2008/02/18

こんな風になるまで(その1)

私、kuriがサックスにのめり込み、現在のような風になるまで。演奏のほうではなく、音源や楽譜の収集、クラシックサックスの調査研究に関して、これまでの経緯を思い出しながら書いてみたい。

そもそもは、それほどサックスにはまってはいなかった。中学のときにバリトンサックスを手にしたものの、大してのめり込むわけでもなく、ごく普通に毎日の練習をこなしていた。生真面目であったので、メトロノームを相手に楽譜を何度も吹き、配られた曲をすべて暗譜するほどではあったが、所詮中学生の吹くバリトンサックスの譜面である。ほとんどは四分音符の刻み程度の楽譜だった。音程も、さぞかしひどいものであった(高ければ高いほど自分の音が抜けるため、そのほうが良いと思いこんでいた)。

高校でも、吹奏楽が楽しかったことは楽しかったけれど、「サックスにのめりこむこと」はなかった。ところが、1年生の10月ごろのことである。アンコンの曲を決めようと言う段階になって、先輩が候補に出した曲を聴かせてくれた。それがデザンクロの「四重奏曲」。とってもかっこいい曲で、こんな世界があったのか!と感動。そして、一緒に聴かせてくれたパスカルの「四重奏曲」にも、ずいぶんと惹かれた。吹奏楽の中で吹いているサックスとは、別物だった。

結局は、下手くそであったのでデザンクロなどできるはずもなく、ジャンジャンの「四重奏曲」を演奏。アルト。校内予選で落選し、ふたたび何となくな日々に戻る。トルヴェール・クヮルテットの「マルセル・ミュールに捧ぐ」が世に出たのは、高校2年生の4月であった。これ、初めて自分で買ったCDであり、パスカルとフランセが大好きで、何度も聴いたっけ。

そして、決定的となったのがその一ヵ月後である。当時ひとつ上だった3年生の先輩Aさんが、東京に出た折にとあるCDを買ってきたのである。いわく、「これ凄いよ!本当に、信じられないぐらい凄いサックス!」とのことだったので、「へえ、どんなんだろうー」早速練習場所にあったCDデッキを持ち出して再生してみた。最初のトラックは、ふむふむ、ヴェローヌの「ラプソディ」という曲か…。

…感動。涙が出てしまうほどであった。本当に心の底に染み入ってくる音だった。これこそが、当時20枚同時にリリースされた「ギャルド・レピュブリケーヌ「アンダルシアの騎士~マルセル・ミュールの至芸II(TOCE-55233)」だったのである。こんな凄い世界があったんだ!と驚きを隠せず、帰ってから早速インターネットで「マルセル・ミュール」「Marcel Mule」と検索してみた。そこで見つけたのが、Thunderさんのこのページmckenさんのこのページ。当時の無知さといったらひどいもので、へえ、これがマルセル・ミュールの公式ページか、などと思ったことをかすかに覚えている。まもなく、タワレコでミュールの「La Legende」を取り扱い始めたことを知り、親にねだって買ってもらったのだ。クレストン、モーリス、ランティエあたりの作品を好んで聴いた。

さて、そこまでくると、たいていの人がやるように、今度はmckenさんのページでサックスのCDを調べまくるのである。須川さんの「ファジイ・バード」は当時再販前だったが、どうしてもこの五つ星アルバムを聴きたくて、その曲が入っているようなCDを探した。デザンクロ、クレストンという名前も知りつつあったが、特にベリオの「セクエンツァ」という曲は調べれば調べるほど面白い情報が出てくるものであった。そこで、秋葉原に遊びに行くと言うクラシック好きの友達に、クロード・ドゥラングルという奏者のBISのアルバムを買ってきてくれないか、と頼み、首尾よく入手に至る。これが、現代音楽を聴き始めた瞬間だ。

そうして入手したのが「The Japanese Saxophone」と「The Russian Saxophone」。最初はあまりの難しさに、しばらくはお蔵入りとなったが、あるとき突然、棚田文則氏の「Mysterious Morning III」に、不思議と共感を覚えるようになる。3日ほどひたすらリピートして聴きまくり、曲の全体像を覚えてしまったのであった。この後しばらくは現代音楽って面白い!ということで、ベリオ、シュトックハウゼン、ライヒを舐めるように横断した。

