2009/07/31

民族音楽とサックス?

長い人生の中では、良いこともたくさんあれば、つまずきそうになることや、不安になること、悩んでもどうしようもないこと、悔しいことも、良いことと同じくらいあるものだ。人生ってそういうものだよなあ。あ。別に仕事でミスしたとかじゃありませんので。

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様々な民族音楽とサクソフォンの相性について考えている。新興の楽器であるサクソフォンは、ご存じのとおり「クラシカルな」レパートリーを持っていないため、常に演奏作品の不足に悩まされている。それを補うために、各種ジャンルの曲をアレンジして演奏することも多々あるのだが、その中でもっともしっくりくるのが、西洋の民族音楽をアレンジした演奏だ。

西洋の民族音楽という大ざっぱな括りも、我ながらどうかと思うが、例えばケルト音楽。たぶん皆さんもリバーダンスで使われるソプラノサクソフォンの音色や、ジェラルド・マクリスタル Gerard McChrystal氏のCD「meeting point」に収録されているディヴ・ヒース「ケルト」の響きなどは、不思議なほどに受け入れやすいものだ。

New Art Saxophone Quartetの「Songs and Dances(enja)」を初めて聴いた時のショックについても思い出した。初めて聴いた時には、レパートリーがヨーロッパの民族音楽ばかりだということのみならず、サクソフォン四重奏のアルバムとして驚異的な完成度を誇ることにも大変驚いたのだ。ピッチや音程を微妙にずらしながら、エッジの効いたリズムを交え、まるでバグパイプのような音がスピーカーから聴こえたときは、今後サクソフォンの進むべき方向は、民族音楽なのではないか?と思ってしまったほど。

マイケル・ナイマンが、自作の中でサクソフォンを取り上げている時の、曲想へのマッチも興味深い。ご存じのとおり、ナイマンはルーマニアの民族音楽を研究した経験があり、自作のメロディのなかには明らかにその影響を受けているものが見受けられる(「英国式庭園殺人事件」のサウンドトラックなど…)。

これら、サクソフォン on 民族音楽の際にもっともしっくりくるのが、直管であるソプラノ・サクソフォンの音だということも、さらに興味をひく。そういえばバロック音楽のトランスクリプションにおいて大活躍するのもソプラノサクソフォンではないか。ソプラノサックスが持つ、ほかのサクソフォンファミリと比した時に目立つより粗野な要素が、クラシックに留まらない他ジャンルへの適応能力を押し拡げているということなのだろうか。

2009/07/30

東京サクソフォーン・ソロイスツ

定常的に活動していたという話は聞かないので、Victorがサクソフォン四重奏曲を集めたディスクをリリースする際、おそらくそのレコーディングのためだけに結成された四重奏団ではないだろうか。雲井雅人(s.sax.)、小串俊寿(a.sax.)、岩本伸一(t.sax.)、服部吉之(b.sax.)というメンバー(敬称略)で、次のようなプログラムを演奏している。

A.デザンクロ - サクソフォン四重奏曲
A.ドヴォルザーク/森田一浩 - スラヴ舞曲, Op.72-2
A.ヴィヴァルディ/小栗克巳 - 四季メドレー
G.ビゼー/伊藤康英 - カルメン幻想曲
J.B.サンジュレ - サクソフォン四重奏曲第一番より

このほか、手持ちのCDにはフルート・アンシャンテという団体のフルートアンサンブルがカップリングで収録されている。面白いのがレコーディングの日付で、mckenさんのページのデータによると、ほぼすべての曲目が1993年に収録されたものらしいのだが、デザンクロの第1楽章と第2楽章だけが1996年に録られているのだ。ぱっと聴いた感じ良く分からないが、たぶん編集で響きをいじっているのかな?

全編にわたって、柔和な響きが印象的。何と言ってもサンジュレの第1楽章…美しい調和の響きから始まり、幾度もの増進と後退を経ながら、クライマックス眼前に広がる音世界の、すばらしく大きいスケール!たったひとつの楽章を聴くだけで、ここまでのドラマを感じさせる演奏というのは、あまり聴いたことがない。というか、サンジュレをCDで聴いて感動したというのも、びっくり。

デザンクロも、良い意味で力の抜けた演奏で、たとえば第3楽章のアレグロ・エネルジコの部分など、とても新鮮に聴こえる。各プレイヤーの持つ音色の美しさに加え(メンバー表を見るだけで驚きだものな)、それらを絶妙なバランスで融合させているということなのだろう。こんな演奏を、ライヴで聴いてみたい!…といっても、15年も前の録音なのだな。

後半に収録されたフルートアンサンブルのほうがエッジが立つ演奏で、サクソフォンアンサンブルのほうがよほど柔らかな響きに聴こえたというのも、おかしな話だ。

2009/07/29

ボーンカンプをたっぷりと on YouTube

昨日掲載したものに関連するが、これはすごい!オランダのとある野外音楽祭での、アルノ・ボーンカンプ氏の演奏映像。数年前には、ティエス・メレマ氏も出演していましたねえ。CD「Devil's Rag」と同時期の演奏のはずで、非常に若く溌剌とした演奏姿は、単なる動画とはいえ、とても惹きこまれるものがある。また、CDよりもホットな演奏が多いのも、ライヴ録音ならではの楽しみだろう。

J.ドゥメルスマン - オリジナルの主題による幻想曲


M.ムソルグスキー - 「展覧会の絵」より「古城」


E.シュルホフ - 「ホットソナタ」より第3楽章&第4楽章


J.マティシア - 悪魔のラグ
P.イトゥラルデ - 小さなチャルダーシュ


G.ビゼー - 「アルルの女第2組曲」より「間奏曲」
D.ミヨー - 「スカラムーシュ」より「ブラジレイラ」
D.ショスタコーヴィチ - 「ジャズ組曲第2番」より「ワルツ」

えっ

「Devil's Rag」で有名なJean Matitiaって、Christian Laubaの別名(ペンネーム?)なんですか?知らなかったよ…。

アルノ・ボーンカンプ氏の演奏で、Jean Matitia「Devil's Rag(悪魔のラグ)」と、ついでにPedro Iturralde「Pequeña Czarda(小さなチャルダーシュ)」。すげーー。しかも、YouTubeのページに飛ぶと、ジャン・マティシアことクリスチャン・ロバからコメントがついている(笑)。

2009/07/28

CD-Rのバックアップ

CD-Rのバックアップについては、これまでも何度か書いてきたが、改めて少し話題にしてみたい。

つい3日ほど前、ふととあるCD-Rを再生してみたところ、後半のトラックに進むにつれてものすごい音飛びを頻発し、再生できなくなってしまった。幸い、ただ単に手持ちの複数のCDのトラックを抜き出し、ベスト盤的に集めただけのものだったので、例えば何か貴重な音源が聴けなくなった等のクリティカルな影響はなかったのだが、ちょっと怖くなった。

やはり、PCを使用して記録したCD-Rの寿命は2年はないと考えたほうが良いのだろう。また、CD-R録音機を使ったものも、さすがに永久に読み込み可能とは考えられないわけで、やはり手遅れになる前にきちんとしたバックアップをとっておくべきなのだと思う。

このあたりはデジタルデータの負の部分である。アナログの、たとえばLPやSPなどは、いくら傷がついても再生することはできるし、もとの音を認識することもできるが、デジタルの場合はある程度以上のエラーが起こると、データをまったく読み込めなくなってしまうのだ。テレビでもそうでしょ。アナログならば、ある程度まではノイズが乗りつつ観ることができるが、地デジとなるととたんに疑似砂嵐になってしまうからなあ。

さて、私のCD-Rバックアップだが、木下直人さんやあかいけさんから頂戴したCD-R(40年先まで保管し、次の世代に手渡したい)については、記録されたデータをできる限り忠実にリッピングして、ハードディスクに記録している。これで、オリジナルとハードディスク上のコピーデータ、2つのデータとなり、CD-Rのエラーに備えている。さらにそのデータを実家のPC(地理的に遠隔地に位置する)にも放り込んで、ハードディスクのクラッシュと万が一の地震などにおいても、データが残るようにしている。

理想は、Googleのような堅牢なデータセンター上にデータを飛ばしておくことなのだが…。さすがに現在では、何百Gbytesというデータを無料で保持してくれるサービスなどあるはずもなく、自分のデータは自分で守るしかないのだ。

2009/07/27

【ご案内】Musical Trends in America

ドルチェ楽器で見つけたチラシの演奏会が、大変に面白そうなのでご紹介したい。現在、須川展也氏、平野公崇氏、雲井雅人氏らに師事すべく来日中のサクソフォン奏者、ジョナサン・ウィントリンハム Jonathan Wintringham氏が、8/12に国内でリサイタルを開くそうだ。

