2009/02/16

デュオ服部「Embraceable You」

このCD、服部先生のサインがあるから、直接売っていただいたやつだな。私が大学2年のとき、服部先生につくば市まで来ていただいて、デザンクロ「四重奏曲」第3楽章のレッスンをお願いしたときだったと思う。そういえば、お昼時には車に乗せてもらって「かるがん」までラーメンを食べに行ったんだっけな。懐かしいな。…なんてことを思っていたら、そのときの様子が日記に書いてあった(こちら)。モーリスやらパスカルやらが、ものすごい美しくダイナミックな音楽で練習場所に響いていた。

個人的な感慨はともかく、そのCDというのが奥様の服部真理子さん、そしてファブリス・モレティ氏が参加したアルバム「Embraceable You」である。出版元のモモンガレコードというのは、確かサクソフォン奏者の高木玲氏が主催するレーベルで、ファブリス・モレティ氏やTetra SaxのCDなどもリリースしている。

Embraceable You(Momonga Records MRCP 1004)
服部吉之、服部真理子、ファブリス・モレティ

Claude Pascal - Sonatine
Raymond Gallois Montbrun - Six Pièces musicales d'étude
Paul Creston - Sonata op.19
生野裕久 - Variations sur le thème de "Embraceable You"
Jindřich Feld - Sonate

こういったCDを聴くと、サクソフォンとピアノのCDというのが「室内楽」の演奏であるんだな、ということを再確認する。ここで繰り広げられているのは、フレージングやバランスの点においてもまさに2つの楽器による神妙なアンサンブルそのものであり、どちらが欠けても演奏は成立しないのだと思う。

まず、パスカル「ソナチネ」と生野裕久「Embraceable You」を挙げたい。「ソナチネ」の演奏は、フランスでのモレティ氏とのジョイントコンサートの際に、臨席した作曲者から大絶賛を受けたということだ。(個人的に)いまいち掴みどころのないこの曲だが、この演奏と対抗できるとしたらダニエル・デファイエの演奏くらいかもしれない。そのくらい確信に満ちていて、どこを切り取っても「合点!」と叫びたくなるような演奏。

がらっと雰囲気を変えた「Embraceable You」では、これは本当に隅々まで幸福感に満ち溢れていて、聴いていて鳥肌モノ。音色や技巧でゾクっとくることはあるかも知れないけれど、まさか演奏の楽しさで「わーーっ」という感じになるなんて、サックスのCDでは考えられないことだ。これは、生野裕久氏によるアレンジの良さにも起因していることだと思う。最終部に向けてぐっと盛り上がって、最後に冒頭と同じ変奏が形を変えて演奏されるのだ。ニクイ。

しかし、やはり特筆すべきはフェルドの「ソナタ」であろう。ユージン・ルソー氏、ケネス・チェ氏も演奏しており、一般的にはそちらの演奏のほうが高い?のかな?よくわかんないけど。だが、私が一番好きなのはこのCDの演奏。曲の由来からしても、あまりにあっさりした演奏ではどうかと…。初めて聴いたときの衝撃といったらなかったし、驚異的なテンションと集中力、そして安定さと不安定さの境目を猛スピードで駆け抜けるようなスリリングさがたまらない。

ライナーノートは上田卓氏によるもの。短いながらも魅惑がぎゅっと凝縮された解説で、真似できないなあ…。ちなみに版元では絶版、店頭在庫しかないそうで、もしお店で見かけたら即購入をオススメ。

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