2012/12/22

クロード・ドビュッシー生誕150周年企画コンサート(佐藤淳一博士による)

2012年のうちに聴きに伺うコンサートはこれが最後のはず。本当に素晴らしい催しで、この年を締めくくるに相応しいコンサートだったと思う。いや、この企画を単純に「コンサート」と分類しようとしている自分も、何だか変だな…。

【クロード・ドビュッシー生誕150周年企画コンサート】
出演:佐藤淳一(sax, 解説)、大城正司、貝沼拓実、伊藤あさぎ(以上sax)、佐野隆哉(pf)
日時:2012年12月21日(金曜)18:00開演
会場:アクタス ノナカ・アンナホール
プログラム:
~オープニングイベント~
佐藤淳一 - 映像と音で巡るドビュッシー《ラプソディ》の世界
~コンサート~
C.ドビュッシー - ラプソディ(Durand版)貝沼拓実
C.ドビュッシー - ラプソディ(Ries&Erler版:日本初演)伊藤あさぎ
C.ドビュッシー - ラプソディ(Henle版)大城正司
C.ドビュッシー - ベルガマスク組曲よりプレリュード&パスピエ
C.ドビュッシー - 弦楽四重奏曲第一番
C.ドビュッシー - 小組曲よりバレエ(アンコール)

会社を定時退社してアクタスへ。5分ほど遅刻してしまったが、オープニングイベントの大半を聴講することができた。佐藤淳一さんによるプレゼンテーションは、オープニングイベントのみならず、ドビュッシー「ラプソディ」の曲間にも及び、ドビュッシーの生い立ち、ラプソディの成立、エリザ・ホールの人物像、ラプソディの録音、ラプソディの編曲について、これまで知られていなかった/誤解されていた内容を覆す研究結果が数多く話された。また、いくつかの貴重な録音…Viardによる世界初録音、ラッシャーとニューヨークフィル、故S氏と芸大オケなど、どれもあまり一般には知られていないものであるため、とても良い機会であったと思う。全体のプレゼンテーション構成も素晴らしく、面白い出来事に絞ってポイントを押さえながら話していくあたり、聞き手としてもとても話を追いやすかったのであった。さすが佐藤さんである。

プレゼンテーション内容のメモ書き羅列は後日ブログにも掲載するつもりだが…ひとつ例を書いておく:
ラプソディの世界初録音は一般的にMaurice Viardの演奏によるもの、とされているが(Pearlから出版されている復刻CDにもそのように掲載されている)実は間違いで、 本当はJules Viardという名前のサクソフォン奏者であるということ。プレスされたグラモフォンのSPのラベルに、
Direction: M. Piero COPPOLA
Saxophone: M. Viard
と書かれていたため、Monsieurを表すM.がファーストネームと誤解され、他の奏者であるMaurice Viardと間違われたのではないかという推測がなされていた…この他のどの話題についても、目からウロコが落ちる思いだった。

プレゼンテーションの中で話された資料のデジタルアーカイブは、下記リンクからどうぞ。
ドビュッシーの自筆譜→こちら
ジェイムズ・ノイズ氏による「ラプソディ」黄金分割に関する考察を行った論文→こちら
ニュヨーク・フィルハーモニー管弦楽団所蔵のスコア。小澤征爾氏によるものと思われる筆跡も見られる→こちら
ヤング・ピープルズ・コンサートのプログラム冊子→こちら
ニュヨーク・フィルハーモニー管弦楽団とElkan-Vogel社による「ラプソディ」のアレンジをめぐっての往復書簡についてはここから参照できる→こちら

今回のプレゼンテーションは、佐藤淳一さんが執筆した論文「クロード・ドビュッシー《ラプソディ》を巡る諸問題に対する考察」が基となっている。この論文は、来年1月発行予定の、日本サクソフォーン協会発行の機関誌「サクソフォニスト」に掲載予定である。すでに校正段階に入っており、私も一読したのだが、ドビュッシー「ラプソディ」に関わりある方々は、ぜひ入会の上(笑)ご一読を。年会費3600円というのは破格だと思うのだが、あまり私の周りで入っている人はいないなあ。

