2016/04/28

春の祭典サクソフォンバージョン(Saxophone Ensemble Zurich-Vienna)

こちらの記事(→http://kurisaxo.blogspot.jp/2013/07/blog-post_19.html)でも話題にしたサクソフォン版のストラヴィンスキー「春の祭典」、なんと今度はラース・ムレクシュ氏率いるSaxophone Ensemble Zurich-Viennaなる団体が取り上げた。3月に開かれた、Vienna International Saxfest 2016での演奏の様子。個人的にはESP版のほうが好みだが、まあ好みでしょう。

(前半)


(後半)


※前半・後半は中途半端な場所で切れている

ところで、版権は大丈夫なのかな…(事実、ESPが取り上げた際も一度公開停止に陥っていた)。

2016/04/27

ゴーブ「アウェイデー」サクソフォンバージョン

なんと、アダム・ゴーブ「アウェイデー」をサクソフォン・アンサンブルで演奏してしまった、という動画が現れた。吹奏楽の名曲/難曲として知られる本作品、確かにサクソフォンにマッチするかも…と夢想することはあるが、こうして実現してしまったことが驚きだ。演奏はEastman Sax Project。まあ、彼らは何でもできるからなあ…(あの「春の祭典」をサクソフォンアンサンブルで演奏してしまうほどの団体なのだから)。



編曲はJonathan Wintringham氏による、とのこと。ユージン・コーポロン指揮北テキサス大学吹奏楽団の名演を想起させるような、コンパクトかつスピード感溢れる演奏だ。

以下は、昔書いた同曲の曲目解説。

----------

イギリスの作曲家、アダム・ゴーブ Adam GORB(1958 - )は、10歳から作曲を独学で開始し、ケンブリッジ大学と英国王立音楽院を首席で卒業した。卒業後はロンドン大学のスタッフ、ロイヤル・アカデミー・ミュージック講師を歴任し、2000 年より、英国で最も権威ある音楽大学のひとつ、マンチェスターの王立北部音楽院の、現代音楽作曲科教務主任を務めている。

ゴーブは、1992 年に発表した管楽合奏のための作品「メトロポリス」によって、一躍その名を世界に知らしめた。同作のウォルター・ベーラー記念賞の受賞をきっかけに、主に吹奏楽分野での(演奏に相当なハイ・テックニックを要する作品を書く)作曲家として国際的に認知されている。数ある作品からは、鮮烈なリズム、躍動する音世界、ジャズからの影響…といった多彩な作風を特徴とすることが読み取れる。自身のルーツである、ユダヤ系民族の音楽をヒントに筆を進めることもあるという。また、「聴衆に与えるインパクトは音楽が持つメッセージ性の強さに比例する」とのゴーブ自身の哲学から、なんらかのテーマが埋め込まれた作品が多い。

「アウェイデー」は、ゴーブが王立北部音楽院吹奏楽団の委嘱を受けて発表した作品。王立北部音楽院吹奏楽団といえば、ティモシー・レイニッシュ教授の指揮下、世界でも指折りのスーパー・テクニックを披露するバンド。楽器の音域をフルに使いながら超高速で駆けずり回るスケール、鬼のような複合拍子、複雑奇怪なリズム…など、バンドとしての高い性能が求められるのは、ひとえにこの怪物のような技術をもつ吹奏楽団のレベルに合わせて書かれた所以だ。なお、実際の曲の雰囲気については、以下のゴーブ自身の言葉から読み取っていただくのが良いだろう。

「アメリカのミュージカル・コメディにインスピレーションを受けて、この7分間の序曲を書いた。この作品には、毎日が戦争のように忙しい人々が、全て忘れ、ついに思い切り休暇をとった!という開放感が表されているんだ。バーンスタインやストラヴィンスキー、ガーシュウィン、そしてジェイムズ・ボンドが、時速100マイルで走るオープンカーに乗って、一緒に旅行を楽しんでいる、というような様子を想像してみてくれ…。」

全体の構造は、単一楽章のソナタ形式。たった6分の間に、急-緩-急-緩-急-緩-急と、目まぐるしく曲想は変化してゆく。全楽器のユニゾンで演奏される短い序奏の後、まずトロンボーンによって基底となるリズムが示され、続いて木管楽器による、第1主題(急)提示部になだれ込む。いったん曲想が落ち着くと、弦楽器のようなレガートの第2主題(緩)が、サクソフォンにより演奏され、華麗に展開されてゆく。

