2010/07/29

佐藤淳一"「二重の影の対話」の二重性"

日本サクソフォーン協会報"Saxophonist"のVol.22に掲載されている、超弩級の論文。ピエール・ブーレーズの「二重の影の対話」を軸にして、ブーレーズの経歴、IRCAM創設までの経緯、4Xシステムと「レポン」、作品のテーマや演奏方法についての解説、そしてさらには、文学的なアプローチで"影"や"対話"といった単語のコンテクストに迫るというもの。

著者は、おなじみ、佐藤淳一氏である。東京芸術大学院の博士課程に在籍し、これまでもベリオ、シュトックハウゼンらの作品に対し、深いアプローチを行ってきたことでも有名である(私も、大変お世話になっている)。

まず一回通して読んでみたところだが、ブーレーズの生い立ちから、初のライヴ・エレクトロニクス作品となった「レポン」の成立までの部分は、非常に体系だってまとめられており、特に前提知識がなくとも大変興味深く読める内容だと感じた。

「二重の影の対話」については、演奏方法概観が存分に示されている辺り、実際に演奏を行った(日本初演であった)佐藤氏ならではのものだ。演奏方法の工夫についても、各所にこだわりが感じられる。また、作品そのものの解説の部分で目からウロコだったのが、なんとこの「二重の影の対話」にルチアーノ・ベリオの「セクエンツァIX」や、カールハインツ・シュトックハウゼンの「友情に」のフレーズが、引用されているという事実。聴いているだけではおそらくわからないのだろうが、こうして楽譜として並べて見ると、たしかに…と納得してしまった。

「影」と「対話」のコンテクストに関する考察は、じっくりと何度か読み直してようやく主張を汲み取ることができた。佐藤氏自身も、結びにおいて、「この思索・考察が有意義であった」と述べているが、確かにこの思考過程を自分で進めていくのは、とても楽しいことかもしれない。余裕があれば、同じ轍を踏んでそれぞれの資料を追ってみたいなあ。

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