2012/10/31

Vincent Daoud plays Webern on YouTube (sounds only)

Vincent Daoudの名前を覚えているだろうか。2008年の第2回ジャン=マリー・ロンデックス国際コンクール(詳しくはこちら)でテナーサックス一本で戦い、見事第5位入賞を果たしたフランスの奏者である。現在、スイスのローザンヌにあるエコール・ソシアル・ドゥ・ミュージックで教鞭をとる。

彼の公式と思われるYouTubeアカウントに、つい最近アントン・ヴェーベルン「四重奏曲作品22」がアップロードされているのを発見した。ちなみに音だけ。

第1楽章:http://www.youtube.com/watch?v=4LLJAmyJWgs
第2楽章:http://www.youtube.com/watch?v=xkSaYXKZZhw

なかなか良い演奏だなと思うが、いかがだろうか。ぱっと聴いてここに感動する、という曲ではないが、このアンサンブルの精密さを感じ取っていただきたい。

ところで、ヴェーベルンの「四重奏曲」は、優れた録音が多いのがありがたい。「標準」とも言えるグラモフォンのドゥラングル氏参加盤、クリステル・ヨンソン氏の盤(Nytorp)、ミーハ・ロギーナ氏の盤(CREC)、ヴァンサン・ダヴィッド氏の盤(aeon)といった現代の奏者の盤から、面白いところではリチャード・ストルツマン、ピーター・ゼルキンが参加した盤(RCA、サクソフォンはMartin Krystall)や、William Ulyate氏(ダールの協奏曲・改訂版の献呈先)が参加した盤といったものまで、意外とラインナップが多いものだ。

2012/10/30

イベール「祝典序曲」初演の頃

ナクソス・ジャパンの企画"N響アーカイブ・シリーズ"が面白い。

http://ml.naxos.jp/pages/NHKsoArchive.aspx

NHK交響楽団に関する歴史的アーカイブを順に配信しており、例えば戦時中の録音、海外遠征時の録音、海外の大規模作品日本初演の録音等、貴重な資料が満載だ。貴重なだけでなく、演奏もかなり熱の入ったものが多く、またいくつかの録音はとても質が高い。戦後間もない頃に、こんな音楽が日本に流れていたのかと感動してしまう。このような興味深い録音を(符号化圧縮されているとはいえ)安価に聴くことができるのはとてもありがたい。

私が個人的に面白いなあと思って聴いているのは下記のディスク。
http://ml.naxos.jp/album/NYNN-0016
http://ml.naxos.jp/album/NYNN-0027
http://ml.naxos.jp/album/NYNN-0031

そして、最近追加されたタイトルに「皇紀2600年奉祝楽曲集(1940)」というものがある。当時の日本政府が、皇紀2600年を記念し、イベール、ブリテン、シュトラウスといった海外の名だたる作曲家に新作を委嘱、日本で当時の新交響楽団(NHK交響楽団の前身)を中心としたメンバーにより結成された紀元二千六百年奉祝交響楽団により初演した、というイベントである。イベールが制作した「祝典序曲」にはサクソフォンが使われているのだが、その当時どのような響きがしていたのかとても気になっていたのだ。今回のリリースにより、聴くことができたのはとても幸い。

サクソフォンは、深いヴィブラートを伴った、見事な響きである。Thunderさんがこの録音についてとても興味深い記事を書いてらっしゃる(下記リンク参照)のだが、新交響楽団のクラリネット奏者、松島貞雄氏ではないかとのこと。こういう演奏をできる奏者が、1940年の日本にいたのか…と、(Thunderさんと同じ感想になってしまったが)なんとなくその初演の頃に思いを馳せるのである。
http://thunder-sax.cocolog-nifty.com/diary/2011/12/1940-5183.html

2012/10/29

復刻記事:ミシェル・ヌオーのイベール

2009年にアップした記事なので、もしかしたら最近ブログを読んでくださっている方は知らないかも…ということで、当時の記事を復刻。

個人的には、デファイエ&ラムルー管に匹敵するのでは…と思っている、ミシェル・ヌオー演奏のイベール「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」の録音を、木下直人さんに教えてもらった時の記事である。この演奏が、なんとインターネット上でも公開されているのだが、もし知らない方にはぜひ聴いてほしいなと思う。

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ジュネーヴ国際音楽コンクールのハイライト録音。これもまたすごい。実は1990年にCDとして出版されたようなのだが、まったく知らなかった。ジュネーヴのライヴなど存在しないと決め付けて、探そうともしなかった自分が恥ずかしい。1939年の初回のコンクールから、1989年までの「Selected First-Prize Winners」とのことだ。

Arturo Benedetti Michelangeli (Piano)
L.v.Beethoven - Piano Concerto No.5 mvt1 (Excerpt)

Riccardo Brengola (Violin)
F.Mendelsshon - Violin Concerto in E-min mvt3

Gilbert Coursier (Cor?)
C.Beck - Intermezzo

Aurèle Nicolet (Flute)
R.Oboussier - Pavan and Galliard

Maria Tipo (Piano)
D.Scarlatti - Sonata L23&L449

Maurice Allard (Basson)
A.F.Marescotti - Giboulées

Michel Nouaux (Saxophone)
J.Ibert - Concertino da camera

Maurice André (Trumpet)
H.Tomasi - Concerto for Trumpet mvt1

Martha Argerich (Piano)
F.Liszt - Hungarian Rhapsody No.6

Heinz Holliger (Oboe)
A.Marcello - Cocnerto in C-min

…す、すごい。ミケランジェリやアルゲリッチのピアノ、ジルベール・クルシェのホルン(コル?おまけにピアノがアニー・ダルコ!!)、オーレル・ニコレのフルート、アラールのバソン、アンドレのトランペット!これはまた、凄すぎますなあ。大御所とか伝説とか呼ばれているプレイヤーの、20代の演奏を切り取った録音である、ということで、どれも本当にキラキラと輝く演奏で、勢いがあって、あまりにも上手くて、聴き手は圧倒されるほかない。

この中で、サックス的な興味として、名手ミシェル・ヌオー Michel Nouauxの演奏が挙げられる。ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団のメンバーをベースにした四重奏団からミュールが脱退した後、そのソプラノサクソフォンパートに就任したのが、他でもないミシェル・ヌオーなのである。ヌオーは、ミュールの、パリ音楽院教授時代の弟子にもあたる。

ヌオーが参加していると思われるギャルドの演奏を耳にしたり、四重奏団のLPを聴いた中では、正直ヌオーがここまで優れた演奏家、音楽家だとは思っていなかった。これは、大変な録音である。ヘンな例えだが、ミュール演奏の「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」の色気や余裕をそのままに、音程やアンサンブルの精度を高めた…というような演奏に聴こえる。ああ、ボキャブラリーが足りないのが悔やまれる!こんなにもすごい演奏なのに!デファイエ四重奏団のリュエフ、ミュールのクレストン、ラッシャーのブラントなどを、初めて聴いたときと同じくらいの衝撃を受けてしまった…。ちょっと調べてみたところ、オンライン上から参照可能であるようなので、ぜひ聴いてみていただきたい(→こちら)。

(復刻時に追記)

リンク先に飛んだのち、聴きたい録音をクリックしてジャンプした先で「Open in an external player」をクリックすると聴くことができる。

この土日

久々にTsukuba Saxophone Quartetの練習だった。昨月のジョイントコンサート以来で、リハビリを兼ねつつ練習。今後の演奏活動・取り組む作品についても簡単に話し合いを行い、おおよその方向性が決まった。

まずは11/11日、小倉くんのリサイタルに向けて練習を進めていく。

2012/10/27

ご案内&出演情報:小倉大志サクソフォンリサイタル

Tsukuba Saxophone Quartet(ウェブFacebook)のメンバーでもある小倉大志氏のリサイタル情報を紹介する。

小倉くんをTsukuba Saxophone Quartetに誘ったきっかけは、サクソフォン交流会で演奏を聴いてのことで、加入してもらっていろいろ話すまで素性は良くわからないままだった。現在は、ピアノの調律師としての仕事の傍ら、サクソフォン方面にも情熱を持って取り組み、この度ついにリサイタルを開催するとのこと。来年にはフランスへの留学を視野に入れつつ活動しているとのことで、このリサイタルは渡仏前の集大成的な演奏会となることだろう。

内容も豪華で、まず前半はガチのクラシック。サクソフォンが近代音楽の世界に飛び込むきっかけとなったドビュッシー、続けてサクソフォンが現代音楽世界の扉を開けたデニゾフという、この2曲を並べるプログラムには感心した。デニゾフは8月に田村門下の発表会で演奏していたが、順調な仕上がりのようだ。後半は弦五パートを加えて、親しみやすい「モリコーネ・パラダイス」と、メインの「ニューヨークからの4つの絵」、そしてアンコール的な扱いでサックス5本とピアノのための「琉球幻想曲」が配置される。

手前味噌ながら、Tsukuba Saxophone Quartetも「琉球幻想曲」で登場する予定。ベルギーでは同曲を大宅裕さんと共演したが、今回はアンサンブルピアニストとしての活躍が目覚ましい大嶋千暁さんとの共演。本日合わせだったがさすがの演奏であった。TSQは、アンコールでもちょっとだけ登場する(かも)。

