2016/01/23

ヴァンサン・ダヴィッド サクソフォンリサイタル

kuri出演情報:2016/2/14開催予定のコンサート、The Portrait of JacobTVの詳細は以下のリンクから。
http://kurisaxo.blogspot.jp/2016/01/the-portrait-of-jacobtv.html

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月曜日のことになるが、昭和音楽大学までヴァンサン・ダヴィッド Vincent David氏のリサイタルを聴きに伺った。現代最高のヴィルトゥオーゾの一人といって差し支えなく、だがしかしあまり来日の機会は多くなく、独奏でまるまる一本のリサイタルに接するのは初めて。

【ヴァンサン・ダヴィッド サクソフォンリサイタル】
出演:ヴァンサン・ダヴィッド(sax)、松浦真沙(pf)
日時:2016年1月18日 19:00開演
会場:昭和音楽大学ユリホール
プログラム:
C.Debussy - Rapsodie
V.David - Sillage
M.Ravel - Tzigane
P.Boulez - Dialogue de l'ombre double
L.Berio - Sequenza VIIb
V.David - Pulse
J.Massenet - "Meditation" from Thais(アンコール)
R.Noda - Mai(アンコール)

技巧レベルは想像を絶する。新幹線に乗りながら「最高時速って320km/hだよねー、速いなー」などと言っていたら、隣を600km/hのリニアモーターカーが追い抜かしていった、みたいな。一緒にトラック競技のレースをスタートして、スタートの瞬間に見えなくなったと思ったら、もう周回リードしていた、みたいな。インテルのオクタコアプロセッサ入ってますけど何か、みたいな。時代の最先端というより、時代を一歩先取りし続けているような、そんな印象を受ける。

圧倒的なダイナミクス…特に、上方向が凄い。無理な鳴らし方はせず、ごく自然に響きだけが増大していき、広いホールいっぱいに音が満たされる。「音量は控えめであることが、最近のフレンチ・サクソフォンの傾向である」などと思い込みがあったが、ダヴィッド氏の演奏を聴いて耳がすっかり洗い直されてしまった。大げさとも言えるダイナミクスの変化は、ちょっとテアトル的な要素を感じさせるものであり、

ドビュッシーは「シランクス」を吹きながら客席後方から入場し、間断なく「ラプソディ」への演奏へとなだれ込む演出。オクターブキイに水が溜まっていたのか、冒頭ちょっとヒヤリとする音も聴こえたのだが、すぐ復活。フレーズはあくまでもしなやかで、楽器が"アナログ"だということを再認識した。何百種類ものダイナミクスやアタックを使い分け、吹きつくされた「ラプソディ」に新たな生命を吹き込んだ。「シラージュ」は、自作のソプラノサクソフォンのための無伴奏曲。耳が追いつかないほどの怒涛の音並びや特殊奏法に、開いた口がふさがらない。どこをどうすりゃあんなの吹けるんじゃいな、というフレーズ、そして完璧なコントロールの連続で、サクソフォンの基準値をどこに設定すれば良いのかわからなくなってしまうほど。前半最後には、さらにパワーアップしての「ツィガーヌ」。通常音域を超えても、音楽が停滞せず、ごく自然に流れていく。

後半は、つい最近鬼籍に入ったばかりのブーレーズ氏の作品。ダヴィッド氏は、サクソフォン版の「二重の影の対話」の初演者であるが、このタイミングで、氏の演奏を聴くことができるとは思わなかった。激烈に難しい作品であるが、もはやこの流れの中では"古典"として聴こえ、また、ブーレーズの筆致の高尚さにも改めて思いを馳せることとなった。「セクエンツァVIIb」は、いつだかダヴィッド氏が来日したときにも吹いていたなあ…と思い出した。作品の構造は横の流れを観客に見せてこそ見えてくるのだ、と言わんばかりの、スポーツカーのような速さの演奏であった。最後は映像を交えたアルトサクソフォンの無伴奏曲「パルス」。かなりポップでリズミックな曲調で、聴きやすいが、技巧的には相当突っ込んだことを、安定してやってのけるものだから恐ろしい。楽譜見てみたいな…(笑)

アンコールは、まさかの「タイスの瞑想曲」、そしてまさかの野田燎「舞」(静止映像付だが、このような映像があるとは知らなかった)。いやー、最後の最後まで凄まじかった。

全曲暗譜、常識を覆す技巧や音楽の連続で、今後何を基準としてクラシック・サクソフォンを捉えていくべきなのか、困ってしまうほどだ。この驚異的な演奏を具現化する源泉は、もちろん練習にもあるのだろうが、それだけでは無いような気すらしてしまう…。

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