2016/04/25

ミーハ・ロギーナ&李早恵さんのコンサート2016

【ミーハ・ロギーナ サクソフォンコンサート】
出演:ミーハ・ロギーナ(sax)、李早恵(pf)
日時:2016年4月25日 19:00開演
会場:アクタス ノナカ・アンナホール
プログラム:
ヤネス・マティチッチ - レプリック
フローラン・シュミット - 伝説
ニーナ・シェンク - インペトゥス
リヒャルト・シュトラウス - ヴァイオリン・ソナタ作品18
アレクサンダー・ローゼンブラット - カルメン・ファンタジー

演奏会に出かけて行くと、毎回新しい世界を見せてくれる、そんなデュオだと思う。

非常にヴァリエーション豊かな発音種類と、安定した(聴くたびにどんどん上手くなっている気がする)技術を武器に、コンテンポラリーからクラシックまで幅広く手中に収めるミーハ・ロギーナ氏と、ダイナミクスや音色の幅を追求し続けている(ように私には感じる)李早恵さんのデュオ。2007年のサクソフォーン・フェスティバル出演以来、日本ではお馴染みの存在だ。「有機的」という表現がぴったり、コンクール入賞歴も華々しい、素晴らしいデュオで、私も来日のたびに予定が合えば聴きに行っている。

今回は、スロヴェニアの作曲家の作品が2つ取り上げられた。マティチッチは、「古典的な歌」「狂乱」と名付けられた2曲からなる作品。2005年にスロヴェニアのサクソフォン奏者の委嘱で制作された。御年90歳、パリでナディア・ブーランジェに師事したこともあるとのこと。フランスとスロヴェニアを往復しながら作曲活動に勤しみ、ピアノ曲「12のエチュード」がフランスの音楽院の試験曲によく使われている。ニーナ・シェンクは、1982年生まれの女流作曲家。スロヴェニア国内外からの委嘱も多い、若手作曲家の一人とのことだ。

その2作品、特殊奏法を抑制した「レプリック」と、お構いなしに特殊奏法を使いまくる「インペトゥス」という、非常に対照的な風景が見えて、聴いていてとても楽しかった。特に「インペトゥス」の構成感や、リズムにはとても興奮させられた。その難易度の高い作品を、見事にアンサンブルするお2人の凄さ。"現代作品"ながら、会場がとても沸いたのだった。もちろん、その間に演奏されたシュミット「伝説」の、まるで草書体を描くような佇まいにも感心させられた。

後半は、更にパワーアップして、なんと暗譜で演奏されたシュトラウス「ソナタ」と、ローゼンブラットの「カルメン・ファンタジー」。こんな演奏ができるのか!と感じる瞬間が幾度も巡ってきて、サクソフォンの前提を覆そうとするかのような演奏内容だった。また、早恵さんのピアノのダイナミックさもますます冴え渡る。圧倒されたまま後半も終わってしまった。

アンコールはモーリス・ホイットニー「ルンバ」。この選曲は嬉しかった!1949年にシガード・ラッシャーに捧げられた作品で、ラッシャー自身による演奏映像も残っている。
https://www.youtube.com/watch?v=npH-DULg5lI

ちなみにミーハ氏、昨シーズンにウィーン国立音楽大学の指揮科を最優秀の成績で卒業し、この4月にはスロヴェニア放送交響楽団との共演で指揮者デビューを飾ったとのこと。今後、もしかしたら指揮を振るミーハ氏を見る機会もある…かもしれない(個人的にはどんどんサックスを吹いてほしいところだ笑)。

2016/04/22

Jean Matitiaのファミリーネーム読み方

サクソフォン交流会絡みで、「デビルズ・ラグ」「小さなチャルダッシュ」等で有名なJean Matitiaの日本語表記について調べる必要があった。ファミリーネームを、「マティシア」「マティティア」のいずれで表記するのが適切か、わからなかったのだ。調べてもイマイチ決め手に欠けたので、本人(クリスチャン・ロバ)に訊いてみることにした。すると、一瞬で返信があり…

My name is pronounced : MATHISIA !