【Musical Trends in America】
出演:Jonathan Wintringham(sax.), Michael Djupstrom(pf.), 雲井雅人サックス四重奏団, 坂東邦宣, 蓼沼雅紀(以上sax.), 高木和弘(vn.)
日時:2009年8月12日 19:00開演
会場:台東区ミレニアムホール
料金:1000円(全席自由)
プログラム:
- W.G.スティル William Grant Still - ロマンス Romance
- W.オルブライト William Albright - ソナタより Mov.2 from Sonata
- J.A.レノン John Anthony Lennon - Distances within Me(日本初演)
- E.ダール Ellwood Derr - 8重奏のためのパッサカリア Passacaglia(日本初演)
- M.ジャプストロム Michael Djupstrom - ワリマイ Walimai(日本初演)
- E.チェンバース Evan Chambers - Come Down Heavy!(日本初演)
お問い合わせ:03-5909-1771(ドルチェ楽器)

ウィントリンハム氏は、アリゾナ州立大学でティモシー・マカリスター Timothy McAllister氏への師事経験があり、スタンダードなレパートリーのみならず同時代の作曲家の作品についても幅広い見識をお持ちのようだ。そのプロフィールどおり、この日本初演が4つというプログラム!私もほとんど聴いたことがないが、おそらくどれもが面白い作品なのだろう。

たとえば「カム・ダウン・ヘヴィ!」、これはカイル・ホーチ Kyle Horch氏のアルバムでも有名なアメリカ産の名曲(サックス、ヴァイオリン、ピアノという編成)の一つで、これをライヴで聴けるとは、大変まれな機会であると思う。「ワリマイ」という曲のタイトルは、なんだか不思議な感じだが、これは良く見れば今回のリサイタルの、ピアニストの作品ではないか!

エルウッド・ダールの曲で共演特別ゲストのサックス陣も豪華で、大変充実した演奏会になりそうである。私はあいにく長野の実家に戻っているため、伺うことができないが、東京近郊にいらっしゃる方々には強くオススメしたい演奏会である。まず、ウィントリンハム氏の実力については、公式ページのサウンドページをぜひどうぞ。「クロノス」を始め、なんだか笑ってしまうほどすごい演奏ばかりだ。

2009/07/26

サクソフォーン協会誌 No.21が到着

サクソフォーン協会の協会誌「サクソフォニスト」の2009年度版であるVol.21が到着した。今回も100ページを超え、数年前と比較するとかなり盛りだくさんの内容となっている。読んでいて実に楽しいもので、歓迎すべき傾向だろう。以下、内容を簡単にご紹介する。

・石橋梓「サクソフォーンの誕生とそのルーツ」
Wally Horwoodの著書である「Adolphe Sax His Life and Legacy」の内容を軸に据え、アドルフ・サックス自身の人生から、サクソフォンの誕生までのいきさつを述べているもの。最終章では、結論として「サクソフォンのルーツはオフィクレイドにある!」と述べ、実際にその結論を裏付けるための検証も行っている。本文中では2月に行われた学位審査演奏会についても触れられているが、そういえば私も聴きに行ったのだった。その時は単純に出てくる音楽にしか感想を持たなかったのだが、この論文を先に読んでいたら少し違った感じで聴けたかもしれない

・拙著「グラズノフ"サクソフォン協奏曲"の成立」
昨年に引き続いて、記事を投稿させていただいた。記事投稿に際し、お世話になった先生方に感謝申し上げたい。内容は、グラズノフの「協奏曲」の成立に至る経緯と謎をまとめたものである。以前ブログにも掲載したものを多く含んでいるが、30%くらいは新しく書き下ろした。私が投稿した原稿とは比較にならないくらい素晴らしい組版がなされており、大変嬉しかった。

・「第28回日本管打楽器コンクール審査員による座談会」
石渡悠史、冨岡和男、宗貞啓二、服部吉之、平野公崇、原博巳、大和田雅弘各氏が参加した座談会。審査員の選出、出場者数による日程調整の話から始まり、コンクールの印象、運営や審査方法、課題曲、演奏内容についてなど、かなり細かい議論がなされている。3年前に比べて、内容をそのままディクテーションしたような印象があり、少し読みづらいものの座談会に参加した先生方の本音が伝わってくるようだ。付録?となっていたヴィブラートの話も、なかなか面白いな。

・「第28回日本管打楽器コンクールを終えて」
田中拓也、伊藤あさぎ、安井寛絵、細川紘希各氏による、28回管打入賞者のコメント、感想、エッセイ。長さ、文体、書いてある内容など、それぞれの方の書き綴り方が自由で面白い(笑)。あ、そうだったんだー、というような話もいろいろと載っている。

・原博巳「ランドスケープ日台演奏旅行日記」
昨年末に、ジェローム・ララン、原博巳、ティボー・カナヴァル、大石将紀の4名(敬称略)によって結成された四重奏団「ランドスケープ」の演奏について。日本のフェスティバルでの演奏(ドビュッシーの「夢」とデザンクロ)、そして、台湾への演奏旅行について、日記形式でまとめられている。昨年、フェスティバルで聴いて、大変に印象深かった記憶がある。また聴きたいものだ。

・大栗司麻「再びフランスを訪れて」
ロータリー財団研究グループ交換プログラム(?)の派遣としてフランスに渡った大栗さんのレポート。フランス各土地の文化をめぐりながら、大栗さんが感じたことについて簡潔な文体で述べられている。

・セルジュ・ベルトッキ/上田卓「サクソフォニストたちの協会-A.SAX-その沿革」
フランスのサクソフォン協会である、Association des Saxophonistes、通称A.SAXの、成立、現在の活動、そして著者のベルトッキ氏自身が参加ないしは企画しているプロジェクトについての解説。フランスのサクソフォン事情は、日本にいるとわかっているようで実は知らない部分が多く、こういった資料は貴重である。

・ルマリエ千春「パリ・サクソフォンフェスティバル」
今年初めての開催となったパリ・サクソフォンフェスティバルのレポート。パリ7区音楽院で開催されたとのことだから、ルマリエ千春さんのご主人であるヤン・ルマリエ氏が企画したものなのだろう。ガラ・コンサートの模様や、アマチュア向けコンクールの内容などが示されている。フランスでは、国内で小規模ながら充実した内容のフェスティバルがいくつも開かれているようで、うらやましい限りだ。

・服部吉之「第6回サクソフォーン新人演奏会報告」
・服部吉之「音大生によるサクソフォーン四重奏の夕べ報告」
・原ひとみ「第11回ジュニアサクソフォーンコンクール」
毎年おなじみのレポート。10年くらいたったら、演奏されるレパートリーも変わってくるのだろうか。数年前の協会誌を見ると、そこで演奏している奏者の中には、現在バリバリで活躍しているプレイヤーもおり、面白いものだなと思った。

・國末貞仁「第28回サクソフォーンフェスティバル後記」
何がびっくりしたって、管打楽器コンクールと同じ年月だけ続いているということ。28回って、考えてみればものすごいことだ。自分だって生まれてないし。

・大城正司、金井宏光「第6回アンサンブル・コンクール」
今年は聴きに行かなかったのだが、来年は聴きに行けるかなあ。あ、またいつか参加してみたいなー。でも、今出したら録音審査も通らないかも(苦笑)。一般の部で第一位のIBCは、ヴァンサン・ダヴィッド編のドビュッシー「弦楽四重奏曲」。それだけレベルの高い争いになってきたのだなあ。

・第28回サクソフォーンフェスティバルCD
今回の協会誌には、浅利真氏監修による、サクソフォーンフェスティバルのライヴCD、しかもプレス盤が付属している。これは驚いた!ある意味、一番気合いの入った記事(?)かもしれない。収録内容は以下の通り。
- 出演愛好家とフェスオケ:伊藤康英「サクソフォンのためのファンファーレ"アルルの女"」
- カステット・スピリタス:W.A.モーツァルト「"フィガロの結婚"序曲」
- 山崎憂佳:R.ブートリー「ディヴェルティメント」
- 東京芸術大学:M.ラヴェル「クープランの墓」より
- ヴァンサン・ダヴィッド:A.I.ハチャトゥリアン「ヴァイオリン協奏曲」より
- 田中拓也:H.トマジ「サクソフォン協奏曲」
- 彦坂眞一郎:長生淳「He Calls...」抜粋
- フェスオケ:L.v.ベートーヴェン「交響曲第7番」より

2009/07/25

オーティス・マーフィ マスタークラス&コンサート2009

【Otis Murphy 公開マスタークラス&コンサート】
出演:Otis Murphy、佐藤渉(以上sax.)、晴子Murphy(pf.)
日時:2009年7月25日(土)16:00開演
会場:アーティストサロンDolce東京
マスタークラス:
A.Glazounov - 協奏曲(国立音大付属高3年:中島諒sax、国立音楽大:岩谷明希音pf.)
ミニコンサート:
G.Gershwin - Gershwin Fantasy
P.Goldstein - Fault Lines
A.Waignein - Two Movements
A.Berbiguier - Etude #1, #10
P.Hindemith - Konsertstuck
A.Piazzolla - Adios Nonino, Oblivion, Libertango
A.Khachaturian - Sabre Dance

