2012/11/30

山下友教 plays Worksong on YouTube(音のみ)

YouTubeでクリスチャン・ロバChristian Lauba作品について調べていたら、最近なにかとお会いする機会の多い山下友教さんの演奏録音を見つけた。山下さんは昭和音楽大学大学院に在籍されているサクソフォン奏者。武藤賢一郎氏に師事し、学内外の各種コンクール・オーディションで入賞しまくっているとのこと。昭和音楽大学のなかでも、かなり急先鋒的な?位置を占めているということだろうか。

その山下さんの「Worksong」の演奏録音である。Doug O'Connor氏に献呈された、ロバのエチュードの中でも「Tadj」と並んで好きな曲の一つ。先日の角口圭都さんのコンサートでも聴いたばかり。特に中間部からの音のバラマキ具合が強烈で、委嘱者であるオコナー氏のスピードに勝るとも劣らぬほど。徹頭徹尾の強い集中力も素晴らしい。一緒にアップロードされたと思われる「Jungle」もかなりのもの。



最近の若い演奏家の中にはとても尖った演奏をされる方が多く、とても面白い。「尖った」というのは、演奏のテクニックやキレ、音楽性だけではなく、取り上げるレパートリー、活動の方向性や演奏会の企画内容など、総合力で強烈なベクトルを持っている方のことである。この「Worksong」を聴いていると、山下さんもきっとそういったカテゴリーに属するプレイヤーなのだろうな、と感じる。

2012/11/29

Mobilis Saxophone Quartetファーストアルバム

ウィーンで学ぶサクソフォン奏者によって結成されたMobilis Saxophone Quartetのファーストアルバム「Ligeti - Desenclos - Bozza - Nagao(Gramola Records 98937)」をご紹介。最初は、なんだか日本人ぽい風貌の女性が写っている海外のサクソフォン四重奏団のジャケットをAmazonで偶然見つけ、なんとなく購入したのだった。メンバー4人の出身国は、オーストリア、スロヴェニア、日本、クロアチアと、バラバラである。ソプラノのKrenn氏と、岩田さんはご夫婦。

Michael Krenn
Janez Ursej
Yukiko Iwata(岩田享子)
Goran Jurkovic

公式ページに掲載されている岩田さんのプロフィールを読むと、2003年から2005年までミュージック&メディアアーツ尚美で岩本伸一氏にサクソフォンを学び、その後ウィーン国立大学でOto VRHOVNIK氏に師事したとのこと。その後ウィーンに留まり、演奏活動を続けていらっしゃるそうだ。んー、同い年ということでなんとなく親近感がわくな。

サクソフォン四重奏の古典と新曲をバランスよく収めたアルバム。デザンクロやボザなど、なかなか現代のカルテットは取り上げるのは勇気がいるものだろうが…。録音の解像度は少々低いが、それでも演奏の素晴らしさは良く伝わってくる。冒頭のリゲティ(ギョーム・ブルゴーニュ編ではなくおそらくF.Oehrliの編曲)からスピード感あふれる快演だ。個人的に気に入っているSonic Art Saxophone Quartetの演奏と渡り合うほどの録音だと思った。

フレンチ・アカデミーの2曲は、デザンクロは特に第1楽章などさらに高精度の演奏が期待できると思ったが、それでもレベルの高いことに間違いはない。デザンクロの第2楽章しかり、ボザのアンダンテしかり、とてもリラックスしているように聴こえるが、これはぜひ実演で聴いてみたいところだ。

長生淳「四重奏曲」はかなり気合いのはいった演奏。冒頭の不協和音から一気に聴き手を引き込み、複雑なリズムを一気に聴かせてしまう。もっとも印象深かったのは第3楽章である。アンダンテ楽章ほどさらにテンションは高く、濃密に聴こえてくる。その高い集中力が、第4楽章で一気に開放され、ファナーレへと向かう様子が圧巻だった。トルヴェール・クヮルテットの演奏を聴いたことは無いのだが、アプローチの違いなど気になるところだ。

CDのAmazonでの購入リンクはこちら→Mobilis Saxophone Quartet。比較的安価なので、興味ある方はぜひ。岩田さんがメンバーにいらっしゃるということで、これはぜひ来日&リサイタルを期待してしまいますなあ。なんとか実現させてもらえないものだろうか。

山浦雅也 サクソフォーンサロンコンサート

「サロンコンサート」という軽ーい気分で聴きに伺ったら、とんでもなく重量級のプログラム。お腹いっぱいになって帰ってきた。

【山浦雅也 サクソフォーンサロンコンサート】
出演:山浦雅也(sax)、大堀晴津子(pf)
日時:2012年11月28日(水)19:00開演
会場:アーティストサロンDolce(管楽器アヴェニュー東京内)
プログラム:
P.M.デュボワ - りす
P.M.デュボワ - うさぎとかめ
C.ドビュッシー - ラプソディ
H.ヴィラ=ロボス - ファンタジア
石川亮太 - 日本民謡による狂詩曲
高橋宏樹 - ガーネット・ゼロ
長生淳 - 天国の月
本多俊之 - マルサの女(アンコール)
P.モーリス - 愛する人への歌("プロヴァンスの風景"より)(アンコール)

山浦さんの演奏は、Quatuor Bのアルト奏者としては聴いたことがあったものの、独奏はこれまで聴いたことがなかった。今回のコンサート、情報を知った頃には売り切れてしまっていて諦めていたところ、ご本人から連絡を頂戴し、聴けることになったのだった(ありがとうございました)。そういえば、ドルチェに伺うのも久々。客層が、なんかいつもと違う。女性ファンの方も多かったかな?

プログラム冊子には載っていない、デュボワの小品「りす」から始まった。丸く輝かしい音色(ゴールドプレート?)や安定したテクニックといったところは最近のトレンドでさすがに驚くことはないが、感銘を受けたのは強固なテンポ感・リズム感である。聴いていて安心して身を委ねることのできるグルーヴを強く感じた。想像だが、きっとピアニストも合わせやすいのではないかなあ。だからと言ってガッチガチの演奏というわけではなく、そのテンポ内で歌ったり飛んだり跳ねたりの味付けが実に楽しい!

MCを挟みながらの演奏。そういえばドビュッシー「ラプソディ」の前には、「天候の移り変わりをイメージして…」との示唆があったのだが、なんだか妙にしっくり&共感を覚える解釈で、ここは五月雨だとか、ここは雷とか、そんなイメージを持ちながら聴いたら、やや掴みどころがなかったドビュッシーが突然リアルさを持って眼前に迫ってきたのだった。強固なスタイルの上に構築された、音色・テンポ・和声感の自由自在な変化…個人的には、本日の演奏の白眉であった。

ヴィラ=ロボスで、ソプラノサックスの演奏を聴けたのも幸いだった。ソプラノサックスはぜひホールで聴いてみたいな。第2楽章での曲が持つ陰鬱さは身を潜め、どちらかと言うとキラキラ系(?)の演奏だったが、もともと持つ音色の明るさもあるのだろう。

後半は、日本人作曲家選。須川展也氏に献呈された「日本民謡による狂詩曲(カデンツァを会津若松の民謡に切り替えたスペシャル・バージョン)」と「天国の月」。そして小山弦太郎氏に献呈された「ガーネット・ゼロ(MCでアナグラムに関する話があったが、Garnet0 = Gentat0ということ)」。特に、メインとなった「天国の月」での冴えたテクニックには、会場一同沸いたのだった。「ガーネット・ゼロ」は初めて聴いたが、ロマンティックな部分やケルト風の部分もあって、とても楽しかった。

アンコールに、「マルサの女」。客席に本多俊之氏臨席…このハッスルコピーから出版されたソプラノサックスとピアノのバージョンは、なんと山浦雅也氏の初演だそうだ。奏法を崩しつつ、アドリブ風の部分もバッチリ決めて、大いに盛り上がった。最後はしっとりとモーリス「愛する人への歌」。

仕事もドタバタな時期だったが、なんとか聴けて良かった。すでに山浦氏は演奏のスタイルとして確立されたものを持っているんだなあ…今後ますます活躍していただきたい!そして、今度はぜひ大きいホールで聴いてみたいな。

2012/11/26

Special Hand'ling

Lawrence Gwozdz氏がヘンデル作品を取り上げたCDをご紹介。Lawrence Gwozdz氏は、ニューヨーク生まれ。ラッシャー派の高弟のひとりで、のちに南ミシシッピ大学においてサクソフォン科の教授となった。CD録音が多く、ラッシャーに関連した作品をいくつも吹き込んでいる。ご存知のかたはご存知であろう、グラズノフとフォン=コックのオーケストラ版マイナス・ワンCD付き楽譜は、Gwozdz氏によるお手本演奏が付属している。

「Special Hand'ling - The Music of George Frideric Handel(Romeo 7216)」というタイトルで、サクソフォンとハープシコード、チェロという編成。無造作なジャケットに期待も高まる(?)が、CDを再生してみれば聴こえてくるのはまぎれもなくバロックの響きである。控えめなヴィブラートとややこもり気味にも聴こえる純度の高い音色は、まさにラッシャー派のスタイルそのものであり、嬉しくなってしまった。

