、誰がモンテヴェルディを選曲し、あの配置…ステージ&上手側入口付近&下手側入口付近にそれぞれ数名ずつ…で演奏する、というアイディアを実現させたのか、気になるところだ。とてもよい試みであると思った。バッハ(第18回)、ヴィヴァルディ(第19回)、モンテヴェルディ(第20回)と来れば、そろそろジェズアルドやギョーム・デュファイが聴きたくなる。さらにサクソフォンの持つプリミティブな響きを突き詰めることで、曲の魅力が表出しそうなものであるが。

中橋愛生(なかはし・よしお)氏の「静寂の森・饒舌な雨」は、サクソフォン・オーケストラの新作としてこの演奏会で発表された作品だが、間違いなく名曲!本日の白眉であった。この作品は、本日指揮を担当した須川氏が、20周年を機に委嘱、サックス科にプレゼントした作品なのだそうだ。前半部分は、特殊奏法を交えた「音色のヴァリエーション」といった趣。時折その折り重なった音色の地層の中に、ペンタトニック風のメロディが現われては消える(解説によれば、ドビュッシーがピアノ曲「雨の庭」で引用しているフランスの童謡「もう森になんか行かない」からの引用とのこと…わからなかった)、シリアスな曲調。スラップ、フィンガースナップ、キイクリックを皮切りに突入する怒涛の後半部分は、ジャズやロック、はたまた民族音楽から影響を受けたような、力強いリズムがベースとなった超高難易度のパート。あれだけの名手が集まって演奏される機会はめったにないと思うのだが、ぜひいつかまた実演を聴いてみたいなと思う。

最後は「スラブ舞曲」。須川氏の指揮にも触発され、しっかりした"地"を持ちながら音楽を追求し、聴き手を楽しませることに徹した演奏にはとても興奮した。これだけ演奏できたら楽しいだろうなあ。アンコールは、G管のおもちゃリコーダー?やバスサックス用ソガデル?まで交えたスペシャルバージョンのデュボワ「りす」。

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