しかし結局はクラシック・サックスの分野に戻ってくることとなる。そのわけは、高校2年の10月から取り組んだアンサンブルコンテスト。無茶とは思いながらデザンクロの「四重奏曲」バリトンパートを担当し、最終的にアンサンブルにハマるきっかけになった。この過程で、mckenさんのページにあるデザンクロの四重奏曲収録CDを、上から順番に収集するという暴挙に出るのである。「聴き比べ」の楽しさを知り、このとき以来、見境なくCDを収集する癖がついてしまった。

当時廃盤とされていた、「サクソフォーンの芸術(EMI)」を研修旅行先の長崎市の商店街のCDショップで発見したときは嬉しかったなあ。お土産代の3万円から6000円をはたき、購入。その3枚組のディスクの2枚目…デファイエ四重奏団の演奏によるピエルネ、デザンクロ、リヴィエ、シュミットが所収された盤は、買った当時から今まで最も聴いた回数が多いCDだ。このCDを聴き込むことで、「1970年代のフランス流派」が何たるかを、まがいなりにも知ることになり、結果的にその後は往年のフランスの演奏を進んで聴くことができるようになった。聴いた演奏に対する感じ方が、周囲の友人と変わってきたなと感じたのも、この頃。

そうこうしているうちに、高校卒業までに収集したサックス関連のCDが40枚を越えた。楽譜はそれほど無かったと思うのだが…。自分の所蔵CDを全てMDに録音し、後輩への置き土産としてサックスパート棚に寄付(寄付したのは、MDのほうです)。高校を卒業し、関東地方の大学へと進学する。

次の記事へつづく。

3 件のコメント:

  1. kuri_saxoの知られざるエピソードが!
    ぜひぜひ今のままサックスに人生を捧げてくださいw

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  2. 私もトルヴェールの「マルセルミュールに捧ぐ」から入っていったクチです。あの頃はよくM本市にトルヴェールは来てましたね。EMIのミュールの至芸も大体そのくらいの発売で、聞いていました。そして、あの日本のクラシカル・サクソフォーンの2大サイトを見るわけですが、なにも分からない高校生でしたので、いつもあのサイトを見ていたように思います。
    しかし、kuriさんの早熟ぶりには、驚くばかりです・・・(^^;)「セクエンツァ」や「ミステリアス・モーニング」なんて、 知るのは数年後です。

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  3. > れっどりばーさん

    うーん、どうでしょうねえ。ただ、少なくとも今までの人生の中で、一番長く続いた趣味であることは間違いないです。

    あと、これは常々思っていることなのだけれど、吹くことができなくなっても、情報発信は止めるまいと。なぜって、私みたいな一介のアマチュアが楽器を頑張ったところでサックス界に変化は起きないけれど、地道にブログ書いているほうがサックス界に刺激を与えられる…、というような理由によります。

    社会人でありながら演奏も情報発信も取り組んでいらっしゃるThunderさんとmckenさんは、改めて凄い!と思います。


    > あきちゃんさん

    コメントありがとうございます。やはり、あの辺りから入っていかれましたか。トルヴェールのM市公演は、私も聴きに行きました。ボザ、グラズノフを第一部にやった演奏会ですね。どえらく感動した覚えがあります。次の年のオルガンとの共演演奏会は、受験勉強のため断念しました。

    Thunderさん、mckenさんのサイトは、やはり最初にたどり着きますね。あのころは、まさかそのお2人と話を交わせるようになるとは思いませんでしたが…。ま、その話は続きで書きます。

    現代音楽ですが、高校生の若さなりの興味として「突拍子もない音楽」という形態に惹かれたのです。特殊奏法・電子音楽・ミニマル・パフォーマンス要素といったところです…。しかし、シュトックハウゼンの「コンタクテ」を聴いた瞬間、元の場所に引き返すしかないな、と思いました(笑)。

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