…ということで、ぜひお越しください。赤羽までとりあえず来ていただき、湘南新宿ラインに乗ればあっという間である。

【小倉大志サクソフォンリサイタル】
出演:小倉大志(sax)、大嶋千暁(pf)、長谷部恵美、広川優香(vn)、石川加奈子(va)、布施公崇(vc)、中村杏葉(cb)、Tsukuba Saxophone Quartet
日時:2012年11月11日 19:00開演
会場:さいたま市プラザノース(加茂宮駅から徒歩5分、大宮駅からバス15分)
料金:1500円全席自由(当日500円増)
プログラム:
C.ドビュッシー - 星の夜
C.ドビュッシー - ラプソディ
E.デニゾフ - ソナタ
真島俊夫 - モリコーネパラダイス
R.モリネッリ - ニューヨークからの4つの絵
伊藤康英 - 琉球幻想曲
問い合わせ:
taishi.tuner@gmail.com(小倉大志)
03-3345-1388(ドルチェ楽器管楽器アヴェニュー東京)

(チラシ・クリックして拡大)

岩渕みずきさんのブログ

最近、楽しみに読んでいるブログがある。

http://www.sax-m.cocolog-nifty.com/

国立音楽大学を卒業し、現在ケルン音楽大学の修士課程にてダニエル・ゴーティエ Daniel Gauthier教授のもと研鑽を積む、岩渕みずきさんのブログである。サクソフォンの留学先といえば直感的にフランスが一番に思い浮かぶが、岩渕さんの留学先であるドイツの留学事情は知らないことだらけで、とても面白い。また、サクソフォン関連のブログではあまり見ない、ストイックかつドライな語り口がある意味新鮮で、ぐいぐい読み進めてしまうのだ。

今年3月のGreen Ray Saxophone Quartetの時に初めてお会いした。はやぶさ四重奏団の演奏会は、仕事の都合で伺えず残念であったのだが、同郷(長野県)ということでもなんとなく親近感があり、ますますの活躍を祈念する次第。2013年には日本国内での演奏機会も予定しているそうで、聴く機会を楽しみに待ちたい。

2012/10/25

演奏会案内:ファブリス・モレティ来日公演2012

鈴木研吾さんよりご案内いただいた、ファブリス・モレティ Fabrice Moretti氏の演奏会。毎年来日しているが、最近は鈴木さんがマネジメントを任されているようだ。今年は東京を含め5都市での公演が予定されている。

プログラムも、フランス作品の王道を行く作品ばかりで逆に新鮮に映るが、このラインナップをモレティ氏の演奏で聴くことは、多くのサクソフォン奏者にとっての必修科目だと言えよう。マルセル・ミュール~ダニエル・デファイエと続いたフランス・アカデミズムの最高の形を現代に伝える奏者として、必ず聴くべき演奏家の一人である。もしモレティ氏の演奏を聴いたことがない!なんていう方がいたら、とりあえずここで予習しておくと良いかと。

もちろん私も行きます。特に、現役で音楽大学でサクソフォンを学ばれている方々に(一度は)聴いてほしいな。最新のパリ国立高等音楽院のスタイルからは少し違う場所にあるものだろうが、そういった演奏を耳にした時に若い方々が何を感じるのか、というところに興味がある。ぜひ、聴きに行ってツイッターでもフェイスブックでも良いので感想を書いてみてください。

【ファブリス・モレティ リサイタルツアー 東京公演】
出演:ファブリス・モレティ(sax)、服部真理子(pf)
日時:2012年11月8日(木)18:30開場 19:00開演
会場:ルーテル市ヶ谷センター
料金:一般3,000円 高校生以下2,000円(全席自由)※当日券共に500円増
プログラム:
P.クレストン - ソナタ作品19
P.サンカン - ラメントとロンド
P.M.デュボア - ディヴェルティメント
P.モーリス - プロヴァンスの風景
A.デザンクロ - プレリュード、カダンスとフィナーレ
C.パスカル - ソナチネ
チケット予約・お問い合わせ:
09029214806(鈴研音楽会・鈴木)
suzuken_concert@yahoo.co.jp

2012/10/24

レパートリー構築について

"いつでもレパートリー"の構築が、狙ったようには上手くいかないという話。

普段アマチュアで四重奏の活動をしていると、簡単な曲から難しい曲、コンサートホールからライヴハウス、ポップスからクラシックと、状況に応じて様々な機会で様々な作品に取り組むことになる。選曲の際には(コンクールでもない限り)できるだけ少ない労力で最大の演奏効果を上げるように、という考えが生まれ、必然的に曲の再利用を考えることになる。

例として、Tsukuba Saxophone Quartetがここ2年で演奏した曲目のリストを示す。全部で33曲、末尾に付けた回数は、楽章抜粋や楽章違いもあるので、完全に正確ではない。

吉松隆 - アトム・ハーツ・クラブ・カルテット(7回)
J.B.サンジュレ - 四重奏曲第一番より(5回)
伊藤康英 - 琉球幻想曲(4回)
上野耕路 - N.R.の肖像より(4回)
大野雄二 - ルパン三世のテーマ(3回)
和泉宏隆 - 宝島(3回)
彩木雅夫 - 長崎は今日も雨だった(3回)
ドイツ民謡 - こぎつね(2回)
J.S.バッハ/伊藤康英 - 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番より"シャコンヌ"(2回)
久石譲 - となりのトトロメドレー(2回)
K.エマーソン/P.フォード - タルカス(2回)
四方章人 - 浪花節だよ人生は(2回)
オムニバス - 四季の童謡メドレー(2回)
上野耕路 - サクソフォン四重奏曲より第2楽章(2回)
葉加瀬太郎/浅利真 - 情熱大陸(2回)
P.ゴールドシュタイン - フォールト・ラインズ(2回)
J.ノレ - トカデより第1,4楽章(2回)
M.ラヴェル - 弦楽四重奏曲より第1楽章(2回)
岡野貞一/くぼたまり - ふるさと(2回)
A.ピアソラ - 乾杯(2回)
長生淳「八重奏曲」
NAOTO/啼鵬 - for you...
槇原敬之 - 世界に一つだけの花
伊藤康英 - 琉球幻想曲 5sax+pf版
A.ピアソラ/啼鵬 - ブエノスアイレスの春・夏・秋・冬
福井健太編 - 超演歌宅急便
成田為三 - 浜辺の歌
三木たかし - 津軽海峡冬景色
伊藤康英 - 木星のファンタジー
J.ウィラン/B.メニュ - トリップ・トゥ・スカイ
伝承曲/B.メニュ - アン・オーウェン
グリーンスリーヴス
チェッカーズメドレー
ダッタン人の踊り

演奏機会にまたがって流用を続け、新規に取り組む作品を減らしていくなかで、本番前に1回の集中練習を設ければすぐ演奏できるようなエコシステム="いつでもレパートリー"を構築することを目指していた。確かに、演奏機会の多い「アトム・ハーツ・クラブ・カルテット」の第1楽章やサンジュレの「四重奏曲」、伊藤康英「琉球幻想曲」などは、かなり"いつでもレパートリー"と呼べるレベルに近づいてきた。だが、このリストを改めて眺めてみると、2回や3回程度やっただけでは、とくに難しい曲については板につくというレベルには達しないようだ、というのがわかる。いま、とつぜんリハーサル一回で上野耕路「四重奏曲」の第2楽章やピアソラの「乾杯」を吹いてくれと言われても難しい。

このカルテットだからダメだとか、誰のせいとか、そういうことではないのだろう。いくら流用をできるだけするという前提でも、どうしても到達してしまう限界があるのかな。そういう前提をわかった上で、割りきって、演奏機会を少しずつ積み上げていけば良いのだと思っている。

2012/10/23

吉松隆「サイバーバード協奏曲 Op.59」

久々に予習を兼ねて聴いてみた。

吉松隆「サイバーバード協奏曲」。国産のサクソフォン協奏曲の中では、間違いなく最高傑作の一つとして数えられる作品である。

成立と内容を簡単におさらいしてみよう。「ファジイバード・ソナタ」に続いて須川展也氏から委嘱され、1994年に初演。以降、須川氏の手により、2回のレコーディングと、数多く(正確な回数はわからないが、10回は超えているのでは)のライブ演奏が行われている。サクソフォンを独奏楽器とし、さらにピアノとパーカッションが付随独奏楽器として加えられた、三重協奏曲のスタイルをとる。3つの楽章から成り、それぞれ第1楽章「彩の鳥」、第2楽章「悲の鳥」、第3楽章「風の鳥」という副題が付けられている。

EMIから発売されたフィルハーモニア管との協奏曲集で、初めてこの作品を聴いた。(たぶんこの曲を聴いたほとんどの人がそうであるように)初めて聴いたときはそのあまりのカッコ良さ、美しさに衝撃を受け、何度も聴き返したものだ。

最初の頃はどうしても須川氏を始めとするソリスト陣の派手なパフォーマンス(実際、須川氏は言わずもがなピアノの小柳美奈子氏、パーカッションの山口多嘉子、いずれも日本を代表する演奏家たちである)に耳が引き寄せられてしまう。独奏パートの多くの場所に即興演奏のセクションが設けてあり、ソリスト陣の演奏能力に負う部分が多くを占めているのである。この理由は後述するが、吉松氏はこの曲の制作時に思うように時間が取れなかったということで、どうやらオーケストラパートの密度をかなり小さくしているようにも見受けられる。

