2009/09/23

Stellar Saxes

このアルバムがレコーディングされるという話を聴いた時は、驚いたものだ。たしかにありえない取り合わせではないが、国境を越えた共演というのは、夢想することはあれど実現することは珍しいのではないか。日本を代表するサクソフォニストの一人である須川展也氏と、アメリカ屈指のソリスト・教育者であるケネス・チェ Kenneth Tse氏のアルバム、「Stellar Saxes(Crystal Records CD359)」である。内容としては、サクソフォン2本、もしくはサクソフォン2本とピアノの三重奏を取り上げたアルバムとなっている。

長生淳 - Paganini Lost
Paul Hindemith - Konsertstuck
加藤正則 - Oriental
Guy Lacour - Suite en duo
長生淳 - 天頂の恋
Victor Morosco - Contemporary Etudes in Duet Form

プログラムを眺めながら、たぶん長生氏の曲と加藤氏の曲は須川さんが提案したのかなあとか、ラクールとモロスコはたぶんチェ氏が持ってきたんじゃないかなあとか、ヒンデミットはどちらかなあとか、いろいろと想像を巡らせた。佳曲が多くて、さすがにヒンデミットは有名だが、たとえば長生氏の「パガニーニ・ロスト」や加藤氏の「オリエンタル」、ラクールの「組曲」などは、それぞれ性格は違うものの、どれも興味深く聴いた。

2人それぞれの美音やテクニック、説得力のある歌い回しは、数あるソロアルバムで実証済み。このデュエットでも、お互いの良さが化学反応を起こしたような、素晴らしいプレイを聴くことができる。相手が触媒となり、自身の化学反応がさらに進んでいく…なんて、すばらしいアンサンブルの形ではないか?

ソプラノが須川氏、アルトがチェ氏で演奏された、加藤氏の「オリエンタル」を取り上げて聴いてみよう。ピアノを交えた三重奏だが、冒頭のキャッチーな主題がアルトサックスで演奏されると、とたんに耳が鷲づかみにされてそのまま曲の世界に引き込まれる。速いテンポで疾走しながら、夢のように美しいメロディが畳みかけるように現れる。中間部での短いブリッジを経て、曲はさらに加速。超絶技巧を交えながら、クールに走り抜ける様が爽快そのものだ。

続くラクールのデュエットもかっこいいなあ。「オリエンタル」を聴いた後だけに、実に硬派な曲だなあと思ってしまうのだが、実は興味深い仕掛けがたくさん。ヒンデミットの「デュエット」みたいな響きが出てきたり(第1楽章の最後)、明らかにバッハの旋律線に影響を受けたフーガを聴くことができたり、いかにもラクールらしい散らばった音が聴かれる第4楽章、などなど。この難曲を、見事に切り抜ける二人のアンサンブルにも脱帽する。

いいアルバムに出会ったなあという印象を受けた。こういう風に思うことって、一年に何回かしかないのだけれど、だからこそ嬉しいですね。amazonで非常に安く(2000円以下!)注文できるのも素晴らしい。(こちら→Stellar Saxes

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