とのことです。ということで皆さん、日本語では「ジャン・マティシア」と呼び/書きましょう。

ジャン・マティシアがクリスチャン・ロバ Christian Lauba氏のペンネームであることは、以前にもブログ記事で取り上げた

2016/04/21

真島俊夫氏逝去

突然の真島俊夫氏の訃報。驚いた。

直接お会いしたりお話したり、ということはなかったが、吹奏楽をやっている以上、避けては通れない作曲家/編曲家だった。演奏したことのある作品をつらつらと思い出してみると…「吹奏楽のための交響詩"波の見える風景"」「コーラル・ブルー〜沖縄民謡「谷茶前」の主題による交響的印象〜」「五月の風」「ベイ・ブリーズ」「三日月に架かるヤコブのはしご」あたりか。演奏したことはないが、最近のサクソフォン界では、「サクソフォン協奏曲"バーズ"」も有名だろう。

また、編曲物でも「宝島」「オーメンズ・オブ・ラブ」、そしてサクソフォン四重奏のために、というかトルヴェール・クヮルテットのために編曲された「マイ・フェイヴァリット・シングス」も印象深い。

あまりに沢山の作品に触れすぎて、名前も有名すぎて、吹奏楽の世界にいるのが当たり前のような作曲家だった。しかし、こうして突然の訃報に触れると、やはり寂しいものだ。ご冥福をお祈りします。

2016/04/20

更新が停滞中

先週、一週間ほど新婚旅行でモルジブへ。充実の環境で、人生でここまでゆっくりしたことはないかも、というくらい。

帰ってきてからも、いろいろと落ち着かないことばかりでブログを書く暇もないが、時間を見つけなければ。

とりあえず、4月末までは協会誌向けに注力するため、更新は引き続き滞る。3記事の執筆はなかなか重い。

2016/04/11

マスターズ・ブラス・ナゴヤ第1回定期演奏会

指揮の鈴木先生にご案内いただき、演奏会を聴きに伺った。吹奏楽の演奏会をじっくりと聴くのは久々だったが、素晴らしい内容であった。

【マスターズ・ブラス・ナゴヤ第1回定期演奏会】
出演:鈴木竜哉(指揮)、安東京平(ユーフォニアム)、愛工大名電高(トランペット・バンダ)
日時:2016年4月10日(日曜)14:00開演
会場:愛知県芸術劇場・コンサートホール
プログラム:
R.シュトラウス/鈴木英史 - 祝典前奏曲
三枝成彰/長生淳 - トランペット協奏曲(ユーフォニアム・バージョン、独奏:安東京平)
J.バーンズ - 交響曲第5番「フェニックス」

名古屋はここ数年来る機会が増えているが、愛知県芸術劇場に入るのは初めて。名古屋駅到着後、きしめんを頬張り、熱田神宮に寄り道してから、名城線で栄駅まで移動した。会場は、約1800人を収容できる巨大なホール。パイプオルガンを始め、充実かつ豪勢な内装が目を引いた。客入りは上々で、見た目9割5分といったところか。この人数を集めるのは大変だったと思うが、どのようなチケットの売り方をしたのだろうか。演奏団体の"マスターズ・ブラス・ナゴヤ"は、東海地区のプロフェッショナルの管打楽器奏者によって構成された団体。運営母体等は良く分からないのだが、創設にあたっては指揮の鈴木先生がいろいろと奔走したようである。

さて、プログラムを見てまず驚いた。まるでオーケストラの演奏会のような、シンプル、だがしかし、挑戦的な、メインに交響曲を含む3曲構成。このプログラムを見て、会場に来た吹奏楽ファンは何を思っただろうか。

編曲委嘱初演となった「祝典前奏曲」の(巨大なオルガンやバンダを含む)豪華絢爛なサウンドは、身体の奥底が震えるかのようだった。厚みを持って書かれた元スコアは、鈴木英史氏の手により見事に吹奏楽版へと生まれ変わり、独特のサウンドが立ち上がった。コーダ?部は圧巻。バンダ(名電はさすがだ…)の冷静な仕事も素晴らしく、オルガン、吹奏楽の響きとともに、会場中を満たしていた。圧倒的なサウンドの塊だ。

