「クラシック音楽へのおさそい ~ユング君のホームページ~」(→http://www.yung.jp/)というWebサイトがある。作者自身が公言する通り、さながら音楽版青空文庫を具現化したようなページである(著作権の切れた録音をデータベース化し、一般に公開しているというものだ)。貴重な録音も多いため、自分にとっては重宝するページである。ユーザー登録もしてあり、MP3ファイルをダウンロードして聴くことも多い。
さて、そのデータベースを巡回していたところ、なんとバッハ「ブランデンブルク協奏曲」のカザルス指揮プラド音楽祭のライヴ録音がリストにあるではないか!たしか1950年録音のはずだから、著作権が消失しているのも納得。この録音、一部のサクソフォン好きには有名な録音で、ブランデンブルク協奏曲第二番において、トランペットパートがソプラノサクソフォンで代奏されているというサクソフォン録音の歴史上重要な位置を占める記念碑的録音なのだ。しかもサクソフォンの演奏者はマルセル・ミュール(!!)。ノイズの中から聴こえるソプラノサクソフォンの音色は、すばらしい音楽で満ち溢れている。以前より所持しているPearlからの復刻CDよりも若干全体がクリアに聴こえるのは気のせいだろうか…?
カザルスがなぜトランペットではなくサクソフォンを選んだか理由には二つの説があるようだ。ひとつは、パリ・コンセルヴァトワールとセルマーが共同制作したミュールのインタヴューで語っていた記憶があるのだが、速く演奏したがったカザルスには、トランペットのクラリーノ音域における機動性の低さが不満だったようで、メンバーからカザルスに進言してソプラノサクソフォンを使用したという説。もうひとつは、原盤であるColumbiaへの録音を前提としたライヴ録音だったため、トランペットではレベル上昇による音割れの可能性があり、録音技師が進言してカザルスがソプラノサクソフォンへの変更を指示したという説。
どちらにせよ、サクソフォンが一つの歴史的事件に遭遇できたことを、21世紀の現在より回顧し嬉しく思う。
この録音とエピソードは昔から知っていておもしろいな~と思っていましたが、残念ながら聞いたことはなかったのでした・・・。
返信削除その間に、古楽器の世界の研究は目覚しい進化を遂げて、そもそもトランペットの音域におけるバッハの楽譜の解釈が間違っていてオクターブ下なのではないか?という説も出ていませんでしたっけ?
過去、多くのペット奏者が身体を壊すほどの災難に見舞われたこの曲をソプラノSaxでというのは、それもmule氏の抜擢というのは、あまりにかっこよすぎです。
その話だけで、私はその時に起きたであろう結果を、自分の頭の中で勝手に構築して、満足してしまいました。そのために、あえてその録音を探して聞いてみようという行為に至らなかったわけですが、それほどmuleという奏者は信頼における人物だったとも言えるかもしれません。
> Sonoreさん
返信削除そういえばこんな記事も書いたっけ、と、久々に思い出しました。3年以上前の記事ですね。コメントありがとうございます。
このエピソードを知った高校生の頃はまだ復刻されておらず、LPを探そうにも当時の私の経済力や調査能力ではどうしても見つけられなかったのでした。
CDとして確か復刻されたのはごく最近(2002年か2003年?)で、ちょっと高かったですが、Pearlからの分売を待って即買いしました。これは、本当にすごいですよ!ぜひ聴いてみてください。素晴らしい音楽家たちの共演による、たった一度限りの機会ですから…。祝祭的な雰囲気に満ち溢れて、聴いているこちらまで、その場に居合わせてような幸せな気分になります。
やはり結果はそんな感じでしたか。顔ぶれが顔ぶれですしね・・・聞いてみようと思います。
返信削除> Sonoreさん
返信削除ぜひ!(^∀^)
ご紹介の場所で聴いてきました。
返信削除予想通り、いや予想を超えてmuleは素晴らしかったです。カザルスのえっ?というほどのスピードにちゃんとの乗れているのは彼だけなのでは?とさえ思いました。
正直、もう少しSaxっぽさが残っている演奏なのかと思いきや、トランペットさながら、いやトランペットの危うさすらない完璧なアタックでした。
感心しました。
> Sonoreさん
返信削除聴けましたか!カザルスのテンポは、私も初めて聴いたときに目が飛び出ました。全体を見渡すとアンサンブルはやや緩いですが、それも味なのかなあと思っています。
オンライン上に、こういった音源がアップロードされ、自由に聴くことができるとは、良い時代になったものです。私がインターネットを利用し始めたのは8年前くらいでしたが、そのころは回線が細く、音楽ファイルなど到底気楽に扱えるような速度ではありませんでしたから…。