演奏ではなく作品に目が向き始めた時、どのようなテーマを感じるかは人それぞれだ。クラシックのみならず、ジャズやロックなど非常に雑多な要素が詰め込まれていることは明らかだ。大きな潮流が消え、消費側の受容能力を超えた小粒なものばかりが氾濫する現代世界の象徴のようにも感じてしまう。しかもそれを、須川展也氏を始めとする卓越した演奏者の能力によって聴き手に向けて一気に開放するといったところに、シニカルな面白さを感じている(吉松氏のニヤリとした顔が思い浮かぶ)。

それとは別に、第2楽章に非常にパーソナルな要素が織り込まれていると、吉松氏自身が語っている。以下、吉松氏の手によるプログラムノートの一部を引用する。

…この曲を書いている時、私の二つ年下の妹が死んだ。ガンだった。その末期から死へ至る一月ほどの間、私は連日徹夜で看病をしながら妹の病室でこの曲のスコアを書き、「今度生まれてくる時は鳥がいい」と言って死んでいった妹の名を第二楽章に刻印した。
つまり「サイバーバード」とは、生命維持装置と人工呼吸器に囲まれて最後まで自由な空を飛翔する鳥を夢見た、そんな妹と私との見果てぬ夢でもある。…


妙に計算ずくに聴こえる第1楽章と、それとは対を成したようにパーソナルな第2楽章、その対比は第3楽章で一本のぶれない線となり、そのまま終幕まで突っ走る。いや、単に突っ走るというよりも、最後の大爆発などを聴いてしまうと、何か超えられない壁を超えようとしているかのよう。それは、混沌の現代世界に生きる我々がまだ到達していない「夢」なのかもしれないし、どんな難病や死をも乗り越えるような究極の生命を象徴しているのかもしれない。

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私の大学の先輩でもある細越一平さんが書いたサイバーバードに関するエッセイもぜひご覧頂きたい。けっこうビビります(いろんな意味で)。

演奏会案内:上野耕平 plays サイバーバード協奏曲

先日スコットランドで開かれたWSCでも素晴らしい演奏を披露した上野耕平氏の、大きな演奏機会。昨年の管打楽器コンクール入賞の副賞ということになるのだろうが、なんと「サイバーバード協奏曲」を選んできた。

少し話は飛ぶ。WSCでのあの上野耕平氏の世界デビューに立ち会えたことは、とても幸せなことだったなと今思い返してもますます強くそう思う。ホールを埋め尽くした世界のベテラン・サクソフォン奏者たちを前に、ものの開始10秒でその世界に引きずり込むあの空気感。クラーク・ランデル指揮のRNCM吹奏楽団を手なずけ(それなりに苦労したらしいが)見事に10分以上に及ぶ難曲を吹ききった後の喝采は、今でもはっきりと思い出すことができる。そのときの、ウィンドオーケストラを前にしてもなおサックスを見事に会場中に響き渡らせるその演奏には感銘を受けたものだ。

ということで、その実力は折り紙つき。つべこべ言っても始まらない。まずは聴きに行きましょう!

【東京ニューシティー管弦楽団第84回定期演奏会】
出演:内藤彰指揮東京ニューシティ管弦楽団
独奏:上野耕平(sax)、石若駿(perc)、永井基慎(pf)
日時:2012年11月2日(金)19:00開演
会場:東京芸術劇場コンサートホール
料金:
S席6,000円
A席4,500円
B席3,000円
C席2,000円
リラックスシート3,000円
プログラム:
吉松隆 - サクソフォン協奏曲「サイバーバード」op.59
ブルックナー - 交響曲第7番 ホ長調
問い合わせ:
03-5933-3266(東京ニューシティ管弦楽団事務局チケットダイヤル)


2012/10/21

原博巳氏、ヴァンドレンとセルマーを語る

Facebook上の原博巳さんのアカウントで紹介されていた動画。アクタス6Fで撮影された動画で、原博巳氏が利用しているマウスピース・楽器についてそれぞれ語るというもの。

どういった経緯で原博巳氏がマウスピースや楽器の選択をしたのか、また何を演奏上何を大切にしているのか、といった考えが話される。面白い内容だ。また、トーク間では演奏を聴くこともできる。

ヴァンドレン動画:Hiroshi Hara, famous classical Japanese saxophonist talks about the Vandoren equipement he has chosen
http://www.vandorentv.com/Hiroshi-Hara_v157.html

セルマー動画:原博巳氏「SELMER Paris」を語る
http://www.nonaka.com/movie/detail05.jsp

ドゥラングル教授リサイタル事前レクチャーのメモ

先日のドゥラングル教授のリサイタルの直前に、静岡音楽館AOIの講堂で開かれた鈴木純明氏の事前レクチャーのメモを少しまとめたので、ブログに貼り付けておく。

話の流れはあちこちへの飛び石のようなもので、その場で聴くのは(たくさん興味深い話しが出てきて)面白かったのだが、いざメモを取り、まとめようとするのは難儀である。当初の予定ではひとつの資料になるように体系的にまとめと補足と修正を行うつもりだったが、やっていくうちにかなり時間を取られることが判明したため、結局メモ書きの順番を変えてカテゴライズするに留めた。

…お時間のある方は、ぜひ補足と体系化までやってみてください。調べれば調べるほど深い部分にはまっていくので、うまくやれば論文くらいの内容にはなってしまうかも(笑)

※ご注意:個人的に作った自分のためのメモですので、間違いがある可能性があります。内容について鈴木純明氏への問い合わせはご遠慮ください。公開講座の授業ノートだと考えれば特に許可は取らなくても公開できると考えていますが、万が一指摘を受けた場合削除します。

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教育者としてのドゥラングル氏
* 30年に及ぶ指導歴
- ブローニュ音楽院?教授就任:1982年~
- パリ国立高等音楽院サクソフォン科教授就任:1988年~
* 種々のプロジェクトを立ち上げる(学生とともに新しいものを手がけていく、という姿勢)
- 1997年:作曲科とサクソフォン科のコラボレーション
o ドゥラングル氏と作曲科教授ルイス・ナオン氏が意気投合したことによる
o サクソフォンのためのエチュード制作
o 6月にオリエンテーション、作曲科・サクソフォン科の学生同士がペアを組む。翌年1月に発表
o アンリ・ルモワンヌ社のドゥラングル・コレクションから出版(全二巻)
o 各作品に明確な奏法面のテーマを設定
oo ヴィヴァンコス - ムスティクス・エチュード(循環呼吸・無窮動)、井上千春さんが演奏
♪ヴィヴァンコス - ムスティクス・エチュード
* ヴィヴァンコス
- 現在はカタロニア音楽院の管弦楽法教授
- ヴィヴァンコスはこのプロジェクトで初めてサクソフォンに触れ、以降サクソフォンに強い興味を持った(彼の卒業試験の曲は、サクソフォン独奏と室内オケのための作品)
* ムスティクスとは、蚊のこと
oo ドゥランス? - (四分音のエチュード)
oo フランク? - (重音のエチュード)
oo 馬場美智子 - (ビスビリャンドのエチュード)
oo スタイグリモー - (ジャズ風リズムのエチュード)
- 2000年頃?:声楽科とサクソフォン科のコラボレーション
* ドゥラングル氏の録音資料
♪棚田文則 - ミステリアス・モーニングIII
* 棚田文則氏
- アンサンブル・イティネレールのピアニスト(最近の来日ではグリゼイのピアノと5つの楽器のための作品を演奏)
- パリ国立高等音楽院ではフルート科の伴奏も務める
* ミステリアス・モーニング
- サクソフォンのありとあらゆる特殊奏法を押し込めた作品
- チャーリー・パーカーのアドリブからもインスピレーションを得ている
- 鈴木氏による印象:超絶技巧だがユーモアがある
* パリ国立高等音楽院サクソフォン科の録音資料
♪レディス・カンポ - ZAPP'ART
- 2004年頃(有村純親氏、大石将紀氏、白井奈緒美氏在籍中)
- 12のサクソフォン(sn1, s2, a3, t3, b2, bs1)とグロッケンシュピール
- 指揮はアベカナコ氏(レディス・カンポの奥様)
- ザッパとアートを掛けたタイトル。非常にユーモアがある作品。伝統あるパリ国立高等音楽院からこのようなユニークな作品が出てくることが興味深い
クラシックのみならず、タンゴや現代や、すべて同じ軸でとらえている。

ドゥラングル氏とIRCAM
* アゴラ音楽祭(アゴラ=広場、毎年6月に開催)でのコンサート、2004年
* 演奏作品
- P.ジョドロフスキ - Mixtion
- P.ルルー - 緑なすところ
- 野平一郎 - 舵手の書
- A.マルケアス作品
- M.ストロッパ作品 他
* ルルー作品、野平作品では、小林真理さん(声楽家)と共演
- 後に同じコンビでBISよりCDリリース

