2008/03/27

ミュールのアメリカツアー録音

The Legendary Saxophonists Collectionから。

マルセル・ミュールは、独奏者としてのキャリアの最終期(1958年)に、シャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団のアメリカツアーに参加している。12の都市で公演を成功させ、例えばニューヨークのジャーナリスト、ルイ・ビアンコリは、ミュールの演奏を聴いて「サクソフォンのルービンシュタインだ!」と評したという。このときの公演プログラムは、以下の4曲。

ラヴェル「マ・メール・ロワ」
イベール「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」
トマジ「バラード」
メンデルスゾーン「交響曲第4番"イタリア"」

演奏会を聴いた聴衆の反応は、如何ほどのものであっただろうか。今となっては知る由もないが、幸いなことに録音が残されており、我々はその演奏に触れることができる(Legendary Saxophonists Collection CD 14)。オーケストラのみの2曲がカットされている上に、マスタリング状態がひどいというオマケつきなのだが、PCで上手く操作すれば、聴けないほどではない。いろいろ言うとバチが当たりそうだ。

イベールの神懸り的な演奏は、1930年代のパリ音楽院管との録音、そして1950年代のパリ・フィルハーモニー管弦楽団との録音、どちらをも上回るものではないかなと思う。ミュールが、フラジオの「ラ」に挑戦している様子を聴き取ることができる。爆速のトマジも、隅々まで躍動感に満ち溢れた、実に生き生きとした演奏で、これを聴くと他が聴けなくなってしまうぞ、と言う感じ。

ミュール自身も、インタビューでセッション録音の苦手さを語っており、ミュールの演奏の真価は、こういったライヴ録音にこそ、現れているのではないかなとも思った。長きにわたって、そもそも存在しないと思われていたこの録音を、21世紀という時代に聴くことができることを、心から嬉しく思う。

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