シガード・ラッシャー Sigurd Rascherへ献呈された作品をピックアップして、年代順に並べてみた。アルトサクソフォン+ピアノ、とか、アルトサクソフォン+オーケストラという曲は編成を記載していない。また、所々に解説を加えてある。
…もし、ラッシャーがいなかったら、イベールもグラズノフもラーションもマルタンもダールも生まれ得なかったわけで。そう考えてみれば彼の功績の大きさが分かるというものだ。
参考資料:[Gee 1986], [Londeix/Ronkin 2003]他
1932
・Borck, Edmond van - Concerto
・Brehme, Hans - Sonata
・Dressel, Erwin - Concerto, op27
・Dressel, Erwin - Sonate
・Jacobi, Wolfgang - Sonata
・Knorr, Ernst Lothar von - Introduction fur drei Saxophone (AAT)
・Knorr, Ernst Lothar von - Sonate
献呈は1932年から始まっているが、ラッシャーは1930年までクラリネットを吹いていたから、わずか2年の間にサクソフォンを習得したということになる。しかも、このときすでに3オクターヴ半の音域を操ることができた、とのこと。クノールの「ソナタ」は、数年までのフェスティバルで筒井氏が演奏していたっけ。
1933
・Hindemith, Paul - Konzertstuck (AA)
ヒンデミットの「2つのアルトサクソフォンのためのコンチェルトシュトゥック」は、比較的早い時期に書かれたものの、初演は娘のカリーナとのデュオを待たなければならない。
1934
・Glaser, Werner Wolf - 4 Kleine Stucke, op8a (SAAT)
・Glaser, Werner Wolf - 3 Sonaten im alten Stil (ASax Solo)
・Glazounov, Alexander - Concerto
・Larsson, Lars Erik - Konsert, op14
グラズノフ「協奏曲」の知名度が突出している。ラーションは、コンクールの課題曲となるなど、最近ようやく見直されてきた感があるが、この当時演奏できたのはラッシャー本人くらいだったのではないかな。いずれもラッシャー自身による録音が存在する。
1935
・Bentzon, Jorgen - Racconto (Chamber)
・Borck, Edmond van - Capriccio in A (Chamber)
・Glaser, Werner Wolf - Concertino
・Glaser, Werner Wolf - Suit No.3, op16
・Ibert, Jacques - Concertino da camera
イベールの「室内小協奏曲」が献呈された年。初演はマルセル・ミュールによって行われ、ミュールはこの曲の演奏によって名声を得た。ラッシャー自身の録音も残されている。
1936
・Coates, Eric - Saxo-rhapsody
エリック・コーツのこの作品は、録音がHMVに残されており、近年CD化された(Clarinet Classics CC0040)。
1937
・Eisenmann, Will - Concerto, op38
1938
・Bentzon, Jorgen - Introduction, Variations et Rondo
・Dressel, Erwin - Bagatellen
・Koch, Erland von - Danse No.2 (SATB? or S/A + orch?)
・Martin, Frank - Ballade
・Palester, Roman - Concertino
マルタンの「バラード」。現在でも登攀しがたいレパートリーの一つだということは、ご存知の通り。ラッシャー自身による録音も存在する。1939年には、ラッシャーはアメリカへと移住する。
1940
・Ullman, Viktor - Slovanik Rhapsody, op23
雲井雅人氏の「小言ばっかり」から。楽譜に献呈辞が添えてあると言うことだろうか。
1945
・Brant, Henry - Concerto
ブラントの「協奏曲」は、シンシナティ交響楽団との見事な録音が残されている。第1楽章の曲芸的エンターテイメントっぽさといい、第2楽章のメロディアスさといい、第3楽章のおどけたスケルツォといい、かなりステキな曲だが、高音域連発のため、演奏は困難であると思われる。…だからほとんど演奏されないのか。
1947
・Walender, Waldemar - Arietta
1948
・Badings, Henk - La Malinconia
1949
・Dahl, Ingolf - Concerto
・Whitney, Maurice - Rumba
ダール「協奏曲」オリジナルバージョンは、30分近くに及ぶ大曲。作曲者は「ラッシャー以外の人間が演奏できるはずがない」と考え、1953年に改訂を施した。ラッシャーによるダールの録音は、このオリジナルバージョンのものが(保存状態はかなり悪いが)残っている。
1950
・Glaser, Werner Wolf - Allegro, Cadenza e Adagio
・Glaser, Werner Wolf - Kvartett (Chamber)
・Whitney, Maurice - Introduction and Samba
