2007/10/19

Quatuor Axone "Through"

Quatuor Axone アクソン四重奏団のCD「Through(CREC-audio 06/048)」がオランダのMartijneさんから届いていた。一般にはまず出回ることのないディスクであるが、期待に違わぬすばらしい内容であったのだから、紹介しないわけにはいくまい。

アクソン四重奏団は、フランスの若手四重奏団。全員がパリ国立高等音楽院のサクソフォーン科を一等賞で卒業し、さらに四重奏としても同音楽院の室内楽科と第3課程(!)を卒業したという、結成されて間もないながら筋金入りのカルテットだ。ある筋では、ハバネラ四重奏団の後継とも評されるほど。公式ページは、こちら(→http://www.quatuoraxone.com/)。

メンバーは、以下の通り。アルトを吹いているエトリヤール氏は、第3回アドルフ・サックス国際コンクールで入賞されているので、名前を知っている方も多いのではないかと思う。

Gurvan Peron, soprano saxophone
Geraud Etrillard, alto saxophone
Cedric Carceles, tenor saxophone
Martijne van Dick-Jansen, baritone saxophone

パリ音楽院の第3課程を卒業すると、音楽院がメイヤー財団の助成金を使用して、コンセルヴァトワールが卒業生の演奏を収録したCDを製作してくれる、というシステムがある(ジェローム・ララン氏のPaysages lointainsは、おなじみですね)。リンク先にリストがあり試聴可能だが、若さゆえの覇気と、人間業を超えたレベルの技術力が融合した演奏を聴くことができるのが、このシリーズの面白いところ。

そして、アクソン四重奏団は数年前より個人的に大注目している団体。今回幸いなことにメンバーの方とコンタクトを取ることができ、音楽院製作の同シリーズとして名を連ねている「Through」を送っていただいたのだ(この場を借りてMartijneさんに大感謝!!)。曲目もなかなか凄い。

・シュミット「サクソフォーン四重奏曲作品102」
~Interlude~
・ショスタコーヴィチ「弦楽四重奏曲第8番」
~Interlude~
・棚田文則「ミステリアス・モーニングII」
~Interlude~
・Juraj Valcuha「サクソフォーン四重奏曲」

ネオ・ロマンティック最大の名曲、シュミットを冒頭に配置し、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲からの編曲、パリ発で最も新しい部類に入る棚田氏の作品、そしてスロヴァキア生まれの作曲家・指揮者であるJuraj Valcuha氏の新作にて幕を閉じる。曲間には、Valcuha氏の手によるさまざまなスタイルのInterlude=間奏曲が挿入されており、アルバム全体に統一感を感じさせる作りとなっている(ララン氏のCDでは、即興だった)。

肝心の内容だが、もう本当にすばらしい!最初のトラック、シュミットの第一楽章を聴くだけで、もうこのCDが只者でないことを知るのには十分。…うーん、どう表現したらよいのかな、あの複雑で入り組んだシュミットであるはずなのに、まるで澄み切った青空を眺めているかのような不思議な感覚に陥ったのだ。サックスとしての基本的な制約を軽々と飛び越え、作曲家と聴衆を直にコンタクトさせることに成功しているだけでなく、(無理強いではなくて)自然と聴き手を作曲家の音に注目させるような、特殊かつ不思議なオーラを感じる。さらに4本のベクトルが完全に一致しているのは、言うまでもなし。録音の多いシュミットだが、このレコーディングは決定版の一つと断言できよう。

ショスタコーヴィチは、サクソフォン・クアドラットの演奏があるが、比べてはいけませんね(笑)。テンションとテクニック、凄すぎ。弦楽器のために書かれたのだよなあ、これ。サックスってこんなに何でもできる楽器だっけ?第2楽章の旋律線のユニゾンがー!基本的にものすごいダイナミクスの差で音楽を運ぶため、特にショスタコーヴィチのような曲から受ける印象が倍増されて感じる。単純なダイナミクスではなく、良く練られたバランス中での増減は、音楽を立体的に浮かび上がらせる。次のミステリアス・モーニングも然り、こちらもヤバイです。ハバネラ四重奏団以外に録音が増えたのは嬉しいなあ。どちらが良いかは、お好みで…。

間奏曲として、また最後に「サクソフォーン四重奏曲」として配置されたJuraj Valcuha氏の作品が、音響遊びに徹した作品で大変に面白かった。民族音楽的な和声を下敷きに、急激なダイナミクスや音色の変化・アーティキュレーションの変化を高密度で並べたものばかりで、聴きやすく楽しい上に、演奏も堪能できるという代物。この曲、もし他の四重奏団が演奏しても、これほど面白くは聴けないだろうなあ。それだけ、彼らの演奏と密に結びついている、ということでもあると思うが。

Martijneさんから「友人や音楽仲間に聴かせてあげて下さいねー」とのお言葉を頂戴しているので、何かの機会にCDを直接手渡しで貸すことができそうな方で、聴きたい人は私に言ってください~。

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