実はオーティス・マーフィ氏の演奏を聴くこと&マスタークラス聴講するのは初めて。演奏やクリニックを聴いたことのある知人から、「あれは聴いとかなきゃ!」と常々薦められていたので、ワクワクしながらドルチェ楽器へ向かった。チケットを手配していただいたI様には、深く感謝申し上げる次第だ。

開場の10分くらい前に着いて、サックスブースでぼんやりとチラシを眺めていると、ジョナサン・ウィントリンガム Jonathan Wintringham氏の演奏会チラシが目に入った。手にとって見ていると「これ私だよ」と指をさされ、振り返るとご本人が!あー、びっくりした。アリゾナ音楽大学にて、ティモシー・マカリスター Timothy McAllister氏の下で学んでおり、雲井雅人氏に師事するために来日しているのだそうだ。面白そうな演奏会なので、後日ブログでもご紹介したい。

また、サックスブースで小川卓朗さんにお会いし、タイで行われたサクソフォン・コングレスの様子についていろいろとお伺いした。つい先日行われたコングレスであるが、若手から巨匠まで幅広い参加があったそうだ。特にケネス・チェ氏はマリー=ベルナデット・シャリエ氏らの活躍が目立ち、その他にもドゥラングル教授がフィリップ・ルルーの新作協奏曲を吹いたとか、ダニエル・ケンジーが来れなかったとか、いろいろな話を伺った。

開場して中に入り、開演時間になると100席のホール内は大入り。まずはマスタークラス。中島諒さんと岩谷明希音さんにより、グラズノフの協奏曲が通しで披露された。中島さんの演奏を聴いたのは、たしか何年か前の原博巳氏のクリニック@下倉楽器の頃が初めてであるが、その時から高校生らしからぬ見事な技術と歌い回しに驚いていた。本日のグラズノフも、もう音楽を専門に何年も勉強されているだけあり、高校生らしからぬフレージングに印象を受けた。また、真摯な練習が演奏中の自信につながっているであるかのようにも思えた。ピアノを弾いた岩谷さんは、国立音大附属校のOGで、現在国立音大で学ばれている学生だとのことだが、これまたすごいピアノ弾きであると思った。作曲科に在籍しているとのことで、そういったことが和声感やフレーズの歌い方につながっているのだろうか。

そして通しのあとはマスタークラス。マーフィ氏の教え方、驚き!というかまさに未知の体験の連続である。まずは音色の指摘から始まり、マウスピース+ネック or マウスピースだけを使用した丸い音の練習。周囲の音に溶け込んでいくようなピアニシモの音を出すために、舌の位置を意識するようにすること。アソビの部分を残した、柔軟な音程コントロール。音と音の間の繋がりについて、ひとつひとつの音を真珠の球のように考え、それらの中心に一本の糸を通して繋げていくような捉え方。跳躍における舌の位置と音色の捉え方。さらに、姿勢について…。ここには思い出せる限りのことを書きならべただけだが、実際のマスタークラスではこれらの指摘要素が実に論理的に話されていて、まるで大学の講義でも聴いているかのようだった。

また、これらは主に、音色とダイナミクスについての指摘である。中島さんの音色を単独で取り出してみると素晴らしいと思えるものの、確かにお二人の音色を比べてしまうとその差は歴然(だからこその、マスタークラスなのだろうが…)。マーフィ氏の、どこまでもニュートラルな音色に対しては、観客一同舌を巻いたものと思われる。私もそうでした。

休憩を挟んで、ミニコンサート。ガーシュウィンのフレーズをメドレー風に、技巧的に再構築したR.Martino編曲の「A Gershwin Fantasy(Dale Underwoodがレパートリーとしていることで有名)」から始まり、会場の雰囲気は一気に最高潮へ!フラジオ音域を含む奏法において技術的に完成されているのはもちろん、音色の表現の幅は筆舌に尽くしがたい。グラズノフでみせたあのお手本の音色は、マーフィ氏の表現力のほんの一端だったのだなあ。本日のピアニスト、晴子・マーフィさんのダイナミックな演奏も、サクソフォンともども大変楽しめるものであった。ご夫婦ということで、室内楽的なアンサンブルの妙がありますな。続いて演奏されたゴールドスタインの作品は、いかにもゴールドスタインの和声感!というところに加えて、スリリングな断片的リズムも、サクソフォン四重奏のための「Blow!」を思い起こさせ、興味深く聴いた。

コンサート中盤では、佐藤渉さんとデュエットでベルビギエの「エチュード」とヒンデミット「コンチェルトシュトゥック」を演奏。お互いの音色はそれほど似ないにも関わらず、和声を決めたときやユニゾンでは、大変に素敵な響きがする。ヒンデミットは、とてもダイナミックな演奏で、まるで4本くらいの楽器が鳴っているような錯覚にも陥った。ピアソラの3曲を経て、最後はボーンカンプ編の「剣の舞」。爆笑の超絶技巧の嵐であり、大喝采!クラシック音楽家としての品格高い演奏だけでなく、"サックス吹き"としてのエンターテイメント性をも持ち合わせており、そんなところからマーフィ氏の人格すら想像できてしまうほどだ。最後に、讃美歌の「Jesus Loves me」にて幕。

というわけで、私自身にとっては初のマーフィ氏の演奏会、素晴らしい体験であった。今までCDでしか聴いてこなかったが、やはり実際の演奏に触れるのとはわけが違う。本当にマーフィ氏の人格に直接触れるというか、そんな思いがした。今秋には雲井雅人サックス四重奏団とのジョイント・リサイタルも予定されているようで、そちらも伺えれば良いなあ。それとも、浜松聴きに行ってしまおうか(笑)。

2009/07/23

Wildy Zumwalt Interview ou YouTube

Wildy Zumwaltが、ラーシュ=エリク・ラーション「協奏曲」の演奏に先立って受けたインタビューの映像があったので、貼り付けておく。Wildy Zumwaltは、ラッシャー派のプレイヤーとして有名な一人。今年の4月にBuffalo Philharmonic Orchestraというオーケストラとの共演を行ったそうだ。中間部では2楽章の演奏もちらと披露されるが、芯の通ったよく響く音色は、この曲の楽想に実にマッチしている気がする。

インタビューは、がんばれば聴きとれなくもない(どなたかディクテーションしてください…)。面白いトリビアを一つ、という言葉に続き、「first instrumental concerto ever tlevised」と言っているのを聴きとることができるが、1937年にBBCオーケストラにシガード・ラッシャーが客演し、楽器の協奏曲として初めてテレビ放映されたものなのだと!?知らなかった…。



YouTubeには、Zumwalt氏がEdmond von Borckの「協奏曲」を演奏した動画もあるので、そちらもぜひどうぞ。

2009/07/22

木下直人さんから(Paris, à nous deux!)

ジャン・フランセ Jean Françaixの作ったサクソフォンのための作品といえば、まっ先に上がるのが「小四重奏曲(1935)」、あとはアルトサクソフォンとピアノのための「5つのエキゾチック・ダンス(1961)」、あとちょっとマイナーなところでは、アルモSQが録音している「組曲(1990)」あたり、が挙がるだろうか。

しかし、あまり知られていないが、フランセのサクソフォンのための最大の作品に、「Paris, à nous deux!」と呼ばれる小オペラがある。これは、1954年に書かれた、3人の独唱者、合唱、そしてサクソフォン4重奏という、極めて珍しい編成のために書かれたオペラである。

で、今回、木下直人さんに送っていただいた、復刻盤がその「Paris, à nous deux!」の収録されたLPなのだが…。

…。

……。

………。

…………じゃん!!

これ!VersaillesというレーベルからART 6001という型番つきで発売されたもので、「Paris, à nous deux!」と、カンタータ「Dèploration de Tonton」という作品が収録されている。音楽監督としてフランセ自身が参加しており、自作自演の企画ものということになるのだろうか。そもそも、この「Paris, à nous deux!」という作品自体、録音など聴いたことがなかったのだが、この珍しさに加えて以下の驚きのクレジットである。

Geneviève Touraine, La Maitresse de maison
Michel Senéchal, l'Arriviste
Bernard Lefort, Le Cicerone
Minou Drouet, l'Enfant prodige
La Chorale Marguerite Murcier, Les invités
Le Quatuor de Saxophones Marcel Mule

な、な、なんと、マルセル・ミュール四重奏団!!あまりに驚いて、このクレジットを見たときに、ひとりで大声を上げてしまった!まさかミュール四重奏団の、こんな録音が存在するなど、夢にも思わず…。もちろん「Marcel Mule: Sa vie et le saxophone」にはリストすらされていないものであり、いったい世界で何人が、こんなところにミュール四重奏団の参加した録音があることを知っていただろうか!