1951
・Eisenmann, Will - Duo Concertante, op33
1953
・Dahl, Ingolf - Concerto (Revised)
ダールの「協奏曲」改訂版が完成した年。個人的にはオリジナルよりもこちらのほうがコンパクトで好きだなー(聴きなれているし)。
1954
・Benson, Warren - Cantilena
・Wirth, Carl Anton - Idlewood Concerto
1955
・Benson, Warren - Concertino
ベンソン「コンチェルティーノ」の第2楽章は、「エオリアン・ソング」としても知られている。ラッシャー自身による録音も存在する。
1956
・Korn, Peter Jona - Concerto, op31
・Lamb, John David - Night Music (Sax Solo)
1957
・Gates, Everett - Foursome Quartet (SATB)
1958
・Koch, Erland von - Concerto
・Moeschinger, Albert - Concerto lyrique
・Turkin, Marshall - Sonata
・Wirth, Carl Anton - Jephtah
ファン=コックの録音は、ミュンヘンフィルとの共演によるものが有名であり、CD化されている(Phono Suecia PSCD 55)。
1959
・Erickson, Frank - Concerto
吹奏楽との協奏曲。テキサスキリスト大学の吹奏楽団とのライヴ録音が存在する。
1960
・Benson, Warren - Invocation et Dance
・Hartley, Walter - Chamber Music (Chamber)
・Husa, Karel - Elegie et rondeau
・Latham, William Peters - Concerto grossp (SA + orch)
ウォーレン・ベンソンの紹介により、カレル・フサとラッシャーが出会い、そこから「エレジーとロンド」が生まれた。
1961
・Cowell, Henry - Air and Scherzo
・Eisenmann, Will - Movements, op68
・Jacobi, Wolfgang - erenade and Allegro
・Lamb, John David - Three antique dances (Asax Solo)
・Lamb, John David - Three Flouriches (AA) (Really dedicated to Rashcer but Christian Peters?)
・Schmutz, Albert Daniel - Sonata
「3つのフローリッシュ」は、ラッシャーに献呈されたという情報と、クリスチャン・ペータースに献呈されたという情報が混在しているのだが、本当はどちら?
1962
・Eisenmann, Will - Concertino, op69
・Koch, Erland von - Concerto piccolo (Really dedicated to Rashcer but Christian Peters?)
・Lamb, John David - Six Barefoot Dances (AA or TT)
・Leonard, Clair - Recitativo and Abracadabra
・Worley, John Carl - Claremonte-Concerto
「レチタティーヴォとアブラカダブラ」という題名が面白い(笑)。
1963
・Gates, Everett - Incantation and Ritual (Really dedicated to Rashcer but Christian Peters?)
・Lamb, John David - Three Pieces (Bsax + pf)
・笹森建英 - Variations sur "Taki's kojo no tsuki"
・Welander, Waldemar - Concertino
笹森氏の「"荒城の月"変奏曲」ってどんな曲?まさか日本人の作曲家がラッシャーに作品を献呈しているとは思いもよらなかった。いったいどんな経緯があったのだろうか。笹森氏の名前は、「建英」と書いて「たけふさ」と読む。
1964
・Cowell, Henry - Hymn and Fuguing Tune (Ssax + CBsax)
・Glaser, Werner Wolf - Quitet (SAATB)
・Jacobi, Wolfgang - Barcarolle (AA + pf)
・Lamb, John David - Romp (Bsax + pf)
1965
・Dressel, Erwin - Concerto (2Sax + orch)
・Russell, Armand King - Particles
・Wirth, Carl Anton - Beyond These Hills
1967
・Husa, Karel - Conerto
カレル・フーサの「協奏曲」は、作曲者自身の指揮、コーネル大学ウィンド・アンサンブルとの共演による録音が残されている。
1968
・Haba, Alois - Partita, op99 (Asax Solo)
・Macha, Otmar - The Weeping of the Saxophone
1969