ヴァイオリン・ソナタ ホ長調 Op. 1, No. 15, HWV 373(ミュール編)
リコーダー・ソナタ ハ長調 Op. 1, No. 7, HWV 365(ミュール編)
ヴァイオリン・ソナタ第5番 ト短調 Op. 1, No. 10, HWV 368(ミュール編)
組曲第5番 ホ長調 HWV 430 - 第4楽章(ラッシャー編)
フルート・ソナタ ホ短調 Op. 1 No. 1b, HWV 359b(ミュール編)
ヴァイオリン・ソナタ第7番 ニ長調 Op. 1, No. 13, HWV 371(ラッシャー編)
ヴァイオリン・ソナタ第6番 ヘ長調 Op. 1, No. 12, HWV 370(ラッシャー編)

淡々と演奏されるが、音色や音量が現代サクソフォンのそれとはかけ離れているため、弦楽器やハープシコードともかなり良いバランスである(それでももちろんサクソフォンの存在感が一番だが)。ミュール氏やデファイエ氏のスタイルだと、こうはいかないだろう。トリルがかかる部分なんて、とても魅力的な音がする。編曲は、ミュール氏、ラッシャー氏、それぞれを使っているというのも面白い。

2012/11/25

三連休おわり

ということで、三連休おわり。一日目は諏訪市で演奏会。二日目は実家で動画のカット編集に四苦八苦し、その後伊那市民吹奏楽団の演奏会を聴きに行っていた。今日は法事と、その後親戚との会食。来週こそは楽譜書きの時間を取らなければ。

東京に戻るときは13:45の中央道上りの高速バスに乗車したのだが、事故があった影響で凄い渋滞!甲府を過ぎたあたりの最初の渋滞を抜けるまで1時間30分ほどかかり、さらに八王子からまたまた渋滞。これはたまらんと日野で途中下車し、モノレールとJRと私鉄を乗り継いで帰ってきた。到着時刻は19:50。うーん、6時間もかかってしまった…鈍行列車で帰ってきたほうが早いくらい(苦笑)。まいった。

伊那市民吹奏楽団第35回定期演奏会

自分用メモ:自分たちの演奏会の様子を収めたDVD(オーソライズ済み)のカット編集を行う場合は、Avidemuxを使う。昨日、どのようなフローでやれば良いのかわからず、半日まるまる四苦八苦してしまった。本当は元のファイルがあればいちばん良いのだが(^^;

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【伊那市民吹奏楽団第35回定期演奏会】
出演:伊那市民吹奏楽団、上伊那農業高校吹奏楽部(共演)、金沢茂(指揮)
日時:2012年11月24日(土曜)18:00開演
会場:長野県伊那文化会館・大ホール
プログラム:
J.ウィリアムズ - オリンピックファンファーレ&テーマ
福田洋介 - 風之舞
W.テーリヒェン - ティンパニ協奏曲(客演:奥田昌史)
吉松隆/福田洋介 - 「平清盛」テーマ
L.プリマ - シング・シング・シング
RM&RB.シェアマン - 小さな世界
L.ハーライン - 星に願いを
E.ジョン&H.ジマー&T.ライス - 「ライオン・キング」メドレー
R.ヘルナンデス - エル・クンバンチェロ

帰省中に、地元の吹奏楽団の演奏を聴きに行ってきた(妹とその友達が乗っているのだ)。そういえば地元にいたころは一度も聴いたことがなかったのだが、なぜだろうな。

設立が1976年というとても歴史ある団体。しかし、意外なことに20~30代までの団員が75%以上を占めており、そのためか選曲もなんとなく若い感じ。指揮の金沢茂氏は東京交響楽団出身のトロンボーン奏者で、この春からホクト文化ホール(=長野県県民文化会館)の館長に就任している。前半が金沢氏の指揮、後半が団員の指揮。

最初のウィリアムズから聴こえてくるストレスフリーな音色。いわゆる一般バンドの、理想形である。さすがにオリンピックファンファーレはさらにエッジの効いた音が聴きたいとも思ったが、「風之舞」には、とてもマッチする。演奏者の曲に対する共感度も高い。テーリヒェン「ティンパニ協奏曲」は、曲名も初めて聴いたのだが、聴いても演奏しても難しそうな作品だった。特に急速楽章ではバンドも高い集中力で演奏しており、楽しめた。ティンパニ単独で演奏されたアンコールは、何という曲だったのだろう?

後半はポップス。風之舞の作曲者である福田洋介氏が「平清盛」をアレンジしているとは知らなかった…。演奏者も聴衆もよく知っている曲は、やはり盛り上がる。「シング・シング・シング」「ライオンキング」や「エル・クンバンチェロ」はさすが、圧巻であった。

2012/11/24

TSQコンサート@音ギャラリー風我

昨日11/23、Tsukuba Saxophone Quartetでのプライヴェートコンサート@長野県諏訪市「音ギャラリー風我」。メンバーCのおばあ様の米寿と、私の祖母の傘寿をお祝いコンサートだった。

7:20新宿発の高速バスに乗って、諏訪インターまで。およそ3時間で到着。早めの昼食を近くのファミレスでとり、歩いて会場まで移動した。諏訪インターから徒歩わずか10分、静かな住宅街のなかという立地。12:00に会場入り。もともと古民家だった建物の内装を改造し、3年前からホール・ギャラリーとして貸し出しているそうだ。ざっと40人ほどは入れそうなスペース、ザイラーのピアノと薪ストーブ、キッチン、控室と、とても綺麗で落ち着いた場所だった。

会場準備とリハーサルを行い、15:00に開演。セットリストは、下記の通り。バッハは、スペシャルゲスト、日下部任良さんによる演奏。

小六禮次朗 - 四季のさくら
P.ボノー - ワルツ形式によるカプリス
J.S.バッハ - フルート・パルティータBWV1013
J.M.ルクレール - デュオ・ソナタ
福井健太 - 超演歌宅急便
オムニバス - 四季の童謡
岡野貞一 - ふるさと(アンコール)

親族を始めお知り合いばかり、ほぼ満員のお客様の前でMCもはさみながら。休憩なしで、前半が独奏、後半がアンサンブル。あたたかい雰囲気のなか、演奏を終えることができた。アンコールの前に祖母に花束を渡したのだが、とても喜んでもらえてうれしかった。終演後は、持ち寄ったお菓子でお茶会。

また、個人的にうれしかったのは、木下直人さんと奥様がいらしてくださったこと。事前にも聞いてなかったので、驚いてしまった。おみやげ(後日紹介します)までいただいて、恐縮である。運営に関しては、ソプラノCのご家族の皆様に大変お世話になった。この場を借りて御礼申し上げる。

長野での演奏は、2008年以来となった。今回は急な企画だったので本格的な宣伝は控えたのだが、またいつか長野県でのコンサートを企画したい。

2012/11/23

おそらくマルセル・ミュール参加!バレエ「放浪の騎士」

島根県のF様からお送りいただいた録音は、これで最後。ジャック・イベールのバレエ音楽「放浪の騎士」、ジョルジュ・ツィピーヌ Georges Tzipine指揮フランス国立放送局管弦楽団の演奏である。録音は1955年、Bourg BG3003という型番。ジャケットには、Grand Prix 1956 de L'academie du disque francaisとの但し書きが。

恥ずかしいことにこの作品を聴くのは初めてだったのだが、豪華絢爛な響きに一発でノックアウトされてしまった。派手でカッコイイ部分と、叙情的な部分がうまくミックスされており、イベールの真髄ここに極まれり、という感じである。サクソフォンが各所で大活躍するのだが、おそらくこれはマルセル・ミュール氏の演奏だろう。全盛期からは時代的にややずれているものの、深みのあるヴィブラート、透明感ある音色など、ミュール氏の特徴がよく出ている。緩徐楽章のみならず、急速部で縦横無尽に駆け回るサクソフォンパートは、この時代のオーケストラにおけるサクソフォンの用例としても珍しいものではないだろうか。

ちなみに、なんと無伴奏のカデンツァまで!イベール「室内小協奏曲」のカデンツァを思い起こさせる圧倒的な存在感だ(なんとなく音形も似ているような)。

すっかり忘れていたのだが、2008年にマルセル・ミュール氏のヴィブラートに関連してこんな記事を書いていた。ミュール氏が、「放浪の騎士」の騎士について短いながらも語っている。

2012/11/21

11/23長野県でのミニコンサート

今週金曜日(11/23)に、Tsukuba Saxophone Quartetで長野県での小さな本番がある。音ギャラリー風我という素敵なスペースで、お知り合いを中心に呼んで開催するコンサート。比較的軽いプログラムなのだが、お近くの方はぜひお越しくださいませ。詳細はこのイラストをクリックしてご確認を…。

お越しいただける方は、事前にkuri_saxo@yahoo.co.jpにご連絡いただけると嬉しいです。よろしくお願いします。

2012/11/20

VSOファーストアルバムのプロモ動画

ウィーン音楽院教授、Lars Mlekusch氏率いるVienna Saxophonic Orchestraが、このたびファーストアルバムをリリースしたのだが、昨日そのプロモ動画がYouTubeにアップされた。



冒頭に奏でられるDuncan Youngermanの「Solastalgia」というミニマル作品の演奏が面白い。このYoungermanという作曲家は、「Stan the Man」というサクソフォン・デュオ曲を作曲していることで名前を知っている方も多いと思うが、まさかこのようなサクソフォン・オーケストラのための作品を手がけたとは知らなかった(委嘱作品のようだが)。そのほか、古典から現代曲、果てはフュージョンまでと幅広い。

入手方法について唯一の日本人参加者である岩田享子さん(享子・クレンさん)に伺ったところ、レーベルはGramolaで、そのうちAmazon.co.jpでも取り扱い開始するだろうとのこと。入手次第、ブログでも紹介していきたい。

2012/11/19

菊地麻利絵さんリサイタルの録音

菊地麻利絵さんにお願いして、このリサイタルの録音を頂戴した。とても興味深い(そしてヘヴィな!)プログラムだったのだが、さすがに平日昼間ということで伺えず悔しい思いをしたのだった。

菊地麻利絵(sax)、大嶋千暁(pf)
J.ドゥメルスマン - オリジナルの主題による幻想曲
F.デクリュック - ソナタ嬰ハ調
J.リュエフ - ソナタ
R.ロジャース - レッスンズ・オブ・ザ・スカイ
I.ダール - コンチェルト

やや音場は遠く細部は聴き取りづらいものの、全体的な雰囲気はよく分かる。実は菊地さんの演奏を聴くのは初めてで、どのような演奏をするのかとても興味があった。なんとなくお会いして話した時の印象から、こんな感じかなあと思っていた想像を(良い意味で)根本から覆されてしまった!

