2008/06/21

原博巳サクソフォンリサイタル

ただただ、素晴らしかった。私自身が今まで聴いた演奏会の中でも、ベストの一つとなった。

【原博巳サクソフォンリサイタル】
出演:原博巳(sax)、野原みどり(pf)
日時:2008年6月20日(金曜)19:00開演
場所:浜離宮朝日ホール
プログラム:
鈴木純明「スフルスティック」「スラップスティック」
金子仁美「気泡」
西田直嗣「秋のアノフェレス」
~休憩~
C.ケックラン「練習曲より」
P.モーリス「プロヴァンスの風景」
F.デュクリュック「ソナタ嬰ハ調」
~アンコール~
G.ピエルネ「カンツォネッタ」

言葉でこの演奏会の素晴らしさを表すにはどうすれば良いだろう、と思いつつも、何とか感想を書き並べてみよう。

プログラミングからして、まず目指すものがうっすらと透けて見える。プログラムの解説文によれば、プログラム前半の同時代の作曲家たちの作品から、後半のフランス作品を逆照射するという形になっているそうだが、その照射された先に、マルセル・ミュールの存在があることはほぼ間違いないだろう。原さんご自身のブログのいくつかの記事からは、ミュールに対する深い敬意を感じ取ることができるが、リサイタルを開くにあたって、きっとそのミュールのことを意識しながらプログラミングを行ったのだろうことは、容易に想像がつく。だから、私はこのプログラムを見たときに、同時代の作曲家(前半):原博巳=フランスの作曲家(後半):マルセル・ミュール、という図式がとっさに思い浮かんだ。

そんな曲目であるわけで、ご自身もこのリサイタルにはかなり気負って臨んだことと思われる(なんと一年以上前から準備していたということだ)。そして、ピアニストに野原みどりさん、会場に浜離宮朝日ホールという、これ以上ないと思われる共演者と環境を得てのリサイタル!原さんにとっても、おそらく凄い体験だったのだろう…。

ホール全体に浸透するppppでの主題音列の提示から、演奏が始まった。ジェローム・ララン氏と鈴木純明氏のコラボレーションより生まれた、「サクソフォンのための現代奏法エチュード」から「スラップスティック」。この曲へつなげるための無伴奏作品「スフルスティック」である。音響効果は、ブレスノイズ、重音、スラップタンギング、2~3オクターヴの高速な跳躍、フラッター、etc...無伴奏を吹いている原さんはどこまでも自己の中に埋没してゆく、というイメージがあったのだが、良い意味で裏切られることとなった。絶妙なバランスで外と内を区別しながら、サクソフォンの音が並べられていく。

ここで野原みどりさんが登場。金子仁美「気泡」。もともとは須川さんにより初演された作品で、須川展也サクソフォンコレクションとして楽譜が容易に入手可能だ。譜面は何度か見たことがあるが、"演奏至難"という言葉が、これほどまでに当てはまる曲も、なかなか無いのではないか。しかし、その高いハードルを越えたところにある響きは、果てしな美しい響きだった。鳥肌立ちっぱなし。

西田直嗣「秋のアノフェレス」は、サクソフォンのための作品コンクールで、以前原さんが演奏を担当したものなのだそうだ。演奏を聴きながら、曲目解説を思い出してニヤリとしてしまった。解説文をそのまま引用すると…「『あの時あのようにしていたら』、『あの時にさかのぼってやり直したい』などという、我々他日常に抱く公開や、やさぐれた後ろ向きな思考を表しているようにも見える」とのこと。やや演奏時間は長めだが、演奏のゆるぎない安定さと作品構成の明確さがあり、ご普通の無伴奏のクラシック作品として耳に飛び込んでくる。

休憩。ロビーの丸テーブルが凄いことになっていた。Thunderさん、mckenさん、MJさん、maeさん、ねぇ。さん、ドルチェのT内さん、そして私。ちなみに客席では、昨年11月のドゥラングル教授のリサイタル以来となるあかいけさんと一緒に聴いていました。

後半は、良く知られたケックラン、モーリス、デクリュック。こういった誰もが知る曲を一世一代のリサイタルという場で演奏して、個性を発揮できる奏者がどれだけいるだろうか!聴きなれた曲であるはずなのに、出てくる音楽は誰が聴いても原さんらしい演奏。しかも、それが変な自己主張とは無縁のものなのだから、凄い。かなり練りこんでいる…どれもが名演だった。

デクリュックは、私も大好きな曲だが、野原みどりさんの好サポートを得て、ピアノという海の中を魚のように自在に動き回る原さんのサクソフォン。第一楽章での陰鬱な表情は、起承転結を経て第4楽章で一気に開放される。最後の輝かしい伸ばしの音は、ホールを照らし出す光のようだ。うーん、泣きました。大きな拍手。日本のサクソフォン界にしっかりと刻まれるべき、マイルストーン的な演奏会になった。アンコールに、ピエルネ「カンツォネッタ」。

いろいろ書いたけれど、まとめると「とにかく素晴らしかった」ということです。それに尽きるかな。これからの原さんの活動が、ますます楽しみになった!5年後、10年後に、こんどはいったい何をしてくれるのだろう。

帰り際には、MJさん、そして初対面となる豊島四号さんと、演奏会を反芻しつつかるーく飲み。楽しかったです、どうもありがとうございました~。

2 件のコメント:

  1. 素晴らしいコンサートでしたね。
    お疲れ様でした。
    そうですね、最後の高音の延びる音、コンサート自体を象徴しているようでとても印象的でした。

    また、お会いしましょう。ありがとうございました。

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  2. > あかいけさん

    どうもこちらこそ、ありがとうございました。久々にいろいろお話できて楽しかったです。

    モーリスやケックランといった曲を、一世一代のリサイタルに組み込んで、個性を発揮できるサクソフォン奏者って、なかなかいないのではないかと思いました。

    最後のデクリュックは圧巻でしたね。鳥肌立ちっぱなしでした。

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