鈴木純明氏とドゥラングル氏との関わり
* 芸大時代はサクソフォン科(同期が3人いた)との関わりは少なかった
* 1997年にパリ国立高等音楽院作曲科に留学
* 1997年の作曲科とサクソフォン科のコラボレーションが、深くサクソフォンと関わる初めての機会
- ドゥラングル教授門下のサクソフォン奏者ジェローム・ララン氏と組む
- スラップ・スティック(スラップタンギングを題材としたエチュード)を制作
* 2000年にサクソフォン科の卒業試験曲を委嘱された
- 楽器指定:ソプラノサックス独奏と、四重奏(SSAT)の作品
- 日本的な要素を入れるよう依頼される
- 2001年4月下旬にザグレブ音楽祭ヴィエンナーレで初演(湯浅譲二の「私でなく、風が…」も演奏された)
o 演奏旅行に同行、ドゥラングル教授の作品に対する作り込みの徹底さ、統率力に感銘を受ける
o 音楽に対する厳しい姿勢にも感銘を受けた(ホテルの部屋でずっとさらっていた、さらっていないときは雑誌投稿用の記事を作成していた)
o オランダで佐藤尚美さんが演奏(たまたまドゥラングル教授のマスタークラスが開かれ、ドゥラングル教授も立ち会っていた)
o 2007年にAOIで日本初演

鈴木純明氏とIRCAM
* 2002-2003シーズンに研究生として在籍
* 毎シーズン世界各国から10人採択、うち1人はパリ国立高等音楽院作曲科卒業生枠(鈴木氏はこの枠)
* 1年かけてライヴエレクトロニクス作品をひとつ作る:cursusプログラム=作曲とテクノロジーを同時に学ぶ
- 作曲支援ソフトウェアの使い方の講義(3名のアシスタントによる)
- 作曲法のアドヴァイザーが付く(鈴木氏はファーニホウ、ミュライユについた)
* 修了作品
- チューバとエレクトロニクスのための作品
♪鈴木純明「?」
o 既存のサウンドファイル、リアルタイム変調を盛り込んでいる
o サクソフォンとエレクトロニクスの作品を書きたかったが、リュイリー・チャン(同期の他の研修生)に先を越されてしまった

ライヴ・エレクトロニクス入門
* 電子音楽の歴史
- フランス、ドイツの二大潮流
o フランス:ミュージック・コンクレート→自然音を加工する。放送局で制作。最初の代表的作品:???「エチュード」
o ドイツ:電子音楽→原音(サイン波等)を加工。ケルン放送局で制作。最初の代表的作品:シュトックハウゼン「習作」
- いずれもテープを使って再生、演奏家不在→演奏者のアクションを観ることができず、あまり面白くない
- 1960年代に生楽器と電子音響を組み合わせる試み
o シュトックハウゼン:オーケストラの音をリアルタイムでリング変調(二つの音をa+b, a-b)する作品、ピアニストの横にモジュレータを置いて変調する作品「マントラ」
o アナログならではの問題点:音程が悪い、リアルタイムでの操作が難しい

IRCAM
* 概要
- 1969年、ポンピドゥー大統領がブーレーズを招聘して音響研究所設立の準備を開始
- 1977年に活動開始
- フランスの文化省に所属
- 活動コンセプト:探求、創造、教育、普及
- ポンピドゥーセンターの横にある噴水の下に、地下3階まで研究所が広がる
* 組織
- 1976年時点の部門
o 作曲:?
o 楽器と声:リングオンブログカーレ?
o 電子音響:ルチアーノ・ベリオ
o 音楽情報学:ジャン=クロード・リセ
o 教育:ミシェル・ドゥクースト
- 現在
o 探求と発展(研究)
o 創作
o 教育
o メディアライブラリ
o インタフェースの探求と研究
* 歴代所長
- ピエール・ブーレーズ ~1992
- ロラン・ベール ~2002
- ベルナール・スティグレール(哲学者) ~2006
- フランク・マドレーネ(ブリュッセルやストラスブールの現代音楽祭ディレクター経験あり) ~現在

IRCAMで作られた音楽
* 最初期の作品
♪ジョナサン・ハーヴェイ「我は生者を呼び、死者を悼む(1980年)」
- ウェストミンスター寺院の鐘の音と、ボーイソプラノ(ハーヴェイの息子)の音を当時のIRCAMの技術で加工、8chのスピーカーを使って回転させる
- 鐘の音を音響分析し、倍音列を反転させた
* 新たなテクノロジーの開発
- 世界的な流れ
o midiにより機器共通のプロトコルが定義
o fm音源によりアナログシンセでは実現が難しかった電子的な音が生成可能になった
♪ピエール・ブーレーズ「レポン(1981年)」
- 6人の奏者と室内オーケストラのための作品。
- IRCAMで演奏者とエレクトロニクスが共演する仕組みを考案・開発
o 4x(キャトル・イクス):生楽器とリアルタイム音響処理の共演を可能にした
o 4x→ISDW→MAX/MSP
- 制作経緯
o ブーレーズは1958年に電子音響とオーケストラのための作品「可能にするための歌」制作を試みたが、うまくいかず撤回してしまっている
o IRCAM創設後、1980年に「レポン」を発表、傑作として幅広く受け入れられた
IRCAMから生まれた作品
* 演奏方法について
- エレクトロニクスとの同期(エフェクト、サウンドファイル再生等)方法
o フットペダルで音響イベントを進めていく
o 楽器のキイにセンサをつける
o ブーレーズの3本のフルートとエレクトロニクスの作品はフルートのうち一本にmidiフルートを使い、midiで同期する
o ふつうだったらあり得ないようなハプニングも発生する(イベントが進みすぎてしまう、等)

♪ピエール・ジョドロフスキ「Mixtion」
* ジョドロフスキ氏
- オランダ系、リヨンで作曲を学ぶ。IRCAMのCURSISプログラムに在籍経験あり
* フットペダルでの同期
* 作品の成立
- テナーサクソフォンとエレクトロニクスのための作品
- 2002年のパリ国立高等音楽院サクソフォン科の卒業試験課題曲として委嘱
o エレクトロニクス作品が卒業試験課題曲となることが、大きな反響を呼んだ
- その年の卒業生にジェローム・ララン氏がいる

♪フランチェスト・フィリデイ「プログラミング・ピノッキオ」
* 作品の成立
- CURSISプログラムの修了課題曲として制作
- ModalysというIRCAM制作のソフトを利用:仮想楽器をコンピュータ上でシミュレートしている
- ピアノとエレクトロニクスのための作品だが、打鍵音は出てこない(ピアノの鍵盤の上を爪でひっかくだけ)
- 他にサクソフォンアンサンブルのために作品を書いているが、それも特殊奏法しか出てこない作品

金・土・日は家族旅行

金曜日に、久々の有給休暇を取得。名古屋城~ひつまぶし~サツキとメイの家~常滑~千鳥ヶ浜~豊川稲荷~豊橋カレーうどん~舘山寺ロープウェイ~うなぎパイファクトリー~浜名湖周辺~楽器博物館、という旅程で家族旅行。昨年の伊豆旅行に引き続き、1年に1度の恒例行事である。写真はFacebookにアップロードしてあるので、ご覧いただければ幸い。

どこも面白かったのだが、個人的にやはりサツキとメイの家だろうか。大のジブリ好きとして、テンションが上がる要素超満載である。素晴らしかった。浜松市の楽器博物館は初めてだったが、資料のかなりの所蔵量に驚いた(7月に行ったブリュッセルのMIMとどちらが多いのだろうか)。写真撮影OK、かつごく近くまで近寄ることができるのも良い。毎週日曜日に開かれているという、所蔵楽器を使ったコンサートも面白かった。

2012/10/20

埼玉県立近代美術館での田村真寛氏演奏予定

昨日金曜日、久々に有給休暇を取得し、2泊3日で知多半島~浜松あたりを旅行している。

埼玉県立近代美術館の恩地様より下記演奏会のご案内を頂戴した。もう明日だが、入場無料ということでお近くの方はいかがだろうか( ´∀`)PCが手元にないため、案内文をそのまま貼り付けておく。

埼玉県立近代美術館は今年30周年を迎えまして、 その記念企画展「日本の70年代 1968−198 2」の関連コンサートとなります。ご出演の田村真寛氏は、まさに美術館と同い年ということになります。今後ともよろしくお願い申し上げます。

***********
埼玉県立近代美術館ミュージアム・コンサート
日時10月21日(日) 15:00〜16:00
演奏 黒沢綾(ヴォーカル、ピアノ)、関根 彰良(ギター) ゲスト 田村真寛(サクソフォン)
会場センターホール(地階)
費用 無料・先着順

美術館サイト:http://momas.jp/
企画展関連イベント頁:http://momas.jp/event/exhibitionevent/
ツィッター:http://twitter.com/momas_kouhou/

2012/10/19

ボーンカンプ氏、ロシアツアーの映像 on YouTube

WSCにも参加していたロシアのSherling音楽一家(父親Yuriは作曲家、母親Olesyaはピアニスト、息子のMatveyはサクソフォン奏者)のYouTubeアカウントに、先日行われたアルノ・ボーンカンプ氏のロシアツアーの映像がアップされていた。

http://www.youtube.com/user/SherlingArt

J.ドゥメルスマン - オリジナルの主題による幻想曲
A.グラズノフ - サクソフォン協奏曲
P.ヒンデミット - コンツェルトシュテュック
S.ベズ - Fantasy Concerto on L'Arlésienne by Bizet

ピアニストとしてOlesya Sherlingが抜擢されているから、Sherling一家のアカウントにアップされているのだな。個人的には、同じコンサートで演奏されたという無伴奏のバッハ「シャコンヌ」の演奏を聴いてみたいのだが…。

2012/10/17

他人の感想を…

TwitterやFacebookといったソーシャル・ネットワークのサービスが流行ると、自分が考えていることを発信しやすくなり、それはすなわち人が考えていることを容易に知ることができる、という楽しみがある。

