2016/08/28

エネミー・ゼロとマイケル・ナイマンと

先週金曜日、体調を崩して寝込んでいたのだが、そんな中ふと思い出したことがあった。遥か子供時代に遊んだゲームのことである。

タイトルは「エネミー・ゼロ」。往年の名機セガ・サターン用に開発されたゲームで、ディスク4枚からなる超大作。時は32bitゲーム機戦争時代、ソニーのプレイステーションと、セガのセガ・サターンとが、雌雄を決する戦いを繰り広げていた最中に発売された。開発元のWARPが「Dの食卓」に続くインタラクティブ・ムービーとして送り出したのが本作である。

最終的に60万枚を売り上げるヒット作となったが、ゲーム内容については賛否両論を巻き起こした。当初プレイステーション向けに発売される予定だったものを急遽セガ・サターン向けに変更したとか、敵が"見えない"ため音を頼りに倒すしかないとか、セーブ/ロード回数に制限があって数多のユーザーが最初からやり直しを強いられたとか、シナリオが映画「エイリアン」と酷似しているとか、とにかくゲームを取り巻くエピソードや内容に関してネタが尽きなかった。総合的に言えば、注目度に比して必ずしも評価が高いとはいえないゲームだった。

しかし、音楽が妙に印象的であった。シンセサイザーを中心とした、ポピュラー・スタイル、ロック・スタイルといった音楽とは一線を画するものだったのだ。ごくごく少ない音数の主題が印象的なピアノ・ソロ、しかし場面によっては時折何とも形容しがたい厚みの音楽が流れる。実は、この「エネミー・ゼロ」の音楽を担当していたのが、なんとマイケル・ナイマンだったのだ。演奏は、マイケル・ナイマン・オーケストラ。空を切り裂くようなソプラノサクソフォンはジョン・ハール、ガリガリした刻みのバリトンサクソフォンはアンディ・フィンドン、透明かつ叙情的なソプラノはサラ・レオナルド…と、ナイマン周辺のお馴染みの音楽家達がクレジットされている。

当初、マイケル・ナイマンはこのゲームに音楽を提供することを渋ったようだ。しかし、ディレクターの飯野賢治氏の説得により、提供を決めたようだ。しかも、驚いたことに出来上がった作品の数々は過去作品の流用ではなく、完全なオリジナルであった。それどころか、後年ナイマンはDziga Vertov監督のサイレント映画「これがロシヤだ(カメラを持った男)(1929)」に音楽を付ける、というプロジェクトを手がけているが、その際「エネミー・ゼロ」の音楽を転用している。憶測にすぎないが、よほどの自信作であったと思われる。この事実からも言えるのだが、ゲームの内容としては疑問が残るが、音楽の内容はピカイチだと思っている。

私がマイケル・ナイマンの音楽を認識したのは、大学入学の直前、ジョン・ハールが演奏する「蜜蜂が踊る場所」や、アポロ・サクソフォン四重奏団が演奏する「トニーへの歌」を聴いた時だ…と、長いこと思い込んでいたのだが、そこから遡ること6年前に、マイケル・ナイマンの音楽に触れ、ジョン・ハールやアンディ・フィンドンのサクソフォンを聴いていたのだなあと、驚きと嬉しさがあったのだった。

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