2015/10/25

ハバネラSQ&ブルーオーロラSQ八重奏コンサート

"祝祭"というキーワードが頭に思い浮かんだ。

ハバネラ・サクソフォン・カルテットの面々は、平野公崇氏のパリ国立高等音楽院時代の同窓生にあたる。平野氏とハバネラSQとの関係はその後もハバネラ・アカデミー等で続いており、そのような経緯から今回の共演が実現したとのこと。平野氏のMCからは、「念願の」といった雰囲気が伝わってきたのだが、演奏もまさにそのような感じだった。

【ハバネラ・サクソフォン・カルテット リサイタル】
出演:ハバネラ・サクソフォン・カルテット、ブルーオーロラ・サクソフォン・カルテット
日時:2015年10月24日(土曜)19:00開演
会場:青葉区民文化センター フィリアホール
プログラム:
J.リュエフ - 「四重奏のためのコンセール」よりアントレ
J.S.バッハ - 主に向かって新しき歌をうたえ
J.S.バッハ - 「ブランデンブルク協奏曲第3番」よりアレグロ
F.メンデルスゾーン - 弦楽四重奏曲変ホ長調より第1楽章
M.ラヴェル - 「クープランの墓」よりプレリュード、トッカータ
山田耕筰/平野公崇 - 「エスプリ・ドュ・ジャポン」より赤とんぼ
真島俊夫 - ラ・セーヌ
A.ボロディン - だったん人の踊り
山田耕筰/平野公崇 - 「エスプリ・ドュ・ジャポン」より江戸の子守唄(アンコール)
A.ピアソラ - ブエノスアイレスの春(アンコール)

自発性に満ちた音楽が聴衆の眼前に広がる。2つのカルテットは、サウンドの方向性も音色も音楽性も全く違うのだが、なぜこのように魅力的なのだろうか。普通に聴いていたら「ここの音色が完全には合っていません」という感想が出てしまうはずなのに、それ以上の何か…強烈な説得力があるものだから、もはや何も言えなくなってしまうのだ。圧倒的なスピード感、多彩なサウンド…。次から次へと繰り出される響きは、底抜けに楽しく、昨日とは違う意味での「言葉では説明できない」演奏なのであった。

フランス風序曲を模したリュエフの「コンセール」のアントレ(演奏会の開始に、なんと相応しいことか)は、なんとダブルパート、8重奏での演奏。バッハでは、ポリフォニックな響きが会場をいっぱいに埋め尽くす。アンサンブルとして(個人的な感想だが)最も素晴らしい演奏を展開したメンデルスゾーンの緻密な連携プレーには、大変興奮させられた。ラヴェルでは、サクソフォンならではの機動性が光り、和声のスピーディな進行の連続を見事に表現してみせ、「赤とんぼ」ではあの冒頭のクリスチャン・ヴィルトゥ氏の超々極小の音!にやられてしまった…この2日で最も驚かされた音だったかもしれない。真島俊夫の「ラ・セーヌ」やボロディンは、演奏会のフィナーレへと向かって楽しさ、嬉しさが爆発し、その興奮の渦に会場全体が巻き込まれていくような、そのような稀有な時間を過ごしたのだった。

実に楽しい演奏会だった。文化人類学における"祝祭"とは、人々が日々の営み(所謂「仕事」)の中で少しずつ生産し続けた剰余を、ある瞬間に一気に使い果たす行為であるとされる。今宵の演奏会で、「蕩尽」とも形容されるような、たった2時間弱における圧倒的消化を目の当たりにしたのだった。非日常的な空間の共有を、演奏者と、聴衆、双方が期待し、その化学反応が期待を大幅に超えて進んでしまった…まさに、未曾有の体験であった。

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