2016/09/19

第4回東名高速Saxophone Quintet

毎年、聴くたびにますますパワーアップの東名高速クインテット、今回も充実すぎる演奏会だった。いつも、期待以上の新しい世界を見せてくれる団体だと思う。

【第4回東名高速Saxophone Quintet~富士盛りライヴ!天地返しの謝肉祭~】
出演:瀧彬友、川内立真、松下洋、上野耕平(以上sax)、黒岩航紀(pf)
日時:2016年9月19日(月・祝)14:30開演
会場:アクタス ノナカ・アンナホール
プログラム:
R.ブートリー - ディヴェルティメント(松下、黒岩)
佐藤雅俊 - 影(川内、黒岩)
F.ボルヌ - カルメン幻想曲(瀧、黒岩)
坂東祐大 - エアリアル・ダンス(上野)
中村真幸 - ミッドナイト・トレイン(上野、松下、黒岩)
J.イベール - 2つの間奏曲(瀧、松下、黒岩)
C.コリア - アルマンド・ルンバ(上野、川内)
F.リスト - ハンガリー狂詩曲第6番(黒岩)
A.ピアソラ - ミケランジェロ'70(瀧、上野、松下、川内)
C.サン=サーンス/前田恵美 - 動物の謝肉祭(上野、瀧、松下、川内、黒岩)

※ネタバレを含むので、行く予定の方はここから下は見ないことをおすすめする次第。感想はずっと下のほうに書いておく。





























※以下、ネタバレ。読みたい方はもっと下…。

























第1部はとにかく個性の展覧会、という感じ。意外にスタンダードな選曲ながら、第3楽章ではぶっ飛んだブートリーを聴かせた松下氏、非常に面白い新作品ジャズの語法に乗せて、自身の内情を存分に吐露した川内氏、楷書体のような、誠実な音色と音楽性、やはりピカイチの圧倒的な説得力で魅せた瀧氏、18分に及ぶ特殊奏法満載の強靭な作品を、驚異的な集中力で聴かせた上野氏…といったところ。やはりこれほどのソリストの集まりだからこそ、演奏会が徹頭徹尾面白いのだな…と再認識した。MCのそれぞれの空気感も、また楽しい。

第2部は、デュオを中心にしたプログラム。中村氏のミッドナイト・トレインは、ポピュラー音楽のような聴きやすさから、印象に残る内容であった。イベールは、まるで原曲のような爽やかな風を感じ、不思議な事に"ホールの狭さを感じさせない響き"を体感したような気がしたのだった。チック・コリアは、元々は松下くんが旭井くんに委嘱し、名古屋では松下&瀧、神奈川では松下&塩塚、という布陣で演奏した作品だが、今回は珍しや、上野氏と川内氏、という布陣!彼らのこだわりの解釈をとても楽しく聴いたのだった。第2部最後はなんと、黒岩氏のソロ。リストの超絶技巧…全力を尽くした表現…を見事に体現する振る舞いで、とても興奮させられたのだった。

第3部、挨拶代わりのピアソラに続き、景品プレゼントじゃんけん大会。そして、「動物の謝肉祭」をり回した「どうぶつの!?謝肉祭」。これがとても面白かった!編曲者がオリジナルで加えた"動物"も登場し(まさか亀がウサギとカメになったり、さらにはゴキブリが登場するとは)、原曲が50%、残りはエンターテイメント性に溢れる素敵な編曲だった。曲が進むに合わせて、ステージ上のスケッチブックにメンバーそれぞれが書いた動物が登場、その絵心すらも楽しんでしまった。

アンコールは、何とかというジャズ・ヴァイオリニストの作品で、松下氏がベース、川内氏がカホンを奏で、瀧氏と上野氏がソプラノを吹き、黒岩氏がピアノを弾くというもの。いやー、面白かった。

終演後は、聴きに来ていた方々と飲み会。こちらもまたいろんなことに話が及び、楽しかったなあ。しかし、串八珍(アクタス後の飲み会と言えばそこだったのに…)がなくなっていたのは驚き。

2016/09/14

ミュールのSP録音復刻準備中

ここ最近、マルセル・ミュールの四重奏SP録音の復刻決定盤の準備を行っている。木下直人さんのところで、Pierre Clementのターンテーブル、アーム、カートリッジのシステムが完成し、ミュールの独奏録音の復刻決定盤を製作中、ということは書いたが、今度は四重奏録音、というわけ。私は、解説書きや盤チェックといったところを担当している。