レーベル等からいまいち録音年が掴みきれないが、Le Quatuor de Saxophones Marcel Muleと名乗っているということは、1951年~1967年の間であるということは間違いない。この期間にはメンバー編成が一度変わっており、次のような変化があったのだが、どちらの時期の録音なのかはよくわからなかった。

1951~
Marcel Mule, saxophone soprano
André Bauchy, saxophone alto
George Gourdet, saxophone ténor
Marcel Josse, saxophone baryton

1960~
Marcel Mule, saxophone soprano
George Gourdet, saxophone alto
Guy Lacour, saxophone ténor
Marcel Josse, saxophone baryton

演奏だが、フランセならではのキラキラしたエスプリの宝庫から、サックスの音色があちらこちらに飛び出す!といった趣で、実にすばらしい。楽譜上では技巧的にも非常に高いものを要求しながら、ミュール四重奏団はその高難易度の譜面を軽々と吹きこなすどころか、ユーモアを確実に引き出して聴き手に伝えてくれている。ときに歌い手のバックグラウンドにまわりつつも、部分部分では明らかに主役となっており、フランセという点だけでなく、サクソフォンという点でも、実に聴きごたえがあるものだ。…いや、本当に素晴らしい!この録音を発見した木下さんの探究心には、(毎度のことながら)頭が下がる思いだ…。

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そういえば、フランセの遺作となったのも、声楽とサクソフォン、ピアノという編成の「Neuf Historiettes」という作品なのだった。亡くなった同年に書いたもので、こちらは声楽のバリトンと、テナーサックス、ピアノという編成。このページから試聴できるが、全部聴いてみたいな。

2009/07/21

Milhaud conducts Milhaud

The Legendary Saxophonists CollectionのAndy Jackson氏とメールしていて話題となったもの。かつてEMIレーベルから発売されていた「Composers in Person」シリーズの一枚、「Darius Milhaud plays & conducts(EMI CDC 7 54604 2)」を買ってみた。ミヨーの自作自演記録となるSP音源やLP音源を復刻したもので、おなじみの作品がいくつも収録されている。

世界の創造 La Creéation du monde, Op.81
スカラムーシュ(2台ピアノ) Scaramouche, Op.165b
ブラジルの郷愁 Saudades do Brasil, Op.67
プロヴァンス組曲 Suite provençale, Op.152b
屋根の上の牛 Le B&oeliguf sur le toit, Op.58

なぜこのCDが話題に上がったかというと、「世界の創造」でサクソフォンを担当しているのが、マルセル・ミュールでないか?というAndy氏の推測があったからだ。ご存じのとおり、「世界の創造」は室内オーケストラのなかにアルトサクソフォンが含まれた編成のバレエ音楽である。

CDの解説には次のように書かれている:ミヨーは、ハーレムで聴いたメイシオ・ピンカール Maceo Pinkardの「Liza」というオペラの編成をそのまま引用しました。すなわち、弦楽四重奏セクションのヴィオラを、アルト・サクソフォンに替えた、19人の編成です。作品全体には、ジャズからの影響が見て取れます。コントラバスに導かれて始まるジャズ・フーガ、続いて現れるブルース、そして、クライマックスに見られるジャズの狂乱的なインプロヴィゼイションを想起させるダンス、等々。しかしながら、オープニングに出現するサクソフォンのテーマは、ハーレム風の奏法ではなく、ビゼー「アルルの女」で聴かれるようなクラシカルな奏法でもって演奏されるべきものです。…(以下略)

このディスクの「世界の創造」の録音データは、「Orchestra of 19 Soloists, II&III, 1932, Studio Albert, Paris」とある。確かに、この時期の録音ならば、ミュールが吹いていてもおかしくないだろう。事実、ミヨーは自作の映画音楽のなかで、何度もミュールを演奏者として指名していたそうだ。ということで、さっそく聴いてみた。

…ふーん、へええ。ほうほう。なるほどー。ヴィブラートの質や速度、高音域における響きは、かなりそれっぽい。だが、なんだか音程の捉え方や、低音域~中音域にかけての響き、リズム処理等が、あまりミュールらしくないような気がする。もしかしたら録音のせいもあるのかもしれない(木下さんから送ってもらった盤に、すっかり耳を洗いなおされてしまっているようだ)し、ベストな状態での録音かどうかという判定も不可能だが、これをミュールである!と私から断言することはできないなあ。どなたか、この録音のサクソフォン奏者についての情報をお持ちでないだろうか?ご存知でしたらご教示いただきたい(amazonへのリンク→Darius Milhaud Plays and Conducts)。やっぱ「世界の創造」は、バーンスタイン×フランス国立管×ダニエル・デファイエ盤が最高だなー(´ω`)ooO

また、本題とはあまり関係ないが、このCDで驚いたのは「屋根の上の牛」でレコーディングを手掛けているのが、あの伝説の録音技師、アンドレ・シャルラン André Charlinであること!1958年ということであるから、シャルランがまだEMIのエンンジニアだったころの仕事だ。

マルセル・ミュール関連といえば、木下直人さんからつい先日頂戴した驚き!の復刻盤。明日か明後日にブログで取り上げる予定なので、どうぞお楽しみに。

2009/07/20

吾妻祭

昨日は、卒業以来久々のつくば市に伺い、地域のお祭りで、大編成のバンドで演奏してきた。久々にお会いする友人と一緒に演奏できるという嬉しさ。また、心配された雨にも降られることがなく、たくさんのお客さんの前で演奏でき、盛り上がってとても楽しかった。オーガナイズしてくれたれっど氏に感謝。

打ち上げも、こちらも卒業以来となる灯禾軒で。ビールが飲めるようになったのは社会人になってからなので、そういえば灯禾軒でビールをたくさん飲むのは初めてなのだった。いつもはチューハイと焼酎(安上がり…)で酔っぱらうばかりだったからなあ。

2009/07/18

木下直人さんから(ブラストライブの記事)

本日、木下さんからの荷物を受け取った。驚き!!の超貴重&こんなものが存在するのか!というようなLPの復刻盤(後日紹介する予定、お楽しみに!)、ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団1961年ライヴ録音のレベル修正盤、そして雑誌「ブラストライブ」を送っていただいた。ギャルド関連の記事が載っている「ブラストライブ」については、書店を探している最中だったのだが、まさか一冊まるごと送ってくださるとは思わず、木下さんには深く感謝申し上げたい。ということで、本日は「ブラストライブ」とギャルドのCDを紹介する。

7月10日発売のブラストライブに、ギャルドの特集が4ページにわたって組まれている。ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団の魅力が、ポップな文体でぎゅっと凝縮して書かれているものなのだが、この記事でギャルド研究の日本国内、いや世界レベルでも第一人者としての、木下さんへの取材が敢行されている。音色やバランスに触れ、ギャルドの響きの魅力について、木下さんが語っている様子が描かれている。また、2007年3月21日にNHK-FMでギャルドの演奏が放送された時の、NHKの大ポカについても触れられている。

また、何枚か写真が掲載されており、私が木下さんのご自宅に伺った時とシステムの構成がやや変わってきているのが見受けられる。当時はまだ、Piérre Clementのカートリッジは稼働していなかったし(ステレオ盤の復刻は、オルトフォンのカートリッジを使用していた)、CDR機も違うものだったはず。

ギャルドのCDについては、NHKエンタープライズから発売された録音について、木下さんがダイナミック・レンジに関して不満だということで、そのレベルを修正したものを送っていただいた。面白いことに、NHKの出版部では、リリースする録音の最大レベルの制限があるらしく、もちろん今回発売されたギャルドのDVD/CDも例外でなく、最大レベルが低く設定されているとのこと。計測してみたところ、CDが持つダイナミック・レンジのおよそ80%に抑えてあった。なんでこんなことするのかなあ。聴いた感じもかなり変わってきて、印象がまた違って聴こえるものだ。

2009/07/17

Cuarteto Sax-andalus meets V.David on YouTube

サクソフォンアンサンブルのためにアレンジした、L.v.ベートーヴェンの「弦楽五重奏曲」から第1楽章、だそうだ。演奏は、スペインのサクソフォン四重奏団であるCuarteto Sax-audalusと、トップを務めるのは、なんとヴァンサン・ダヴィッド Vincent David氏!!驚き。

最終的には、やはりダヴィッド氏の節回しが耳に残るわけで、やはり格の違いがあるのかなあと思う。それにしても楽しそうに吹きますなあ。昨年のフェスティバルに来日した時も、まさにこんな感じに楽しそうに「セクエンツァVIIb」を吹いていたっけな。楽しそうに「セクエンツァVIIb」を吹く人なんて、見たことなかったので、えらく驚いたが。



ダヴィッド氏関連のネタは、近日中にもうひとつアップする予定。お楽しみに。

2009/07/16

NSF Vol.28

最新号がいつの間にかアップされていた。以下のリンクからどうぞ。

http://www.nonaka-boeki.com/nsf/magazine.html

今回の記事は、「池上政人インタビュー」「管打楽器コンクール入賞者インタビュー」「大石将紀:留学を考えている人へ」「第28回サクソフォーン・フェスティバル」「リエゾンSE演奏会レポート」「クローバーSQ演奏会レポート」「矢野沙織インタビュー」というところ。