・Macha, Otmar - Plac saxofonu
1970
・Gerhard, Fritz Chr - Fantaisie "Ben vanga amre" (SATB)
・Gerhard, Roberto - Quartet-Fantaisie (SATB)
・Glaser, Werner Wolf - Canto (SSax + orch)
・Glaser, Werner Wolf - Little Quartet (Chamber)
・Hartley, Walter - The Saxophone Album (S/A/T/B + pf)
・Koch, Erland von - Miniatyrer (SATB)
・Lamb, John David - Concerto "Cloud Cuckoo Land"
・Lukas, Zdenek - Rondo, op70
・Wirth, Carl Anton - Dark Flows the River
・Worley, John Carl - Oneonta Quartet (AATB)
ラッシャーサクソフォン四重奏団結成が1969年であり、四重奏関係の献呈作品が多いのはそのため。ラッシャー自身はアルトを吹き、ソプラノは娘のカリーナが務めた。
1972
・Hartley, Walter - Suite
1974
・Hlobil, Emil - Quartetto, op93 (SATB)
・Worley, John Carl - Ski Trail Through the Birches (Ssax + pf)
・Worley, John Carl - Sonata
1975
・Hartley, Walter - Octet for Saxophones (SAAATTBBs)
・Koch, Erland von - Dialogue (SA)
・Koch, Erland von - Monolog (Asax Solo)
1976
・Borel, Rene - Fugato in F (SATB)
・Koch, Erland von - Saxophonia: Concerto (SATB + w.orch)
1977
・Starer, Robert - Light and Shadow (AATB)
1978
・Adler, Samuel - Line Drawing after Mark Tobey (SATB)
・Koch, Erland von - Bagatella virtuosa
・Koch, Erland von - Cantilena (Ssax Solo)
・Koch, Erland von - Cantilena e vivo (SATB)
・Wirth, Carl Anton - Triptych
1981
・Glaser, Werner Wolf - 3 Pieces (SSAAAATTBBBBs)
・Koch, Erland von - Moderato e Allegro (SSAAAATTBBBs)
ラッシャーサクソフォン四重奏団より、ラッシャーが脱退。ラージアンサンブルの献呈作品は、ラッシャーサクソフォンアンサンブルのためのものだと思われる。
1985
・Hartley, Walter - Aubade (SAATBBs)
1987
・Koch, Erland von - Birthday Music for Sigurd Rashcer (AA)
作曲時期不明
・Eisenmann, Will - Nevermore-Ballade, op28
・Grisoni, Renato - Suite italienne, op26
・Grisoni, Renato - Albumblat, op60
・Grisoni, Renato - Sonatina, op64
・Knorr, Ernst Lothar von - Chamber Concerto (Sax + pf + orch)
・Lamb, John David - Finney's Folly
・Lamb, John David - Frolic
初めまして。オルガニストのマキと申します。
返信削除笹森先生の曲ですが、今度サックスとオルガンで演奏することになりました♪
笹森先生には弘前でお世話になっていて、偶然楽譜もいただけました。割と日本的な曲ですよ。
作曲の経緯は、笹森氏がアメリカ在住の頃、「明日ラッシャーに会わせてあげるよ」と言われて一夜にして書き上げたのだそうです。すごいですよね~。
> マキ様
返信削除初めまして!コメントありがとうございます。荒城の月変奏曲、演奏されるのですか!ラッシャーお得意の高音域を、サックスの方がどう演奏するか注目ですね。
実はこの記事を書いた後に、この作品の作曲経緯をどうしても知りたくなり、笹森先生にお手紙を書いてしまったのです。返事をいただくこともでき、マキさんがおっしゃる「一晩で書き上げた」といった様子も、伺うことができました。
お手紙の内容は、某所に公開するべく準備を進めています。笹森先生とは、内容の公開の件について、最近電話でお話ししたばかりです。
おぉ・・そうでしたか!
返信削除お手紙をいただいた話は、確かにおっしゃっていました。私が楽譜のことをお訊ねしたのと重なってとても驚いておいででした。
笹森先生は津軽弁の小オペラも作られており、それもなかなかなんですよ。
> マキさま
返信削除笹森先生の作品のなかでも、なかなか演奏頻度が高いと聞きましたが、それにしても偶然ですね。演奏の成功をお祈りしています。
津軽弁の小オペラ!なかなか面白そうですね。一度拝見してみたいです…。