盤チェックした限り、復刻状態は素晴らしい。そして、それ以上にミュールの四重奏をじっくりと聴いたのは久々で、その軽やかさと楽しさ(そう、楽しいのだ!)にすっかり耳を洗い直されてしまった。かつて四重奏は「仲間内の楽しみ」であったそうだが、その多くの要素をそのままSPへと吹き込んでしまった雰囲気を感じることができる。

2016/09/10

第56回東京都吹奏楽コンクールの本選を聴きに

府中の森芸術劇場で開催された第56回東京都吹奏楽コンクールを聴きに伺った。昼間の府中の森芸術劇場に行くのは初めてかも。何となく府中本町から徒歩で向かった、地図の印象よりずっと遠く、日差しが照る中を汗だくになりながら歩く羽目になったのだった。

2団体(デアクライス・ブラスオルケスターと東京隆生吹奏楽団)しか聴けなかったのだが、非常に高い技術・音楽性を持った演奏で、まさに"競り合い"という印象を受けた。地固めがしっかりできており、その上の+10%の部分に指揮者の曲作りやソロの出来栄えが乗って勝敗を決する、ということなのだろう。敢えて言葉で表すならば…「課題曲では大編成ながら端正な音楽作りを心がけ、自由曲では一転、ダイナミックな音作りと高レベルな独奏で聴衆を魅了したデアクライス」「課題曲・自由曲とも、引き締まり良く制御されたアタック/リリースを武器に、カチッとした印象を残し、自由曲では楽曲のパワー面の不利さ(デアクライスの選曲に比して)を見事に補った東京隆生」といったところだろうか。

個人的には、デアクライス≦東京隆生に聴こえたのだが、もはやここまで来れば好みの問題だ。また、会場との相性など、演奏以外の要素が及ぼす影響も(接戦の場においては)大きいことだろう。他の団体は聴けなかったのだが、どのような演奏を繰り広げたのか…うーん、最初から聴けばまた印象も違ったのかもしれないが。

終わってみれば、聴いた2団体が偶然にも職場・一般部門の金賞&代表権を同点で勝ち取り、全国大会へと進むことになった。ところで、妻がデアクライス・ブラスオルケスターに乗っており、彼女としては"初の全国大会出場"となる。ここ最近の毎週末の練習は大変そうだったが、良い結果が出て実にめでたいことだ。全国大会は10月30日、石川県金沢市。少々遠いが、せっかくの機会なので聴きに行こうかなと思っているところ。

2016/09/09

新井靖志氏の訃報

突然の新井靖志氏の訃報。最初はFacebookで情報を知ったのだが、いつの間にかコンサート・イマジンのページにニュースリリースが掲載されていた。まだ51歳、若すぎる死だ。

http://www.concert.co.jp/news/detail/820/

日本管打楽器コンクールでの入賞後、トルヴェール・クヮルテットのテナー奏者として、シエナ・ウインド・オーケストラのコンサートマスターとして活躍、また昭和音楽大学他では講師として後進を育成した。

文字にして並べることのできる功績以上に、多くのものを残したサクソフォン奏者であったと思う。黄金期を迎えたシエナにおける、要のポジションで生み出される美音、多くのカルテットのテナー吹きに何とかしてあの音を出したい/あの演奏をしたいと思わせるような、トルヴェールの中での絶妙な立ち回り、師事したサクソフォン奏者からの尊敬等々、簡単に言ってしまえば、多くのサクソフォン奏者からの"憧れ"の眼差しの先にいた奏者の一人だ。"憧れ"とは、決して手に入れることのできない何かを示す時に使われる言葉であるが、おそらく新井氏の音色/音楽/指導は、他人では知り得ない独自の才能と努力から生み出された、唯一無二のものであったと思う。