そんなことを思ったのは、ついこの間のドゥラングル教授のリサイタルと、クローバーカルテットのリサイタルの直後に、その演奏会の感想や写真が自分のFacebookのタイムラインを埋め尽くした時のことだった。知り合いが思い思いに演奏会について語り、こんな捉え方や表現のしかたもあるのかあ、と、興味深く見入っていた。個人のアカウントが相互につながる、そのネットワークのなかで発信されるというスタイルならではの現象だろう。

ずっと昔ならば、パソコン通信の"会議室"や、レンタル掲示板上にある演奏会を書き込むということもあったのだろう。パーソナルな空間から情報発信するのとは違い、公共の場に書き込むのはやや敷居が高い(ROM専という言葉もあったかな)。ウェブページやブログは個人のアカウントから情報発信を行うが、そもそも始めるまでに敷居が高く、全体から見ればごく僅かなユーザーしかアカウントを所持していなかった。

その状況は、mixiを始めとする流行で一変。特にmixiの全盛期は、アカウントの"友達"だれもが「日記」を書いていた時代。mixiの流行は終わってしまったようだが、それはツイッターやFacebookに場所を変えて続いている。発信の仕方はどんどんと楽になり、いまやスマートフォンからテキストボックスに文章を打ち込んで投稿ボタンをクリックするだけというお手軽さ。その敷居の低さとオペレーションの手軽さが、個人個人の情報発信を容易にしているのだと思う。

この傾向は、少なくとも私個人にとってはとても興味深い。ある演奏会について、他人の感想を知りその感動を分かち合うことほど、面白いことはない。

2012/10/16

モーフィン・クァルテット公式サイト開設

11月の日本ツアーを前にして、モーフィン・クァルテットの公式サイトが開設された。きっと、日本ツアー用に制作した、ということなのだろう。これまではMySpace上のページしか無かったので、今回の公式サイト開設は大きな進歩である。

http://morphingquartet.com/

Multimedia→Audioと辿ると、ハイドン「弦楽四重奏曲」、グラズノフ「四重奏曲」、マルケアス「歯車のように」の各抜粋を試聴することも可能。もしまだ演奏を聴いたことのない方は、ぜひ聴いていただきたい。

演奏会案内:菊地麻利絵サクソフォーン・リサイタル

【菊地麻利絵サクソフォーン・リサイタル】
出演:菊地麻利絵(sax)、大嶋千暁(pf)
日時:2012年10月22日(月曜)15:00開演
会場:東京音楽大学100周年記念ホール
料金:入場無料
プログラム:
J.ドゥメルスマン - オリジナルの主題による幻想曲
F.デクリュック - ソナタ嬰ハ調
J.リュエフ - ソナタ
R.ロジャース - レッスンズ・オブ・ザ・スカイ
I.ダール - コンチェルト

最近コンサート等でお会いする機会が多い菊地麻利絵さんのリサイタル。ピアニストにこれまたおなじみの大嶋千暁さんを迎えて、超弩級のプログラムを取り上げる。ドゥメルスマン、デクリュックあたりまではまあ普通のプレイヤーでも取り上げるかなという感じがするが、さらに続いて無伴奏の至高作品リュエフの「ソナタ」、ピアノとの精密なアンサンブルが要求されるロジャース「レッスンズ・オブ・ザ・スカイ」、そして最後になんとダールの「コンチェルト」!

まだ大学4年生とのことだが、プロフェッショナルでもこんなプログラム吹けるひとはなかなかいないぞ…。このリサイタルは成績優秀者に与えられる機会とのことで、菊地さんの独奏がどんなものであるか、という点でも非常に興味深い。この強力なプログラムをサポートする大嶋千暁さんも、すばらしいピアニストだ。平日昼間ということでさすがに伺えないが、心よりご盛会を祈念申し上げる次第。そういえばまだきちんと菊地さんの演奏を聴いたことはないのであった。そのうち聴く機会が訪れるのを楽しみにしたい。

2012/10/14

クローバー・サクソフォン・クヮルテット リサイタル2012

昨日はドゥラングル教授のリサイタル@静岡音楽館AOI。本日はクローバーSQのリサイタル@東京文化会館。素晴らしい音楽に包まれてばかりで、そろそろバチが当たるのではないかと要らぬ心配をしてしまう。

【クローバー・サクソフォン・クヮルテット リサイタル】
出演:クローバー・サクソフォン・クヮルテット
日時:2012年10月14日(日曜)19:00開演
会場:東京文化会館・小ホール
プログラム:
J.S.バッハ/田村真寛「トッカータとフーガ」
D.スカルラッティ/M.ミュール「ソナタ」より
A.ベルノー「四重奏曲」
J.S.バッハ/田村真寛「ゴルトベルク変奏曲」

自由席ながら、東京文化会館の小ホールは見た目95パーセントのほぼ満席状態。日曜日の夕方とはいえ、この集客力には恐れ入るばかりだ。客席にはアマチュア・プロフェッショナル問わず、どこかで見たことがあるような方がいっぱい(須川氏が客席にいたのは驚いた)。

バッハの2作品はいずれも、メンバーの田村真寛氏の手によるアレンジ。締め切りに追われつつもじっくりと種々のアイディアを盛り込んだとのことで、最初に演奏された「トッカータとフーガ」も大変聴き応えのあるものに仕上がっていた。超高速フレーズをただ速いだけでなく快調に(嫌味にならずに)さばいていくセンスは、クローバーSQ独自のものだろう。音色の美しさは相変わらずで、特に弱音におけるコントロールはホレボレするばかり。

スカルラッティは、現代にあって取り上げる団体も少ないため、どのような演奏になるのかなと興味津々だった。"スカルラッティ2012"とでも表現できるようなもので、現代最高クラスの技術とバロック音楽の幸福な出会いを楽しむことができた。編曲者のピエルネが聴いたら、(良い意味で)驚くだろうなあ。

ベルノーはまさに佳演!このままCD作ってくださいと言いたくなってしまうくらいだ。第一楽章の、フレーズが現れては消えるその様を、音色の変化に着目しながら聴いていたのだが、その呆れるほどのヴァリエーションの豊かさに驚いた。第二楽章や第四楽章はクローバーSQの真骨頂だろう。普通ならばヒイヒイ言いながら組み立てるこの楽章を、まるで鼻歌のようにさばいてしまう。第四楽章もまさに同じイメージで、あの最終部の難所がまるで難所に聴こえないという(笑)。衝撃的だったなあ…。

休憩を挟んでバッハ。「ゴルトベルク変奏曲」というとつい先日雲井雅人サックス四重奏団がディヴィッド・マスランカ編の同作品を演奏したばかりだ(なぜか、曲が良くかぶるらしい)。アリア冒頭の空気感で客席を一気に引き込むことに成功し、そのままめくるめく変奏の世界に突入していった。細かい音符を並べたり、ダイナミクスの幅が広かったりという技術的な部分は当たり前のように完成されている。田村氏のアレンジは、音を足すなどして四声が効果的に使われているという印象を受けた。アリア以外の繰り返しは無しで、演奏時間はおよそ50分程度だったか。聴くからには、私自身が原曲をきちんと理解しておくべきなのだが、そこは勉強不足。

軽やかで、すっと心に入ってくるバッハだった。普段のクローバーSQの演奏で時折聴かれる尖った印象は身を潜め、端正さが出ていた。聞き手にとっては嬉しい誤算だったかもしれない。純粋なクラシック愛好家にこそ聴いてほしい、そしてバッハにも聴いてほしい、そんな演奏。

アンコールは「ゴルトベルク変奏曲」の第26変奏(たぶん)。心地良い余韻のなか、帰路についた。

2012/10/13

クロード・ドゥラングル サクソフォン・ライヴII@静岡音楽館AOI

2007年のあのライヴに続き、またもや「伝説」となる機会に立ち会ってしまった。恐るべきサクソフォン奏者、クロード・ドゥラングル氏。ある意味では、前回ライヴを超えたのかもしれない。こういった演奏会が日本で、静岡という地で開かれてしまうのは、凄いな。

【クロード・ドラングル(ドゥラングル)サクソフォン・ライヴII 】
出演:クロード・ドゥラングル(sax)、マキシム・ル・ソー(sound engineer)、ホセ・ミゲル・フェルナンデス(computer music design)
日時:2012年10月13日(土曜)18:00開演
会場:静岡音楽館AOI
プログラム:
P.ブーレーズ - 二重の影の対話
G.グリゼイ - アニュビスとヌト
M.ストロッパ - ...of Silence
L.ベリオ - セクエンツァIXb
野平一郎 - 息の道(日本初演)

土曜日、しかも今日は際立った予定が無かったため、昼過ぎからダラダラと鈍行で出かけた。LifeTouch Noteを持参し、行きの電車の中では曲目解説書きの仕事を進めたり、飽きてきたらウトウトしたり。東海道線を使って、熱海で乗り換えておよそ3時間。やることがあればあっという間である。

16:00からの鈴木純明氏の事前レクチュアに参加したが、顔見知りを含めなかなかの盛況だった。久しぶりとなる方にご挨拶したり、つい最近会ったばかりの方にご挨拶したり。内容の50%は、鈴木氏の体験を基にしたライヴエレクトロニクス入門といった趣で(※詳細はメモを後でアップします)、コンサート直前の予習としては最適だった。興味深い話を堪能した後は、会場へと移動。