まず印象的なのは、強烈なダイナミクス。あのスラリとした雰囲気のどこからこの豊かな音が出てくるのだろうか。そして、特に急速楽章でのテンポ設定はどうだろう。「えっ、ここまで!?」という、崩れるか崩れないかギリギリのところで勝負をかけるその姿勢は、ライヴだから、という理由ではすまされないだろう。しかし、緩徐楽章では深いロマンティックさも存分に感じられる。ひとつひとつの曲の中での、その激流から大河までのような幅のある変化が、結果的に聴いていてとても演奏を魅力的なものにしていると思う。

いやー、びっくりした。まあこれだけの演奏をするからこそ、最優秀の成績を得てこのリサイタルの機会を勝ち得た、ということなのだろうが…。音大生にもいろいろな方がいると思うのだが、トップの位置を張っている方たちは凄い。一曲一曲終わったあとの客席からの熱心な拍手が、その時のホールの中の空気を表しているようだ。

テクニック的にも安定しており、ドゥメルスマンはとても気に入った。大嶋千暁さんのピアノも相変わらずの好サポート。デクリュックはちょっと元気が良すぎるような気がしなくもないが、第4楽章での自身の内面を掘り下げていくような疾走感には興奮した。リュエフも安定のテクニック。ここまでで相当お腹いっぱいだが、さらに難曲ロジャーズ&ダールも吹きこなしていく。ソプラノのやや金属的で輝かしい音色を聴いて、ジョン・ハールに献呈された作品の演奏をばりばりのグロウ付きで聴いてみたいとも思った(ウェストブルックの「ビーン・ロウズ・アンド・ブルース・ショッツ」とか)。また、ダールも鬼気迫るもので、珍しく「怖い」という感想を持ってしまった…いやはや。

ご本人は「ところどころとっ散らかってしまった」とおっしゃっており、確かに小さなミスは所々にあるものの、それを補って魅力的な部分が多い演奏をされるのだなあと思った。簡単な曲を無個性で予定調和的に吹くだけの演奏家よりも、ずっと好きだ。楽章をまたいだ時の、一曲全体の構成感をどう作り上げていくかといったところを、さらに聴いてみたい(偉そうなこと書いてすみません)。

菊地さんは現在東京音楽大学の4年生。今年度いっぱいで大学を卒業するが、さらに来年度もひき続いてサクソフォンの勉強に取り組み続けると伺っている。いつになるかはわからないが、ライヴで聴ける機会を楽しみに待ちたい。

2012/11/18

モーフィン・カルテット マスタークラス

【モーフィン・カルテット マスタークラス・レッスン】
出演:モーフィン・カルテット、大石将紀(通訳)、昭和音楽大学のカルテット、国立音楽大学のカルテット
日時:2012年11月18日 14:00開演
会場:セルマージャパン6Fアンナホール
プログラム:
A.デザンクロ「四重奏曲」 (昭和音楽大学)
J.リヴィエ「グラーヴェとプレスト」(国立音楽大学)
A.グラズノフ「四重奏曲」より第3楽章(モーフィン・カルテットミニコンサート)
F.メンデルスゾーン「カプリツィオ」(モーフィン・カルテットミニコンサート)

昨日津田ホールで聴いたばかりのモーフィン・カルテットの公開マスタークラス。ちょうど時間があったので聴いてきた。渋谷は自宅から比較的アクセスしやすいのもありがたい。最初はマスタークラスだけかと思ったのだが、なんとミニコンサートまで開かれるという、充実の2時間半を過ごした。

最初は昭和音楽大学のカルテット。どこかで「ハバネロサックス」という名前で活動しているという情報を目にしたことがある。マスタークラスが始まり最初の素の演奏から、すでにかなりレベルが高い。楽譜通りに吹けているのはもちろんのこと、アンサンブルとしても技術的な部分を軽くクリアしている。なんとなく昭和音楽大学のアンサンブルって伝統的に上手いイメージがあるのだが、そのイメージ通りだった。すでに結成して4年経っているということで、年月を経ただけの部分もあるのだろう。特にソプラノ、アルトの方の音楽づくりが素晴らしいと思った。
神保佳祐, sop
細川慎二, alt
牧野遼介, ten
奥野祐樹, bar

指導は、ソプラノのグレズ氏が主導しながら、メンバーがさらに付け加えていく感じ。通訳の大石将紀さんは4人分を一手に引き受けなければならず大変そうだったが、それでもスイスイ進めていくあたり、さすがである。聞きながらメモを取った内容で、主たるトピックは以下のような感じ(自分用のメモで、間違っている可能性もあります)。

・フレーズごとの色の変化を、自分たちが思っている以上につけること
・バリトンのFの前のソロはdimが書いてあるが、4人分くらいのイメージで吹く
・F近辺のソプラノソロはアクセントを使って自由に
・楽譜に書いてあることも重要だが、それができたらカルテット独自の表現を行なっていく(テンポ、フレーズジング等)
・第2楽章冒頭を受け渡すのに必要なセッティングを考える(モーフィン・カルテットのセッティングは、ソプラノ170 V12-3.5、アルトAL3 Trad-3.5、テナーT20 Trad-3.5、バリトンBL3 Trad 3.5とのこと)
・作曲家は、まず音を書いたのではなく、何かイメージがあってそれを表現するために音を書いたはず。そのイメージについて、カルテット内での意識合わせを行なっていくこと

技術的には完成されていたということで、表現に関する言及が多かった。途中、なんとモーフィン・カルテットの面々が第2楽章の一部を吹いたのだが、その流れるような自由さに会場は唖然となったのだった。

二団体目は、国立音楽大学のカルテット。比較的若く見えたのだが、活動履歴はどんなもんなのだろうか。ちなみに、全員雲井雅人氏の門下だとのこと(確かに最初の演奏の時にもそれを感じた)。昭和音楽大学のハバネロカルテットに比べればさすがにややアンサンブルとしての完成度には若さを感じるが、それでも、こちらもとても良く吹くカルテットで、時には大胆な表現も飛び出しつつ、隙無く演奏しているのが印象的だった。バリトンの方の大胆さ、聴いていて面白かったなあ。
浜田由美, sop
岡田恵実, alt
西田剛, ten
鈴木響子, bar

・プレスト部分でのより楽しそうな表現(曲が楽しいなら演奏者も楽しく演奏しないと!)、トムとジェリーのように
・ヴィブラートの使い方、なぜここでヴィブラートを使うのか、ということを常に問いながら使っていく。良いヴィブラートなので、場所によってかける・かけないという打ち合わせをしたほうが良い
・ひとりのピアニストが右手と左手でフレーズを弾いているような、アンサンブルとしての一体感が出るように
・喉を開く演奏方法の場合、アタックした時の音程に注意
・最後のコーダ、いままでよりもさらに明るく、花火のように演奏する

こちらのカルテットも、ぜひ次に聴く機会があれば良いなと思う。

モーフィン・カルテットによるミニコンサートは、昨日も演奏したグラズノフとメンデルスゾーン。リラックスしているためか、昨日よりもアグレッシヴな表現が随所に飛び出し、特にグラズノフはまるで昨日よりもさらにパワーアップした演奏だったのではないかな。昨日大喝采だったメンデルスゾーンを再び聴けたのも嬉しかった!