池上氏へのインタビューは面白いなあ!生い立ちとか、音楽の道へ進む頃のこととか、キャトル・ロゾーのこととか、NSFだけしかこういうインタビューはできないだろう。管打楽器コンクール入賞者へのインタビューは、あれ?細川さんがいない…と思ったら、そうか、確か細川さんはYAMAHAユーザーだったのでした。そう考えると、コンクールで上位に入賞する方々は、まだまだセルマーのサクソフォンを使う比率が高いということなのかな?鶏と卵の関係みたいで、良く分からないな。

ノナカサクソフォンフレンズ、2010年3月をもって終了してしまうようで、残念なことである。セルマー関連の記事ばかりとはいえ、すでに大御所と呼ばれる演奏家の方々へのインタビューなど、なかなか貴重な記事が多いだけに…。

2009/07/15

Trio Saxiana日本公演のプログラム

2009年7月6日、名古屋のザ・コンサートホールにてトリオ・サクシアーナ Trio Saxianaのリサイタルが開かれた。トリオ・サクシアーナは、2sax+pf.という編成で活動するフランスの団体で、サクソフォンがニコラ・プロスト Nicolas Prostとアンヌ・ルカプラン Anne Lecapelain、そしてピアノがローラン・ワグシャル Laurent Wagschalであり、2000年より活動している。CDもいくつかリリースされており、私も「Nachtgesang」というアルバムを所持している。このCDについては、以前レビューした

そのリサイタルを聴きに行くことはできなかったのだが、おなじみ京青さんよりプログラム冊子のカラーコピーを送っていただいたのだ。貴重なものであり、京青さんには感謝申し上げる次第。

サクソフォン2本とピアノ、という編成は、ここ最近隆盛の傾向がある。須川さんとケネス・チェ氏のデュオ、原博巳氏とジェローム・ララン氏のデュオ、塩安さんと平賀さんのデュオ、TrioYaS-375、阿吽等々。さらにアマチュアでも、Duo Green Greenという団体が活躍しているし、そういえば私も昨年くらいにこの編成で演奏したことがあったのだった(曲は、F.フェランの「パールサックス」)。こういう中で感じるのは、レパートリーが欠如していることである。そのため、プロフェッショナルの団体は、オリジナル作品を委嘱したり、アレンジを行ったりして、レパートリーの拡充に務めている。だって、いつまでもプーランクじゃあねえ…。

そんな経緯もあり、今回送っていただいたプログラム冊子で私が最も注目したのは、トリオ・サクシアーナのレパートリーである。これがまた驚くべきもので、さすが定常的に活動するアンサンブルは違うなー、というものである。プログラムのリストは、以下。

ティエリー・ペクー Thierry Pécou - 三重奏曲"ナヌーク" Nanook Trio
ティエリー・エスケシュ Thierry Escaish - 古風な幻想曲 Fantasia antiqua
フランシス・プーランク Francis Poulenc - 三重奏曲 Trio
クリスチャン・ロバ Christian Lauba - ポーギー・ストライド Porgy Stride
アーノルド・バックス Arnold Bax - 悲歌的三重奏曲 Elegiac Trio
アレックス・コッチ Alex Kotch - リデュース・リユース・リサイクル Reduce, Reuse, Recycle
アレッサンドロ・アニュンツィアータ Alessandro Annunziata - 大衆の2つの情景 Deux Scéne populaire
ニーノ・ロータ Nino Rota - 三重奏曲 Trio

ペクー、コッチ、アニュンツィアータという名前は、初めて聞いた!こんな曲があるのか!という感じである。しかも、いちいち解説文が興味をそそる。コッチの「リデュース、リユース、リサイクル」なんて、すごく刺激的なタイトル!一部は作曲者のサイトでも聴けるが、全体を通して聴くとどんな曲なのだろう。

クリスチャン・ロバの曲も、有名な2本のサクソフォンのための「アドリア Adria」ではなく、「ポーギー・ストライド」という、アート・テイタムの弾いたジャズのフレーズを基にした楽曲。もともとは2台ピアノのために書いた曲を、この編成へとアレンジしたもののようだ(もとの曲については、ここから一部を聴ける)。

どの作品も面白そうで、録音でも良いからぜひ聴いてみたいなあ。いつかCDがリリースされることを心待ちにしたい。

2009/07/14

セルマーのサックス本

「saxophones - the essentials」という、2008年にéditions selmerから出版されたサックス写真本がある。10ユーロ、30ページ程度の小規模なオールカラー本。内容としては、セルマーのサクソフォンを中心にしたサクソフォンの歴史を辿るもので、絵や写真が多く、見ていてとても楽しいものである。

この本のメインであるセルマー製サクソフォンの歴史は、今までなんとなく知ってはいたものの、この本を通じて再確認することができた。掲載されているサクソフォンの写真は実に美しいもので、たとえばModèle 22のこんな良い状態の楽器があるのか!というような驚きがある。

1922-1926: Série 1922, Modèle 22
1926-1935: Modèle 26
1936-1947: Balanced Action
1948-1953: Super Action
1954-1973: Mark VI
1974-1980: Mark VII
1981-1985: Super Action 80
1986-: Super Action 80 Série II
1995-: Série III
2000-: Référence

それから、何が良いってフランス語ではなく、英語で書かれているのだ!(フランス語版もある)これならば、なんとか読めなくもない。フランス発のこういった本て、大抵フランス語版しかなくて、読みづらいことが多いのだが、これは嬉しいポイントだ。購入は、セルマーの出版物販売のページ(→http://www.selmer.fr/editions.php)からどうぞ。

2009/07/13

Duo Kalypso on YouTube

いつの間にか、Duo Kalypso(ミーハ・ロギーナ Miha Rogina氏と李早恵さんのデュオ)の動画がYouTubeに追加されていた!びっくり!それぞれの演奏者がとんでもない技術と音楽性の持ち主である…ということに留まらず、Duo Kalypso最大の特色は、なんといってもその有機的なアンサンブルである。各国の室内楽コンクールで賞を総なめにしているそうだが、その片鱗を観ることができる。

・ミーハ・ロギーナ氏と李早恵さんの演奏で、D.ミヨー「スカラムーシュ」。この実に見事なアンサンブル!ダイナミクス、テンポ、音色の融合度合がものすごいと思う。両者が対等な、まさに「室内楽」そのものだ。また日本でも聴きたいなあ。






・李早恵さんの演奏で、O.メシアン「鳥のカタログ」より"ニシコウライウグイス"。他にアップロードされているショパンやドビュッシーももちろん素敵だが、私はこの演奏が一番好きだ。そういえば、8月にクラシック倶楽部の再放送があるとのこと。詳細はこちら


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「また日本でも聴きたいなあ」と思っていたら、おお!来年に関西で演奏予定があるそうだ。

【パリからの便りVol.4~クラシックは面白い!~】
出演:Miha Rogina, Sae Lee(Duo Kalypso)
日時:2010年2月3日(水)
会場:ザ・フェニックス・ホール
プログラム:
P.ヒンデミット「ヴィオラ・ソナタ」
M.ムソルグスキー/李早恵「展覧会の絵」より“古城”
M.ラヴェル/ワルター「ソナチネ」
G.ロッシーニ/テデスコ「フィガロ・パラフレーズ」
B.バルトーク/Duo Kalypso「組曲作品14」
P.スヴェルツ「クロノス 」
G.ガーシュイン/Duo Kalypso「ラプソディー・イン・ブルー」

2009/07/12

pって難しいよね

難しい。特に、記譜のド#から下でppなどと言われた日には、指揮者に向かって土下座して、次の瞬間踵を返し、しっぽをまいて逃げだすしかない。だが、ごくたまに実演で聴くことのできるサックスの素晴らしい演奏の数々は「ここのpやppにゾクゾクした!」とか思うのも事実なわけで、最近ではサックスの最も美しい響きって、pやppにあるのではないかと思っているほどだ。pであなたの心を奪い去ることができれば、それすなわちプロの中のプロなり。わからんけど。

CDなどで「ここのppが!」というのは少ないけれど、やっぱりそれはレコーディングプロデューサーの趣味によるだろう。CDに吹き込まれたところで、それ相応のオーディオ環境を整えなければ、その音も聴こえないだけ、になってしまうから…。

最近は、pでレより下の音が出てきた時には、サブトーンと通常音を使いわけて演奏するようにしている。完全に実用化するには、もう少しサブトーン時のアンブシュアを固定し、さらに音程にアタリをつけることが必要だ。また、通常音とサブトーンの間に、無限の階層を設けて、場合に応じてそれらを使い分けられなければいけないと思う。