ホールに入ると、ずらっと並んだ譜面台、スピーカーが目に飛び込んでくる。客席を取り囲むようしてぐるっと数組のスピーカーが配置されている。上手に据えられたタワー型のスピーカーの組は、ストロッパ作品のものだということがすぐ分かった(5年前のセッティングと同じ)。驚いたのは、ステージと客席の境界のおよそ10m上に吊られた3つのスピーカー。ここにスピーカーを据えるというのは初めて見た。座席はAOIに直接連絡して予約したのだが、隣がまりえさん、後ろがユイさんでした。

一曲目からブーレーズ「二重の影の対話」というぶっ飛んだオープニング。すでに国内でも佐藤淳一氏、大石将紀氏らの手によって演奏されている作品で、(クラリネット作品からの改作とはいえ)サクソフォンとエレクトロニクスの作品の中でも非常に音楽的に充実している作品の一つである。演奏者は、プリ・レコーディングされた自らの"影"と超高難易度のフレーズを対話し、曲が進んでいく。ドゥラングル教授、あまりにスラスラと吹くので羽のように軽い作品に聴こえるが、実はものすごいことをあっさりとやってのけているのだ。音量的には意外と大人しいなあと思っていたら、後半のソプラノ持ち替え時にはブロウしまくり。ちゃんと計算していたということですね。持ち替えでプリ・レコーディングが流されているときは照明が落とされ、演奏者が吹くときはスポットが当たるという、そんな照明の演出もすばらしかった(そういう照明の指示があるんだっけな)。

グリゼイの「アニュビスとヌト」は、バスサクソフォンのための独奏作品。下手側の一段高い台の上で演奏されたが、2007年にはここでスピロプロスの作品が演奏されたっけ。そういえば、たしか前回もグリゼイの演奏が予定されていたはずだが、シェルシに変更されたのだった(なつかしい)。ドゥラングル教授の演奏は録音にもなっているので知っている方にはおなじみであるが、ちょっと今まで聴いたことのない新鮮な感覚を受け、特に「アニュビス」の演奏には興奮を隠すことができなかった。ドゥラングル教授の美声も堪能できた。

ストロッパ「...of Silence」は、2007年に聴いた時には理解・咀嚼することができず感想を書けなかったのだが、今日はとても聴きやすい作品だと感じた。自分の聴き方が変わったのか、第3版ということで作品自体もいくぶん印象を変えたのか。星の瞬きがきらめくような音世界は、タワー型に組まれたスピーカーからの音とは思えないほど空間的な広がりを感じさせる。解説によれば、「アルシア・コント率いるチームがIRCAMで開発したアンテスコフォ(2011年)という…(中略)…コンピュータが演奏者のピッチとテンポを正確に追うことができるもので、これによってコンピュータが…(中略)…調和的に人間の演奏家と対話することが可能となった」とのこと。演奏者はスピーカーの後→横→前と順に移動するのだが、特に横に移動したときのサクソフォンとエレクトロニクスの絡みのおもしろかったこと!ドゥラングル教授が奏でる技巧的なフレーズに、エレクトロニクス(エフェクトではない、サウンドファイル)がぴたりと寄り添っていたのが印 象的であった。解説中に言及されているアルシア・コント氏は、2007年のライヴの際には来日し、エレクトロニクスのオペレーションを担当している。

休憩をはさんでベリオ「セクエンツァIXb」。これだけ世界的に広く演奏されている作品だが、ドゥラングル教授の演奏の説得力は生半可なものではない。バルコニー上で、たった一本のサクソフォンを携えてホール中に音を満たすそのパワー、ノイズを取り去ったクリアな音色。しかも完全なる暗譜。「セクエンツァ」が演奏されているとき、ちょっと遠くて見えづらかったけれど、楽器への息の吹き込み角度やアンブシュアに着目してみた。*ごくごく個人的な感想として*間違いを恐れず述べてしまうならば、ブッシャー製、アドルフ・サックス製のオールド楽器がいちばん豊かな響きを持ち、容易にコントロール可能となる、その角度をほとんど崩さずに吹いていたのかな、と思う。どんな難所にあってもその根底にある豊かな音色や響きは変化せず、さらにその上に抑揚をつけていく。演奏解釈としても、これは誰が聴いてもドゥラングル教授が吹いている「セクエンツァIXb」だと判るだろう、というものだった。「セクエンツァIXb」でこのような個性を 出せる演奏家が、世界を探して他にどれだけいるだろうか。

最後に新作、野平一郎「息の道」の日本初演。4本のサクソフォンとエレクトロニクスを使った全4部・30分近くにおよぶ壮大な作品。サクソフォンの使い方を特殊奏法の面から試みた「アラベスク3」の作曲から何年経ったのだろう…野平一郎氏が手がけたエレクトロニクスという現代最強の翼を得て、サクソフォンはさらに新たな語法を得るに至ったのだ。類い希なる傑作である。今年7月11日、スコットランド、セント・アンドリューズのByre Theatreで、世界サクソフォン・コングレスの演目のひとつとして、聴衆で埋め尽くされた会場で同作品を聴いた時のあの熱気を思いだした。機材・環境・スタッフという観点では、世界サクソフォン・コングレスの演奏を上回っていたかもしれない。4本の持ち替えもなんのその、ドゥラングル教授自身の演奏も最高であった。サクソフォンとエレクトロニクス、という編成で、歴史に残る作品・演奏だったと思う。別世界(人間の体内)を旅するような、夢のような30分を過ごした。終演、大きな拍手、カーテンコール。

終演後は、ロビーにて久々となる方や初めての方にたくさんご挨拶することができた。なんだか同窓会みたい(笑)。頻繁にはお会いできない方も多いが、こうした機会でお話しできるのは、それはそれで楽しいものだ。ドゥラングル教授と、しっかり写真も撮ることができました(^_^)v

演奏会情報:Green Ray Saxophone Quartetのライヴ

もう明日(…というか今日)になってしまったが、Green Ray Saxophone Quartetのライヴをご紹介。ブログ:http://ameblo.jp/green-ray/

【Green Ray Saxophone Quartet 中華五十番サロンコンサート】
出演:猪俣明日美、内田しおり、川崎有記、池原亜紀
日時:2012年10月13日 14:00開演
会場:中華料理五十番(立川駅徒歩5分)
料金:2500円
プログラム:
R.クレリス - 序奏とスケルツォ
J.S.バッハ - パルティータ第6番
J.ウィラン/B.メニュ - トリップ・トゥ・スカイ
T.エスケシュ - タンゴの達人
G.ガーランド - イン・ザ・ムード
宮本正太郎編 - クレイジー・トルコ
真島俊夫編 - ドリームズ・カム・トゥルー・スペシャルソングブック
三木たかし - 時の流れに身をまかせ
星出尚志編 - ゴスペルメドレー

国立音楽大学の卒業生・現役生で構成されたカルテット。今年3月の演奏会に伺った際には、その新鮮かつレベルの高い演奏に驚いたものだが、再び演奏を聴ける機会が訪れた。中華料理店でのライヴということで、料理とお酒込みで2500円ということだろうか?(お得!)

プログラムを眺めるとずいぶん気合いが入っており、実質的なリサイタルと言っても過言ではない。バッハ、エスケシュのほかにJ.ウィラン/B.メニュ「トリップ・トゥ・スカイ」を取り上げていただけるとのこと!私から猛烈に推したところ気に入って下さったのだが、このアレンジが少しずつ広まっていくのが嬉しい。しかも、Green Ray SQの演奏で、というとことはポイント高し。

私自身は静岡行きのため残念ながら伺えないのだが、もしまだ予定が空いている方はこちらのGreen Ray SQの演奏会も検討されてはいかがだろうか。

2012/10/11

本堂誠氏、パリ国立高等音楽院へ

ドゥラングル教授の来日が話題になっているここ最近だが、ある意味タイムリーな話題が飛び込んできた。昨年度東京藝術大学のサクソフォン科を卒業された本堂誠さんが、この度パリ国立高等音楽院のサクソフォン科に繰り上げ入学することが正式に決まったそうだ(ご本人のFacebookの書き込みより)。大変喜ばしいとともに、ヨーロッパでのますますの活躍を祈念する次第。

…ということは、第三課程の1年目に安井寛絵さん、第二課程の1年目に井上ハルカさん、第三課程の1年目に本堂誠さんが、それぞれ在籍している、ということになるだろうか。一時期、日本人がまったくいない状況が続いたが、最近の日本人の活躍はとても誇らしいものがある。

2012/10/10

ドゥラングル教授@AOIの2012、聴きどころ

【クロード・ドラングル サクソフォン・ライブ2 "Next"】
出演:クロード・ドゥラングル(sax)、ホセ=ミゲル・フェルナンデス(electronics)
日時:2012年10月13日(土曜)18:00開演
会場:静岡音楽館AOI
料金:全席指定4000円、22歳以下1000円
プログラム:
P.ブーレーズ - 二重の影の対話
G.グリゼー - アヌビ=ヌー
M.ストロッパ - ...of Silence(静岡音楽館AOI委嘱作品・第3版)
L.ベリオ - セクエンツァIXb
野平一郎 - 息の道(静岡音楽館AOI委嘱作品 日本初演)
問い合わせ:
054-251-2200 (静岡音楽館AOI)