三枝成彰の「トランペット協奏曲」についてはそれほど知られていないと思うのだが、作曲者の言葉によれば「(ドイツの)ノルトハウゼン歌劇場管弦楽団の定期演奏会のために作曲したもので、…トランペット奏者には大変難しく、そして過酷な曲だと思います。そのため初演当時オーケストラで、はじめ予定していたゲストのトランペット奏者に出来上がった楽譜を見てから"難しすぎる"と断られてしまい、代わりに同管弦楽団の主席トランペット奏者が初演することになりました」という、難曲とのこと。聴いていた位置のせいか、ソリストの細かい音符までは聴き取れなかったのだが、独奏・伴奏ともに、難曲を集中力を保ったまま吹き続け、「寄せ集め」らしからぬ演奏を展開した。鈴木先生の手腕、独奏の手腕、各演奏家の手腕、それぞれの相乗効果だろう。

バーンズは、有無を言わせないような感動がある。日本の戦後復興をテーマにした4楽章構成の作品で、幾度もの場面転換を経ながら終結部へと向かう。最終部直前には「君が代」の主題を下敷きにした引用も聴かれた。45分という長い時間ではあったが、様々な箇所でフレーズを持続させる力を感じ、それがそのまま客席の集中力につながっていったと思う。名電のバンダ部隊も、一つ一つの音の存在らこそ高校生らしさを感じたが、トータルでプロフェッショナルに肉薄しようとする演奏で、驚かされた。大きな拍手とブラヴォー、アンコールで幕。充実した時間だった。

ちなみに、本日のサクソフォンセクションは、小森伸二氏、水野雄太氏、國領さおり氏、佐野功枝氏、遠藤宏幸氏という布陣。時おり現れるソロ、対旋律、セクションワークでは、非常に良い仕事を聴くことができ、楽しく/嬉しくなってしまった。

2016/04/04

テアトルサックス第3回公演"エジソン☆レボリューション"

聴けたのは休憩の後からだったが、とても楽しい演奏会だった。

テアトルサックスは、東京ミュージック&メディアアーツ尚美の卒業生により結成された団体。これまでのコンサートでは、テーマを設定し、演奏のみならず朗読や照明を交えながら、サクソフォン発明者の生涯を描いた「アドルフ・サックス物語」、松尾芭蕉の旅を描いた「てあとる版おくのほそ道」といった内容を上演している。準備段階にはきっとかなりの苦労があるだろうな、でもきっと面白い内容なんだろうな…ということで、今回初めて伺うことができた。

【テアトルサックス第3回公演"エジソン☆レボリューション"】
出演:テアトルサックス
日時:2016年4月2日(土曜)18:00開演
会場:台東区ミレニアムホール
プログラム:
S.フォスター/鈴木英史 - フォスター・ラプソディ
A.ドヴォルザーク - 弦楽四重奏曲"アメリカ"より第1楽章
J.ブラームス/松岡一樹 - ハンガリー舞曲第1番、第6番
M.トーク - July
JacobTV - Pitch Black
JacobTV - Grab It! x12


前半の3曲は、エジソンが活躍したアメリカ繋がり…と思いきや、「ハンガリー舞曲」は、何だろう。エジソンの蓄音機でジプシー音楽が録音されたことからの選曲かな?

後半は、"フェイズ"シリーズのスティーヴ・ライヒ繋がりでミニマル・ミュージックの「July」、さらに、録音再生技術と演奏の融合という意味での「Pitch Black」「Grab It! x12」が演奏された。「July」は私も実際に演奏したことがあるのだが、これ、超難しい、というかとにかく大変ですよね。そんなことを微塵も感じさせない、スタイリッシュな演奏だった。「Pitch Black」は、もっと積極的な(時にクラシックの奏法を崩すようなまでの)表現を聴きたかったが、高レベルであることは間違いない。「Grab It! x12」の日本初演は、素晴らしい内容で、この多人数が見事にサウンドトラックとともにグルーヴしており、感動的だった。

アンコールは、なんと「千本桜」。確かに、音声技術の進歩の歴史でいえば、"初音ミク"はここ最近、商用的に最もヒットしたソフトウェアの一つであろう。しかもミレニアムホールホールは上野から至近、ちょうど桜の満開の季節。これ以上ない、ベストな選曲で、唸らされてしまった。演奏は暗譜、ピンクの法被を着て、舞台上を所狭しと動きまわる、見た目にも楽しい内容で幕となった。