パシフィコ横浜で開かれている"楽器フェア"に伺った。2年間に一度開かれている催しで、楽器メーカーから販売店まで多くの出展・デモを楽しむことができる。事前に伺っていた話だと、関係者がだいぶ多いということだったのだが、会場に足を踏み入れるとそんなこともない印象を受けた。休日ということもあって家族連れや若い方々も多く、なにより楽器のイベントであるためにぎやか!仕事で行くような展示会とは大違いだ。
今回の一番の目的は、"ガレージ エス(Garage S)"のブース。以前もこのブログで取り上げたが、アドルフ・サックス社のサクソフォンを試奏可能な状態で展示しているのだ。ブースでは、浜松サクソフォンクラブのてるてるさんやその旦那さん(初めてお会いした)、明後日にイベールの本番を控えたtfmさんにもお会いした。
"ガレージ エス"ウェブページ→http://garages.p-kit.com/
楽器フェアの"ガレージ エス"出展内容紹介ページ→http://musicfair.jp/exhibitor/information.html?id=MF11012
まずは、持ってきた現代のマウスピース:Selmer S90-180を使ってアルトサクソフォン(息子、エドゥアルドの時代のサクソフォン)を吹かせてもらう。出展されていたアルトは2本で、いずれもエドゥアルドの時代のもの。片方はコンセルヴァトワールの主席卒業生に寄贈品として贈られたもので、もうひとつは普通の楽器だそうだ。手にしただけで作りの丁寧さが感じられる。メカは少なく、管の円錐型の開きがよく分かる。吹いてみると、意外にも簡単に音が出た。オクターヴ・キィを離したソ以下の低音部は、現代風の奏法で演奏することができず、アンブシュアを緩めにコントロールしなければならなかった。高音域は、オクターヴ・キィが2つに分かれており、ラの運指あたりから切り替えなければならない。もちろん、音程感覚は現代の楽器とはかけ離れている。
続いて、その楽器に付属していたというメタルのマウスピースをお借りして吹いてみた。マウスピースから先が共鳴して、現代のマウスピースとの組み合わせで感じられた違和感がなくなった。5分ほど音域を行ったり来たりしていると、アンブシュアが慣れてきて、いよいよ吹くのが楽しくなってくる。そんな状態で「アルルの女」のフレーズやグラズノフの冒頭など吹いてみると、得も言われぬ魅力的な音がするのだ。オーケストラ・スタディなど持ってくれば良かったかなあ。
現代の楽器で演奏するときにやるような、しっかりと息を吹きこんで音量を出す、という感覚からは程遠い。それほど息を吹き込まなくとも、アンブシュアとマウスピースと楽器が、勝手に響きを作ってくれる感じ。周りがにぎやかだったのではっきりとはわからないのだが、それでも体内を通して跳ね返ってくる音は、いままで体感したことのないようなものだ。
ジャズなどで求められるような"ソリッドな"音は、この楽器・奏法では出すことができない。アドルフ・サックスがクラシックの楽器としてサクソフォンを開発したということがよく分かる。現代の楽器は、キャパシティが大きすぎるとも感じる。フュージョンやジャズには合っているかもしれないが、クラシックは現代の楽器の性能の何%を使っているのだろうか。そして、果たしてクラシックの演奏に、現代の楽器は必要なのだろうか…などとも考えてしまった。
続いて、ラッシャーのマウスピースとBuescherのTrue Toneの組み合わせ。アドルフ・サックス社のサクソフォンを吹いた後にこの組み合わせに移行すると、全く違和感がない。音色のコンセプトはそのままに、操作性と音量が正統的に進化している、という感触。同じように「アルルの女」や「世界の創造」など吹くが本当にアドルフ・サックス社のオリジナルに近い感覚だ。
そして、驚いたのがこのあと。ガレージエスのSさんが、デファイエの演奏する短いフレーズをiPodで聴かせてくれたのだが、驚いたことにアドルフ・サックス~ラッシャーと続く、その延長線上にデファイエの響きが位置するように聴こえたのだ。…デファイエはクランポンとセルマーの楽器を使っていたが、出てくる音は、同じ楽器を使ったとしても誰も真似できない音である。もしかして、デファイエの奏法はアドルフ・サックスの楽器を吹くときのものに似ていたのか?
ちなみにこれらの楽器、販売もしているとのこと。ちなみにアドルフ・サックス社の楽器は、私なんかには簡単に手が出せない値段だが、食指が動いたのはラッシャーのマウスピースとBuescher True Toneの組み合わせ。比較的安価(ぜんぶ組み合わせても10万円くらい?)にアドルフ・サックスの意図した響きを再現できそうだ。
いやはや、数10分のうちに本当にいろいろ貴重な経験をさせてもらった。楽器フェアは6日までやっているので、サクソフォンを吹いている方ならぜひぜひ行って体験すべきだ(強烈にオススメする)。楽器に対する考えが根本から覆ってしまうかもしれない。ご案内いただいたSさんには、改めて感謝。
A.Saxの楽器試奏レポート、とても興味深く拝読しました。
返信削除Moyseが使用していたCouesnonのフルートをきちんと演奏できる奏法であれば現代の楽器も同様に鳴らせるが、逆は難しいことが多いことと通ずるものを感じさせられました。
昔の楽器はキャパシティーが設定されていて、その範囲内で楽器と奏者のインピーダンスマッチングがうまく取れれば、それなりの音が得られるようになっていた気がします。現代の楽器はキャパを無限大方向に考えすぎているのではないかという気がします。
> Sonoreさん
返信削除フルートでもそのようなことがあるのですね。
しかも、現代の楽器はキャパシティがの大きさと引換えに、当時の奏法で吹いた時の性能をないがしろにしていると思いました。
現代の製造技術で、アドルフやラッシャーが吹いていた楽器を作ったら、凄いものができそうなのですが…笑
昔の楽器は例外なく「奏者」が主(ぬし)でした。
返信削除現代の楽器は逆です。奏者が楽器の奴隷のようになっていると感じます。
性能云々ではなく根本的に間違っていると私は考えます。
これでは、いい音楽が生まれにくいのでは?
現代の楽器は…特にサクソフォンは様々な音楽ジャンルに対応できるように改良が重ねられているので、他のジャンルも総合して考えれば悪いことばかりではないとは思っています。実際に、アドルフ・サックス社の楽器でフュージョンのようなオーヴァーブロウを試そうとしたのですが、全く不可能でした。
返信削除クラシックの楽器として、という点からすれば、確かにベストな進化とは言えないのかもしれません…。