いよいよ今週末に迫ったドゥラングル教授のリサイタル@静岡音楽館AOIの聴きどころをご紹介。

一見すると2007年のリサイタルを想起させる内容だが、本質は全く違う所にあるようだ。2007年の内容をさらに発展させた結果がこの5曲だ、ということなのだろう。まさに尖った印象を受けた前回("ライヴ"という言葉がとても似合っていた)とは打って変わって、ベテラン作曲家でラインナップを組んだ今回のプログラムは、サクソフォンを学ぶ方以外にも聴いてほしいほどのものだ。

ブーレーズ「二重の影の対話」は、クラリネット作品からの改作。国内でのサクソフォン版の演奏は、佐藤淳一氏、大石将紀氏らによってすでになされているが、やはり注目ポイントはIRCAMのスタッフが音響面でサポートを行う、ということ。ストロッパ作品も、これは2007年に委嘱新作として演奏されて以来の演奏となるということだろうが、音響が非常に重要な作品となっているため、再びIRCAMスタッフの采配のもと聴くことができるのだ。

グリゼー、ベリオ作品は、無伴奏の作品として非常に重要なレパートリーだ。ドゥラングル教授の"音"そのものを存分に楽しむことができるだろう。前回、実はグリゼー作品の演奏が予定されていたのだが、急遽シェルシ「3つの小品」に差し替えとなった。それはそれで良かったのだが、ドゥラングル教授の演奏するグリゼー作品はとても興味あるところだ。

そして何といっても野平一郎氏の新作「息の道」である。4本のサクソフォンとエレクトロニクスを駆使した音響は、これまで築き上げられたサクソフォン+エレクトロニクスという編成の作品の中にあって、ひとつの大きな峰としての位置を占め、これからも演奏され続けることだろう。7月のWSC会期中にイギリス初演を聴くことができたのは、まさに僥倖であった。この類まれなる傑作を、ふたたび日本で聴けることを嬉しく思う。

チケットは残っているかわからないが、とりあえずまだの方は問い合わせてみてはいかがだろうか。
→054-251-2200 (静岡音楽館AOI)

2012/10/09

Eugene Rousseau appears on Web Radio

NOVOS Radio/TVがユージン・ルソー氏特集のプログラムを組んでいる。下記リンク先へ飛ぶと、インタビュービデオと、50分のラジオプログラムを視聴することができる。インタビュービデオはまだマトモに観ていないが、とりあえずラジオプログラムの感想を。

http://bandworld.org/MagOnline/MagOnline.aspx?f=Novos&p=BWpgNOVOS26

とても充実した内容である。曲間のトークはそこそこに、次から次へと曲が流れる。ほとんどはCD音源だと思われるが、私も持っていないようなCDからセレクトされていたりして、こんな作品を吹き込んでいるのか、というような新たな発見もあった。何気ない伸ばしの音にふっとかかるヴィブラートの気品さ!ルソー一派に共通する、最大の武器ではないだろうか。

1. Porgy and Bess Medley by G. Gershwin (arr. R. Hermann)
2. Serenade by Frank Bencriscutto
3. Take Five by Paul Demond (arr. E. Rousseau)
4. Concertino by Jerry Bilik
5. Harlem Nocturne by Earle Hagen (arr. E. Rousseau)
6. Tosca Fantasy by G. Puccini (arr. R. Hermann)
7. Meditation de Thais by J. Massenet (arr. J. Curnow)
8. Concerto in D Minor by A. Marcello

残念ながら最後はマルチェロの途中で終わってしまうのだが、聴き応えは十分。もしマルチェロの続きが気になる方は、こちらのCDを参照されると良いと思う。

2012/10/08

演奏会情報:CloverSQ 2012

昨日・今日はトルヴェールのコンサートだったんですね…知らなかった。。。

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ということで、サクソフォンの注目公演の多いこと!先週は雲井雅人サックス四重奏団、今週はトルヴェール・クヮルテット、そして来週は次世代の日本を背負うサクソフォンカルテットの一つとなることは間違いない、クローバー・サクソフォン・カルテットのリサイタル@東京…ということで、坂口さんから連絡いただいたので、ご紹介したい。

【クローバー・サクソフォン・クヮルテット リサイタル2012】
出演:林田祐和、田村真寛、貝沼拓実、坂口大介
日時:2012年10月14日(日)19:00開演
会場:東京文化会館・小ホール
料金:一般3000円、学生2000円
プログラム:
J.S.バッハ - トッカータとフーガ
D.スカルラッティ - 3つの小品
A.ベルノー - 四重奏曲
J.S.バッハ - ゴルトベルク変奏曲
問い合わせ:
03-5685-0650(東京文化会館チケットサービス)

ちょっとびっくりしたのは、つい先日雲井雅人サックス四重奏団のリサイタルでも演奏された「ゴルトベルク変奏曲」をクローバーSQも取り上げること。雲井雅人サックス四重奏団が演奏したアレンジはディヴィッド・マスランカ氏によるもので、今回のアレンジはクローバーSQメンバーの田村真寛氏によるもの。その違いを楽しむのも楽しそうだ。

「ゴルトベルク」以外にも、バッハ、スカルラッティ、ベルノーという超重量級プログラム。ここ最近のサクソフォンの演奏会とならぶ、注目公演であることに間違いはないだろう。特に、クローバーSQが演奏するベルノーかぁ…想像するだけでワクワクしてしまうな。

(チラシはクリックして拡大)

Ensemble Contest Selection 2012

先日のコンサートでご協力いただいた中島諒くんから購入したCD「Ensemble Contest Selection 2012」。ウィンズスコアという吹奏楽譜・録音の出版社からリリースされたサクソフォンアンサンブルのCDに、中島くんが演奏者として参加しているのだ。このCDの存在はこれまで知らなかったのだが、どうやら吹奏楽連盟が主催するアンサンブルコンテストのレパートリー参考用として制作されたもものようだ。ブレーンがVive! Saxophone Quartetを使って似たようなコンセプトでCDを制作しているが、ウィンズスコアもそれに続いた、というイメージだろうか。

とりあえず、演奏者が面白い。東京藝術大学サクソフォン科の面々で、山崎優佳、中井伶、中島諒、竹内理恵、藤本唯(敬称略)。なんか、どこかで名前を聞いたことがあったりどこかで話したことがあるような方々ばかりだ(笑)。

M et F.ジャンジャン - サクソフォン4四重奏曲より[satb] 
J.B.サンジュレ - サクソフォーン四重奏曲より[satb]
鈴木歌穂 - 黎明の空へ[aatb]
P.ヒケティック - スリー・ラテン・ダンス[satb]
J.フランセ - サクソフォーン四重奏曲より[satb]
L.オストランスキー - 3つの小品[aat]
福田洋介 - 夕影のセレナーデ[atb]
渡部哲也 - カプリッチョ[atb]
内門卓也 - Interweave[saatb]
福田洋介 - ガラスの香り[saatb]
渡部哲也 - カプリッチョ[satb]

ジャンジャン、サンジュレ、フランセ等のフランス産スタンダード作品は、技術的なものに問題があるというわけではないのだが、とつぜんカットがあったりして(アンコンですからね…5分以内に収めないといけない)演奏を楽しむ、というレベルまで正直到達しないのが残念なところ。アンコン向きとはいえ、全曲版で収録、というわけにはいかなかったのだろうか。

やはりCDとして聴いて面白いのはオリジナル作品ではないだろうか。邦人作品は、ウィンズスコアが版権を持っている作品のようだが、その演奏から伝わってくる共感度合いが別格だと感じた。なかなかおもしろい三重奏曲、五重奏曲もいくつか収録されており、アンコンに取り組む向きには重宝されるのではないだろうか。

軽井沢へ

会社の同期と軽井沢へ一泊二日で遊びに行ってきた。同期のご実家が所有するログハウス風の別荘(!)を宿泊先とし、料理・飲み会・卓球・お喋り。山の中を散策し、白糸の滝を眺め、軽井沢銀座をフラフラし、帰ってきた。新幹線を使うと軽井沢から自宅最寄り駅までたったの2時間、というのもすごい。

楽器を持たずに遠出する、というのも久しぶりだったなあ(^^;面白かった。

ちょうど帰ろうとした時に、目の前わずか7メートルに現れた鹿。写真を何枚も撮ってしまった。

2012/10/07

Embraceable Youの在庫

10月、そろそろ秋めいてきた…と思えばまた残暑のような気候に逆戻り。今週は軽井沢、来週は静岡、再来週は愛知と、あちらこちらに行く予定がある(演奏じゃないよ)。

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服部吉之先生の「Embraceable You(Momonga Records MRCP-1004)」という素晴らしいCDがある。3年ほど前にレビューを書いたが、演奏・曲目・録音の三者が非常に高次元で融合した甲種オススメCDの一つである。特に、アルバムタイトルとなっている生野裕久「Variations sur le thème de "Embraceable You"」と、イィンドジフ・フェルド「Sonata」は驚異的な完成度を誇る録音で、今でも度々取り出しては聴く機会が多い。

このアルバムだが、素晴らしいCDにも関わらず版元で在庫切れ、残りは流通在庫のみとなっている。数年前まではCDショップでもちょくちょく見かけたが最近はあまり見なくなってきたような気がする(というか、CDショップ自体にもあまり行かなくなってきてしまったなあ)。