角口圭都:My Favorites Saxophone Solo Concert

【My Favorites Saxophone Solo Concert】
出演:角口圭都(sax)、弘中佑子(pf)
日時:2012年11月17日(土)19:00開演
会場:名曲喫茶カデンツァ
プログラム:
C.ドビュッシー - ラプソディ
C.ロバ - ワークソング
H.トマジ - バラード
M.ラヴェル - 亡き王女のためのパヴァーヌ
A.ヴィバルディ - 四季より
A.ピアソラ - アディオス・ノニーノ
ペンタトニック・スケールに基づいた即興?(アンコール)

津田ホールでモーフィン・カルテットを聴いたあと、神保町へ移動して自衛隊音楽まつりを聴いてきたご一行と合流。私よりも世代としては上になるアマチュアの音楽仲間の皆様で、木下直人さんにお世話になったことのあるという点が共通項。2年ぶりくらいとなる再会を楽しみつつ、ビールをいただきながら1時間半ほどおしゃべり。初めましての方もいらっしゃったが、とても楽しかった。

その後、19:00の開演に間に合うよう本郷三丁目の名曲喫茶カデンツァへと移動。会場に着くと、Thunderさん、けこっつさん、Shunさん、tfmさんなど、お馴染みの方もたくさんいらっしゃっていた。ほぼ満席。新しくて綺麗で、とてもお洒落なスペース。角口さん自身のトークを挟みながら進行。プログラムはリサイタル級だが、会場や進行に、面白いギャップを感じる。

ドビュッシーが始まった途端に、モーフィン・カルテットを聴いてきた印象が抜け落ち、頭がリセットされてしまった。こういった小さい会場では奏者の生の音色が聴こえてくるものだが、とても輝かしい芯のある響きが素敵。抑制されつつも管理されたヴィブラートが心地よく、また瞬間瞬間を聴かせるに留まらない、全体の構成感も見事だ。ピアノの弘中佑子さんもさすがのサポート…エスケシュでの見事なアンサンブルを思い出す。

ワークソングは、これは無伴奏の高難易度の作品で、角口さんが取り上げるという話を聞いてやや意外ではあったものの、きちんと自分のものにしており、圧巻。客席も大いに沸いた。トマジは、これは(トークでも話されていたが)角口さんが4年生のときに、川口リリアで柏原卓之さんのアレンジしたサクソフォン・オーケストラ版をバックに独奏を吹いていたのだった。当時の感想がブログ記事に残っている。そのときもとても感銘を受けたのだが、思い出してなんだか冷静な気持ちでは聴けなかったのだった。

休憩は、アルコールが少々入った身体にパンチを入れるためにコーヒーをいただく。これがかなり効く。

後半は「好きな曲ベスト5に入る」という「亡き王女のためのパヴァーヌ」のサクソフォン・アレンジ版、そしてランパルの演奏を聴いてサクソフォンでの演奏を決意したとのヴィヴァルディ「四季」からの抜粋。「四季」は春1,夏1&3,秋3,冬1だったっけかな。例えば、春や冬の第3楽章なんてどんなふうに聴こえるのだろう。いつかぜひ取り上げてもらいたいものだ。最後の「アディオス・ノニーノ」は、吹っ切れて、楽しそうに演奏していたのが印象的だ。とてもビビビときたアンコール(ペンタトニックの即興風)は何の曲だったのだろう?

安定した技術、美しい音色、プログラミングと、総じてとてもレベルが高い。若くしてこういったレベルの演奏をしてしまうのは、角口さんだからなのか、それとも音楽大学全体のレベルの向上という部分もあるのか。しかし、これでもまだ角口さんは東京芸術大学の大学院を卒業して一年目、そして初リサイタルの時期ということで「角口圭都」という演奏家のポジションを定めつつある、まさにその時期なのだろう。1年後、2年後にどのような演奏をされているのか、ますます楽しみである。

今週末のリサイタル@富山県も、お近くの方はぜひ。詳細はこちらから。

終演後、聴きに来ていた人と出演者で、一緒に写真を撮らせてもらった。

グランプリコンサート2012 モーフィン・クァルテット東京公演

公益財団法人:日本室内楽振興財団主催の、2011年第7回大阪国際室内楽コンクール第2部門(管楽アンサンブル)第1位を受賞したモーフィン・クァルテットの、グランプリコンサート2012・東京公演を聴いてきた。

【グランプリコンサート2012 モーフィン・クァルテット東京公演】
出演:モーフィン・クァルテット
日時:2012年11月17日(土曜)14:00開演
会場:津田ホール
プログラム:
E.グラナドス - スペイン舞曲より
J.ハイドン - 弦楽四重奏曲作品20-5
A.グラズノフ - 四重奏曲より第3楽章
棚田文則 - ミステリアス・モーニングIIより第1楽章
K.ワイル - 三文オペラよりタンゴ
G.リゲティ/G.ブルゴーニュ - 6つのバガテル
C.ドビュッシー - 亜麻色の髪の乙女
F.メンデルスゾーン - カプリツィオ作品81
P.ガイス - パッチワーク
~アンコール~
P.ポルテジョワ - ?
M.マウアー - ?

下記メンバーでの来日。コンクール入賞時には、ロペズ氏がテナーだったが、アルトだったマーテ・トリヨ氏が怪我のため来日できなくなり、テナーのマルクン=アンリオン氏が新規加入し、ロペズ氏がアルトに移ったとのこと。

Christophe Grezes (クリストフ・グレズ), soprano saxophone
Eddy Lopez (エディ・ロペズ), alto saxophone
Anthony Malkoun-Henrion (アントニー・マルクン=アンリオン), tenor saxophone
Matthieu Delage (マティオ・ドラズ), baritone saxophone

バリトンのマティオ・ドラズ氏は、フランスの大御所サクソフォン奏者、Jean-Louis Delage氏の息子さんだそうだ!驚き…。

ヴィブラート控えめ、最低音からフラジオ音域までよくコントロールされた音色、倍音レベルまで和声をコントロールする響きの構築…といった、現代フランスの最先端とも言えるサウンドは、元をたどればおそらくディアステマQや、アドルフQあたりから始まるのだろうが、ハバネラQがそれを拡張・洗練させて、ひとつの完成系をすでに提示している。そこでモーフィンQはどのようなアプローチを取っているのか、ということが一番の興味・関心だった。その答えのようなものは、なんとなく今回の演奏会を聴いて得られたような…ただし、ここでは敢えて書かないこととした。

冒頭から、サクソフォンという枠組みでこれ以上やることはない、というほどのコントロールに舌を巻く。そして、やり尽くされた感のあるワルター編のハイドンに、あのような新鮮さ(まるでその場で即興で作曲しているような)を与えるその音楽性は、世界的に見ても稀有なものであろう。グラズノフ作品・棚田作品は、ぜひ全楽章聴いてみたかったのだが、この客層では仕方ないかな(苦笑)。

さらに面白かったのは後半。リゲティにおける強烈なダイナミクスやリズムは、一朝一夕に獲得できるものではないだろう。やはり日本人がやるのとは違った楽曲の捉え方(あるポイントでどこに重きが置かれるか)の感覚は、新鮮さに満ちている。ドビュッシーの入り組んだ激烈なフーガを瑞々しく聴かせてしまう手腕は見事!(客席も沸いていた)最後の、フィリップ・ガイス氏のワールド・ミュージック的作品まで隙なく料理。大喝采。

アンコールに、まさかマウアー氏の作品が演奏されるとは。これが今日一番の私的サプライズだったかも。

終演後、mixiフルート吹きの方々の飲み会に参加@神保町→角口さんのコンサート@名曲喫茶カデンツァ(これについてはまた記事にします)→モーフィン打ち上げ参加@新宿という、充実のフルセットx2。モーフィン打ち上げ参加も面白かったのだが、とりあえずフランス語の壁は高い(苦笑)。英語がギリギリ使えたのは、不幸中の幸いだった。そのほかにも、久しぶりの方や初めましての方にご挨拶できて、うれしかった。

2012/11/16

演奏会案内:小澤瑠衣さん plays グレグソン

現在フランスのセルジー・ポントワーズ音楽院に留学中の小澤瑠衣さん。前回の管打楽器コンクールで2位入賞、洗足学園音楽大学のサクソフォン科を主席卒業と、国内での活躍に引き続いて、渡欧し、充実した日々を送られているそうだ。

ということでその小澤瑠衣さんからご案内いただいたのだが、2013年1月に一時帰国し、神奈川フィルハーモニー管弦楽団とともにエドワード・グレグソンの「サクソフォン協奏曲」を演奏するとのこと。神奈川フィルハーモニー管弦楽団のサイトでもすでに告知されているので、こちらでもご案内。ちなみにこの共演の話、渡欧のまさに直前に飛び込んできたそうだ(笑)。松下洋さんのリサイタルや、WSC@スコットランドでお会いしたことはあるのだが、まだソロの演奏をきちんと聴いたことはないので、楽しみである。

【第7回ニューイヤー・フレッシュ・コンサート ~光り輝く若き才能たちの競演~】
出演:大山平一郎指揮神奈川フィルハーモニー管弦楽団、小澤瑠衣(sax)、毛利文香(vn)
日時:2013年1月13日(日曜日) 15:00開演
会場:洗足学園前田ホール
料金:一般3000円、学生1000円
プログラム:
J.ブラームス - ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品77
E.グレグソン - サクソフォン協奏曲
M.ムソルグスキー/M.ラヴェル - 組曲「展覧会の絵」
詳細:
http://www.kanaphil.or.jp/Concert/concert_detail.php?id=100

協奏曲二本仕立てかあ。こういったスペシャル・コンサートならではの特殊な、しかし充実したプログラムを楽しみたい。ムソルグスキーでの独奏も、おそらく小澤瑠衣さんが担当されるのであろう。