私自身も、いろいろと思い出すことは多い。初めて聞いたプロフェッショナルのカルテットは、松本ハーモニーホールで聴いたトルヴェール・クヮルテット、ボザの「アンダンテとスケルツォ(テナーの独奏から始まる)」であった。トルヴェール・クヮルテットとしての演奏は、シモクラ・ドリーム・コンサートやサクソフォーン・フェスティバルなど、いくつかライヴを聴く機会があった。ソロを聴いたこともあり、一番最初は、長野県北信地区のリーダーズバンドにゲストとして招かれた際に演奏されたビンジ「協奏曲」の演奏。"アルトを吹く新井さん"を珍しく感じた。最後にライヴで聴いたのは、リリアで「サクソフォーン発表会」に出演したときだろうか。比較的最近まで演奏活動は続けており、いつでも聴ける機会はあるなあと軽く考えていたが、まさかこんなことになるとは。

大学入学以降はカルテットでテナーを吹く機会が増え、取り組む作品によっては意識せざるを得ない存在だった。長生淳「彗星」「八重奏曲」、ピアソラ/啼鵬「ブエノスアイレスの春/夏/秋/冬」、ロジャース/真島俊夫「私のお気に入り」、吉松隆「アトム・ハーツ・クラブ・カルテット」等々、今考えれば、新井氏の演奏から、"参考演奏"以上の何かを感じ取っていた。

そして、やはり外せないのは名盤「ファンタジア(Meister Music MM-1091)」「夕べの歌(Florestan FLCP21011)」の存在であろう。特に「ファンタジア」!いかに多くのテナーサクソフォン吹きがこの演奏によって新井氏の凄さと自身の甘さを思い知らされたことか!想像を絶するほどに、軽やか。テナーサックスって鍵盤楽器だっけ?という錯覚に陥ってしまうほど。サイドキーも低いシドレミもなんのその。音の一粒一粒がはっきりと目立って、曖昧さを極限まで排した見事すぎる内容である。「テナーサクソフォンという楽器で「普遍」を呈示することに成功した(おそらく世界最初の)録音(Thunderさんのレビュー記事より)」を実現した、その技術力の高さに慄くと同時に、私自身はある種の"不器用さ"のようなものを感じ取ることもある。おそらく真面目で優しい方だったのだろう、"スター"として輝くことができる能力を持ちながら、いざそうなった場合に上手く立ち振る舞えないことを知っており…敢えて一歩引いたところで音楽家/指導者として着実に歩むことを座右の銘としているような、そのような奏者だからこそ成し得た演奏ではないかな、と思う。

稀有な存在であった。謹んでご冥福を申し上げます。

2016/09/03

演奏会情報:田中拓也×本堂誠デュオ・リサイタル

演奏会情報が続くが、それだけ注目の演奏会が多い、ということで。

注目の演奏会が多い割に、私自身が足を運べているかというとそうでもなくて、別の予定とかぶったり、やることが山積していたり…ちょっと心苦しくもあるのだが、まあ仕方ない。

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第25回日本管打楽器コンクール第1位の田中拓也氏と、第2回アンドラ国際サクソフォンコンクール優勝の本堂誠氏、という、豪華な取り合わせの演奏会が開かれる。本堂氏は現在パリ国立高等音楽院に留学中だが、一時帰国に併せて今回のコンサートを企画したとのこと。

それぞれの奏者の名前は既に広く知られており、もちろん実際の演奏についてももはや言うことのなしの素晴らしい奏者であるので、プログラムについて少し。パリ国立高等音楽院院長の、アレクサンドロス・マルケアスの「ジョーク」は、なんとバリトンサクソフォン2本で演奏される作品。YouTube等でも聴くことができるのだが、バリトンサクソフォンの持つ表現力の大きさ(全てのサクソフォンの中で、際立って"芸事"といった雰囲を持つ楽器だと思う)を引き出した、面白い作品だと思う。

その他、本堂さんのバリトン趣味がかなり強く表れる演奏会になるそうだ。聞いた話では、前半はバリトンサクソフォン三昧になるとのこと。ということで、バリトンサクソフォン奏者垂涎のコンサートとなりそうだ。

【田中拓也×本堂誠デュオ・リサイタル】
出演:田中拓也、本堂誠(sax)、宮野志織(pf)
日時:2016年9月6日(火) 開場18:30 開演19:00
会場:アクタス渋谷店6F アンナホール
料金:一般2,500円 学生2,000円
曲目:
A. マルケアス - ジョーク
F.プーランク - トリオ
詳細:
https://www.facebook.com/events/306929699658908/