昨日、少し思い立ってネット上の流通在庫を調べたところ…おお、あるではないか。少なくともページ上の情報を信じる限り、vandorenscores.comでIn Stock=在庫有りとなっていた。このIn Stockというステータスも、それほど信用してはならないのだろうけれど、もし興味ある方は購入にトライする価値はあるのではないか。

http://www.partitionsvandoren.fr/product_info.php?cPath=9003_9005_5470&products_id=169745&osCsid=9c0657ada33dad89fb07844b1de76992

2012/10/06

やりたい曲…(2012/10/6アップデート)

2010年6月、そして2012年2月に書いたやりたい曲リストなんてものがあるのだが、順調に消化できているためアップデートをかけておく。やっぱり長生淳「八重奏曲」が演奏できたのは嬉しかったなあ。

ソロ:
JacobTV - Grab It!(再演)
Pierre Jodlowski - Mixtion
Jacques Becker - Western Ghats
Etienne Rolin - No Tenor Tech Out

四重奏:
Erkki Sven Tuur - Lamentatio
Louis Sclavis - Attente et Danse
Alexandros Makeas - Engrenage
JacobTV - Heartbreakers
Roland Becker - Le marchand de chaussures électriques
John Zornのアレンジ作品
Perry Goldstein - Blow!
伊藤康英 - 四重奏曲第二番
Juan Luis del Tilo - Tormenta Tango
Richard Ingham - Mrs Malcolm, Her Reel

(ちょっと追記)
やりたい曲を、常に何曲か頭に置いて持っておくことは、とても重要だと考えている。順に消化すると同時に、常に魅力的な作品を探し続け、常に10曲程度はキープしておくことが、モチベーションの維持につながるはずだ。

2012/10/04

サクゴレン&TsukubaSQ曲目解説

先日のサクゴレン&TsukubaSQのジョイントコンサートの、曲目解説を公開する。A4用紙1ページに、10ポイントの文字サイズで収まる程度…というと、このくらいの量である。

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ジャン=バプティスト・サンジュレ「四重奏曲第一番」
ベルギー生まれのヴァイオリニスト・作曲家であるサンジュレは、サクソフォンの発明者であるアドルフ・サックスと親交が深く、アドルフが就任した音楽院のサクソフォン科の試験にも課題曲を提供していました。「四重奏曲第一番」は、世界で最初期に書かれたサクソフォン四重奏曲と言われています。古典的な和声・リズムとサクソフォンの豊潤なサウンドが組み合わさった、心地よい響きをご堪能ください。

ペリー・ゴールドシュタイン「フォールト・ラインズ」
ブルースのコード進行にビバップのメロディを乗せたクールな作品です。もともとはサクソフォンとピアノのために書かれましたが、のちに作曲者自身の手により四重奏のために編曲されました。アメリカ生まれの作曲家、ゴールドシュタインは、特にジャズやロックの影響を受けた作品を得意としています。

ジェローム・ノレ「トカデ」
「フリッソン」「サックストーリー」といった、サクソフォン吹きには人気の作品を提供し続けているフランスの作曲家、ノレ。その正体は、世界最強の現代音楽演奏集団”アンサンブル・アンテルコンタンポラン”のトロンボーン奏者です。耳に馴染み深い作品を制作し続ける一方、シリアスで難解な作品の演奏もお手のもの、というギャップは実に面白いものです。決然とした印象を残すタンゴ風の第1楽章と、16分音符が連なる第4楽章を演奏いたします。

渡辺雅也「サクゴレンのテーマ~魔法仕掛けの壊れた時計~」
アンサンブルサクゴレンのオリジナル・テーマ曲。2012年6月、第3回サクソフォン交流会で初演されて以来、サクゴレンのテーマ曲としてすっかりおなじみとなりました。

クロード・ドビュッシー/中村均一「ベルガマスク組曲」より”プレリュード”
今年生誕150周年を迎えたドビュッシーが書いた、ピアノのための古典的な形式をとる組曲。その最初の楽章として配置された”プレリュード”では、美しい和声構造の上で流麗な旋律が奏でられます。中村均一が手がけたこのアレンジは、サクソフォンの特性を存分に活かしたもので、数あるサクソフォン四重奏のための編曲作品の中でも、最高傑作の一つであると躊躇なく断言してしまえるほどです。

ミシェル・ルグラン/大島忠則「キャラバンの到着」
映画「ロシュフォールの恋人たち」で、主人公の双子姉妹が住む海辺の街に、ショウの舞台装置・ダンサー・歌手の一行(キャラバン)が到着した際にBGMとして流れる音楽です。日本国内においては、三菱・ランサーのCMとして使われ、広く知られるようになりました。ジャズを模した軽快な作品です。

横内章次「バラード・フォー・トルヴェール」
横内章次は、ギタリストとして活躍する傍ら、作編曲家としてよく知られていますが、この作品が完成した数年後に惜しまれつつ鬼籍に入ったとのこと。「バラード・フォー・トルヴェール」は、日本を代表する四重奏団のひとつ、トルヴェール・クヮルテットの名を冠したコンサート・ピース。緩急緩の三部構成で、憂いに満ちたワルツに導かれる急速調の中間部は、アドリブ風のソロも交えるなど圧巻です。

長生淳「八重奏曲」
2000年12月に開かれた、日本のトルヴェール・クヮルテットとオランダのアウレリア四重奏団による日蘭国交400年記念ジョイントコンサート。いまでもサクソフォン界では伝説となっているコンサートですが、そのステージの最後に委嘱新作として初演されたのが、この長生淳「八重奏曲」です。疾走感のカタマリのような第1楽章と、シリアスさと祝祭的な雰囲気が共存する第2楽章の、2つの楽章から構成されます。

2012/10/03

1960年のギャルド写真(木下直人さんから)

木下直人さんから、とても貴重な写真のデータを頂戴した。1998年に木下直人さんが陸上自衛隊中央音楽隊初代楽長である故・須摩洋朔氏のもとを訪問した際に写真に収めた、須摩氏所蔵のアルバムの抜粋である。

1960年、須摩氏は第10代統合幕僚会議議長としても知られる栗栖弘臣氏(!)とともにローマオリンピックに派遣され、欧州の吹奏楽団を視察した。もちろん、当時黄金期を迎えていたギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団も視察したとのことだが、そのギャルドの写真だそうだ。須摩氏はこの1年後、1961年のギャルド来日時に特別ゲストとしてムソルグスキー「禿山の一夜」と自作「行進曲"大空"」を指揮している。

全部で16枚送っていただいた。この写真の貴重さは、ちょっと言葉では言い表せないほどのものである。1961年のギャルド来日が日本の交響吹奏楽元年とするならば、さらにそれに先立つこと1年、ひとりの日本人が"ギャルド"に衝撃を受けた、その一瞬を刻銘に記録しているものである。写真を通して、カメラを持つ須摩氏の興奮が伝わってくるようだ。

とりあえず1枚の公開はOKということで木下直人さんにお許しいただいたので、以下にサクソフォンセクションの写真を公開する。Thunderさんのブログ記事より、初来日時(1961年)のメンバーリストを引用するが、おそらくほとんど変わってはいないはずだ。テナーにはジャック・テリー氏、バリトンにはアンリ=ルネ・ポラン氏が乗っている。

Altos:
Fernand LHOMME
Michel NOUAUX
André BEUN
Ténors:
Robert GATEAU
Jacques TERRY
Barytons:
Robert CEUGNART
Henri Rene POLLIN

※もし他の15枚の写真にご興味ある方は、木下直人さんに許可を取ってお送りしますので、連絡をください。須摩氏のプライヴェートなアルバムであるため、全部の写真が不用意に出回ることは避けたいと思います。

2012/10/01

写真で記録しておくことについて

2010年の4月にCanon PowerShot S90を購入して以来、練習や演奏会の様子をカメラで記録している。2012年の4月には念願のレンズ交換式カメラであるSony NEX-5Nを購入し、PowerShot S90は利用停止中。

2つのカメラを合わせてこれまでにおよそ20000枚ほど記録しており、その中には宝物の様な写真からどうでも良い(本当にどうでも良い!)写真までが混在している。

自分でも不思議だったのは、携帯カメラで写真を撮る習慣はほとんどなかったのに、デジタルカメラを買ったとたんに撮るのが楽しくなってしまったことである。わざわざ携帯電話とは別に持って行かなければならないというハンデはあるが、専用機器ならではのレスポンスの良さや高感度性能を始めとする画質の良さがツボにはまったのが大きいだろう。また、NEX-5Nを手にしてからは、レンズを替えることで見える世界が変わってくるという驚きや、シャッターを切るという楽しみがプラスされ、ますます面白くなったのだった。時にはデジカメでお手軽動画を撮ってみたり(とは言え、最近のデジカメの動画機能は凄いのだ)という楽しみも憶えてしまった。

こういった何気ない練習や演奏会をすることが、実はけっこう重要なのではないかなと思えてきた。もちろん音楽をやっているわけだから録音を残すのはもっとも重要だが、写真一枚から、どこで、誰がいて、どんな気持ちで吹いていたのかということをすぐに思い出せるのだ。演奏会の後なんか、あれほど充実した表情はなかなかとらえられるものはない。

うっかり油断すると、過去を振り返ってそこに浸ってしまうので注意…ではあるが(座右の銘として、思い出に浸ることはなるべくやらないようにしている)、それでも記録として写真をきちんと残しておくことと残しておかないことでは、演奏活動をする上で何か大きな差があるのではないかなあ。うまく表現しづらいのだが。