心を奪い去るp、pp、出してみたいねえ。ただし、p、ppは表現手段の一であって、それが目的となってはいけないなあ、とも思う。

バラフォン

クリスチャン・ロバ Christian Laubaの「9 Études」のうち、アルトサクソフォンのための「Balafon」は、アフリカの同名の民族楽器にインスピレーションを得て作曲されたものである。アフリカのチュニジア生まれであるロバにとって、生まれ故郷の民族楽器を題材に作曲を行うのは、ごく自然なことだったのだろう。

Richard DucrosによるChristian Lauba - Balafonの演奏。


バラフォンと呼ばれるこの民族楽器(左の写真参照:画像はhttp://item.rakuten.co.jp/af-sq/ab9003-901/より)は、シロフォンなどと同じように音階順に木片を並べ、共鳴管として木片の下にヒョウタンを取り付け、マレットで木片を叩いて音を出す仕組み。ふと、そういえばバラフォン、バラフォンとは言うけれど、実際にバラフォンの音って聴いたことないぞと思い、YouTubeで適当に動画を探してきた。



いやあ、良い音がしますね。いかにも「大地のリズム!」という感じか。ロバの「バラフォン」から想像されるのとは、ちょっと違う響きで驚いた。ロバの「バラフォン」は、前半から中盤にかけての極小リズムの部分が印象深いが、実際のバラフォンは小さい音で(まるでマリンバのように)音を出すイメージはないのだなあ。ときどき混じるノイジーな音は、なんとなくだが重音とややリンクする気がする。楽器の音階はペンタトニックで、たとえば上に張り付けた動画の楽器は、実音でレファソラドの音階を持っている(たぶん)。ロバの「バラフォン」でも、同様のペンタトニックが使われてますね。

2009/07/11

ダールのオリジナル版、蘇演

インゴルフ・ダール Ingolf Dahlの「サクソフォン協奏曲」について、現行のバージョンが改訂版である、ということはこれまでも何度かブログで取り上げてきた(→この記事など)。現在は、オリジナル版は全く演奏されていないどころか出版もされていないような状況なのだが、来年アメリカで蘇演の予定があるようだ。

1949 version of the Dahl concerto is taking place at Montclair State University, Montclair NJ on April 24th.

とのことで、どうやらダール「協奏曲」研究の第一人者、ポール・コーエン Paul Cohen氏が独奏を務め、オリジナル版の演奏をおこなうようだ。さすがに聴きにはいくことは難しそうだが、録音だけでもなんとか聴くことができたらな…と思う。献呈先であるシガード・ラッシャーの演奏を所持しているが(しかも初演の録音)、非常にスケールの大きな音楽であり、誰か演奏してくれないかなと思っていた矢先のことであった。

こうなってくると、次は出版してくれないかな…などと期待してしまうが、果たして。

2009/07/10

【情報】Osmose Saxophone

こういう演奏会が日本国内で聴けるようになったということが、本当に素晴らしいことだ。2006年のジェローム・ララン氏のリサイタルで受けたショックが、はるか昔のことのようである。大石将紀さんのリサイタル「Osmose Saxophone」…とても楽しみ!

【Osmose Saxophone ~音と音、音とイメージの相互浸透~】
出演:大石将紀(sax.)、有馬純寿(sound designer)他
日時:2009年10月2日&3日(金曜&土曜)19:00開演
場所:アサヒ・アートスクウェア(銀座線「浅草駅」より徒歩5分)
入場料:前売り3000円ワンドリンクサービス(当日500円増し)
プログラム:
酒井健治 - Reflecting Space II (from BACH to CAGE)
A.マルケアス - 委嘱作品
JacobTV - The Garden of Love
S.ライヒ - N.Y. Counterpoint
P.ブーレーズ - Dialogue de l'ombre double
ほか
お問い合わせ:
http://www.m-oishi.com/(大石氏の公式ページ)

プログラムに大注目!佐藤淳一さんのリサイタル以来、国内で二番目の演奏となるブーレーズの超難曲に、おなじみJacobTVの総天然色絵巻「ガーデン・オブ・ラヴ」、さらにミニマルミュージックの「ザ・古典」とも評されるニューヨーク・カウンターポイント!さらに、売れっ子マルケアスの世界初演!これはもう、聴きに行くしかないだろう…!

2009/07/09

キャトル・ロゾーのアレンジ曲集

キャトル・ロゾーのCDというのは、実はけっこうな数が発売されたらしいのだが、私は殆ど持っていない。なぜなら、私がサックスのCDを買い始めたころには、既に多くが絶版になっていたからである。きちんと買うことができたのは、ブレーン・ミュージックから発売された「25年の軌跡」(まぎれもない名盤!)と、あと東芝EMIから発売されていた四重奏曲集くらいだろうか。

この「Quatre Roseaux Saxophone Ensemble - Scarlatti/Menselssohn/Debussy/Albeniz(Musik Hafen NHCD-02)」は、1991年に発売されたCDで、キャトル・ロゾーがアレンジものを取り上げたCDである。もちろんリアルタイムで買うことはできなかったのだが、昨年たまたまオークションに出ているのを見つけて、おお!と思って買ったものだ。

D.スカルラッティ/G.ピエルネ編 - 3つの小品
F.メンデルスゾーン/伊藤康英編 - プレリュードとフーガ
C.ドビュッシー/中村均一編 - ベルガマスク組曲
I.アルベニス/M.ミュール編 - コルドバ、カディス、セヴィリャ

何といっても、編曲がいちいちツボである。様々な団体がオハコとしている(していた)曲を、キャトル・ロゾーがまとめて演奏してしまった、というところに面白みを感じる。スカルラッティの「3つの小品」といえばデファイエSQだし、メンデルスゾーンの「プレリュードとフーガ」といえばトルヴェールQだし、ベルガマスクといえばもちろんアルモSQだし、アルベニスといえばミュールQだし…というところ。

いずれもサクソフォン四重奏のために書かれた名アレンジ揃いであり、聴いていてとても楽しい。キャトル・ロゾーの演奏は、技術的には、当時売り出し中であったトルヴェールやアルモ、そして「巨人」デファイエQらには一歩譲る部分もあるものの、とても「味」のある演奏だと感じた。冨岡氏のソプラノ…スカルラッティの第3楽章で聴かせる、懐かしい響きはどうだろう!まるで、そこだけどこか遠い場所から運んできたかのようだ。「プレリュードとフーガ」も、個人的にはトルヴェールの演奏よりも好みだなあ!フーガのインタラプトの部分の直前の和音に、ぞくぞくしてしまう。

収録時間も短めで、アルバムとしてはやや小振り。気兼ねなく聴けて、なんだかずーっと部屋でかけておきたいCD。

2009/07/08

ギャルド1984年来日公演のDVD

1984年、およそ20年ぶりの来日公演。「あの」ギャルド・レピュブリケーヌが久々に来日するということで大騒ぎとなり、NHKが衛星Bモードで生放送を敢行したという公演だ。指揮はロジェ・ブートリー。

生放送の映像は、実は木下直人さんより以前DVDという形で頂戴し(ソースはベータだったそうだ)、所有していたのだが、今回、1961年の来日録音とセットでNHKからリリースの運びとなった。

G.ビゼー - 「カルメン」前奏曲
J.S.バッハ - トッカータとフーガ
G.ビゼー - 「アルルの女」組曲より
C.ドビュッシー - 夜想曲より「祭」
J.B.リュリ - 国王づき近衛騎兵行進曲
伝承/R.ブートリー編 - ラ・カルマニョール
R.ブートリー - 春の行進曲
R.シュトラウス - 交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」
N.リムスキー=コルサコフ - くまばちは飛ぶ

特典映像
P.I.チャイコフスキー - 幻想序曲「ロメオとジュリエット」
R.ブートリー - ディヴェルティメント
A.ボロディン - 歌劇「イーゴリ公」よりだったん人の踊り

あ、「トッカータとフーガ」の拍手に編集入れてるだろ(笑)。1984年に編集したのか2008年に編集したのか知らないけれど、NHKも意地悪だなあ。わかる人にはすぐわかりますね。

ここに収録された映像は、(解説によると)衛星Bモード生放送の後日に、NHK総合テレビで放映された60分の映像なのだそうだ。映像のソースはアナログVTRで、音声はNHK技術研究所がエアチェックし保存していたベータから取り込み、両者を同期させたものだとのこと。文面からは読み取りきれないほどの、並大抵でない技術的な苦労があったものと思われる。

ちなみに特典映像は、映像もベータから取り込んだというもの。さすがにベータと言えど、映像の美しさではNHK所有のアナログマスターテープにやや劣るため、特典映像としたのだそうだ。おぉ、それならばということで、木下直人さんから以前頂戴した、同じく生放送をベータで記録した映像と比較してみた(左が木下直人さんから頂戴したもの、右が今回DVD化されたNHK技術研究所所蔵の映像)。ちょっと色味が違うものだなー。録画設定によるものなのだろうか。

「ディヴェルティメント」での映像。アルト・サクソフォン独奏は、アンドレ・ブーン André Beun。

Google Chrome OS発表

声を上げて驚いてしまった!つ、ついに…!

