2016/08/13

井上ハルカ サクソフォンリサイタル~影と光の対話 B-Side~

関東圏初となる井上ハルカさんの本格的な演奏機会であった。聴きに行くことができて良かった!

安定したベース技術に、ご自身がこだわったプログラミング。また、演奏のみならず「場」としての雰囲気にも神経を使った、完成度の高い、素晴らしいリサイタルだった。この内容に対して、DACという会場は少々小さかったかも知れない、と思ってしまったほどであった。

制御され抑制されたヴィブラートや、音域に関係なくコントロールの効いた音色など、さすがCNSMDPの出身!という感心ごとはもちろんあったが、さらに感じ入ったのはよく響いて拡がっていく輝かしい音色だった。これはもう、理屈ではなく出自(関西方面)がそうさせるのだろうか…と邪推。ベースとなる音色の美しさがしっかりしているので、近代だろうが現代だろうが、どんな曲でも説得力がある。

【井上ハルカ サクソフォンリサイタル~影と光の対話 B-Side~】
出演:井上ハルカ(sax)、松岡優(pf)、有馬純寿(electro)
日時:2016年8月12日(金) 開演19:00 開場18:30
会場:管楽器専門店ダク・スペースDo (東京都新宿区百人町2-8-9、管楽器専門店ダク地下 新大久保駅より徒歩約3分)
プログラム:
クロード・ドビュッシー - アルトサクソフォンと管弦楽のための「ラプソディー」(ピアノ伴奏版)  
ステファノ・ジェルヴァゾーニ - ソプラノサクソフォン独奏のための「ファネス2」[日本初演]
高昌帥 - アルトサクソフォンとピアノのための「ぬばたまの…」  
クリス・スウィシンバンク - ソプラノサクソフォンとエレクトロニクスのための「something golden in the night」
ピエール・ブーレーズ - サクソフォンとテープのための「二重の影の対話」
田中カレン - アルトサクソフォンとエレクトロニクスのための「ナイト・バード」

冒頭のドビュッシーは、ピアノの面白さが際立った。自分がイメージとして持っていた「およそこのくらいの響き」という枠を押し拡げるような、ちょっと聴いたことのない響きが連続した。和声の響きのみならず、各声部がほぐれていくような、柔らかい音並び(テンポも少し控えめ)。ピアニストの松岡さんは、この作品を「初めて弾いた」とおっしゃっていたので、そういうバックグラウンドがそうさせた部分もあったのかもしれない。サクソフォンとしても、難易度の高いヴァンサン・ダヴィッド編の楽譜を相当作りこんであった。技術的な部分をしっかりとクリアして、室内楽としての妙を聴かせるような演奏だったと思う。

ジェルヴァゾーニ作品は初めて聴いたが、特殊奏法を多分に含めつつ、耳に優しい音の並び(まるでポピュラー音楽のような)が、時折混ぜ込まれるのが面白い。全体的にはかなり難易度が高い。その中で作品がもつ繊細さをしっかりと表現することは大変だと思うが、お見事!のひとことである。音符間の時間間隔の伸縮のような雰囲気から、何となく日本作品のようなイメージも受けたが、そういった要素は関係ないみたい。

高昌帥作品は(この日演奏された作品群の中では)際立ってわかりやすく、かつ、聴きやすいものであり、もっと多くの方に演奏されて然るべきものだと思った。もともと、長瀬敏和氏に献呈されたとのこと。サクソフォンの叙情性や機動性を見事に織り込んでいる内容。ハルカさんの演奏は(もちろん基本的には冷静なのだが)ある瞬間では作品へと没入して、その中から何が出てくるかわからないものを引っ張りだしてくるような、そんな個性も垣間見えて、作品と、演奏者の性格との相性の良さ、のようなものも感じた。

休憩を挟んで、後半はエレクトロニクス作品。スウィシンバンク作品は、舞台上に配置されたギミックにスポットを当てて浮かび上がる影絵と、演奏がリンクしていく、というもの。サクソフォン、そしてエレクトロニクスの響きがマッチして、機械のパントマイムを見るような、なんとも言えない不気味さを演出していた。あのギミックはどんな仕組みなのかなあと(意外と回転がスムーズでびっくり。モーターはUSMかな…?)ぼんやり考えるなど。

本日のメインとなる大作「二重の影の対話」は、こちらもかなり気合いの入った演奏。正直、この作品は音運びが速くかつ鋭くて、耳と頭がついていかないのだが、裏付けのある技術と、作品そのものの魅力を伝えようとする立ち振舞いには、大きな感銘を受けた。ちなみに、スピーカーから流れるプレ・レコーディング・パートについても、上手いなあと思いながら聴いていたのだが、なんとハルカさんご自身の録音とのこと。準備も相当大変であったはずだ。エレクトロニクスは有馬氏だったが、相変わらずのみごとな音響セッティングであった。

「ナイト・バード」は、実質的なアンコールのような扱いだった。照明を効果的に利用し、まるで海の中のような音響・視覚効果で魅せ、最後を締めくくるに相応しい。

ということで、お盆二日目、なかなかボリュームのあるプログラムを聴くことができ、嬉しかった。普段あまり活動していない関東圏でのリサイタル開催に対しては、準備や宣伝等難しさがあったと思う。またぜひ関東でも大きな機会を作ってやってほしいものだ。

打ち上げにもお邪魔し、初めてお会いする方も多く、楽しい時間を過ごしたのだった。

写真は、スウィシンバンク作品で使われていたギミックの本体。何の形なのだろう?

2 件のコメント:

hiroe さんのコメント...

ハルカちゃんの演奏会行かれたのですね。
私も聞きたかったので羨ましいです><。そして長野帰省も羨ましいです!!もう何年も帰ってないので。。涙

kuri さんのコメント...

おーコメントありがとうございます。
長野県の空気、年間何度か感じないとやってられません(笑)都会は暑い…です!