2015/02/04

第34回サクソフォーンフェスティバル2015(その2)

フェスティバルの感想。前回の記事のつづき。

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♪第31回日本管打楽器コンクール入賞者披露演奏 - 斎藤健太
吉松隆 - ファジィバード・ソナタ

第二位と第三位の方は、二次予選での演奏曲を、第一位の方は本選での演奏曲を、それぞれ演奏するのが慣例となっている。斎藤さん演奏の「ファジィバード・ソナタ」は、もちろん初めて聴いたのだが、イントロのカチッとした演奏や、また全体を通してスタイリッシュな佇まいなど、ライヴとは思えない安定感など、新世代の演奏家として持つべき資質を多く備えていると感じるのだった。小ホールから大ホールに移動した直後で、自分の耳が慣れておらず、少し音場が遠目に聴こえた。

♪第31回日本管打楽器コンクール入賞者披露演奏 - 松下洋
T.エスケシュ - リュット

私自身が初めてこの作品をYouTubeか何かで聴いたときは、頭の上にはてなマークが付いたのだが、今では、噛めば噛むほど味わい深いというか、奥深い素敵な作品だなと感じている。松下君の、この曲に対する没入度合いは相当なもので、またホールをよく満たす音響とも相まって、聴き手としてはハードな作品ながら、曲の魅力を存分に伝える演奏だったと思う。どんな曲も魅力的に聴かせてしまう、だなんて、夢想はするけどなかなか大変なことだ。こういうことができる演奏家はなかなか稀だと思う。あの独特の衣装(松下君本人の言葉によれば「アディダスのジャージに見えると言われた」とのこと)については、周囲から「マイケル・ジャクソン…」との声が漏れており、なんだか可笑しかった。

♪第31回日本管打楽器コンクール入賞者披露演奏 - 中島諒
A.ウェニアン - ラプソディ

かつしかシンフォニーヒルズで聴いた大賞演奏会の様子を思い出す。あの時も、暗譜で、ホールをしっかりと鳴らし切る音で闊達に吹いていたなあ。今回はピアノとのデュオであったとはいえ、スケールの大きさを堪能した。初めて、拝聴したのは、彼がまだ高校生の頃だったが、もう大学院生なんだなあ。スタンダードなレパートリーについてはもはや当たり前のように上手く、作品の良さを聴き手にプレゼンテーションする能力に長けている。「未知の」レパートリーを、世に問うような、また、サクソフォンの素晴らしさを、未だ知らない人に広めるような、そんな活動にも飛び込んでいって欲しいなあと思う。例えば、ロバの「カブキ」の演奏や、管打での「アラベスク3(直接聴いてはいないが、話を聞く限り)」は、そういった境地に達するものであった。

♪第4回ジャン=マリー・ロンデックス国際コンクール優勝者披露演奏 - 松下洋
N.プランチャロワン - マハ・マントラ

昨年の、第4回ロンデックス国際コンクールでの松下君優勝のニュースは、驚きと賞賛を持って迎えられた。コンクールのすべての模様は中継&録画配信されており、私も本選での演奏はYouTubeでしっかりと観たのだった。思いがけずこのような場でその演奏を再度聴くことができ、嬉しい。エキゾチックなテイストあふれる、独特な作品であり、モードの影響を色濃く感じる旋律、民族楽器を模した特殊奏法(ストロー「オープン・シティ」ばりの二本同時奏法まで!)などが、耳に残る。が、決してワケノワカラナイ作品ではなく、すっと耳に入ってくるのは、やはり私がアジア人だからなのだろう。松下君の演奏は、上にも書いた通り、聴き手が初めて耳にする作品であっても、演奏で納得させてしまう、という才能を、この曲でも感じた。ピアノ黒岩くんとのアンサンブルも、おなじみになったが、相変わらずの強力なアンサンブルである。

♪須川展也が俯瞰するサクソフォーンレパートリー - 須川展也、小柳美奈子、SAXBAND、フェスティバル・サクソフォーン・アンサンブル
G.カッチーニ - アヴェ・マリア
狭間美帆 - 秘色の王国
J.ドーシー - ウードルズ・オブ・ヌードルズ
長生淳 - パガニーニ・ロスト
M.エレビー - シナモン・コンチェルト

フェスティバル・コンサートが一人の奏者をピックアップして企画されるのは、1997年のボーンカンプ氏来日リサイタルくらいではないだろうか。チラシもどかんと須川氏を載せて、全面推し、というような感じ。ここ数年の、須川氏の活動やレパートリーを一気に俯瞰できる内容となっており、とってもお得。もちろん、個人的にも大変興味深く聴いた。須川氏の演奏や活動の凄さはいまさら説明するまでもない。美しい音色と圧倒的な響き、整ったフレージング、超絶技巧も何のその、といった強力な武器を使って、作曲家や演奏家とのコラボレーションにより多くの聴衆にサクソフォンの魅力を伝えている。誤解を恐れず言えば、日本のサクソフォンが、須川氏に負っている部分の大きさたるや相当なもの、なのである。
最初の2曲は、奥様である小柳美奈子さんとの共演。日本を代表する室内楽の1つだ。カッチーニの「アヴェ・マリア」の儚げなメロディの美しさを歌い上げ(だが決して嫌味にならない)、さらに新作初演となる狭間美帆氏の「秘色の王国」では、タイトルからは想像もつかないようなハードかつファンキーな響きをがんがんと聴かせる。この新作、全編を通して良い作品と感じたが、第三楽章はかなり人気が出そうだ。
続いて、須川展也SAXBANDと須川氏の共演。お弟子さんたちと組んだアンサンブルで、「ウードルズ・オブ・ヌードルズ」「パガニーニ・ロスト」という、対照的、しかしどちらも超超テクニカルな作品たち。まるでお祭りのような楽しさで、一気に聴き通してしまった。
最後は、エレビーの「協奏曲」。もともとは吹奏楽のために書かれた作品を、サクソフォン・アンサンブル版に編み直したそうだ。なんとかっこいい。吹奏楽とサクソフォンのために書かれた作品の中でも、際立って楽しい作品と感じた。これはCDを買わないと!

♪フェスティバルオーケストラ
A.グラズノフ - バレエ音楽「ライモンダ」より

12年にわたってサクソフォーン・フェスティバルを聴いているが、フェスティバルオーケストラはずいぶんと布陣が若くなったなあ、という印象。平均年齢を算出したら、面白いかも。

♪SAX大合奏2015
G.ホルスト - 「惑星」より木星
J.P.スーザ - 星条旗よ永遠なれ

最近は、最後のこの企画までしっかり聴くようにしている。ホールを満たす大音響からは、なんとも形容しがたい感動を受ける。

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以上。毎度のことながら、フェスティバルを企画運営する、実行委員長ほかスタッフの方々に大感謝!である。こうして楽しく聴けるのも、裏で働いてくれている皆様のおかげだ。

来年は、上田卓氏が実行委員長で、2016/2/26,27に開催予定とのこと。

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