19:00からはコンサート。3つの版をひとつのコンサートで聴けるなど、こんな企画でなければ絶対実現しない。1つ目のDurand版は、オーケストラのリダクションであり、サクソフォンのパートはそのまま。貝沼拓実さんの演奏は、音が少ないぶんその一発一発にかける気迫を感じ、ものすごい集中力のまま最後まで聴き通してしまった。「一音の重みが違う」とはご本人のことば。対してピアノパートは非常に高難易度であったが、やはり佐野氏のピアノはさすがである。薄明かりのような冒頭の和声から、遠くから聴こえてくるハバネラのリズム、そしてオーケストラの協奏のような部分など、多種多様な音色を確実に引き出していく。

2つ目はRies&Erler版(Detlef Bensmannのアレンジ)を伊藤あさぎさんの演奏で。これはまずアレンジの突拍子無さに驚かされた。随所でのソプラノとアルトの持ち替え、無伴奏カデンツァ(重音まで交えるなど…)、クライマックスでのフラジオ音域の多用など、強烈なものだ。伊藤あさぎさんの演奏をソロできちんと聴くのは久々。フランス留学を経て、音色に対する捉え方が変わっているような印象を受けた。テクニックはもともと素晴らしいものを持っていたが、その方面もさらに洗練されたようだ。来年3月にはリサイタルも予定しているとのことで、楽しみだ。

3つ目は2010年に出版されたHenleのUrtext版。ドビュッシーの自筆譜をもとにいちから作りなおした版であり、現存するアレンジ譜の中で最もドビュッシーの意図に近いものになっていると言えるだろう。実演では初めて聴いたがこれはとても面白い!もし仮に(ないだろうけど)私がラプソディを演奏するとしたら、この版を使うことだろう。大城正司さんの演奏を聴くのも久々で、音色・テクニック・音楽性等、その魅力を挙げていけばキリがないのだが、いちばん驚いたのがアンナホールの音響の悪さを感じさせない…といか、演奏でその音響の悪さをカヴァーしてしまうようなところである。アンナホールではこれまでも様々な演奏を聴いているが、あの音響の悪さをカヴァーできる演奏家は稀である。驚嘆してしまった。

後半は、ソプラノ:大城正司氏、アルト:伊藤あさぎ氏、テナー:貝沼拓実氏、バリトン:佐藤淳一氏という布陣でドビュッシーの2曲「ベルガマスク組曲よりプレリュード&パスピエ」「弦楽四重奏曲第一番」を。この企画のための即席のカルテットだということを感じさせない、素晴らしい演奏だった。この4人が集まるとどうなってしまうのかと思っていたのだが、ベルガマスクの冒頭を聴いた瞬間から音色のブレンド感に驚き、そのまま最後まで行ってしまった。弦楽四重奏曲の第3楽章の、グレゴリオ賛歌のような美しさに気づけたのも収穫。アンコールは、小組曲より「バレエ」。

佐藤さん曰く「自分は演奏者であり、物書きでもあるが、書いて終わりではなく、このような機会を企画することで多くの人に「ラプソディ」のことについて知ってほしい」「インターネットで沢山の情報が手に入る時代だからこそ、現地へ赴くことが重要。ニューイングランド音楽院でドビュッシーの手稿を手にし、参照して得られることがたくさんあった」という力強い言葉の数々に大いに共感した。目標にするのもおこがましいほどだが、私も佐藤さんのことを見習わなければ。

恐縮なことに打ち上げにも参加させてもらい、出演の方々といろいろお話することができた。楽しかったなーーー。また、現在マンハッタン音楽院でPaul Cohen氏のもとサクソフォンを学ぶWonki Leeさんに初めてお会いし、ご挨拶することができた。打ち上げにもいらっしゃったため、その席でもラッシャーやイベールについていろいろと情報を提供いただくことができた。やはりマンハッタン音楽院をそのうち訪問しなければ(笑)。

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