2012/11/15

マルセル・ミュール参加?マスネ「ウェルテル」

最近島根県のF様よりお送りいただいた録音4つのうち、3つ目のご紹介。

1つ目:デファイエ参加のマスネ「ウェルテル」
2つ目:ヴォルフ指揮の戯曲「アルルの女」

コーエン指揮パリ・オペラ・コミーク座管弦楽団の演奏で、マスネ作曲の歌劇「ウェルテル」。1931年の録音で、EMI C061-12130という型番が付いている。オペラ・コミークということで、マルセル・ミュール氏がサクソフォンパートを吹いている可能性が高いということで、お送りいただいた。残念ながら、この録音のサクソフォンパートはヴィブラートがかかっておらず、判断は難しい(ミュール氏だったら、ヴィブラートがかかればすぐ判別できるのだが…)。しかし、声楽パートとよく溶けあう音色は、オーケストラの中のサクソフォンとしての理想的な形であろう。

私がそれよりも驚いたのは、Ninon Vallinの歌声にかかるヴィブラートである。現代のオペラ歌手とはかけ離れたヴィブラートの質…この速度、振幅は、まさにミュール氏が実践していたヴィブラートそのものではないか!?ミュール氏がどのようにしてあのヴィブラートを手に入れたのかの、謎を解くひとつの鍵となりそうだ。

1929年、同じくパリ・オペラ・コミーク座管弦楽団との共演の際、エドゥアール・ランファンの「エヴォリューション」初演時に、ミュール氏は初めてクラシックの世界にヴィブラートを取り入れている。その時代からわずか2年後ということか。このようなサクソフォンの音が響いていたのかと考えると、感慨深いものがある。

2012/11/14

カルチャーシンセシス

少し前になるが、Thunderさんからお借りしたCD「カルチャー シンセシス(Andersen ACD-0086)」。ジャン=マリー・ロンデックス Jean Marie Londeix氏率いるL'Ensemble International de Saxophonesの演奏で、1988年に川崎で開かれた第9回世界サクソフォーン・コングレスに乗じてセッション録音・出版されたものである。録音時のメンバー(コングレスと同一)は、次の通り。今や国際レベルで影響力を持つ著名な演奏家ばかりである。

Federico Monderci, sopranino
Jean-Michel Goury, soprano
下地啓二, soprano
Daniel Gauthier, alto
James Umble, alto
William Street, alto
市川豊, tenor
Jorgen Pettersson, tenor
上田啓二, tenor
Massimo Mazzoni, baritone
Johannes Ernst, baritone
佐々木雄二, bass

日本でのサクソフォンの隆盛期と、当時最新(まさにクリスチャン・ロバがボルドーで注目され始めた頃だ)のフランス・ボルドーのサクソフォン界が交差する場所から生まれた貴重な記録として、日本のサクソフォン史にとっては重要なアルバム。こういった企画が通ってプレスCDとして世に出るというのは、まあバブル期ならではというところもあるのだろうが、幸いなことであった。当然のように現在は廃盤となっているのだが。

Christian Lauba - Les 7 Iles
George Gershwin - Suite American Stories
Darius Milhaud - Le boeuf sur le toit
Giobanni Gabrieli - Canzona XV

異常なほどにレベルの高い演奏は、はっきり言って現在でもなかなか聴けないほどのものであろう。特に、コングレスに際して初演された「Les 7 Iles」は非常に集中力の高い演奏でアルバムの中核を占める。Quantumレーベルの「SUNTHESIS」に収録されたライヴ録音と聴き比べてみると、面白いかもしれない。

残りの3作品は、おなじみのメロディをサクソフォン・アンサンブルで解釈したもの。ガーシュウィンのメドレーはロンデックス氏の編曲によるものだが、もし楽譜があったら現代で取り組まれていてもおかしくない。ロンデックス氏は、来るべきラージアンサンブルのあるべき形態を20年以上前から予見していたのではないか…と勘ぐってしまうほどだ。

ミヨー作品「屋根の上の牛」をサクソフォンで聴くというのも面白いし、ガブリエリの中世の響きがサクソフォンにベスト・マッチするのは、これはご想像どおり。録音はやや音場が遠く若干繊細な響きを感じ取りづらいが、それでもどの曲においてもレベルが高いことには間違いがない。いやはや、貴重な記録を聴けて感激だ。Thunderさん、ありがとうございました。

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余談。このライナーの写真は手持ちのNEX-5を使って撮影した。最初、標準ズームレンズのSEL1855を使って撮影したのだが、中心と外周の半分あたりから収差が気になり始め、字がマトモに読めなかった。それならとSEL50F18を使ったところ、隅々までくっきり解像。ここまで違うのかと驚いてしまった。

2012/11/13

モルゴーア・クァルテット「21世紀の精神正常者たち」

日曜日に、モーフィン・カルテットの公開マスタークラス(しかも聴講無料)があるそうだ。詳細はこちらから。もちろん土曜日の演奏会@津田ホールは伺うのだが、公開マスタークラスもまたちょっと違う趣でとても面白そう。

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久々に、サクソフォン以外の話題。買って堪能して、ブログに書かずに放ったらかしになっていたのだが、ふと思い出して引っ張りだしてきた。ジャケットのインパクトの強烈さ…個人的にはちょっとした嫌悪感すらおぼえる程なのだが(苦笑)いかがだろうか。言わずもがな、キング・クリムゾンの名盤「21st Century Schizoid Man」を模したもの。日本を代表するベテラン弦楽四重奏団のひとつ、モルゴーア・クァルテットの最新アルバム「21世紀の精神正常者たち 21st Century Non-Schizoid Men(DENON COCQ-84964)」である。

問題作にして名盤の誉れ高き「Destruction(東芝EMI TOCE-9650・廃盤)」と同一のコンセプトを現代に蘇らせたアルバムとして、発表直後から大きな話題となった。実際出てきた盤も、前評判通りの素晴らしいものとなった。

キング・クリムゾン - 21世紀のスキッツォイド・マン
ジェネシス - 月影の騎士
ELP - 悪の教典#9 第一印象・パート1
ピンク・フロイド - 太陽賛歌
ピンク・フロイド - マネー
メタリカ - メタル・マスター
ジェネシス - アフターグロウ
キング・クリムゾン - クリムゾン・キングの宮殿
イエス - 同士~人生の絆、失墜
キング・クリムゾン - スターレス

プログレの超名盤からの選曲、だがしかしその中でもコダワリを感じさせる選曲だ。個人的には、ELPが入っていたり、最後が「スターレス」というあたりに感涙。ちょっとジャンルを外したメタリカが入っているなど(これはプログレというよりメタルでしょう)随所から愛を感じる。

最初のトラック「21世紀のスキッツォイド・マン」から飛ばすが、テクニカルな作品でも穏やかな作品でもその濃密なテンションは変わらない。さすがに「Destruction」にあるような組曲中での曲間のゆるやかな繋がりは無く、ややアルバム全体としては掴みどころがなく感じるのだが、それでも一曲一曲が持つ魅力を弦楽四重奏に最良の形でアダプトすることに成功している。

あまり冷静に聴けなくてまともなレビューが書けないのだが、下のPVで少しでも興味を持たれた方はぜひ。ジャケットをみて敬遠してしまうのは、実にもったいないことだと思う。

「21st Century Schizoid Man」の一部が聴ける。CDは、Amazonで購入可能

2012/11/12

小倉大志サクソフォンリサイタル:曲目解説

小倉大志サクソフォンリサイタルのプログラム冊子に掲載した曲目解説の執筆を担当した。下記に公開する。少しずつではあるが、これまで他の奏者のプログラム冊子に提供した言い回しを再利用するエコシステムが構築できているという印象。

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クロード・ドビュッシー「星の夜」
本年生誕150周年を迎えたクロード・ドビュッシー(1862 - 1918)。歌曲「星の夜」は、ドビュッシーがそのキャリアの初期に手がけ、公式に出版された最初の作品と言われています。以下に、原曲に使われたテオドール・ド・バンヴィルによる詩の一部を引用します。
 星の夜/あなたのヴェールの下で/あなたのそよ風と心地良い香りの下で
 悲しきライアーよ/ため息をつく/私は過ぎ去った恋を想う
サクソフォンは、その表現の幅広さから「歌う管楽器」とも呼ばれます。ジャズで使われる激しいブロウから美しい歌曲まで、旋律に込められた感情を自由自在に表現することができるのです。

クロード・ドビュッシー「ラプソディ」
 ドビュッシーほど著名な作曲家が、サクソフォンのための作品を手がけた例は多くありません。しかし、当時それほど知られていなかったサクソフォンという楽器はドビュッシーの興味を惹くことはありませんでした。結局、ドビュッシーは未完成のスケッチを委嘱者に送りつけ、この仕事から逃げてしまったのです。現在では、そのスケッチを補筆した版が広く演奏されています。
 淡い霧の中から浮かび上がるようなピアノのフレーズに続いて、サクソフォンが異国風のフレーズを奏で、やがて導かれるスペイン風のリズムに乗って音楽は徐々に高揚します。ドビュッシーは、この曲が持つ斬新な和声感や旋律線によって、サクソフォンに近代音楽への扉を開けるきっかけを与えました。

