2007/04/26

イギリスのサックスについての雑記

(昨日4/25の映像記事に関連して)

ジョン・ハール John Harle氏の演奏を初めて聴いたとき、今まで耳にしたことのない、特徴あるパフォーマンスに、ハンマーで殴られたような衝撃を受けた。「楽器そのものの音」とも形容すべき生々しくエモーショナルな音色、後ろを膨らませるような特徴的な長音、良く良く聴けば意外と適当な音程、どこまで続くんだと思わせるような息の長いフレーズ…それまで、フランスのや日本のサックスにしか触れたことのなかった私にとって、ジョン・ハールの演奏の第一印象は、一種カルチャーショックのような体験だったことは、今でも鮮明に思い出せるほど。

ハールはジャズ・サクソフォニストとしてキャリアを開始したということで、その辺りの経歴と、演奏のタイプが密に絡んでいることは、おそらく間違いがない。しかし、海外のサクソフォンの標準形に目もくれず、こういった「イギリス風サウンド」を「クラシックのサクソフォン」として、1980年から始まって10年足らずで国内に定着させてしまったことは、驚くべきことだ。事実、彼以降のイギリスのサックス吹きは、ほぼ全員が同じ傾向のサウンドを持っている。

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このイギリスの独自のスタイルは、さすがに世界標準とまでは成り得なかった。1980年当時、とっくに世界を席巻していたフランス・アカデミズムの潮流のうねりは強く、結果イギリスのサクソフォンは大変内向的な流行り方をすることになる。演奏者と作曲者の密なコラボレーション…イギリス国内の作曲家への積極的な新作の委嘱、ミュール学派からは考えられない独特のレパートリー形成は、イギリスのサクソフォン流行の特徴を、如実に表しているものだ。ハールの一手によって一気にスタイルが確立された後も、外部からの干渉を受けず、イギリスの地でじっくりと醸成されてきたのだ。

「本場」フランスへの留学など行わず、ベルギーやフランスで行われる国際コンクールにも見向きもせず…そんなことを繰り返しながら、イギリスのサクソフォンが花開いてから、既に30年が経過しようとしている。ジョン・ハールから始まったイギリスのサクソフォーン界は、根底にハールのスピリットを残しつつ、今や百花繚乱の様相を呈している。

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