2011/02/22

第18回東京芸術大学サクソフォーン専攻生による演奏会

【第18回東京藝術大学サクソフォーン専攻生による演奏会】
出演:東京藝大サクソフォーン専攻生、池上政人(指揮)
日時:2011年2月22日(火)19:00開演
場所:東京文化会館・小ホール
プログラム:
J.アブシル - 3つの小品
J.M.ダマーズ - トリオ
P.ヒンデミット - ソナタ
P.I.チャイコフスキー - フィレンツェの思い出
藤倉大 - Reach Out
J.S.バッハ - ブランデンブルク協奏曲第3番
D.ミヨー - パリ組曲

仕事のため大遅刻し、前半は聴けず、後半ギリギリに東京文化会館小ホールへと滑り込んだ(知り合いの話によると、最初に演奏されたアプシルの四重奏が凄く良かったとのこと。聴きたかった!)。

後半一曲目は藤倉大「Reach Out」。サクソフォン界では、特に大石将紀氏のために書かれた委嘱作品「SAKANA」の作曲で有名だが、もっと前にアポロ・サクソフォン四重奏団のために四重奏作品を書いているのだ。今回は、それに目をつけたおなじみ佐藤淳一さん率いるカルテットが、日本初演を行った。編成は、Sn+S、S+A、S+T、S+Bの各持ち換え四重奏。前半はSnSSSで演奏され、後半徐々にSATBの編成へと移行してゆく。なんだか「ミステリアス・モーニングII」みたいだ。まずは曲を知るところからだったのだが、録音(藤倉大氏のウェブページで公開されているアポロSQの録音)を聴いているだけでは解らないディテールと遠近感が感じられ、また後半の強力に聴き手を惹き付ける練り込まれた和声を実感できた。演奏もまたクオリティの高いこと!確かな技術に裏付けられた上に「熱演」という言葉が当てはまるテンションの高いもので、日本初演としてふさわしいものだったのでは。

後半二曲目は「ブランデンブルグ協奏曲」。ソリスト(ソプラノ奏者)を三人立て、さらにSATBBsが合奏パートを担当する。「サックスでバッハ」にはいろいろなスタイルがあるが、今日のはさながら平野さんスタイルだったかなあ。自分の趣味である端正なバッハ像からはやや離れた所に位置するもので(例えば、今日のスタイルでモーツアルトは吹けないだろう、ということ)、第一楽章は「???」なまま終わってしまったが、第二楽章のドローン上即興で納得した。やはりこれは、骨格を残したまま現代に再構築されたバッハだ。それだけバッハが偉大だということなのかもしれないが…。第二楽章で吹っ切れたのか、第三楽章は素晴らしい演奏だった!自分の聞き方が第二楽章を経て変わったということもあったかもしれない。

最後はダリウス・ミヨーの合奏作品。なかなか面白い並び(客席に向かって扇を拡げた…一般的な弧とは逆の並び)、衣装も素敵な感じ(レインボー!)。指揮は池上政人氏。恥ずかしながら曲は初めて聴いたが、いかにもミヨーらしい、独特のカラッとした明るい旋律線と、多調技法が駆使された楽しい作品。細かい音符まできちんと聴かせるあたりは、さすがに高い技術を伴っていることならでは、だろう。楽章ごとのカラーの違いをもう少し聴きたかったかなー。指揮がサックス吹き、というあたりにも原因があるのかもしれないが。最後はクレストン「ソナタ」第3楽章をサックス合奏版にて。アンコールとして、ピアノ+サックスをサックス合奏用に編曲したものを演奏するのは、おなじみになりつつあるようだが、今回のクレストンは編曲・演奏ともに、不覚にも「いいじゃん!」と思ってしまった(笑)。

以上。前半が聴けなかったのは残念だが、なんとか後半から聴けたのは幸い。パリ国立高等音楽院のサックス科が世界のサクソフォンの歴史を作っていくように、東京芸大のサクソフォン科は日本のサクソフォン界の歴史を作っていくべきなのだろう。そういえった気概が感じられる演奏を、この毎年の演奏会で聴きたいのである。近年の平均化・グローバル化の波のなかで、そういった「名」と「実」を保ち続けることは容易ではないと思うのだが、ぜひこれからも日本のサクソフォン界におけるひとつの標準として在り続けて欲しいと思う。そして、その標準が他の大学との切磋琢磨、ひいては日本のサクソフォン会の発展につながっていって欲しいと考えている。

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