エディソン・デニゾフ「ソナタ」
 サクソフォンがドビュッシー「ラプソディ」によって近代音楽の世界を扉を開いたと例えるならば、ロシアの作曲家、エディソン・デニゾフ(1929 - 1996)の「ソナタ」により、サクソフォンは現代音楽の世界に飛び込んだ、と言えるでしょう。1970年に作曲されたこの作品は、重音、微分音、スラップタンギングなど、サクソフォンの奏法における多面性を数多く引き出しました。
 まるで精密機器を想起させるような第1楽章(ピアノとの緻密なアンサンブルにご注目)、続く第2楽章は、ほぼサクソフォンのみによって奏でられる極小音の世界。第3楽章は、デニゾフ自身が大好きだったというモダン・ジャズの影響を受けており、ピアノのバス・オスティナートに導かれてサクソフォンがビバップ風の旋律を奏でます。

エンニオ・モリコーネ/真島俊夫「モリコーネ・パラダイス」
 エンニオ・モリコーネ(1928 - )はイタリアに生まれた20世紀を代表する映画音楽の巨匠の一人。そのモリコーネが関わった映画の挿入歌より、日本を代表する作曲家/アレンジャーの一人である真島俊夫が5曲を選び再構成したのが、この「モリコーネ・パラダイス」です。さわやかな印象を残す「ベリンダ・メイ」(L'ALIBIより)が冒頭を華々しく飾り、さらに美しいメロディを持つ「トトとアルフレード」「成長」「メインテーマ」「愛のテーマ」(ニュー・シネマ・パラダイスより)が続けて演奏されます。

ロベルト・モリネッリ「ニューヨークからの4つの印象」
 イタリアの作曲家、ロベルト・モリネッリ(1963 -)が2001年に発表した「ニューヨークからの4つの絵」は、その親しみやすい曲調から、作曲されるやいなや瞬く間にサクソフォン界で人気を獲得しました。聴き手を楽しませるエンターテイメント性に徹した、20分・4楽章形式の大曲です。
 第1楽章「夜明け」は、ニューヨークの街並みを照らす朝日を思わせる暖かい音楽。第2楽章「タンゴ・クラブ」は情熱的なリズムと鋭いエッジが効いたフレーズが印象的。第3楽章「センチメンタル・イヴニング」は、夕日に沈むマンハッタン島をバックに奏でられるバラード。第4楽章「ブロードウェイ・ナイト」は、"アメリカン・ドリーム"という言葉をそのまま音楽にしたような、華やかに疾走する楽章です。

伊藤康英「琉球幻想曲」
 沖縄民謡「安里屋ユンタ」を元に、5本のサクソフォンとピアノのために書かれたごく短いコンサート・ピース。ピアノに導かれる神秘的かつ壮大な冒頭から一転、中間部の小気味良さが聴きものです。作曲家の伊藤康英(1960 - )は、主に吹奏楽や歌曲の分野での活躍が有名ですが、サクソフォンのためにも多くの傑作を提供しています。いずれの作品もサクソフォン奏者のための重要なレパートリーとされ、事あるごとに広く演奏されています。

小倉大志サクソフォンリサイタル

【小倉大志サクソフォンリサイタル】
出演:小倉大志(sax)、大嶋千暁(pf)、長谷部恵美、広川優香(vn)、石川加奈子(va)、布施公崇(vc)、中村杏葉(cb)、Tsukuba Saxophone Quartet
日時:2012年11月11日 19:00開演
会場:さいたま市プラザノース(加茂宮駅から徒歩5分、大宮駅からバス15分)
料金:1500円全席自由(当日500円増)
プログラム:
C.ドビュッシー - 星の夜
C.ドビュッシー - ラプソディ
E.デニゾフ - ソナタ
真島俊夫 - モリコーネパラダイス
R.モリネッリ - ニューヨークからの4つの絵
伊藤康英 - 琉球幻想曲
B.ウィーラン - リバーダンスより(アンコール)

サクソフォン奏者、ピアノ調律師、そしてTsukuba Saxophone Quartetのメンバーでもある小倉大志氏のリサイタル。TsukubaSQも、プログラム最後の「琉球幻想曲」と、アンコールに出演させてもらった。

9時にプラザノース入り。ホールは夜間のみ取得できていたため、午前中にリハーサル室で簡単に合わせを実施。このとき、ピアノ+弦楽五重奏の編成となる「モリコーネ・パラダイス」と「ニューヨークからの4つの絵」のリハーサルを聴いたのだが、弦、ピアノ、パーカッションとも素晴らしい仕事をしており感銘を受けた。お昼ごはんを食べた後は午後は控え室で待ちぼうけ。16時30分くらいにはスタッフが集合し、17時にはホール前へ移動し、18時からホールの中へ。

ホールが開いてからは超ドタバタだったが(なぜか私まであちこち走り回ることになった)あっという間に開場・開演。第一部は客席で聴いた。

まず、ドビュッシー、そしてデニゾフという選曲がツボである。当初構想として聞かされていた選曲からはかけ離れているのだが、サクソフォンの誕生からの2段階のステップアップ(近代音楽→現代音楽)を見事に体現したプログラム。位置合わせの時間が取れなかったためか、ドビュッシーなどやや音量的には控えめに聴こえたが、それでもデニゾフの第3楽章などとても聴衆を引き込む演奏であった。ピアノの大嶋千暁さんも好サポート。次世代のサクソフォン界をピアノ伴奏という切り口から支えてくれるであろう存在の大きさを感じる。

第二部は「ニューヨークからの4つの絵」だけ舞台袖で聴いた。第二部の編成は、ピアノ+パーカッション+弦楽四重奏+コントラバスという豪華編成。弦を入れることには勇気が伴う…ある一定以上の技量を持つ人達でなければ、音程すらままならない(実際そういう演奏をいくつも見たことがある)のだが、この日の弦楽パートは素晴らしかった!いずれもポピュラー音楽風の2作品だが、とても高い技術・テンションで弾いており、サクソフォンパートともども曲の楽しさを存分に引き出している。編成は違えど、松下洋さんのリサイタルでこの曲を聴いた時のあの楽しさを思い出してしまった。

モリネッリで客席も妙に盛り上がってしまい、このあと入って大丈夫かなあなんて心配しながら(苦笑)入場、サクソフォン5本とピアノのための「琉球幻想曲」を演奏する。7月にベルギーで大宅裕さんと演奏して以来だが、この曲が持つパワーやホールの響きに助けられ、良い雰囲気・テンションの中で演奏を終えることができた。アンコールの「リバーダンス」も、パーカッション(こちらも良いテンションでサポートいただいた)が入った豪華な響きで楽しく演奏できた。ソロリサイタルなのに、アンコールでTsukubaSQとして一緒にやってくれるなんて、嬉しいことだ。

終演後も時間が無く超ドタバタだったが(やっぱり荷物を抱えてあちこち走り回ることになった)なんとか撤退完了。1時間ちょっとしかなかったが、大宮駅前のわたみん家で超おなじみの方々と打ち上げ。日曜夜ということもあって出演者の参加は少なかったのだが、これはこれでまた楽しい時間を過ごしたのであった。ギリギリの終電で帰宅。

2012/11/10

ヴィオラでフィル・ウッズ「ソナタ」 on YouTube

明日は、19:00からコレ!ぜひお越しください。

ちなみに、本日エスポワールの演奏会には伺えなかった…残念。

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サクソフォンで別楽器の作品をアレンジとして取り上げることは多いが、逆にサクソフォンのオリジナル曲を他の楽器が取り上げることは少ない。私が唯一知っている例は、クラリネットの名手、アレッサンドロ・カルボナーレ氏がファジイ・バードやフィル・ウッズのソナタを取り上げ演奏したCD。

今日、ヒンデミットのヴィオラ・ソナタのサクソフォンアレンジをYouTubeで探していたところ、偶然発見したのがこの動画だ。なんと、フィル・ウッズの「アルト・サクソフォンのためのソナタ」を、ヴィオラで演奏してしまったというもの。ちょっと驚いてしまったが、上記のCDでもカルボナーレ氏が取り上げていたし、音楽に取り組んでいる方の琴線に触れるほど魅力的な作品だということなのだろう。何がきっかけでこの作品を知ったのか気になる。

ヴィオラはKarolis Rudokas、ピアノはSvajūnas Urnikis。リトアニアの奏者だそうだ。演奏を聴く限り(特にピアノは)譜面を即興的に変えまくっているような…ジャズを専門的に勉強したことがあるのだろう。即興部分も、ハジけており相当かっこいい!



スタジオ録音されたバージョンもSoundCloudで聴ける。録音もしっかりしているだけでなく、第1楽章以外も取り上げられているので、ぜひ聴いていただきたい。
http://soundcloud.com/karolis-rudokas

ご案内:田中拓也氏、埼玉県立近代美術館での演奏予定

毎度おなじみ、音楽評論家の恩地元子様(東京芸術大学講師)より、恩地様がコーディネートする埼玉県立近代美術館でのサクソフォンを含む演奏の予定をいただいた。

これまでクローバーSQや田村真寛氏が取り上げられているが、今回は田中拓也さん。言わずと知れた新進気鋭のサクソフォン奏者である。Blue Aurora Saxophone Quartetのアルト奏者、洗足学園音楽大学非常勤講師。「ジャズの閃光」というタイトルで、井上陽介氏、椎名豊氏とともに共演するそうだ。ふだんとは違った(?)切り口で田中拓也氏の演奏を堪能できることだろう。しかも入場無料!

