2012/10/13

クロード・ドゥラングル サクソフォン・ライヴII@静岡音楽館AOI

2007年のあのライヴに続き、またもや「伝説」となる機会に立ち会ってしまった。恐るべきサクソフォン奏者、クロード・ドゥラングル氏。ある意味では、前回ライヴを超えたのかもしれない。こういった演奏会が日本で、静岡という地で開かれてしまうのは、凄いな。

【クロード・ドラングル(ドゥラングル)サクソフォン・ライヴII 】
出演:クロード・ドゥラングル(sax)、マキシム・ル・ソー(sound engineer)、ホセ・ミゲル・フェルナンデス(computer music design)
日時:2012年10月13日(土曜)18:00開演
会場:静岡音楽館AOI
プログラム:
P.ブーレーズ - 二重の影の対話
G.グリゼイ - アニュビスとヌト
M.ストロッパ - ...of Silence
L.ベリオ - セクエンツァIXb
野平一郎 - 息の道(日本初演)

土曜日、しかも今日は際立った予定が無かったため、昼過ぎからダラダラと鈍行で出かけた。LifeTouch Noteを持参し、行きの電車の中では曲目解説書きの仕事を進めたり、飽きてきたらウトウトしたり。東海道線を使って、熱海で乗り換えておよそ3時間。やることがあればあっという間である。

16:00からの鈴木純明氏の事前レクチュアに参加したが、顔見知りを含めなかなかの盛況だった。久しぶりとなる方にご挨拶したり、つい最近会ったばかりの方にご挨拶したり。内容の50%は、鈴木氏の体験を基にしたライヴエレクトロニクス入門といった趣で(※詳細はメモを後でアップします)、コンサート直前の予習としては最適だった。興味深い話を堪能した後は、会場へと移動。

ホールに入ると、ずらっと並んだ譜面台、スピーカーが目に飛び込んでくる。客席を取り囲むようしてぐるっと数組のスピーカーが配置されている。上手に据えられたタワー型のスピーカーの組は、ストロッパ作品のものだということがすぐ分かった(5年前のセッティングと同じ)。驚いたのは、ステージと客席の境界のおよそ10m上に吊られた3つのスピーカー。ここにスピーカーを据えるというのは初めて見た。座席はAOIに直接連絡して予約したのだが、隣がまりえさん、後ろがユイさんでした。

一曲目からブーレーズ「二重の影の対話」というぶっ飛んだオープニング。すでに国内でも佐藤淳一氏、大石将紀氏らの手によって演奏されている作品で、(クラリネット作品からの改作とはいえ)サクソフォンとエレクトロニクスの作品の中でも非常に音楽的に充実している作品の一つである。演奏者は、プリ・レコーディングされた自らの"影"と超高難易度のフレーズを対話し、曲が進んでいく。ドゥラングル教授、あまりにスラスラと吹くので羽のように軽い作品に聴こえるが、実はものすごいことをあっさりとやってのけているのだ。音量的には意外と大人しいなあと思っていたら、後半のソプラノ持ち替え時にはブロウしまくり。ちゃんと計算していたということですね。持ち替えでプリ・レコーディングが流されているときは照明が落とされ、演奏者が吹くときはスポットが当たるという、そんな照明の演出もすばらしかった(そういう照明の指示があるんだっけな)。

グリゼイの「アニュビスとヌト」は、バスサクソフォンのための独奏作品。下手側の一段高い台の上で演奏されたが、2007年にはここでスピロプロスの作品が演奏されたっけ。そういえば、たしか前回もグリゼイの演奏が予定されていたはずだが、シェルシに変更されたのだった(なつかしい)。ドゥラングル教授の演奏は録音にもなっているので知っている方にはおなじみであるが、ちょっと今まで聴いたことのない新鮮な感覚を受け、特に「アニュビス」の演奏には興奮を隠すことができなかった。ドゥラングル教授の美声も堪能できた。

ストロッパ「...of Silence」は、2007年に聴いた時には理解・咀嚼することができず感想を書けなかったのだが、今日はとても聴きやすい作品だと感じた。自分の聴き方が変わったのか、第3版ということで作品自体もいくぶん印象を変えたのか。星の瞬きがきらめくような音世界は、タワー型に組まれたスピーカーからの音とは思えないほど空間的な広がりを感じさせる。解説によれば、「アルシア・コント率いるチームがIRCAMで開発したアンテスコフォ(2011年)という…(中略)…コンピュータが演奏者のピッチとテンポを正確に追うことができるもので、これによってコンピュータが…(中略)…調和的に人間の演奏家と対話することが可能となった」とのこと。演奏者はスピーカーの後→横→前と順に移動するのだが、特に横に移動したときのサクソフォンとエレクトロニクスの絡みのおもしろかったこと!ドゥラングル教授が奏でる技巧的なフレーズに、エレクトロニクス(エフェクトではない、サウンドファイル)がぴたりと寄り添っていたのが印 象的であった。解説中に言及されているアルシア・コント氏は、2007年のライヴの際には来日し、エレクトロニクスのオペレーションを担当している。

休憩をはさんでベリオ「セクエンツァIXb」。これだけ世界的に広く演奏されている作品だが、ドゥラングル教授の演奏の説得力は生半可なものではない。バルコニー上で、たった一本のサクソフォンを携えてホール中に音を満たすそのパワー、ノイズを取り去ったクリアな音色。しかも完全なる暗譜。「セクエンツァ」が演奏されているとき、ちょっと遠くて見えづらかったけれど、楽器への息の吹き込み角度やアンブシュアに着目してみた。*ごくごく個人的な感想として*間違いを恐れず述べてしまうならば、ブッシャー製、アドルフ・サックス製のオールド楽器がいちばん豊かな響きを持ち、容易にコントロール可能となる、その角度をほとんど崩さずに吹いていたのかな、と思う。どんな難所にあってもその根底にある豊かな音色や響きは変化せず、さらにその上に抑揚をつけていく。演奏解釈としても、これは誰が聴いてもドゥラングル教授が吹いている「セクエンツァIXb」だと判るだろう、というものだった。「セクエンツァIXb」でこのような個性を 出せる演奏家が、世界を探して他にどれだけいるだろうか。

最後に新作、野平一郎「息の道」の日本初演。4本のサクソフォンとエレクトロニクスを使った全4部・30分近くにおよぶ壮大な作品。サクソフォンの使い方を特殊奏法の面から試みた「アラベスク3」の作曲から何年経ったのだろう…野平一郎氏が手がけたエレクトロニクスという現代最強の翼を得て、サクソフォンはさらに新たな語法を得るに至ったのだ。類い希なる傑作である。今年7月11日、スコットランド、セント・アンドリューズのByre Theatreで、世界サクソフォン・コングレスの演目のひとつとして、聴衆で埋め尽くされた会場で同作品を聴いた時のあの熱気を思いだした。機材・環境・スタッフという観点では、世界サクソフォン・コングレスの演奏を上回っていたかもしれない。4本の持ち替えもなんのその、ドゥラングル教授自身の演奏も最高であった。サクソフォンとエレクトロニクス、という編成で、歴史に残る作品・演奏だったと思う。別世界(人間の体内)を旅するような、夢のような30分を過ごした。終演、大きな拍手、カーテンコール。

終演後は、ロビーにて久々となる方や初めての方にたくさんご挨拶することができた。なんだか同窓会みたい(笑)。頻繁にはお会いできない方も多いが、こうした機会でお話しできるのは、それはそれで楽しいものだ。ドゥラングル教授と、しっかり写真も撮ることができました(^_^)v

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