2012/11/08

ファブリス・モレティ リサイタル2012東京公演

年に一度はこれを聴かなければ!モレティ氏の演奏会に伺うと、暮れに向かって加速していく世間の空気を実感するのだ。昨年に引き続きとなる鈴木研吾さんのマネジメントのもと、今年は日本の五都市で公演が行われる。クラシックでサクソフォンを学んでいる人にとっては、必修科目のようなものだと思っている。

今回、チケットに関してはマネジメントの鈴木さんにお世話になった。改めて、この場を借りて感謝申し上げる。

【ファブリス・モレティ サクソフォンリサイタルツアー(東京公演)】
出演:ファブリス・モレティ(sax)、服部真理子(pf)
日時:2012年11月8日(木曜)19:00開演
会場:ルーテル市ヶ谷センター
プログラム:
P.クレストン - ソナタ
P.サンカン - ラメントとロンド
A.デザンクロ - PCF
C.パスカル - ソナチネ
P.モーリス - プロヴァンスの風景
P.M.デュボワ - ディヴェルティスマン
アンコール:
林光 - 暗い晩
A.シャイユー - アンダンテとアレグロ
E.ボザ - アリア

まあ、年に一度は…と書いておきながら、昨年は伺えず悔しい思いをしたのだった。一曲目は遅刻で聴けなかったものの、なんとか2曲目には間に合った。プログラム冊子の曲目解説は、上田卓さん。今回も素晴らしい解説を堪能した。木幡一誠氏の書く文章とともに、私の昔からの理想となっている。

今では録音でしか聴くことのできない、師匠のダニエル・デファイエ氏からの直接のリンクを感じる。フォルテにおける響きは眼前に大きな壁となってそびえ立ち、ピアノにおける繊細な響きはまるで上質なシルク生地のようだ。

サンカンの「ラメントとロンド」は、そのシリアスな響きもなんのその、クランポンのサクソフォンを鳴らし切る圧倒的なパワーで、完全に曲を我が物としていた。服部真理子さんのピアノのやや硬質、しかし場面場面で目まぐるしく表情を変える響きも、モレティ氏とのアンサンブルに相応しい。美しい響きからグロテスクな響きまでを見事に弾き分けている。デザンクロの「PCF」も、怪しげなプレリュード、カデンツァでの音符のばら撒きから、終曲のピアノとの見事なアンサンブルまで、一気に聴き通してしまった。サクソフォンとピアノのブレンド感、距離感に耳を向けると、さらにその凄さがわかる。

さらにパワーアップしての後半は、服部真理子さんお得意のパスカルから。サクソフォンパートは、凡庸に聴こえて実は非常に難しいことをやっているのだが、この曲をここまでエレガントに聴かせてしまうのかという驚きがあった。リサイタルで「プロヴァンスの風景」を取り上げ(られ)る演奏家もなかなかいないだろう。氷の上を滑るような第一楽章や、慈しみが感じられる第四楽章、そして聴いたことのないほどぶっ速い第五楽章(大喝采)など、その魅力を挙げていけばキリがない。そして最後になんとデュボワの「ディヴェルティスマン」が演奏された!マルセル・ミュールの演奏でこの曲に親しんだ私にとって、とても嬉しい選曲だった。あのコミカルなフレーズを、輝かしく吹きこなしていく。感動的だった。

ところで、曲間にはモレティ氏のトーク(通訳は服部真理子さん)があったのだが、今日のトークはなんとモレティ氏の師ダニエル・デファイエ氏に関するエピソードを中心に取り上げていた!自身のリサイタルで師匠のことをたくさん話すって、凄いことだな。話された内容も面白かったし(モレティ氏は18歳でデファイエ氏とテリー氏の間に座ってオケの仕事をしていたそうだ!)言葉の隅々から師匠への敬愛が感じられる。ある意味こちらも演奏以外の隠しメインイベント、という感じで、貴重な機会に臨席できたことを嬉しく思う。

そういえば、モレティ氏オススメのデファイエ氏の演奏が聴けるCDとして、ビゼー「アルルの女」とミヨー「世界の創造」が挙がっていた。「世界の創造」については、これは語り尽くせないほどで、すべてのサクソフォン奏者が聴くべき録音だ。「アルルの女」は、新録音なのか旧録音なのかわからないのだが、どちらにもデファイエ氏が参加している。旧録音のほうがサクソフォンがオンマイクで捉えられておりわかりやすいのだが、新録音でのオーケストラから立ち上がってくるようなサクソフォンの音色も聴きごたえがある。フルートは断然旧録音ですね(ジェームズ・ゴールウェイが吹いている)。
カラヤン指揮ベルリン・フィル「アルルの女(旧録音)」
カラヤン指揮ベルリン・フィル「アルルの女(新録音)」
バーンスタイン指揮フランス国立管「世界の創造」

アンコールに、まず、ピアノソロで林光「暗い晩」。左手の分散和音に、オペラのアリアのような美しくシンプルな旋律が乗る。この曲の成立を知らなかったのだが、ちょっと調べてみたところこんなサイトが。今という時代に、まさにピッタリな音楽ではないか。林光氏の追悼の意味もあったのだろう。モレティ氏のアンコールは、アンドレ・シャイユー「アンダンテとアレグロ」、ウジェーヌ・ボザ「アリア」。最後の最後にボザ作品を持ってくるとは、もしやモレティ氏なりのエスプリだったりして…そんなはずないか(笑)。

岐阜公演が11/11、福岡公演が11/16、福山公演が11/19。近くの方はお聴き逃しなきよう!

2 件のコメント:

鈴木研吾 さんのコメント...

僕のブログへのコメントありがとうございます!
返信コメントさせていただきました。

改めて、毎度毎度ブログに演奏会情報を載せていただき本当にありがとうございます。
チケット窓口をやって、栗林さんの影響力の大きさを改めて感じました(>_<)

またお会い出来る日を楽しみにしています!
今後とも宜しくお願い致します(^^)

kuri さんのコメント...

鈴木さん

コメントありがとうございます。またゆっくりお話する機会があると良いなと思います。

まだ公演は続きますが、がんばってくださいね。たくさんの方にモレッティ氏の演奏を聴いてほしいと思います。