ちょうどこの日は小倉大志氏のリサイタルであるため、私は伺うことができない。しかし、演奏時間はかぶっていないようなので、もし聴きに来られる方がいれば両方を"はしご"してみてはいかがだろうか。埼玉県立近代美術館のウェブページはこちら

チラシを貼り付けておく(クリックして拡大)。

2012/11/08

ファブリス・モレティ リサイタル2012東京公演

年に一度はこれを聴かなければ!モレティ氏の演奏会に伺うと、暮れに向かって加速していく世間の空気を実感するのだ。昨年に引き続きとなる鈴木研吾さんのマネジメントのもと、今年は日本の五都市で公演が行われる。クラシックでサクソフォンを学んでいる人にとっては、必修科目のようなものだと思っている。

今回、チケットに関してはマネジメントの鈴木さんにお世話になった。改めて、この場を借りて感謝申し上げる。

【ファブリス・モレティ サクソフォンリサイタルツアー(東京公演)】
出演:ファブリス・モレティ(sax)、服部真理子(pf)
日時:2012年11月8日(木曜)19:00開演
会場:ルーテル市ヶ谷センター
プログラム:
P.クレストン - ソナタ
P.サンカン - ラメントとロンド
A.デザンクロ - PCF
C.パスカル - ソナチネ
P.モーリス - プロヴァンスの風景
P.M.デュボワ - ディヴェルティスマン
アンコール:
林光 - 暗い晩
A.シャイユー - アンダンテとアレグロ
E.ボザ - アリア

まあ、年に一度は…と書いておきながら、昨年は伺えず悔しい思いをしたのだった。一曲目は遅刻で聴けなかったものの、なんとか2曲目には間に合った。プログラム冊子の曲目解説は、上田卓さん。今回も素晴らしい解説を堪能した。木幡一誠氏の書く文章とともに、私の昔からの理想となっている。

今では録音でしか聴くことのできない、師匠のダニエル・デファイエ氏からの直接のリンクを感じる。フォルテにおける響きは眼前に大きな壁となってそびえ立ち、ピアノにおける繊細な響きはまるで上質なシルク生地のようだ。

サンカンの「ラメントとロンド」は、そのシリアスな響きもなんのその、クランポンのサクソフォンを鳴らし切る圧倒的なパワーで、完全に曲を我が物としていた。服部真理子さんのピアノのやや硬質、しかし場面場面で目まぐるしく表情を変える響きも、モレティ氏とのアンサンブルに相応しい。美しい響きからグロテスクな響きまでを見事に弾き分けている。デザンクロの「PCF」も、怪しげなプレリュード、カデンツァでの音符のばら撒きから、終曲のピアノとの見事なアンサンブルまで、一気に聴き通してしまった。サクソフォンとピアノのブレンド感、距離感に耳を向けると、さらにその凄さがわかる。

さらにパワーアップしての後半は、服部真理子さんお得意のパスカルから。サクソフォンパートは、凡庸に聴こえて実は非常に難しいことをやっているのだが、この曲をここまでエレガントに聴かせてしまうのかという驚きがあった。リサイタルで「プロヴァンスの風景」を取り上げ(られ)る演奏家もなかなかいないだろう。氷の上を滑るような第一楽章や、慈しみが感じられる第四楽章、そして聴いたことのないほどぶっ速い第五楽章(大喝采)など、その魅力を挙げていけばキリがない。そして最後になんとデュボワの「ディヴェルティスマン」が演奏された!マルセル・ミュールの演奏でこの曲に親しんだ私にとって、とても嬉しい選曲だった。あのコミカルなフレーズを、輝かしく吹きこなしていく。感動的だった。

ところで、曲間にはモレティ氏のトーク(通訳は服部真理子さん)があったのだが、今日のトークはなんとモレティ氏の師ダニエル・デファイエ氏に関するエピソードを中心に取り上げていた!自身のリサイタルで師匠のことをたくさん話すって、凄いことだな。話された内容も面白かったし(モレティ氏は18歳でデファイエ氏とテリー氏の間に座ってオケの仕事をしていたそうだ!)言葉の隅々から師匠への敬愛が感じられる。ある意味こちらも演奏以外の隠しメインイベント、という感じで、貴重な機会に臨席できたことを嬉しく思う。

そういえば、モレティ氏オススメのデファイエ氏の演奏が聴けるCDとして、ビゼー「アルルの女」とミヨー「世界の創造」が挙がっていた。「世界の創造」については、これは語り尽くせないほどで、すべてのサクソフォン奏者が聴くべき録音だ。「アルルの女」は、新録音なのか旧録音なのかわからないのだが、どちらにもデファイエ氏が参加している。旧録音のほうがサクソフォンがオンマイクで捉えられておりわかりやすいのだが、新録音でのオーケストラから立ち上がってくるようなサクソフォンの音色も聴きごたえがある。フルートは断然旧録音ですね(ジェームズ・ゴールウェイが吹いている)。
カラヤン指揮ベルリン・フィル「アルルの女(旧録音)」
カラヤン指揮ベルリン・フィル「アルルの女(新録音)」
バーンスタイン指揮フランス国立管「世界の創造」

アンコールに、まず、ピアノソロで林光「暗い晩」。左手の分散和音に、オペラのアリアのような美しくシンプルな旋律が乗る。この曲の成立を知らなかったのだが、ちょっと調べてみたところこんなサイトが。今という時代に、まさにピッタリな音楽ではないか。林光氏の追悼の意味もあったのだろう。モレティ氏のアンコールは、アンドレ・シャイユー「アンダンテとアレグロ」、ウジェーヌ・ボザ「アリア」。最後の最後にボザ作品を持ってくるとは、もしやモレティ氏なりのエスプリだったりして…そんなはずないか(笑)。

岐阜公演が11/11、福岡公演が11/16、福山公演が11/19。近くの方はお聴き逃しなきよう!

2012/11/07

ヴォルフ指揮の戯曲「アルルの女」

アルフォンス・ドーデ Alphonse Daudetの小説「風車小屋便り」に基づく3幕の戯曲「アルルの女」。ジョルジュ・ビゼーが付けたことは有名だが、その戯曲版の「アルルの女」の録音を島根県のF様よりお送りいただいた。アルベール・ヴォルフ Albert Wolff指揮のスタジオ・オーケストラによる録音で、録音年は1955年。イギリスDecca LXT5229, 5230という型番がついている。

F様には、さらに日本語の台本のフルバージョンまで送っていただいた。前奏曲のサクソフォンソロは、有名なグラモフォン盤の解説にもある通り「フレデリの弟(白痴)の動機」とのことで、いったい何を意味するのかサッパリだったのだが、台本を読んでみるとその意見がよく分かる。サクソフォンにとってはこれほど有名、かつ重要な曲であるのに、不勉強でちょっと恥ずかしい。

さて、この録音だが、サクソフォンが随所で魅力的な音を出しているのだ。特にパストラルでの木管合奏とともに奏でられるオブリガードは、これまでに聴いたことのないほど蠱惑的(こわくてき)なもので、まるで上質なワインを味わい、酔わされているような気分になってしまう。すると、誰が演奏しているのだろうということになるのだが、「聴いたことのない音」というのがポイントであり、どうにも判定しかねているところ。最初は、デファイエ氏かなあと思ったのだが、前奏曲の独奏におけるフレージングは、やや凡庸である気もする。

ちょっと探したところ、NMLにもあったので、アカウントをお持ちで気になる方はぜひ聴いてみていただきたい。

※この録音に参加しているサクソフォン奏者が誰なのかご存知の方がいたら、ぜひ教えてください!

2012/11/06

SiamSQ plays 琉球幻想曲@タイ

とても嬉しい知らせをいただいた。

WSC@スコットランドでお会いしたSiam Saxophone Quartetというタイを代表するサクソフォン四重奏団がいる。現地でメンバーの方にお会いした時に「琉球幻想曲」のサクソフォン四重奏版の楽譜をプレゼントしたところ、なんと次のライヴで同曲を取り上げてくれるのだそうだ。実は、外国の団体に渡すために楽譜を何冊か準備して持っていったのであった。

https://www.facebook.com/events/503140313043322/

あの曲が外国でも演奏されるのは嬉しいし、また、些細なことではあるが、これでこそWSC参加の冥利に尽きるというものだ。

2012/11/04

ルソー氏、来日情報

本日夜は、来週の小倉くんのリサイタルに向けて練習。なんとか仕上がってきた。彼もかなり頑張っているようなので、ぜひお越しください。

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ヤマハのYさんから耳寄り情報を頂戴した。なんと、あの伝説のサクソフォン奏者ユージン・ルソー氏が来日し、トークとミニコンサートを行うそうだ。「伝説の」などと書いてしまったが、いや本当に私達の世代にとってはまさにその言葉通りである。まさかライヴでその演奏を聴けることになるとは夢にも思わなかったことだ。

WSCの時にもちょっとだけ話し写真まで一緒に撮ってもらったのだが、演奏ではエントリーしていなかったのであった。その時は演奏を聴けずちょっと残念であったのだが、まさか日本でこのような機会が巡ってくるとは。平日ということでかなり伺うのが難しそうだが、なんとか行きたいところ。

