2013/08/21

シガード・ラッシャーの最高の録音は…

しばらく現代の演奏ばかり聴いていたせいで耳が飽和してしまったため、原点に立ち戻ってマルセル・ミュール、シガード・ラッシャー、ダニエル・デファイエ、ジャン=マリー・ロンデックス各氏の往年の録音を聴いている。フランスの御三方については木下直人さんに復刻していただいた珠玉の録音がたくさんあるし、ラッシャー氏についてはこれがほぼ全てをカヴァーしている。

ラッシャー氏の史上最高の録音は何だろう。正直なところ、フランスの名手と比較した時に多くの録音はテクニカルな面で劣っており(音程・リズム等)、時に鑑賞に耐えない録音すらあるほどだ(暴言失礼…)。しかし特筆すべきはその音色である。"無菌室で培養したような(パイパーズに寄稿した時の文句)"極めて純度の高いサウンドは、現代にも通じるほどのもの。さらにフラジオ音域ではますます輝かしく、映えている。"はまった"時の氏の演奏ほど魅力的なものはない。

いくつかの協奏曲の録音が素晴らしい。エルランド・フォン=コックの「協奏曲」での透明感のある演奏は、ミュンヒェン・フィルの好演も相まって素晴らしい効果を上げているし、ヘンリー・ブラントの「協奏曲」ではアメリカン・エンターテイメントと言えるような底抜けた楽しさを表現している。商用録音では、この2点がお気に入り。

それらを越えて、まさに"最高"と言えるのは、デモ用としてヨーロッパにおいて収録されたJ.Gurewich「Capricchio」の録音である。まだ1935年5月3日、ピアノのJean Doyenとの録音で、圧倒的とも言える技巧。フラジオ音域も含んで大見得を切ったあとは歌心に溢れたフレーズ、そして最終部の激流のようなフィンガリング。現代に氾濫するサクソフォン・ソロの録音をまとめて吹き飛ばしてしまうほどの印象だ。ラッシャー氏がそのキャリアの内で到達したひとつの極地と言い切ってしまって良いだろう。

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とはいえ、ふとデファイエ氏の録音を聴くとまたそちらかは離れられなくなってしまったり…笑。これだけ聴き続けても常に新鮮な感動を味わえる楽しさよ。

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