2008/01/01

アンサンブル・プロクシマ・ケンタウリのCD

明けましておめでとうございます。2008年が皆様にとって良い年になりますように。というわけで、新年一発目の記事です。

シャリエ氏のソロCDとともに、同じくシャリエ氏が参加したアンサンブル・プロクシマ・ケンタウリ Ensemble Proxima Centauri(以下EPC)のCDも、上田卓さんに送ってもらったのです(ありがとうございました)。EPCは、同時代の室内楽作品を演奏するために1991年に結成され、以降、フランス国内外での演奏活動やレコーディングで活躍中の団体。メンバーは以下の通りだが、曲によってソロ、デュオ、全員による合奏など様々に編成を変える。

ジェラルディーヌ・ケラー Geraldine Keller(女声ソプラノ)
アンネ・コラ Anne Colas(フルート)
フィリップ・グエノクパティ Philippe Guenoukpati(フルート)
マリー=ベルナデット・シャリエ Marie-Bernadette Charrier(サクソフォン)
コランヌ・フクエ=ランドレヴィ Corinne Fouquer-Landrevie(ピアノ、チェレスタ)
クレマン・フォーコンネ Clement Fauconnet(パーカッション)
クリストフ・アヴェル Christophe Havel(ライヴエレクトロニクス)

室内楽作品演奏団体のレギュラーメンバーに、ライヴエレクトロニクスの技術者がいるというだけで、なんだかダニエル・ケンジー氏とレイナ・ポーテュオンド女史のMeta Duoを思い出しますな(笑)。ライヴエレクトロニクスのサウンドは、以前もこのブログ上で論じたとおり、合奏形態拡張の現時点における最終ポイントというとらえ方をしているので、私個人的にはさほどの違和感はない。…あ、全曲にエレクトロが入っているというわけではないので、そこのところ誤解がないように書いておきます。

さて、今回ご紹介するのはそのEPCがレコーディングした2枚。まずは、EPCメンバーでもあるクリストフ・アヴェル Christophe Havel氏の作品集「aer(Alba musica / MUSIDISC MU291672)」である。ティエリー・アラ(!!)によるアヴェル氏のバイオグラフィを読んでみると、演奏家でもあり、作曲家でもあり、エンジニアでもあるのだというが、さすがに様々な分野を知り尽くしているだけあって、奏者から音を最大限に引き出そうとするような作風を感じる。そのちなみに顔立ちは西村朗氏に似ているような気がするのだが、どんなもんだろうかね。収録曲目は、以下の通り。

P.-S. (prepared piano, electro)
AER[la danse] (piccolo, sn.sax, celesta, perc)
RamDom (flute, sax, piano, perc, electro)
S (sax, electro)

「AER」「RamDom」はそれぞれ、絵画にテーマを求めたもの、コンピュータにテーマを求めたものだそうだ。どちらも密度の濃い点描的なサウンド。演奏レベル&テンションは言うまでもなく高いが、作品としては一回聴いてみただけではちょっと理解が及ばず残念(^^;;今後もう少し聴きこんでみることにします。こういった作品は、実演で聴いてこそなのかもしれない。

「P.-S.」は、最初聴いていると何がなんだかよく分からない曲だが、じっと聴いているうちに大海のような壮大なサウンドに沈んでいくような錯覚を覚えた。中間部と最後に聴くことができる、クライマックスは圧感の一言。このCDの中で一番気に入ったのが、最後に置かれたサクソフォンとサンプラーのための「S」。シャリエ氏の演奏も冒頭から冴えまくっており、様々な音を奏でるエレクトロニクスとサクソフォンがつかずはなれずアンサンブルを繰り広げる様子に、思わず引き込まれてしまった。しっかし、バリトンサックスの楽器としての自在さってすごいよなあ。吹奏楽の中などで吹いているだけでは、ここまですごい楽器だという認識を持つことは絶対できないだろうな。

もう一つは、知る人ぞ知るフランスの作曲家フランソワ・ロセ Francois Rosse氏の作品集「...Por Casualidad...(Alba musica AL 0298)」。ロセ、という名前をよく聞く割に、この作曲家について知らなかったので、解説書のバイオグラフィを訳してみるか…とも思ったのだが、なんと解説のほとんどがロセ氏の筆によるもので、マトモなことが書いていない!(笑)唯一ヨシダススム氏によるロセのバイオグラフィは、フランス語で書いてあるため、読めない…。今度「Comprehensive...」をひいてみないと。収録曲目は、以下の通り。

Cseallox (bsax, cello)
Reflets dans l'O (sop-voice, piano)
Windschrei (voice, piano)
Salvador por casualidad... (flute, sax, piano, perc, electro)
Ost-Atem (t.sax, electro)
Sonate No.5 (piano)
Mondseele (voice, piano)
Pierre des vents (sop-voice, flute, sax, piano)

うーん、ぜんぜん知らない作品ばかり。だが、これはなかなか楽しいアルバムだ。まずアルバムタイトルにもなっている「Salvador por casualidad...」だが、綿密に調整された楽器間のバランスと音響が、作品の緊張感を聴き手に向けてリアルに伝えることに成功していると感じる。奏者の肉声も交える多彩な響きの中に、才気を感じ取ることができた。こういう作品を、どうやって発想し作曲しているのか、というのは興味あるところだ。

「Pierre des vents」も良いなー。楽章で分かれているため「Salvador」よりもコンパクトにまとまった印象を受け、聴き易い。ソプラノ(女声)が様々な奏法で駆け抜けていく様は、フランス語なので何を言っているかはよく分からないのだが(汗)耳を傾けているだけで楽しい。テンションが高い場所だけでなく、繊細で美しい箇所もたくさんあり、このCDの中では一番のオススメかもしれない。実現は難しいだろうが、再演されるべきだと感じた。

途中におかれた2つの即興「Windschrei」「Mondseele」も、面白さの極み(ピアノはロセ氏自身が担当)。タイトルがきちんと付いているが、いくつかのテイクに後から名付けをおこなったのだろうか。それとも、きちんとテーマがあるのかな。これら即興録音に対する、ロセ氏の解説は、やっぱりなんだかよくわからん(笑)。また、いくつかの作品にライヴ・エレクトロニクスを使用しているが、かなり控えめに使用しているため、時々加わるエフェクトや電子音が、ことさらに印象的に響くのが面白かった。「Ost-Atem」も、ほとんどはテナーサクソフォンのソロという風である。

シャリエ氏のサックスは、どの録音でもすごい!日本で手に入る録音がほとんどなく、名前だけ知りながら見過ごしたままになっていたが、こんな強烈な演奏をする奏者だとは、思ってもみなかった。いつか実演を聴いてみたいなあ(以前、来日されていたようなのだが…)。

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