【Eugene Rousseau Talk & Mini Concert】
出演:ユージン・ルソー(sax)、松浦真沙(pf)
日時:2012年12月4日(火)19:00開演
会場:ヤマハ銀座コンサートサロン(ヤマハ銀座ビル6F)
料金:一般2000円、学生1500円
プログラム:
トーク『ルソー氏とヤマハとの絆。その歴史を本人が語る』
ミニコンサート
G.ガーシュウィン - "ポーギーとベス"メドレー
B.ヘイデン - ディヴァーションズ
E.ハーゲン - ハーレム・ノクターン
♪『ポギーとベス』メドレー:G.ガーシュイン
♪ディヴァージョン:B.ヘイデン
♪ハーレム・ノクターン:E.ハーゲン 他
問い合わせ:
http://www.yamahamusic.jp/shop/ginza/event/detail/3279

2012/11/03

ワセカル「サックス吹きます-7-」

"ワセカル"こと、早稲田大学のメンバーを中心に組まれたカルテットのコンサートを聴きに、早稲田祭に伺ってきた。tfmさんが組んだ"たけのこカルテット"のデビュー戦を聴いてみたかったし、また、昨シーズンの全日本吹奏楽連盟主催のアンサンブルコンテスト一般の部で全国大会金賞を勝ち得たという早稲田大学吹奏楽団のカルテットも気になっていたのだ。

【ワセカル"サックス吹きます-7-"】
出演:早稲田吹奏楽団、たけのこカルテット他
日時:2012年11月3日(土曜)15:30開演
会場:早稲田キャンパス 10-101教室
プログラム:
魔女の宅急便メドレー
リュエフ「四重奏のためのコンセール」より第1,6楽章
スウィングしなけりゃ意味がない
ホルベルク組曲よりプレリュード
グリーンスリーブス
デザンクロ「四重奏曲」第1,3楽章
ザッツ!家電激戦区
?(失念)
スペイン
?(失念)
A列車で行こう
彼方の光
ラテンメドレー

出身大学以外の学園祭って初めて伺ったのだが、いやあ、さすが都内の大学は雰囲気が違いますなあ(´∀`)全身で浮つきっぷりを感じ取ってきた。なんと、きゃりーぱみゅぱみゅが来てたらしい。どこかで読んだのだが、きゃりーぱみゅぱみゅを発音しづらいときは、ドラえもんが道具を取り出すときのように発音すれば、噛まないで言えるらしい。

…まあそれはそれとして。会場は、10号棟の1階のおよそ40人用の教室で、到着するころには座席は埋まってしまっていた。仕方なく教室の後ろで立ち見と決め込んだのだが、曲が進むに連れてさらにお客さんが増え、最終的には60~70人くらい来ていたようだ。特に後半は、早稲田大学吹奏楽団のメンバーの演奏ということで、吹奏楽団の関係者らしき学生がたくさん来ていた。

メンバーも入れ替わり立ち代り、なんと2時間近くも続いた!どの演奏も非常にレベルが高く、地力の高さを思い知らされる。

本日デビューのたけのこカルテットは、なんとたった2回の合わせでホルベルク組曲、グリーンスリーブス、デザンクロ1&3を作り上げてしまったそうだ。驚異的。特に緩徐楽章でカルテットとしての方向性を垣間見た気がする。tfm氏の高い実力はすでによく知っているが、バリトンの方の巧さ・安定度にも驚かされた。

最後の3つは早稲田大学吹奏楽団の2年生3人+1年生1人によるカルテット。驚くほど安定した技術と、曲の方向性に対して強力に一致した演奏のベクトル(これでも昨年からメンバーがひとり入れ替わっているらしい)は、アマチュアとは思えないほどのものだ。いやはやびっくり。ラテン・メドレーは、まさにブラヴォー、であった。ヤナギサワのユーザーが多い、というのもちょっと面白い共通点だ。

上野耕平 plays サイバーバード(東京ニューシティ管弦楽団第84回定期演奏会)

【東京ニューシティ管弦楽団第84回定期演奏会】
出演:東京ニューシティ管弦楽団、内藤彰(cond)、上野耕平(sax)、石若駿(perc)、永井基慎(pf)
日時:2012年11月2日(金曜)19:00
会場:東京芸術劇場コンサートホール
プログラム:
吉松隆「サイバーバード協奏曲」
A.ブルックナー「交響曲第7番」

ファーストインプレッションは、昨日書いた通り。素晴らしかった。

普段ほとんどオーケストラの演奏会なんて聴きに行かないので、このような大きなホール(到着して気づいたが東京芸術劇場に入るのは初めてだった)、大人数の演奏者たちを見ると、否応なしにワクワクしてしまう。チケットは上野耕平さんに頼んで取り置いてもらったのだが、前から6列目のほぼ中央という絶好の位置だった。3つ左の席にはBCSEのSフジさんが。

拍手を受けて登場した上野耕平氏を始めとする3人のソリスト、プロフィールを見たが、全員同期の大学2年生だという。上野氏は、一音目から一気に聴衆を引き込んだ!2000席のホールを無理なく鳴らしきる美音と響き(とても軽やかな響き…どんなセッティングなのだろう)は、オーケストラととても良く調和している。

短い序奏を経たあとはソリスト3人で突っ走るアレグロ。このアレグロがとてもスピード感あふれるもので、崩れてしまうギリギリのところでせめぎあいながら進んでいく様子にとても興奮した。ここで触発されたのか、オーケストラも、コンサートマスターを始めとする各プレイヤーのサポートが手厚い。聴いていた位置のせいか、管楽器群とソリスト陣のアンサンブルにはいくぶん噛み合わない箇所も散見されたが、それでも管楽器の人たちはシンコペーションで血が騒ぐのだろうか、とても楽しそうに演奏しているのが印象的だった。

上野耕平氏の演奏の魅力を書いていけばキリがないが、この日気付かされたのは、超高速のフレーズにあっても常にすべての音をコントロール下に置くというその特徴である。どんなフレーズでも、一音一音まで方向性がハッキリと見えてくるような演奏家は、あまりいないだろう。

第2楽章については、その制作背景を知って聴くことで共感の度合いが増すのだが、プログラム冊子の解説を読んだのだろうか、客席もとても高い集中力を持って聴いていたのが印象的だった。その集中力に応えるように美しい演奏を繰り広げる上野耕平氏。うーん、あのときの空気を言葉で語り尽くすのは、一筋縄ではいかない…。ぜひ次の機会に聴いてみてください。

アタッカで突入した第3楽章は、あの第1楽章、第2楽章のあとだからこそさらにクールに聴こえる。そのあたりの考えについては以前ブログにも書いたが、何もかも捨てて、最終部のアドリブ(このアドリブの最初の甲高い鳥の鳴き声のようなサクソフォンの演奏には、鳥肌が立った)を経た大爆発まで疾走する。

こういう演奏をする人が、日本に現れてきたことを嬉しく、また誇りに思う。

休憩後はブルックナーの7番。実はブルックナー自体聴くのが初めてで(勉強不足だなあ…と痛感)、何か書くとニワカっぷりがバレるのであまり詳しくは書けないが…。サイバーバードのようなめまぐるしい曲を聴いた後だからこそわかる、シンプルな美しさ…特に第2楽章には感動してしまった。曲の構造を追っていけるのは、オーケストラの魅力だろう。

終演後はサイン会。また、打ち上げにもちゃっかり参加させてもらってしまった。打ち上げでは少し上野さんとお話しすることもでき、選曲時の苦労や今後のことについていろいろと話しを聞けた。次、聴ける機会を楽しみに待ちたい。

いやー、すごかった。

今宵、サクソフォンという枠を超えまだ誰も到達しえぬ世界へと見事に飛翔した上野耕平さんに、喝采を送りたい。「見果てぬ夢」を体現した「サイバーバード」の演奏を、自身の(中学校時代からの)夢として実現してしまったという…そんなアンチテーゼ的な部分に感慨深さを感じる。

感想は明日辺りじっくり書きます。ブラヴォー!

ちゃっかり打ち上げまで参加し、とても良い気分で池袋を後にした。終電…?なにそれ(´・ω・`)?いちおう無事に帰り着いていますが(苦笑)

2012/11/01

デファイエ参加のマスネ「ウェルテル」

島根県のF様より、デファイエとミュールに関するいくつかの録音を送っていただいたので、何度かに分けて紹介していきたい。貴重な録音をお送りいただき、感謝申し上げる次第。

まずは、Jesus Etcheverry指揮フランス国立放送局管弦楽団の演奏によるマスネの歌劇「ウェルテル」である(ADES)。ジャケットの写真をカラーコピーで送っていただいたのだが、録音風景にデファイエ氏の姿が写っており、また音を聴いても明らかにデファイエ氏の音が聴こえる。これまで全く知らなかった録音で、F様はいったいこの録音の存在をどこで知ったのかと思ってしまう(笑)。

第3幕第2場のアリアについては、後半にとても美しいサクソフォンのオブリガードを聴くことができる。かなり控えめ・抑制された響きではあるが、この低音域のソロをこうも美しく聴かせる手腕には舌を巻く。一緒に「ウェルテル」の抜粋台本まで送っていただき、その内容を吟味しながら何度も聴き返していると、デファイエ氏の仕事の素晴らしさを実感する。