2012/02/16

田村哲コンサートの曲目解説

先日開かれた田村哲のサクソフォン・コンサート・シリーズに対し、曲目解説を提供した。下記分量で、およそ3日(平日2日+休日1日)かかった。

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J.ドゥメルスマン「オリジナルの主題による幻想曲」
 ユレ・ドゥメルスマン(1833 - 1866)は、19世紀に活躍したフランスのフルート奏者です。パリ音楽院にて学び、12歳の時にフルートのコンクールで優勝するなど、早熟の天才であったと言われています。順風満帆な演奏活動のさなか、結核のため33歳という若さで夭折しました。
 作曲家としての活動も展開し、自身が得意とするフルートのための作品を数多く残しています。サクソフォンのために作品を作りはじめた経緯については謎が多いですが、現存しているだけでも20近くの作品があり、最も有名な作品が本日演奏される「オリジナルの主題による幻想曲」です。古今東西様々な奏者によって取り上げられており、この曲が書かれた当時のピリオド楽器を使用したアプローチもなされているほどです。
 まずは、なだれ込むようなピアノの序奏にご注目あれ。まるでピアノ独奏のために書かれた作品かと錯覚してしまうほどです。もちろんサクソフォンにも見せ場がたっぷりと与えられており、無伴奏のカデンツァから、技巧的で輝かしいフィナーレまで、奏者にとっても聴衆にとっても楽しめる作品です。

C.サン=サーンス「オーボエ・ソナタ」
 19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したフランスの作曲家カミーユ・サン=サーンス(1835 - 1921)は、幼い頃から音楽に対してずば抜けた才能を発揮したと伝えられています。その神童ぶりたるや、2歳でピアノを弾き始め、3歳で作曲を開始、16歳のときには交響曲を作曲…というもので、しばしば、天才モーツァルトと並び称されることさえあるほど。オルガニスト兼作曲家として活躍し、歌劇、交響曲、協奏曲、室内楽といった分野に数多くの作品を残しました。さらにフォーレ、フランクらとともに音楽協会を設立し、19世紀後期のフランス音楽の発展を支えました。
 1921年、最晩年に書かれた「オーボエ・ソナタ」は、「クラリネット・ソナタ」「バソン・ソナタ」との連作であり、サン=サーンスが亡くなる直前に完成しました。若いころに書かれた作品と比べると、勢いや主張といったものは感じられず、酸いも甘いも知り尽くした人生の積み重ねを感じさせる控えめな曲想です。無駄な部分を極限まで削ぎ落としたこのシンプルな音楽は、20世紀初頭のフランス音楽の最良の形として、現在も広く愛奏されています。

B.コッククロフト「Rock Me!」
 無伴奏のサクソフォンでロックを表現したらどうなるのか!?オーストラリアの作曲家、コッククロフト(1972 - )の超絶技巧作品に、たった1本のアルトサックスを手にして田村哲が立ち向かいます。

E.モリコーネ「ニュー・シネマ・パラダイス」
 イタリアの作曲家エンニオ・モリコーネ(1928 - )は、クラシックの作曲家としてキャリアをスタートさせながら、現在では特に映画音楽の分野で地位を確立しています。「ニュー・シネマ・パラダイス」も、同名の映画に対してモリコーネが提供したサウンドトラックであり、氏の傑作のひとつとして数えられています。
 テレビ番組やCMなどでもおなじみの作品であり、この美しいメロディを耳にされたことがある方も多いでしょう。その表現の幅広さから"歌う管楽器"とも呼ばれるサクソフォン。このモリコーネのメロディにぴったりではないでしょうか。
 
伊藤康英「ラモーの主題による変奏曲」
 数々の吹奏楽曲や器楽曲でおなじみの作曲家・伊藤康英(1960 - )と、日本のクラシック・サクソフォン界との繋がりは深いものです。独奏、ピアノとのデュオ、サクソフォン四重奏、他の楽器とのアンサンブル…メロディアスな作品から、無調性の現代音楽まで、いずれも人気の高いものばかりです。
 伊藤康英がサクソフォンに興味を抱いたのは、日本におけるサクソフォンの立役者、須川展也とのコラボレーションによるところが大きいと言われています。まだ日本にサクソフォンが広く認知される前、須川展也の活動の黎明期を支えたのが伊藤康英の作品群でした。実はこの2人、同郷の高校で先輩・後輩の間柄。当時より音楽の世界を夢見ながら作曲・演奏活動を展開していたというから驚きです。
 「ラモーの主題による変奏曲」は、須川氏のデビューアルバムに収録されたシンプルな作品。サクソフォンの機動性に乗せて、伊藤康氏らしい閃きが散りばめられた筆致を楽しみましょう。

F.ボルヌ「カルメン・ファンタジー」
 ジョルジュ・ビゼー(1838 - 1875)は現在でこそ歌劇作品の歴史において重要視される作曲者として名を連ねていますが、存命時にはほとんど注目されずにその生涯を終えました。彼の代表作「カルメン」は、ビゼー最後の作品として作曲されましたが、血なまぐさい物語に、当初はそれほどの人気得たというわけではありませんでした。ビゼー自身は、初演からわずか3ヵ月後に38歳の若さで亡くなってしまいますが、スペイン情緒豊かな同作品は、まもなく歌劇界を席巻します。現在においては、フランス歌劇の最高傑作として、世界中で頻繁に取り上げられていることを、みなさんもご存知でしょう。
 「カルメン・ファンタジー」は、フルート奏者・作曲家のフランソワ・ボルヌ(1840 - 1920)が、歌劇「カルメン」の名旋律を、12分ほどの中にたっぷりと織り込んだ珠玉のコンサート・ピース。最初はフルートのために書かれましたが、のちに様々な楽器のために編曲され、近年ではサクソフォンでの演奏機会も増えているようです。名人芸的な見せ場が次から次へと現れては消え、息つく暇もありません。

2 件のコメント:

Thunder さんのコメント...

お疲れさまです。
「ラモー変奏曲」ですが、手元にある須川さんのCD「ワンス・アポン・ア・タイム」(1989)では、冒頭ではなく14曲めですが、再発時に順序が変わったということでしょうか?

kuri さんのコメント...

Thunderさん、先ほどはお疲れ様でした。先程お話したとおり、ご指摘の通りのミスです…お恥ずかしい。。。早速修正いたしました。限定的な範囲とはいえ、もう印刷物として出てしまっているものですので、なんともやりきれない思いです。
時間が限られている中でも、校正にはもう少しウェイトを置こうと思います。