2012/07/20

TsukubaSQヨーロッパ演奏旅行(5日目)

7/11。世界サクソフォーン・コングレス会場への移動日。

コングレスは昨日7/10から始まっているが会場入りは本日。朝はホテルで朝食をとる。ベルギーと同じ洋食スタイルだが、味の洗練度合いが別物。シリアルも美味しくない…オレンジジュースも薄い…(想像していたのよりも悪くはなかったけれど)。ヘイマーケット駅からは、国鉄でルーカース駅まで移動。小雨と曇り空のなか、広がる海と草原と森を眺めながら1時間ほどの旅。リアル世界の車窓から、という感じ。

ルーカース駅に着くと、まわりになにもない!そもそも、日本人観光客でルーカース駅なんかを目的地にして行く人なんて、めったにいないだろう。よっぽどのゴルフ好きが、セント・アンドリューズにある世界最古のゴルフコースを楽しむくらいか。ルーカース駅からはタクシーでセント・アンドリューズまで移動した。

セント・アンドリューズは、中世ヨーロッパ、と口に出したときに思い浮かべるような煉瓦づくりの街並みはそのまま、中を現代風にリフォームしてお店や家が建ち並んでいる。小さな街で、端から端まで歩いて15分くらい。ここに、世界中からたくさんのサクソフォン奏者が集結し、思い思いに演奏を披露しているのだ。まずはByre Theatreで受付。ここで杉原真人さんに再会!杉原さんがお仲間と借りているコテージに、我々の宿泊場所のチェックインまで荷物を置かせてもらえて、とてもありがたかった。

到着のビールを一杯戴いて、ここからは単独行動。とりあえず、Four Baritonesというニール・ビール氏とボーンカンプ氏が参加しているバリトンサックス四重奏を聴きに向かうも、なんと会場のAll Saints Church Hall(小さな教会のような場所)満員で締め出しをくらってしまった。会場外で、海鳥の声を聞きながら外に漏れ聞こえてくるバリトンサクソフォンの音色に、じっと耳を傾けた。バロック音楽をサクソフォンという楽器を使って現代に照射するそのギャップに、なんだか普通ではない感覚を得たのだった。

お昼ご飯をカフェでとって、ドゥラングル教授の演奏を聴き受付を行ったByre Theatreへ。ここで宗貞先生にご挨拶。また、宗貞先生に紹介してもらって、リチャード・ディーラム Richard Dirlam氏と話すこともできた。CDまでもらってしまった。

Byre Theatreは現代風のオーディトリウムで、会期中はPA・照明を必要とするようなステージが披露されていたようだ。ドゥラングル教授のステージは、大行列となっており、早めに並べたから良いものの、会場には入れなかった人もたくさんいたようだ。右を向くと、ミシャ氏が!ヴァンサン・ダヴィッド氏が!ロンデックス氏が!客席がものすごく豪華なことになっていた…。野平一郎「息の道」のイギリス初演。先日フランスのIRCAMで世界初演されたばかりの作品で、4種類のサクソフォンとエレクトロニクスのための、紛れもない傑作。エフェクトや電子音を効果的に使い、演奏者の体内を旅するような感覚を得た。

演奏が終わった後、松下洋くん、上野耕平くん、小澤瑠衣さんと合流。杉原さんのコテージから荷物を引き取らせてもらう。続いてAll Saints Church Hallで、ジョナサン・ヘルトン Johnathan Helton氏が主宰するOnyx Saxophone Quartetの演奏でリゲティの「6つのバガテル」を聴いたのだが、おっそろしいほどの鳴りと推進力、細かい音程やアンサンブルなどお構いなしに突き進むスタイルに、日本のサクソフォンには決してないパワーを感じた。

その後ルイさんとともに宿泊場所となるDavid Russell Apartment(DRA)に戻り、チェックイン。この夜はサクソフォンと吹奏楽のコンチェルト・コンサートということで、小倉くん、ルイさんと待ち合わせてメインホールのYounger Hallへと歩いて向かった。ホール前では原博巳さんとお会いしたが、日本でもなかなかお話しする機会はないのにセント・アンドリューズで会うだなんて、変な感じ。勢い、ミシャ氏と一緒に写真を撮ってもらい、ホール内では石渡先生やハヤセさんにご挨拶。

吹奏楽ファンにはおなじみ、クラーク・ランデル指揮、イギリス王立北部音楽院吹奏楽団(ロイヤル・ノーザン・カレッジ・ウィンドオーケストラ)。昔からCDで聴いたことがあったが、まさかライヴで聴く初めての機会がコングレスになるとは思ってもみなかった。一曲目は上野耕平くんをソロに迎えての、ピエット・スウェルツ「ウズメの踊り」!当初はグレグソンの「サクソフォン協奏曲」で申請したとのことだが、なぜか変更になったとのこと。

ソロ開始わずか30秒、渾身の演奏に、最初のセクションを吹き終える頃には会場がぐっと引き込まれているのがわかった。10分以上におよぶ超絶技巧の嵐を、聴衆を魅了する見事な演奏で駆け抜け、最後は大喝采!上野くん、セント・アンドリューズの地で、日本代表として衝撃的な世界デビューを飾ったのだった。演奏が終わった瞬間に「彼は一体何者だ?!」とプログラム冊子を慌てて開く聴衆の姿がいくつも見られた。

次の曲はスロヴェニアのザグレブ四重奏団と吹奏楽の協奏曲Mladen Tarbuk「A Streetcar named Desire」。エリック・マリエンサルによってレコーディングされているというややポップスタイルの協奏曲Dana Wilson「Time cries, hoping otherwise」は、さすがにネイサン・タノウエ氏の作品に比べれば衝撃度は小さいか。休憩時間には、ロビーで安井寛絵さん、井上ハルカさんにお会いした。

続いて作曲者臨席のもと演奏されたRoy D.Magnuson「Book of the Dead」という新作のソプラノ・サクソフォン協奏曲は、演奏は言わずもがな作品としても大変な傑作で、これから先も何度も演奏されるべきと思った。まずはレコーディングを期待したいところだ。続いて、フィリップ・ガイス氏とザグレブ四重奏団の面々をソロに立てた、民族音楽風のガイス氏自作「United Colors of Saxophones」で会場は大盛り上がり。そしてサクソフォン多重奏の「サー・パトリック」は、まるでアンコールのように演奏され、大盛況のうちに幕を閉じた。「サー・パトリック」のメンバーはとんでもないことになっており、下記のような感じ。
sn: Philipe Geiss
s: Barry Cockcroft, Cliff Leaman, Branford Marsalis, Dragan Sremec
a: Christophe Bois, Tim Roberts, Goran Mercep
t: Philippe Braquart, Sasa Nestrorovic, Damien Royannais
b: Eric Devallon, Matjaz Drevensek
bs: Ludivine Schaal

Byre Theatreでは、さらに夜中から「Journey across the Impossible」と題されたApollo Saxophone Quartetのリサイタルが開かれた。何本かの無声映画に合わせてメンバー各々が作曲し、パフォーマンスを行う、クラシック・サクソフォンの新しいエンターテイメントの形。映像素材のセレクションもセンスが良いし、音楽も楽しいしで、実に盛り上がることだ。このパフォーマンス、DVDのような形で売り出されないかなあ。終了後にカフェで軽く飲み、DRAへと戻った。

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