2012/04/25

Franco Donatoni - HOT

サクソフォンと室内オーケストラのための傑作というと、大抵の人はイベール「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」を挙げることだろう。私もその意見には大いに賛成するところで、さて、それに次ぐ傑作は?というと、アンドレ・カプレの「伝説」や、ダリウス・ミヨーの怪作「世界の創造」といったところは当然として、その先はなかなか声があがらないのではないだろうか。

私が考えるサクソフォンと室内オーケストラのために書かれた優れた作品の一つとして、イタリアの作曲家、フランコ・ドナトーニ(1927 - 2000)の「Hot」を挙げたい。テナーサクソフォン&ソプラニーノサクソフォン持ち替え。バックの室内オーケストラは、クラリネット、トランペット、トロンボーン、ピアノ、パーカッション、ダブルベースという編成で、この並びだけ見れば、まるでジャズのコンボバンドのような印象を受けることだろう。…そして、楽想もまさにその通り、なのである。

数年前のサクソフォーン・フェスティバルで、板倉康明指揮東京シンフォニエッタがこの作品を日本初演したが(独奏は林田祐和)、その初演後に指揮の板倉氏が、「管理された即興」という言葉を使ってこの作品の有り様を表現している。すべての音は完全に楽譜上に書き付けられながら、まるで各奏者が即興演奏を披露しているかのような、音運びである。指揮者の存在が求められ、ライヴで演奏に接した際は、さらに強く「管理された」という印象を受けることだろう。終始一貫して固定されたパルスの上で、各楽器の旋律はシンコペーションや連符を多用して構築されており、その擦れが面白くもある。

フランスのサクソフォン奏者、ダニエル・ケンジー Daniel Kientzyが、Ensemble 2e2mとともに非常に優れた録音を残している。指揮はなんと、ポール・メファノ Paul Mefanoである。驚き。「管理された即興」というキーワードのうち、"管理"の要素を強く出すか"即興"の要素を強く出すかは、指揮者の手に委ねられていると思う。この録音は、私が今まで聴いた録音のなかで"即興"の要素が最も強いと感じる一枚だ。おそらく、ライヴ盤であること、が大きく関係していると思うのだが。楽曲の詳細な構造なんてなんのその、音楽全体の構造をざっくり捉えた後は、瞬間瞬間のスナップショット的興奮(まるでクリュイタンス指揮のラヴェル作品を聴いているみたいだ)と、テンションでもって、15分に及ぶ楽曲を一気に駆け抜ける。お見事。

最近Stradivariusレーベルが最近発売したドナトーニ作品集に、この「Hot」が収録されている。独奏はなんとマリオ・マルツィ!さっそく注文し、届くのが楽しみなのである。

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