民謡を題材にとった作品、もしくは民謡を模した作品は、サックスの世界にも数多く存在する。ピエルネ「民謡風ロンドの主題による序奏と変奏」、モーリス「プロヴァンスの風景」、ジャンジャン「四重奏曲」、プラネル「バーレスク」、アブシル「ルーマニア民謡の主題による組曲」…。
現代のサクソフォンの音色はどちらかと言えば雄弁で、コンサートホールのために大音量&豊潤な音色に向けた改良が加えられてきた事もあって、民謡の素朴な旋律を紡ぎ出すには適していないようにも思える。20世紀中期以降に作られた、ネオ・ロマンティック作品や、コンテンポラリー作品こそ、サクソフォンの音色、機動性などを十分に生かし、この楽器の性能を引き出してくれるものだと思い込んでいた。
ところが…「サックスで民謡」って意外なほどにマッチして聴こえるのだ!ちょっと鼻にかかったような高音、そしてサクソフォンが本来持つ「粗野」のような部分が、人間の営みから生まれた旋律を奏でるのに、ピタリと当てはまるように感じる。上に挙げた作品群を聴いてみると良い。サックスより「素朴な音色」をしていると思われるクラリネットやフルートで、これらの作品をやったとしても、サックスで演奏する以上の効果が上がるとは思えない。
前置きが長くなったが、タイトル「オーヴェルニュの歌」、伊藤康英先生の手によりサックス+ピアノ、またはサックス+ピアノ+弦楽四重奏のために編曲された作品。編曲委嘱は雲井雅人氏で、サックスはソプラノとアルトを持ち替えて演奏する。オリジナルではないのだが「サックスで民謡を演奏」というジャンルの中では、私見では最もツボにはまった作品の一つだと考える。
本作品は、もともとはソプラノ(声楽)とオーケストラのために書かれた。作曲家、音楽研究家であったジョセフ・カントルーブ Joseph Canteloube がフランス中央オーヴェルニュ地方の民謡を収集し、オーケストラと女声独唱の全四巻からなる曲集として出版し、人気を博したもの。あのキリテ・カナ・ワによる録音も存在する。
この響きに注目した雲井雅人氏の着眼点、そして伊藤康英先生の巧みなアレンジによって生まれ変わったこの作品。アルト・サクソフォンが憂いを帯びたフレーズを歌えば、ソプラノ・サクソフォンは楽しそうに牧歌的な風景の中を転げまわる。楽器をチェンジしてまで生み出される、この多彩な音色の変化。響きは華やかなのだけれど、同時に根底に流れている人間っぽさを感じさせるのは不思議だ。
雲井雅人氏のサックス、伊藤康英先生のピアノ、そしてムジクケラーの弦楽器奏者たちによるライヴ盤がこれ「The Dream Net(Cafua CACG-0022)」。目の前にぱあっとのどかな風景が広がるような、華やかな演奏。たった6人の編成は小さいけれど、オーケストラ的な色彩感をここまで再現していることに驚かされる。
雲井さんが最近この編成でコンサートをやった、という話を聞かないなあ。この響きにはライヴで溺れてみたいものだが、さて…。あ、12/20は新アルバムの発売日だ!楽しみなり。
オーヴェルニュの歌、いいですね。弦楽4重奏とサクソフォンというフォーマットとも相性がいいのも頷けます。中村先生も弦4をバックに録音をしてますね。ケネス・ツェ氏(伴奏はピアノ)の演奏も、たしか伊藤先生の編曲だったと思いますが、私はこれが一番好きですね。
返信削除雲井先生の新譜、待ち遠しいです。
mckenさん、コメントありがとうございます!いやー、コメント嬉しいです(^^)今までのHTML直書きは、ひたすら一方通行でしたから。
返信削除ケネス・ツェ氏の録音、私も大好きです。このピアノ+サックスの編成は、もっと演奏されても良いんじゃないかと思っています。
ちょっとした知り合いで、蓼沼雅紀氏という若手のサクソフォニストがいるのですが、今週末のACTUSのリサイタルで抜粋を取り上げるようで…生で聴くのが楽しみです。