2006/12/16

Musique francaise pour saxophones

パリ国立高等音楽院のサクソフォーン科教授であり、フランス・サクソフォーン協会の会長であり、壮絶なテクニックと高純度の音色を持つソリストでもあるクロード・ドゥラングル Claude Delangle氏。南仏ギャップで行われたコンクールで優勝して以来、世界的なサクソフォニストとして認識されているという。

ある意味では、現代のサックス吹き全員が彼の影響下にあるとも言えるだろう。Sequenza VIIbはドゥラングルがいなければ生まれ得なかったし、現代を代表する四重奏団も生まれなかったし、コンセルヴァトワールの数多い卒業生だって彼の指導がなければ…。ざっと門下生を追ってみても、ヴァンサン・ダヴィッド氏、ハバネラ四重奏団、平野公崇氏、アレクサンドル・ドワジー氏…なんとそうそうたる面々であることか。

世界最高という地位にあっても、既存の考えに捉われない新たなレパートリーの開拓、そして積極的な演奏活動&レコーディングなど、そのサクソフォン奏者としての歩みを止めないことは、サックス界から見れば賞賛に値するものだと思っている。

彼がパリ国立高等音楽院の教授職を得たのは、1988年のこと。1993年からはBISレーベルにおいて連続でアルバムを作成している。ドゥラングル氏が教授職に就くその2年前に録音されたCDを、最近良く聴いているのでご紹介したい。Chant du MondeからLDC 278 878という型番で出版されたが、現在はVandoren(あのリードメーカーのヴァンドレン)が販売している、ピアノ・デュオと四重奏が収録された盤だ。

アルバムタイトル「Musique francaise pour saxophones(Vandoren V 001)」。共演はオディール・ドゥラングル女史(pf)、ジャン=ポール・フーシェクール(asax)、ブルーノ・トタロ(tsax)、ジャック・バゲ(bsax)。収録曲目は以下のとおり。

ダリウス・ミヨー「スカラムーシュ」
アンドレ・ジョリヴェ「幻想即興曲」
フローラン・シュミット「伝説 作品66」
シャルル・ケックラン「練習曲より 抜粋」
シャルル・ケックラン「ジーン・ハーロウの墓標」
ガブリエル・ピエルネ「民謡風ロンドの主題による序奏と変奏」
フローラン・シュミット「四重奏曲 作品102」

なんと隙の無い演奏!控えめなヴィブラートで、ひたすらに丁寧に、丁寧に音楽を紡ぎ出す印象を受ける。隅から隅まで、全ての音を意識化でコントロールした結果がこれか…。しかもどうしたことか、聴き進んでいくうちに、曲の持つフレーズが生き生きと演奏されていることにも気付かされる。取り立ててスピードが速いわけではないのに、確かにそこでは、フレーズが生き生きと表現されているのだ。私感では、全てのフレーズの意味を解釈した上で、楽曲を完全に自らの血肉として取り込むことが、余計なハッタリをかまさずに説得力ある演奏をする要因となっているのだと感じる。

サックスに限らず楽器を演奏するときって、その場任せな部分が少なからずあるものだと思うのだが…。そういった即興的な要素を完全に排除しているのか!まさか!いや、それとも、その場で生まれたフレージングすらも、管理されたものに聴こえるほどに上手いというのか!

どちらにせよ、神懸かってます、クロード・ドゥラングル。

聴き所はそれだけにあらず、例えばケックランで聴かせる透明な叙情性の見事さしかり、シュミット「伝説」のテンションしかり、緻密なアンサンブルが聴ける四重奏しかり…。

現代において、モレティ氏のような伝統的フレンチ・スクールのスタイルを守り抜く難しさは窺い知れない…ようなことを以前書いたが、逆にデファイエ一派のような演奏スタイルの中から、このような新たなフォーマットを創り出すことも相当な苦労、紆余曲折のようなものがあったのではなかろうか。

こぼれネタ1:四重奏の曲目でアルトサックスを吹いているフーシェクールとは、実はあのオペラ歌手として有名なジャン=ポール・フーシェクールと同一人物なのだ!サックス科を出てオペラ歌手って…一体フランスの音楽教育って、どういうシステムなんだろうか。

こぼれネタ2:第一次世界大戦後のパリ国立高等音楽院の歴代教授は、マルセル・ミュール、ダニエル・デファイエ、クロード・ドゥラングルと続いているが、彼らがソプラノ・サックスで参加した団体で共通してレコーディングしている作品が、ピエルネ「民謡風ロンドの主題による序奏と変奏」、シュミット「四重奏曲 作品102」の二曲。この録音でプレイリスト作ると、サックスの歴史が一気に俯瞰できて面白いです(笑)。

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