Googleが独自のOSをリリース予定であることを明言した。このOSは、Google Chromeのへの逆照射という位置づけであるようだ。x86系プロセッサ・ARM系プロセッサ両対応で、カーネルはLinux。このOSによってコンピュータとインターネットは、どれだけ大きい変化を迫られるのだろうか。

ほかの多くの方々と同じように、リリースを楽しみに待ちたい。日本語での公式アナウンスは、以下のリンク(Google Japan Blog)を参照のこと。

http://googlejapan.blogspot.com/2009/07/google-chrome-os.html

2009/07/07

ギャルド1961年来日公演のCD

木下さんにご案内いただいた、ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団のCD/DVD。フランソワ・ジュリアン・ブラン&須摩洋朔指揮、1961年の初来日公演の録音と、ロジェ・ブートリー指揮1984年の来日公演の映像。いずれも、とんでもなく貴重な録音・映像であり、こういったものがまさかNHKによって放送され(昨年のNHK-FM「今日は一日吹奏楽三昧」での特集)、さらにNHKエンタープライズから商用リリースされるなど、誰も夢にも思わなかったことだろう。いや、ホントに…。

あまりたくさん感想を並べるのも野暮だなあと思いつつ、書いてしまうのだが、やはり1961年の録音については述べておかねばなるまい。正真正銘の史上最高の吹奏楽であり、吹奏楽という枠を超えた一流のクラシック音楽である。

H.ベルリオーズ - 序曲「ローマの謝肉祭」
F.リスト - ハンガリー狂詩曲第2番
須摩洋朔 - 大空
M.ムソルグスキー - 禿山の一夜
O.レスピーギ - 交響詩「ローマの松」
G.ビゼー - 「アルルの女」第2組曲より
M.ラヴェル - ボレロ
G.ロッシーニ - ウィリアム・テル序曲
~リハーサル~
C.ドビュッシー - 牧神の午後への前奏曲
J.S.バッハ - トッカータとフーガ

1950年代に黄金時代を迎えた、管楽器王国フランスの最高の形。その輝かしい音色とテクニックは、1970年代以降の吹奏楽の進化の歴史の中では失われてしまったものだ。そんなサウンドが、CDというメディアを通して21世紀に響くのである。そして、皮肉なことに、同じギャルドの1984年の演奏と比較することで、より一層1961年のライヴ録音の素晴らしさが際立つというか…。

プログラム的にも、実に興味深いというか、超弩級。ベルリオーズに始まり、リスト、指揮者を須摩氏に交代して、自作の行進曲とはげ山の一夜を吹き、「ローマの松」がメインと思いきや、さらにビゼー、「ボレロ」が続く。世の中広し、これまでの吹奏楽の歴史もそこそこあるとはいえ、このプログラムを実現可能なのは当時のギャルドだけではないだろうか。

こういった演奏を、吹奏楽に携わっている今の中学生や高校生、そしてその指導者たちに、ぜひ聴いてもらいたいところだ。今の時代の吹奏楽に浸かっている方々は、どういった受け止め方をするのだろうか。興味あるところだ。

アマゾンへのリンクは、以下(比較的値引き率が高い)。
NHKクラシカル ギャルド・レピュブリケーヌ 1984年日本公演(DVD×1枚) 1961年日本公演(CD×2枚)

木下直人さんを始めとする解説冊子の豪華執筆陣にもご注目あれ(できれば、どの原稿もカット修正なしで閲覧したかったところだが…)。特に、当時の放送経緯を詳細に記したNHKメディアテクノロジーの辻本氏による解説は、大変に資料価値が高く、注目すべきものだと感じた。

2009/07/06

【演奏会情報】Blitz Brass

國末さんからの演奏会案内。何といっても注目は、岩井直溥編曲のボレロ!ですよ。今回は聴きに行けず残念だが、個人的にめちゃくちゃ懐かしいプログラムである。聴いたことのない方は、ぜひご一聴を。

また、「ニュー・シネマ・パラダイス」では、國末さんはソロを吹くのだそうだ。ということは、ニュー・サウンズ・インン・ブラス版かなあ。

【Blitz Brass サマーコンサート2009】
出演:松元宏康指揮Blitz Brass
日時:2009年7月11日(土)16:00開演
会場:麻生市民館大ホール(小田急線新百合ヶ丘駅から徒歩5分)
料金:2500円(当日2800円)
プログラム:
J.ウィリアムズ - カウボーイ序曲
E.ウィッテカー - ゴーストトレインより
和田薫 - 吹奏楽のための犬夜叉
樽屋雅徳 - マゼランの未知なる大陸への挑戦
B.ウィーラン - リバーダンス
E.モリコーネ - ニュー・シネマ・パラダイス
E.ジャッチーノ - Mr.インクレディブル
ニルティーニョ - トリステーザ
M.ラヴェル/岩井直溥 - ボレロ

RascherSQ plays "Möbius Loop" on YouTube



ラッシャーSQの演奏映像。Mathew Rosenblumという作曲家の、「Möbius Loop」という作品だそうだ。冒頭からなだれ込むリズミックなセクションはロックの影響を受けているような感じで、ラッシャーSQお得意のフラジオもばしばしと使われていて、かっこいいなあ。動画が途中で終わってしまっているのが、大変残念だ。

メンバーは、以下の通り。ご存じのとおり、テナーのブルース・ワインバーガー氏は、創立時からのメンバーである。

Christine Rall, soprano saxophone
Elliot Riley, alto saxophone
Bruce Weinberger, tenor saxophone
Kenneth Coon, baritone saxophone

2009/07/05

Eduard Tubinの交響曲集より

ノルディックサウンド広島で買ったCD、その5。全部で5枚買ったので、これで最後です。

エドゥアルド・トゥビン Eduard Tubinという作曲家の名前をご存じだろうか。いや、私もノルディックサウンド広島で初めて知ったのだが、エストニアに生まれた作曲家なのだそうだ。エストニアの作曲家というと、バリバリ活躍中のエルッキ=スヴェン・トゥールが真っ先に思い浮かぶものだが、20世紀前半から中後期にかけて活躍した作曲家がいるとは知らなかった。第2次世界大戦中にスウェーデンに亡命し、活躍する国が変わったこともあって、注目度はそれほど大きくなかったようだ。しかし、10曲もの交響曲を手掛けるなど、エストニア生まれの史上最大の作曲家と呼ばれているとのこと。

作風は、初期のにはエストニアの国民楽派といった風であったが、戦後何年かして徐々にインターナショナライズドされていったという。そのトゥビンが1952年から1954年にかけて作曲したのが「交響曲第6番」。そう、今回ご紹介するのはその交響曲第6番が収録されたCDだ。演奏は、Arvo Volmer指揮Estonian National Symphony Orchestra。

交響曲第6番は、トゥビンが作風を変化させる契機となった作品である。主としてジャズからの影響を受けており、作曲者自身の言葉によれば「ジャズは"シリアス・ミュージック"をいつか席巻してしまうのではないか」という恐怖のもとに、筆を進めたのだという。

ややミステリアスなオーボエの旋律から導入される第1楽章、弦楽器の単一リズムの上を木管楽器が物悲しげに歌いはじめる。この導入部分だけでもビビビとくるが、一つの花火が打ちあがったのちにテナーサクソフォンによって「a sad song」が提示され、オーケストラ全体が強烈なリズムによって支配され始める。いったん落ち着いてピアノとサックスのみで演奏されるセクションを経て、冒頭の印象が回帰、さらに続く弦楽器の強奏部分はトランペットの一撃を伴ったセクションによって打ち止めをくらい、そのままクライマックスへ。再びサックスが現れるが、冒頭部を連想させるオーボエが鳴り響くと、いつの間にか波が引くように曲は終わってしまう。

第2楽章は、最初の金管楽器と弦楽器の短い呼応を経て、ルンバのセクションへ!!これがめちゃくちゃかっこいい!はじめて聴いたら、楽器法こそ違えど、黛敏郎の曲と見まごうばかりかもしれない。中間部では、音量こそ下がることもあるが、リズムはずっと根底に流れており、フルートが「nothern lights」の主題を奏でると、またすぐにルンバが始まる。第1楽章の主題もちらりと顔を出しながら、強奏部分はどこまでも続き、ここで意外な拍子の変化!これ以降のトランペットが、妙にショスタコーヴィチぽい!ここでまたテンションは途切れて、サクソフォンのソロが三たび強奏部分を導いて、あとは乱痴気騒ぎも良いところ。各パートが、打楽器が刻むそれぞれのリズムの上でそれぞれのテーマを高らかに歌い上げ、まだまだクライマックスは続いて、最後はトロンボーンの5回のダウン・グリッサンドを経て幕。あああ、興奮した…。

