2011/01/26

地獄の門

ディヴィッド・マスランカ David Maslanka氏の作品に、サクソフォンを取り上げたものが数多く存在するのはとても幸いなことである。日本でのマスランカ・ブームのきっかけとなった「マウンテン・ロード」、プロフェッショナルから音大生までレパートリーとしている奏者も多い「アルトサクソフォン・ソナタ」、そして四重奏の傑作「レシテーション・ブック」といったところが良く知られている。最近では、雲井雅人氏が「サクソフォン協奏曲」の録音を行うなど、少しずつ日本でもマスランカ作品のレパートリー開拓が進んでいるが、メジャーどころだけ知っているのは勿体ない。

マスランカ氏の作品に、「地獄の門 Hell's Gate」という作品がある。15分間の単一楽章形式をとる吹奏楽のための作品。モンタナ州の、その名もHellgate High School Symphonic Bandにより委嘱、初演はJohn H. Combsが指揮する同バンドにより、1997年3月に行われた。非常に面白いことに、アルト、テナー、バリトンの3本のサクソフォンが終始表立つ作品である。3本のサクソフォンのための協奏曲、と言い切ってしまっても良いかもしれない。

マスランカ氏は「Hellgate」という学校の名前にインスピレーションを受け、ロダンの「地獄の門」と掛けあわせた作品を作るに至った。この「地獄の門」は、ご存知のとおりにダンテ「神曲」の地獄編に登場する、

我を過ぐれば憂ひの都あり、
我を過ぐれば永遠の苦患あり、
我を過ぐれば滅亡の民あり

義は尊きわが造り主を動かし、
聖なる威力、比類なき智慧、
第一の愛我を造れり

永遠の物のほか物として我よりさきに造られしはなし、
しかしてわれ永遠に立つ、
汝等こゝに入るもの一切の望みを棄てよ
(ダンテ「神曲」/山川丙三郎訳)

という三行三連の詩が書き付けられた、地獄の入口に位置する門のことである。3という数字が「三位一体」の象徴として使われるように、地獄すらも三位一体である神の創造物であるということを示すとされている。この3という数字が「3本のサクソフォン」へと繋がっているのは明らかだ。

冒頭からガツンと響く暴力的な響き、バンド全体がパイプオルガンのように鳴る荘厳なコラール、そしてサクソフォンのみによって奏でられる慰めの表情まで、多面的な要素を持つ傑作である。なかなか実演を聴く機会がないが、幸いなことにCD化されている。「MASLANKA: University of Arizona Wind Ensemble(Albany troy309)」というタイトルで、Amazon.comをはじめ各所で入手しやすいので、興味のある方はぜひ。

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