2007/02/11

モルゴーア・クァルテット第26回定期演奏会

もう2週間も前のことになってしまったが、1/29はモルゴーア・クァルテットの第26回定期演奏会を聴きに行っていた。この頃はまだ卒論シーズンで忙しい時期だったが、無理して行った甲斐があったコンサートだった。写真は会場の東京文化会館小ホール(公式WEBより引用)。

私はサクソフォンを手にしてからというもの、サックス四重奏に(聴くのも、演るのも)ハマりまくっている身。だから、もちろんサックス四重奏に比較的近いフォーマットである、弦楽四重奏を常にチラチラと意識しているのは当然だった。マルセル・ミュールはサクソフォン四重奏という形態を弦楽四重奏の模倣(?)から確立させていったのだし、デザンクロやグラズノフを吹いていても、弦のような書き方をしているところはたくさんあるし。

そんな中、私が弦楽四重奏に対して抱いていた偏見は、「サックス四重奏に比べてパワーがないよね」「色彩感は、サックス四重奏のほうが上だよね」といったもの。それは、たとえばクロノス・カルテットのDVD「In Accord」を観ても拭いきれなかった偏見だ。しかし、今回聴いたモルゴーア・クァルテットの演奏は、私が持つその偏見を一気に消し飛ばしてしまった。こんな強烈な演奏を聴かされたら、浮気するって。

モルゴーア・クァルテット第26回定期演奏会
2007/1/29(月)19:00開演
東京文化会館小ホール
プログラム:
・エリオット・カーター - エレジー
・チャルズ・アイヴズ - 弦楽四重奏曲第2番
・間宮芳生 - 弦楽四重奏曲第2番「いのちみな調和の海より」
・ベートーヴェン - 弦楽四重奏曲第11番「セリオーソ」

ご覧のとおりの「ゲンダイオンガク」の薫り漂うハードなプログラムだが、平日にもかかわらずお客さんの入りは上々。席は7割方埋まっていたかな。会場には、サックスの演奏会で見かける方は一人もいなくて(あたりまえか)、聴こえてきた会話から推測するに、メンバーのお弟子さんとか、音楽仲間のような方が多かったかなあ…管楽器畑の人間が突然こんな場所に現れると、アウェーの私はちょっと居心地が悪い。それが新鮮でもあるのですが。

さて、開演。「エレジー」は、弦楽器の特性を生かした美しい小品だった。曲の最後で、pppまで減衰しながら音が会場の空気に溶け込んでゆく様は、管楽器では絶対できない(?)表現。もうこの一曲だけで、後に続く演奏への期待が高まりましたさ、ええ。

そういえば、手渡されたプログラムは面白かったなー。作曲家の林光さんによるエッセイという趣で、ほかの演奏会のプログラム・ノートでは決してお目にかかれない洒落た文体。まったく聴いたことがなかった、アイヴズや間宮の曲紹介も、(ずいぶんとマニアックな)聴き所が文章に織り込まれており、聴きながら次のポイントが楽しみになる。

アイヴズ。「弦楽四重奏はパワーがないよね」偏見を、完全に打ち砕かれた。4人から発せられる、怖いほどの覇気。会場の隅から隅までを集中力という鎖で縛り付けて、物凄い音の洪水を浴びせかける。4人の口論のような混沌としたフレーズから、ヴァイオリンとヴィオラがポピュラーなメロディを最強奏で引用し、そして最後には今までの荒れっぷりが嘘だったかのように波が引く。興奮した聴衆の大きな拍手。すごい。

ここで休憩。聴き疲れはするけれど、不思議とさわやかだった。ロビーで幻のアルバム「Destruction」が売っていたので購入。まだ意外と(20~30枚くらいか?)残っているものですなあ。

間宮。第1楽章の始まりは不安定ながら落ち着いた響きだが、すぐ鋭角的な響きに変化し、第2楽章はかなり強烈な刻み。最終楽章、チェロが弾く下降形のフレーズがだんだんと収束してゆく様子がユニーク。副題の「みな調和」というフレーズがとっさに思い浮かんだ。演奏が終わると、なんと客席から間宮氏が登場。大きな拍手を浴びていた。

ベートーヴェン。「ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲のCDと楽譜があれば、一生飽きずに過ごせる」と言われるが、なるほど。音の間に隠された仕掛け、4声の動き、和音…どの瞬間を切り取っても、とても革新的な響きで、アイヴズ氏や間宮氏の作品の後に置かれても、まったく違和感がない。モーツァルト後期の弦楽四重奏曲と聴き比べてみると、余計にベートーヴェンのすごさがわかる。演奏もすばらしかった。最終楽章、コーダの爽やかなフレーズが、妙に印象に残った。

アンコールに応えて演奏されたのは、アメリカの作曲家ジョン・コリリャーノの「スナップショット:1909年頃」。これ、ズルい、というか憎いなあ!題材となった「スナップショット」は、コリリャーノの身内がヴァイオリンとギターを携えた写真だそうで…ヴァイオリンがアメリカの民謡のような旋律を弾くき、ギターを模した他の3人がピィカートで答える、という。もう小憎い、という感想しか出ません(笑)!曲と演奏に対して、面白さと、嫉妬と、感動と、興味と…なんだかいろいろな気持ちがあふれ出た。

初めての弦楽四重奏(モルゴーア)体験は、こんな感じでした。新鮮で感動的。いやー、良かった。次回も聴きに行こうっと。

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