第3楽章は、シャコンヌ。3拍子の主題が弦楽器によって提示され、それがさまざまな様式で変奏されてゆく。リズミックな部分あり、ロマンティックな部分あり、ルンバのエコーが聴こえる部分あり、のけぞるほどの超強奏クライマックスあり、サックスが主体となって動く部分あり。たにかくヴァリエーション豊かだ(変奏曲なんだもん、あたりまえか…)。最後の、弦楽器が神秘的に奏でるところなんて、素敵ですね。あー、面白かった(←聴きながら書いてた)。

というわけで、現代風な交響曲としてのできもさることながら、サックスも入っていたりと、とにかく私にとってツボなポイントが多い曲であった。もしかして、サックスが入って、ルンバがあって、シャコンヌが入ってたらなんでもいいのか(笑)。BISから出ているCDを買ってみよう!はまってしまいそうだ。

ノルディックサウンド広島のほか、amazonでも買える(→Eduard Tubin: Symphonies Nos. 3 & 6

2009/07/03

Quartet Spiritus x Alexandre Doisy

浜離宮朝日にて、カルテット・スピリタス&アレクサンドル・ドワジーのジョイント・リサイタル。後輩にお願いしてチケットを手配してもらい、行ってきた。

【アレクサンドル・ドワジー×カルテット・スピリタス サクソフォン・コンサート】
出演:カルテット・スピリタス、アレクサンドル・ドワジー、森相佳子(pf.)
日時:2009年7月2日(木)19:00開演
会場:浜離宮朝日ホール
プログラム:
C.ドビュッシー - 牧神の午後への前奏曲(doisy & spiritus & pf.)
A.デザンクロ - 四重奏曲 (spiritus)
F.シュミット - 四重奏曲作品102 (spiritus)
~休憩~
F.シュミット - 伝説 (doisy & pf.)
A.デザンクロ - PCF (doisy & pf.)
D.ミヨー - スカラムーシュ (doisy & pf.)
A.ヴィヴァルディ - 「四季」より夏 (doisy & spiritus & pf.)
~アンコール~
A.マンシーニ - ドラゴンのテーマ (spiritus)
G.フォーレ - 夢のあとに (doisy & pf.)
成田為三 - 浜辺の歌 (doisy & pf.)

カルテット・シピリタス。松原孝政、波多江史朗、松井宏幸、東涼太の4名で結成されたサクソフォン四重奏で、アルバムリリース、リサイタル開催、アウトリーチへの派遣等々、今国内で最も勢いがある若手サクソフォングループと言ってよいだろう。そして、ミュンヘン、ディナン、ロンデックスの3つの国際コンクールで最高位を得た、史上最高のサクソフォン奏者との呼び声も高きアレクサンドル・ドワジー Alexandre Doisy。パリ国立高等音楽院で、たしか波多江さんの一つ上だったはずで、そんなところからこの共演が実現したのだろうか。

会場にはNHKのカメラが6台ほども据え付けられ、どうやら何かしらの番組で放映される様子だった。放映予定は、コンサート・イマジンのウェブサイトで告知されるとのことだ。

さて、演奏である。まず、スピリタスが演奏した、デザンクロとシュミットについて。彼らの演奏を聴いて、なぜか「ああ、この2曲とも古典になってしまったのだなあ」という思いがした。頭では解りきっているいることなのに、そういった感覚を想起させる演奏だった。ぱっと聴いた感じだと、別段特殊な解釈をしているわけではなく、実にスタンダードでまっとうな演奏だったのだが、もしかしたら何かいろいろ仕掛けていたのかもしれない。かなり気合いを入れ、リハーサルを何度も繰り返して臨んだと思われるが、とにかく、素晴らしかった。

ドワジー氏のソロについて、初めて音を聴いたのだが、とにかくふくよかでニュートラルな音色。昨年第一生命ホールで聴いたフルモー氏の音色が、かなり近いものなのかもしれない。音から音へのレガート、無理のない跳躍、ごくごく自然なフレージング。音量は控えめだけれど、響きという点から言えば、浜離宮の残響と相まって、会場中にふわっと拡がりをみせていた。最近のフランスの演奏家には、無い傾向かもしれない

演奏された3曲のオリジナル作品では、とにかく演奏者自身が音楽のカタマリという風で、身体から湧き上がる音楽を、私たちは少しずつわけてもらっているような思いがした。ドワジー氏はとにかく演奏が楽しくてしょうがない、といった様子で、聴いているこちらも嬉しくなってしまうほどだ。おそらく、奏者のイメージするものがフレーズに乗ってそのまま聴衆の身体に染み渡るのだろう。ミヨー「スカラムーシュ」の第2楽章と「浜辺の歌」に、"寄せては返へす"穏やかな波の情景が頭の中に浮かんできて、目をつぶればそこには海が広がっているのだった。

ヴィヴァルディは、テクニック的には意外と落ち着いたアレンジ(それでも、とんでもなく難しいとは思うのだが)。4年前に聴いていたら目が飛び出していたかもしれない。フランス系列の若手~中堅奏者…ミーハ・ロギーナ氏やヴァンサン・ダヴィッド氏やハバネラ四重奏団を、ライヴでも、日常的に録音でも聴いているので、なんというか自分の聴き方も変わってきているのだなあと感じた。

新しいパソコン

デスクトップのパソコンを買った。まだちゃぶ台に置いて使っているので、はやくデスクを買わないと(笑)。それにしても、ディスプレイ付きで8万円とは、ものすごい時代になったものだ。私がはじめてねだって買ってもらったパソコンは、たしか38万円とかだった気がする∑(・ω・ノ)ノ

昨日のスピリタス×ドワジーのリサイタルの感想も、早く書かないとなー。とりあえず、パソコンのセットアップが終わるまでお待ちくださいませ。

2009/07/02

【情報】Otis Murphyマスタークラス2009

7月恒例の、オーティス・マーフィ Otis Murphy氏のマスタークラスの情報。日ごろよりお世話になっているI様からご案内いただいた。マスタークラスも演奏も私の周りでは非常に高い評価だが、実は一度も聴いたことがなく(CDは聴いたことがあるが)、どんな指導・演奏を聴くことができるのか楽しみだ。

マスタークラスの受講者は、国立音楽大学付属高校の中島諒さん。ピアニストは、岩谷明希音さん。また、佐藤渉さんが通訳で、佐藤さんは通訳と共にサクソフォンの共演をも務めるそうだ。ミニコンサートでは、マーフィ氏は奥様の晴子マーフィさんと共演する。

【Otis Murphy公開マスタークラス&コンサート】
出演:Otis Murphy、佐藤渉(以上sax.)、晴子Murphy(pf.)
日時:2009年7月25日(土)16:00開演
会場:アーティストサロンDolce東京
料金:一般3500円、DMC会員2500円(当日精算500円増)
マスタークラス:
A.グラズノフ - 協奏曲(国立音大付属高3年:中島諒)
ミニコンサート:
P.ヒンデミット - コンチェルトシュトゥック
A.ベルビギエ - 18のエチュードより
A.ピアソラ - アディオス・ノニーノ、オブリビオン、リベルタンゴ
F.デュクリュック - ソナタ嬰ハ調
問い合わせ:
03-5909-1771(ドルチェ楽器管楽器アヴェニュー東京)

天久保オールスターズバンド!

井上麻子さんのリサイタルは、諸事情あって行けず…。素晴らしい演奏だったようで、聴けなかったことが残念極まりない。何度か聴いたことはあるんだが、とにかくあの感動的なPiérre Jodlowski「Mixition」の演奏の印象が強い。その素晴らしい演奏は、今でも思い出せるほど。

次に聴く機会を楽しみに待ちたい。

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天久保オールスターズバンドは、が茨城県つくば市にあるストリート・バンド。大学院1年のときに、微力ながら立ち上げに関わらせてもらって以来、およそ2年間各所で携わってきたバンド。もう結成して2年以上が過ぎ、私を含む何人かのメンバーは大学自体を卒業したのだが、バンドのほうはますますアクティブに活動を行っている。

http://amasuta.blog32.fc2.com/

このバンドの一つ大きな特徴が、メンバーや編成を固定せずに活動を行っているという点である。そのため、卒業などによってメンバーが抜けても活動自体にはまったく影響が出ず、むしろ新規メンバーの増え方のほうが速いくらいで、それまで以上にフレッシュな音楽を作ることができるということなのだ。編成については60人規模の大編成から、5人程度のコンボバンドまで対応編成は幅広く、これまでも多くの場所で演奏を行ってきた。

その天久保オールスターズバンドが、毎年恒例、夏のライヴを行う。私も、7/19に参加しに行く予定。卒業して以来久々のつくば市である。

7/5(日)13:00~&15:00~
つくばセンター石の広場前

7/12(日)13:00~&15:00~
つくばセンタークレオスクエア前

7/19(日)夕方ごろ
つくばセンター中央図書館前広場(天久保オールスターズ in 吾妻祭り)